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この勇者の我が儘は異世界を滅ぼすらしい(仮)  作者: ラハズ みゝ
第1章 旅立ち、それぞれの決意
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32話 天然な勇者、裏切る

 逃亡した勇者を捕らえるため、国中を捜し回る冒険者と衛兵たち。カイデン街近辺を捜索しているゴールドクラスの冒険者ターベスは、近くに勇者が居るはずだと確信がありながら未だにその姿を視界に認めることすら叶っていない。


「国王の情報は本当に合ってんのか? 上下ともグレーの服を着た人間なんて見当たらねえぞ」


 ただでさえ人が多くて捜しにくいというのに、住民たちが騒ぎ立てているせいで尚更難しい。住民の騒ぎが勇者に関連することなら早い話なのだが、"勇者"という単語はどの住民の口からも窺えない。勇者に関連している可能性は大いにあるが、秘密裏に勇者を捜索するよう命令されているために、過度に住民と接触する訳にもいかないのだ。


「大体、なんで勇者がそんな地味な服装してんだよ!!」


 様々な要因からますます苛立ちが募り、ターベスの怒りの矛先はいよいよ変な方向へ向かっていた。


「ターベス君! 大変だ、こっちへ来てくれ!!」


 裏路地の方から衛兵のターベスを呼ぶ声がした。チンピラでも暴れているのだろうか? もはや勇者と関係のないトラブルに構っている余裕などないというのに。ターベスはストレス発散も兼ねてさっさと片付けてやろうと裏路地へ赴く。


 近くの衛兵が事情を説明する。しかし、それがターベスには理解し切れなかった。


「‥‥‥あ? もっと分かりやすく説明しないか」


「だから、勇者ヒロが寝返ったんだよ!! 三十八人目の勇者に協力してるんだ!!」


 ターベスは自分の耳を疑いながら、視線を裏路地の奥へ奥へと向けていく。


「――ユキミチのところには行かせないよ」


 ターベスの視界に入ったのは、そう言って衛兵たちの行く手を阻む少年。それはターベスにも確かに見覚えのある少年で、紛れもなく勇者ヒロだった。


 衛兵たちは困惑している。


「ヒロさん! 突然どうしちまったんだよ?」

「あれだけ人の良いあんたが俺たちに協力してくれないなんて!!」

「知ってるんなら逃亡した勇者の居場所を教えてくれよ!」


 ヒロは王国に最も協力的で優しい勇者として有名だ。ヒロがあらぬ言動を取ったとしても、その信頼があるために衛兵たちは現実を受け入れることができないのだ。


 ヒロは目を瞑って首を横に振る。


「友達は助けないといけないから」


 こう言ってさっきから衛兵たちの前に立ち塞がって動かないのだ。


 その様子を見てターベスは笑みを浮かべた。


 勇者ヒロは逃亡した三十八人目の勇者の居場所を知っているようだ。彼からその情報を聞き出せれば勇者を捜す手間が大きく省ける。


 ‥‥‥さて、それを拒否しているヒロからどうやって情報を聞き出そうか――。


「そこをどけ衛兵ども!!」


 ターベスは衛兵たちを押し退けながら、一気にヒロとの間合いを詰めにいった。


「おいターベス、何のつもりだ!?」

「止めておけ! 相手は勇者だぞ!!」


 衛兵の言葉にも耳を貸さず、その目に留めるのは勇者ヒロのみ。


「お国に逆らうってんなら、実力行使で聞き出すしかないよなァ!!」


 背中の大剣に手をかけ、それを引き抜く勢いでそのままヒロに斬りかかるターベス。ヒロは落ち着いた様子で腰の剣を手に取り、受け太刀しようとしたが。


「あれ?」


 剣が交わる激しい金属音。大剣の勢いに耐えられず、ヒロが後方に吹っ飛んでいった。


「ヒロさん!!」

「あんなデカイ剣での不意打ちなんて、剣一つで受け切れるはずがない!!」


 ヒロは態勢を崩すことなく着地したが、何故自分が吹っ飛んだのか解せないような面持ちをしている。


 間もなくターベスが追撃にかかる。今度は大剣を左に振りかぶり、ヒロの右半身を狙っている。透かさずヒロは剣を右に構えた。


 剣と剣が交わる刹那。またもヒロは疑問符を浮かべ、直後に大剣に押し飛ばされる。全身を壁に打ちつけられてずるずると地面に落ちたヒロは、激痛でその場に(うずくま)ってしまった。


 衛兵たちは愕然と見ていることしかできない。


「なぁ、逃げた勇者の居場所を教えてくれよ。ヒロさん」


 ターベスはヒロを見下してそう言った。ヒロは「痛ててて‥‥‥」と呟きながら上体を起こす。


「君は‥‥‥誰? 兵士さんじゃないよね」


「白々しいな、ヒロさん。一度ダンジョンを共に攻略した仲だろう」


 ターベスはヒロを知っている。過去に会ったことがあるのだ。しかしヒロには覚えがない。


「君の攻撃、どうなってるの?」


「まともに受けたんだから、さぞ痛かっただろう。恐らく間近で見てた衛兵たちも気づいていない。だが、警戒くらいはするべきじゃないか?」


 ターベスは大剣で地面を突き、その柄をヒロに見せた。ヒロは不思議そうにそれを眺める。


「‥‥‥ただの剣じゃないみたいだね」


「やはり、一年以上滞在しているとはいえ異世界から来たという勇者は無知だな。その上、危機察知能力にも欠けている。それほど期待してた訳じゃないが、拍子抜けだよ」


 執拗にヒロを煽るターベス。それをヒロはものともせずに聞いているので、ターベスは再び苛立ちを覚えた。


「勇者の居場所を教えろ」


「嫌だ」


「大事なお友達だからか?」


「うん」


「お前らが一体いつ知り合ったってんだ? ついさっきか? それとも元々異世界の方で知り合いだったか? ‥‥‥どっちにしたって、死にかけてまで守るもんじゃないだろう」


 ヒロはさきほど強打した左腕を庇いながら、ゆっくり立ち上がった。


「ユキミチのことは、応援したいんだ」

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