45話 門番は期待する
魔導機関車に乗って王国の出口となる門を目指すユキミチとリリア。ユキミチはハンドルを握り、リリアは後部座席に膝立ちとなって車体から身を乗り出している。
「ユキミチー! 門の傍に人が居る! きっとエナさんが言ってた門番だよ!!」
リリアは門の方を指さして、風を受けながらも叫び伝える。
「ああ! 門の外側と内側で二人ずつだったか‥‥‥。情報は間違ってないみたいだな!」
魔導機関車に乗り込む際、ユキミチたちはエナからアドバイスを聞いていた――。
* * * * *
「緊急任務‥‥‥?」
「はい。魔導機関車は本来遠征にのみ使用されるものであり、事前の連絡無しに門をくぐることはありません」
疑問符を浮かべるリリアを支えて後部座席へと乗り込ませながら、エナは説明した。
「ですが過去に一度だけ、事前の連絡無く魔導機関車が走ったことがあったのです。一刻を争う緊急任務でした」
「つまり、俺たちもその門番に"緊急任務だ"と伝えれば、門を通してもらえる訳だな」
運転席で興味深そうにハンドル付近を眺めながらユキミチは言った。
「そもそも厳重に保管されている魔導機関車に一般人や悪人が乗ることは有り得ないので、言葉を疑われることはないでしょう」
「じゃあ俺たちがその第一人者になるのか」
「やなこと言わないでよユキミチ」
ユキミチとリリアのやり取りを聞きながら、エナは魔導機関車の状態を一通りチェックしていく。
「車輪も問題なし‥‥‥準備は万端です!」
「あっ、待ってエナさん! 誰の荷物か分からないけど忘れ物があるよ!」
リリアはそう言って、大きく膨らんだショルダーバッグを持ち上げる。エナは首を横に振った。
「魔導機関車の備品が入っているんです。そのまま載せておいて問題ありませんよ」
「そうなんだ!」
納得したリリアはショルダーバッグを丁寧に自分の隣の座席に立てかけた。一方でユキミチが発進の準備を進める。
「大体は車と似たつくりなんだな‥‥‥」
「覚えが早くて感心しますね! 私の教えた通りにすれば運転も上手くいくはずです」
いよいよ魔導機関車は前方の煙突から煙を上げ、ガタガタと震え始めた。ユキミチは胸を躍らせながらハンドルを握り締めた。その後ろではリリアも期待と緊張で鼓動が高まっている。
「さぁ出発するぞリリア!」
「うん!」
「お二方とも、良い旅を!!」
こうして、ユキミチとリリアを乗せた魔導機関車は走り出した。
* * * * *
「あー、退屈だなーー」
「そういうもんなんだよ、門番ってのは」
外壁の中に佇む巨大な門。王国と外部を繋ぐ唯一の出入り口である。
その手前に門番の男が二人。一人はつまらなそうにしゃがみ込んでおり、もう一人は外壁に寄りかかって明後日を眺めていた。
「もっと有名冒険者に会えると思ってたのによー」
「冒険者なら毎日大勢行き来してるだろ?」
「俺は有名人に会いたいんだよ。そしてあわよくばその戦いを見てみたい」
しゃがみ込んでいた男はそう言って、尻餅をついて地べたに足を広げた。もう一人は視線をその男に向けた。
「だったらお前が冒険者になれば良かっただろ」
「‥‥‥それはまた話が違うね。俺自身が冒険者になっちゃ、死んじゃうリスクがあるだろ?」
男は尻餅をついたまま、分かってないなと言わんばかりにゆっくりと首を振っている。
「ほど良い刺激が欲しいのよ。たまーにビッグイベントに遭遇して、有名冒険者と会えたりしちゃって、そんで間近で戦い見れたりしちゃって。――でも俺はいつでもすぐ逃げれる状態にあるような‥‥‥。そんな生活を望んでいるんだよ」
いよいよ男は地べたに寝転んでしまった。もう一人は呆れたように視線を移し、まもなく顔色を変えた。
「‥‥‥おっ。どうやらお望みのビッグイベントが発生しそうだぞ」
「やめとけー。そんな子供騙しで俺にやる気を出させようったって無駄無駄。今日はリーダーの見回りもないんだからからサボり放題。少し寝る」
「いや、子供騙しとかじゃなくて。マジで。あれ見ろって」
男は目を瞑っており、もう一人の声をまるで聞き入れていない。
「"魔導機関車"がこっちに来てるぞ」
もう一人のその言葉で、男はようやく目を開いた。今日は一段と気合いの入った冗談をかますのだなと、不思議になったのだ。
しかし男が目を向けるよりも先に、轟音が耳に入り込んだ。もう一人の先ほどの言葉が相まって、容易に音の正体を想像できた。それから視界にその正体――魔導機関車を認め、男は立ち上がり、口角を上げた。
「マジじゃん‥‥‥」
魔導機関車は門に近づくにつれて速度を落としていく。
「今日、遠征部隊出発の予定なんて入ってなかったよな」
「今日どころかここ数か月は入ってなかったよ。遠征なんて、最近じゃ召喚された勇者くらいしか行ってないんだから」
「つまり、緊急任務ってことだよな‥‥‥」
「そういうことだろうな」
「おいおい、魔導機関車を間近で見るの初めてだぜ‥‥‥! 誰が乗ってんのかな! マスタークラスの冒険者とかいんのかな!」
そんなやり取りをしている内に、魔導機関車は門番二人の前で完全停止した。
車体からひょっこりと顔を覗かせるユキミチ。
「緊急任務につき、直ちに門を開放したまえ!」
それを見た門番二人は互いに顔を見合わせ、疑問符を浮かべた。
「「‥‥‥誰??」」




