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この勇者の我が儘は異世界を滅ぼすらしい(仮)  作者: ラハズ みゝ
第1章 旅立ち、それぞれの決意
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36話 勇者は決意する

 ユキミチが突然ボソッと言うのでリリアは一瞬分からず、ワンテンポ遅れてその言葉を聞き取った。


「‥‥‥そう! そうだよ! ユキミチは間違ってたんだよ!!」


 ユキミチが自分の考えを分かってくれたのだとリリアは嬉しくなって、握っているユキミチの手をブンブン振り回していた。


「王国逃亡なんて出来っこない! これから冒険者として一緒に楽しもう!!」


「ああ! 俺は国を出て自由に旅をする!!」


「やったー!! これで冒険者になれる! ユキミチと一緒に!! 色んな猛獣(モンスター)と戦ってクラスを上げて最強無敵の冒険者に――――――って、‥‥‥‥‥‥え?」


「‥‥‥え?」


 互いに疑問符を浮かべる二人。


「えっと‥‥‥冒険者に、なるんだよね‥‥‥?」


「いや、旅に出るよ」


 一つの問答を経て、間の抜けた表情でしばらく沈黙するリリア。その間にリリアの混乱した脳内は急速に整理され、ようやくユキミチの言葉を理解するに至る。


「ええええ!?!? ちょっと待ってよ、どういうこと!?」


 ‥‥‥しかし、何故ユキミチがその思考に至ったのかまでは理解できなかった。


「俺はこの世界で我が儘に生きると決めたからな!」


 自信に満ちた笑顔でユキミチはそう答えた。


「全然分からないんだけど!! さっきユキミチ、『俺は間違っていた』って言ったよね?」


「ああ。俺は間違っていた」


「それがなんで旅に出るなんて結論になる訳??」


「俺は、異世界に来てから何も変われてなかったんだよ」


 リリアは未だにユキミチの考えが理解できず、頭上に疑問符を踊らせている。


「異世界に召喚される直前、自分の人生について考えていた。何の変哲もない、退屈な人生。もっと我が儘に生きていれば違う人生があったのかもな――って」


「違う人生?」


「だから異世界に来て、"我が儘に生きる"と決めた。‥‥‥けど今の俺は何も変わっていない。いつの間にか、前みたく何事も無難に済ませようと動いている。"我が儘な気持ち"を忘れていたんだ!」


 話を聞いて呆然とするリリアは、ユキミチの手を握る力が弱まった。ユキミチはリリアから離れ、こう自分に言い聞かせる。


「俺は我が儘に生きる!! 自分の好きなように、自分のやりたいようにこの異世界を楽しむんだ!!」


 リリアは目を見開いた。その瞳には、彼女の十六年の人生で一度も見たことがない程に、ユキミチが眩しく輝いて映っていたからだ。






 ――住民に紛れてユキミチたちを睨みつける衛兵たち。彼らはゴールドクラスの冒険者イスタの指示で、ユキミチとリリアを全方位から取り囲むように密かに移動していた。


 観衆から少し距離を置いて様子を眺めるイスタ。衛兵の合図で、彼らの移動が完了したことを把握した。


 イスタはこの指示を出す前に、衛兵たちに次のように説明していた――。


 自分たちの相手は、数百の兵を行動不能にして"始まりの間"から脱走した勇者。下手に攻撃を仕掛ければスキル等で反撃され、先と同じ轍を踏むことになる恐れがある。

 国王からの情報によれば、勇者は理由もなく攻撃をするような非道な人間ではないとのこと。

 慎重にタイミングを見計らって、勇者を取り囲む形で多角的に同時攻撃を行うべきだろう。


 ――衛兵たちは音を立てないように、住民たちの影でとある武器(・・・・・)を取り出した。


 同時攻撃、といっても正確には"攻撃"ではなく"拘束"である。


 衛兵たちが手にしているのは、拳銃を模した魔道具。その弾丸は物理的なダメージではなく"相手の行動を制限する効果"を及ぼす。強力だが扱いやすく、様々な悪事に利用されかねないため、王国内でその魔道具の携帯を許可されているのは悪人を取り締まる衛兵のみである。


 イスタは衛兵にそのまま待機するよう合図を出し、ユキミチの動きを注意深く見つめる。


 現状、ユキミチが衛兵たちを警戒しているような素振りは窺えず、むしろ隙だらけだ。しかしイスタはまだ発砲の合図を出さない。


 ユキミチのすぐ傍にリリアが居るからだ。イスタや衛兵たちからは"勇者が城のメイドと接触している"ように見えている。このままではそのメイドを巻き込んでしまう可能性が高い。


「不可解ですね‥‥‥」


 どういう訳か、城のメイドが勇者と親しげに手を繋いで話をしている。別に理由はどうでもいいが、これでは勇者を拘束することができない。


 ――とイスタが焦れったさを感じていた矢先。


「俺は我が儘に生きる!! 自分の好きなように、自分のやりたいようにこの異世界を楽しむんだ!!」


 ユキミチが、リリアから離れた。


 イスタは透かさず手を上げて知らせる。衛兵たちは待ちわびたと言わんばかりに一斉にその銃口をユキミチへと向けた。






 ユキミチは夢と希望に満ちた眼差しで空を見上げる。


「さぁ、自由な旅を始めよう!!」


 思わず見とれていたリリアは、猛るユキミチの声で我に返った。


 衛兵たちが追ってきているというのに。この世界のことをまだ何も知らないというのに。冒険者として国に協力した方が安全だというのに。


 それでもユキミチは、この国を出て旅をしようとしている。


「‥‥‥ユキミチ、どうするつもりなの?」


 リリアはユキミチの今後の方針について尋ねた。‥‥‥しかしユキミチは、その質問を別の意味で解釈したらしい。


"これから(・・・・)何をするつもりなのか?"と。


「――俺は今から、スキルを発動する!!」

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