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この勇者の我が儘は異世界を滅ぼすらしい(仮)  作者: ラハズ みゝ
第1章 旅立ち、それぞれの決意
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38話 勇者は閉じ込められる

 ぐっと握り拳で、リリアは走り出す。住民たちを掻き分けるように避けながら、前のめりになって先へ先へと進んでいく。


 先に行った彼を探して、名前を呼ぶ。


「ユキミチ! 私も一緒に――」


「伏せろリリア!!」


 騒いでいる住民たちを避け切って開けたリリアの視界に、突然ユキミチが飛び込んできた。


「ええ!?!?」


 リリアは状況を把握する間もなく、そのままユキミチに押し倒されてしまう。


 仰向けのリリアに馬乗り状態のユキミチ。


「ちょっと、これどういう――」


 リリアが問いかけようとしたところで、凄まじい轟音がそれを呑み込んでしまった。リリアのすぐ足元で、何かが激しく地面を打ちつけたのだ。


 土煙が舞い上がり、リリアはむせる。その手をユキミチが引き、二人は後方へ下がった。


 煙はその場を埋め尽くす勢いで、住民たちはもうパニック状態である。


「今度は何だよ!?」

「分からん!! とにかくここから離れろ!!」

「巻き込まれたら死ぬ!!」


 散り散りに逃げていく住民たち。煙が薄れ、轟音の鳴った地点に一つの人影が浮かび上がる。それをリリアはユキミチの後ろからひっそりと見つめる。


「驚きました。‥‥‥えぇ色々と。やはり勇者は、ただ者ではありませんね」


 一人の男が立っていた。ゴールドクラスの冒険者イスタである。右手には短剣を握っている。


「その身なりは冒険者か? 王様はとんでもない化け物を追っ手に選んだな‥‥‥」


 そう言いながら、ユキミチはイスタの足元に視線を移す。リリアもそちらを見てみて、驚愕した。


 その地面は、深く大きい亀裂で抉られていた。先ほどの轟音の正体はこれだったのだと、リリアは理解するまでに時間を要さなかった。


「ゴールドクラスのイスタと申します。と言っても、クラスのことなど分からないでしょうが」


「いや何となく理解できる‥‥‥が、まさかそのちっぽけなオモチャでさっきのをやったなんて言わないよな」


「とんでもない、立派な剣でしょう?」


「マジかよ‥‥‥」


 ユキミチは俄に信じることができない。刃渡りが大人の掌ほどしかない剣で、どうしたら地面に深く亀裂を入れることができるというのか。いやそもそも、剣で地面を抉ること自体が不自然だ。


「あなたこそ、相当な腕を持っている」


 不敵に微笑むイスタに、ユキミチは眉をひそめる。


「たった一度のスキル発動。それだけで一人残らず戦闘不能にされてしまった」


 イスタの発言に疑問を抱いたリリアは、背後を振り返った。そしてその光景にまた驚愕した。住民たちはもう避難してしまっており、そこは閑散としている。しかし異様なのである。


 衛兵たちが銃を構えたまま、まるで置物のように立ち尽くしていた。


 目を凝らして見てみると、衛兵たちは小刻みに震えている。ユキミチのスキルによって身動きを封じられていたのだ。


「あれほどの人だかりだったのに、町の住民を誰一人傷つけることなく衛兵のみを狙い撃ちしている。とても器用だ」


「‥‥‥まぁ一応これでも勇者として召喚されてるんで」


「いいや、ゴールドクラス以上の冒険者でも簡単にできることではない。この世界に来てまだ間もない人間なら、尚更ですよ」


 ユキミチとイスタのやり取りを聞きながらリリアは愕然としている。一体いつから彼らの戦いは始まっていたのか? 自分は先ほどの冒険者の攻撃でさえ全く気づかなかったというのに。


「国王様から、あなたは理由もなく攻撃をするような非道な人間ではないと聞いていました。逃亡している時点で疑わしい話ですが、国王様のお言葉を無下にする訳にもいかない」


「そんなことを言ってたのか、王様‥‥‥。つまりそれで、お前は親切に俺を見守ってくれてたんだな」


「機を窺っていただけですよ。しかし見事にやられてしまった。あなたが行ったのは然るべき応戦のみ。国王様のお言葉を裏切ることもなく」


「なるほどな。‥‥‥そっちの事情は知らないが、褒めてくれるのならそれに免じて俺を見逃がしてくれないか?」


 駄目元でそう訊いてみるユキミチだったが、その淡い期待を掻き消すようにイスタは鼻で笑った。


「さすがにそうはいきません。結局のところ、国王様のご命令はあなたを捕らえることなのだから」


 イスタは懐から何か小さな物体を取り出し、それを雑に投げ捨てた。コロコロと転がるそれは、ユキミチとイスタのちょうど間で落ち着いた。


 一体何かと警戒するユキミチだったが、そんなことを考える暇もなくその物体を中心として広い円が出現した。リリアは反射的にユキミチのローブの裾を掴み、ユキミチに密着する。


 それから瞬く間にドーム状の膜が張られ、ユキミチたちはそれに閉じ込められてしまった。


「‥‥‥これは?」


「閉鎖空間を作り出したのです。とても薄い膜のようですが、あらゆる物理的な衝撃を防ぐ強力な鉄壁なんですよ」


「ふむ。つまり俺たちは捕らわれてしまった訳だ」


 ユキミチの言葉に目を丸くするリリア。小声で「えっ! 私たち捕まっちゃったの!?」と驚いている。


「まぁ現状そういうことになりますが、これは解除するまで動かすことができないんです。私も一緒に閉じ込められている状態なので、これでは埒があきませんね」


「‥‥‥いや、俺だけ閉じ込めれば解決したよなその問題」


「‥‥‥‥‥‥さて、このまま増援が来るのを待てばあなたの負けです」


「おい無視するのか? 飽くまで認めない気か?」


 イスタは咳払いをして気を取り直す。


「大人しく待っていただけますか?」


 ユキミチは前のめりになってこう答えた。


「そんな訳ないだろ」

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