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この勇者の我が儘は異世界を滅ぼすらしい(仮)  作者: ラハズ みゝ
第1章 旅立ち、それぞれの決意
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34話 王女は提案する

 ユキミチは顔をしかめた。


「‥‥‥それ、どういう意味?」


 リリアは城に戻らなければいけないはずなのに。


「そのまんまだよ」


 自分はリリアを残して去ったのに。


「ユキミチがこの国を出ていくことを、止めに来た!」


 リリアの顔つきは冗談を言うようなそれではないと、ユキミチには分かっている。しかし、だからこそ疑問なのだ。


「どうして今さらそんなことをするんだ?」


 ――何故、わざわざ自分を追いかけてきたのか。


「俺はこの国を出て旅をする。最初に会った時もそう話しただろう」


「ユキミチはヴァルトリア王国の勇者なんだから、そんな勝手なことはしちゃいけないでしょ!」


 それも最初に会った時に既に話している。無意味な会話だ。


「召喚はこの世界の人間が一方的にやってることなんだから、召喚された俺の行動に勝手も何もないはずだ」


 首を強く横に振るリリア。彼女に諦める素振りはない。


「いけないものはいけないの!!」


 全く説得力のない言い様に、ユキミチは違和感を覚える。リリアは一体、何がしたいのか?


「何がいけないんだよ? 何を根拠にそうだと言い切れるんだ?」


 ――そう問われて、リリアは返答に迷いをみせた。


「根拠は‥‥‥ないよ」


 リリアは、強力な能力(ステータス)とスキルを持つという勇者に強く興味を抱いていた。ただ漠然と勇者を見てみたいと思っていただけで、"始まりの間"でユキミチに指摘されるまでそれ(・・)について考えたことがなかった。


 異世界人の意思を無視してこちらの世界に召喚させる国王と、国王の要求を無視して自由に旅をしようとする異世界人。


「お父様とユキミチ。どっちが正しいのか、私には分からない」


 リリアの回答に、ユキミチはため息をついた。


「だったら、リリアが無理に首を挟むことはないだろう。お前は早く城に戻って――」


「でも!!」


 ユキミチの言葉を遮るリリア。


 ユキミチはその真っ直ぐな眼差しを目の当たりにして、確信した。やはりリリアは"何か"を言おうとしている。話題をそこに持っていくために、これまで中身のない主張をつらつらと並べていたのだ。


 ユキミチは固唾を呑んだ。


「ユキミチは‥‥‥自分がいけないことをしてるって、そう思ってるんでしょ?」


「‥‥‥‥‥‥何を言ってるんだ?」


 言葉の意味を理解し切れないユキミチに対し、リリアは繰り返しはっきりと言い切る。


「ユキミチは、自分のしてることが悪いことだって思ってる!」


 呆然としながら、今一度その言葉を反芻するユキミチ。二人の空間には少しの沈黙が流れた。


「――いや、待て待て! なんで俺の思考をお前が断定するんだよ!?」


 ユキミチはリリアが何を言うのかと身構えていたが、想像の斜め上をいく答えだった。


「だって事実じゃん」


「思ってることが事実かどうかは、本人が決めることだろ?」


「本当のことだもん」


「本当じゃない」


「本当」


「違う」


「ほ・ん・と・う!!」


 静かな町中でこのような問答が長々と繰り広げられ、いつの間にかユキミチとリリアの周りには人が集まってきていた。問答に必死な二人はその観衆に気づいていない。


「だーかーらー! 俺の思考なんだから、本当かどうかは俺が決めるんだ!! 俺が否定すれば、それはもう事実なんかじゃない」


 ユキミチの怒号で、リリアは不服そうに黙る。ユキミチは一息置いてから言った。


「俺は、自分が悪いことをしているとは思ってない」


「‥‥‥嘘」


 ボソッと否定するリリア。


「嘘じゃない。俺はこの世界の常識を知らない異世界人だ。この国にとって何が正義で、何が悪なのかだって何も知らないんだ。俺はただ、自分のやりたいようにやってるだけ」


「‥‥‥違うもん」


「違わない。悪いことをしてるなんて、これっぽっちも思ってな――」


「違う違う違~~~う!!」


 リリアは大声を上げ、またしてもユキミチの言葉を遮った。ユキミチはリリアの言動が理解できず、目を丸くした。


「もし本当に悪気がないなら、ユキミチが私を遠ざける必要なんてないじゃん!」


「遠ざける‥‥‥?」


「ユキミチが私を置いて先に行ったのは、王国への反逆に私を巻き込まないためなんでしょ? 自分が悪いことをしてるから、それに他人を巻き込まないようにしてるんだ」


 リリアの指摘。それを聞いてユキミチは衝撃を受けた。そして途端に視線を落として黙り込む。


「私には分かるよ。だって私も"城のメイドたちに迷惑をかけないように"って心に決めてから、城を抜け出してきたんだもん」


 リリアはそう告げて、「多分、既に大迷惑かけてるけど‥‥‥」と小声で添えた。


 ユキミチは表情を曇らせて、黙ったまま何か考えに耽っている。


 リリアは俄然と頬を赤らめると、視線をあちこちに泳がせて何か言いたそうにしていた。


「ねえユキミチ‥‥‥」


 その妙に照れ臭そうな呼び声で、ユキミチは視線をリリアに移した。


「私、良いこと思いついたんだ。誰も悪者にならないように。誰もが幸せになれるように。あのね――」


 嬉々として話すリリア。その輝く瞳に吸い込まれるかのように、ユキミチはリリアを見つめていた。そして、リリアはこう提案した。


「ユキミチ。私と一緒に、"冒険者"になろうよ!!」

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