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この勇者の我が儘は異世界を滅ぼすらしい(仮)  作者: ラハズ みゝ
第1章 旅立ち、それぞれの決意
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33話 勇者は再会する

 カイデン街の南に広がる町――ユンダ町。ユキミチはそこを歩いていた。


 ワードム街やカイデン街と比べて建物の数は少なく、その高さも全体的に少し低い。カイデン街ほどの賑やかさはなく、疎らに木や植物が植えてあるのが印象的だ。町行く人はちらほらと居るが、これまでと打って変わって落ち着いた雰囲気。


 西の空に沈みゆく太陽。景色はゆっくりと赤みを帯びてきていた。


 前方の奥側をよく眺めてみると、高く大きい壁がうっすらと窺える。恐らく王国を取り囲む外壁だろう。


「この広い町を抜ければ、いよいよ俺の大冒険が始まりそうだな」


 希望に満ち満ちた鼓動がますます高鳴る。ファンタジーにあふれる異世界を自由に旅する、その第一歩が近づいていくのをユキミチは実感していた。


 だが懸念もある。


 勇者として国王に従うことを断って逃亡している都合上、旅の準備というのが何もできていない。この先でそれが少しでもできれば良いが、難しい話だろう。商店街は通り過ぎてしまったし、そもそも金を一銭たりと持っていない。


 行き当たりばったりの道中。ユキミチは一言だけを呟いて、考えるのを止めた。


「まぁ何とかなるか」


 ふと、立ち止まって後ろを振り返った。手前からユンダ町、カイデン街、ワードム街――。段々と建物が高くなっており、視界に王国全体の姿を認めることができる。そしてその最奥には、何よりも高く大きく聳える楼閣――"始まりの間"。


 観光という観光はしていないが、改めてヴァルトリア王国を眺めてみると、大きく立派な国であることがよく分かる。


 "始まりの間"を脱走してからユンダ町に至るまでの数時間。ユキミチは国王が放ったであろう追っ手らしき人間と一度も出くわしていない。


「もしかするとあの王様、実はもう俺を捕まえること諦めてたりして」


 ユキミチはそんな期待を抱き始めており、町を走らずに歩いていたのもそのためである。


 リリアのメイドには見つかってしまったが、さすがにそれは国王の指示ではないだろう。メイドの目的は王女であるリリアだけで、自分が勇者だという点はほとんど話題に触れていなかったし、捕まえようとする素振りもなかった。


 ここまで、ユキミチはとても順調に逃亡できている。逆に不安になってくるほど。これだけ大きな国で、国王から堂々と逃げ切るというのは楽なことではないはずだ。


 ‥‥‥しかし、それを今考えたところで仕方ない。踵を返し、先に進もうとユキミチが足を前に出したその瞬間――。


「待って~~!!」


 遠くから、微かにそんな声が聞こえた。


 どこかで子供達が追いかけっこでもしているのだろう。気に留めずに歩みを続けようとするユキミチ。


「待ってよ! ユキミチ!!」


 驚いて、ユキミチは足を止めた。確かに自分の名前を呼ぶ声が聞こえたからだ。この異世界で、ユキミチの名を知る者は限られている。


 後ろを振り向いて、ユキミチは絶句した。


「やっと追いついた‥‥‥!!」


 声の主はユキミチの目の前まで走ってくるとそこで立ち止まり、息を切らしながらそう言った。


 前傾姿勢で視線を落としている。汗で桜色の髪が肌にベタつき、とても疲れた表情の少女。メイドの制服を纏っているが、彼女が本当のメイドではないことをユキミチは知っている。


「お前、どうしてここに」


「はぁ、はぁ‥‥‥。こんなに走ったの、生まれて初めてだよ」


 少女は疲れていながら、笑っていた。


「城に戻らなきゃいけないんだろう?」


「途中もう会えないんじゃないかって不安になったけど、見つかって良かった~」


 少女の手には、よく覚えのある灰色の服が大事そうに握り締められている。


「何をしに来た?」


「帰ったらアンに謝らないとなぁ。汗でメイド服がびしょびしょになっ――」


「リリア!」


 全く質問に答えない少女に、ユキミチがその名前を呼ぶ。リリアは呼吸を整えて背筋を伸ばすと、ようやくユキミチと目を合わせた。


「止めに来たよ。ユキミチ」

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