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この勇者の我が儘は異世界を滅ぼすらしい(仮)  作者: ラハズ みゝ
第1章 旅立ち、それぞれの決意
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28話 王女、勇者の行方を知る

 ユキミチが、眠っている自分を"お姫様抱っこ"して、こんな暗い所まで連れてきただって?? 


「な、何がどうなってそうなるの‥‥‥」


 リリアは頭を抱えて、直前までの記憶を探る。


 自分たちは商店街を歩いていて。そこで、ユキミチが自分に聞いたんだ、「さっきのお嬢様口調は何だったんだ?」って。それで確か、"メイドがお嬢様口調で喋るのはおかしい"と気づいて――。


 自分の恥ずかしい言動を思い出し、また赤面するリリア。つまりその過剰な程の羞恥心で自分は気を失い、それをユキミチが助けてくれたのだと理解した。


「すごく顔が赤いけど、体調悪いの?」


 ヒロが心配そうにリリアの顔を覗き込んでいた。リリアは咄嗟に両手で顔を覆い、そっぽを向く。


「だ、大丈夫! 何でもないから!」


 自分の言動に対する羞恥心もさることながら、"ユキミチにお姫様抱っこされていた"という事実が、リリアをさらに恥ずかしくさせていた。


 お姫様抱っこなんてされたことなかった。それどころか、お姫様抱っこをされてみたいと考えたこともなかった。幼い頃も、父やバラーノが抱っこしてくれる時は決まって「肩車が良い」と要求していた。


 恋愛だとかお姫様抱っこだとか、ずっと経験してこなかったために、そういうキラキラしたロマンチックな話への耐性がない。


 俄然、不安になるリリア。ユキミチは自分を抱えて、どう思っていたのだろうか? リリアはこれまで体重を気にしたこともなかった。"重たい"なんて思われていないだろうか?


「う~~~~~~‥‥‥!!」


 両手で顔を覆ったまま、不安に駆られて身悶えするリリア。


「ねえねえ、リリアはお城に戻らなくて良いの? メイドさんのお仕事があるんでしょ?」


 リリアの感情などいざ知らず、ヒロが問うた。それでリリアはハッとする。今は恥ずかしさに身悶えしている場合じゃない、と。


「ユキミチはどこに行ったの?」


「えっ? ユキミチならあっちの方に行って、そろそろ商店街を出ている頃だと思うよ」


 南を指差して答えるヒロ。それを聞いてリリアはまた不安になる。もしかしてユキミチは、足手まといになるから自分をここに置いていったのだろうか?


 ヒロは続けて言った。


「ユキミチはね、リリアのことを心配してたよ」


「えっ‥‥‥、そうなの?」


「うん。リリアはメイドさんで、『早く城に戻らなきゃいけないんだ』って。それで僕は、君が目を覚ますまでここで見守るよう頼まれたんだ」



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 ユキミチがヒロの元を去る直前のこと。


「ヒロ。一つ、頼みたい事がある」


「頼みたい事?」


「このメイドさんを、ここで少し見ててほしいんだ」


 ユキミチはリリアを抱えたまま、なんとか紙袋の中身を取り出すと、壁際の地面に敷いた。ユキミチの作業着である。


「とても綺麗とは言えないが、地べたよりはマシだろう。‥‥‥マシなはず」


 敷いた作業着の上にリリアを座らせ、壁にその背中を預ける。


「この子とは一緒に行かないの?」


「ああ、お城のメイドさんだからな。その仕事があるから、この子は早く城に戻らなきゃいけないんだ」


「ユキミチは、お城のメイドさんを誘拐したから住民たちに追われていたの?」


「いやいや、それは人聞き悪すぎだろ。ちゃんと同意の上で連れてきたぞ。‥‥‥同意したはず」


 ユキミチは思い返す。リリアはカイデン街に着いた時、確かに一緒に商店街を見たいと言った。しかし"始まりの間"を出た時はどうだろう。ユキミチは国を案内してほしいと頼みはしたが、リリアの返答を待たずして彼女の手を引いて強引に連れて行っている。


 それが原因で住民から追われていた訳ではないが、誘拐と言われてしまえば、確かに誘拐である。


「‥‥‥そ、それはそうと、メイドさんが目覚めるまでここで見守っててくれないか?」


 話を進めようとするユキミチ。ヒロは快く頷いた。


「いいよ! 僕もまだしばらくここに居るつもりだし」


「すまないな。助けてもらった身で、さらに頼み事聞いてもらって」


 ヒロは首を横に振った。


「そんなの気にしないでよ。僕、あんまり人と話したことなくてさ。ユキミチと出会えて良かった。こんなに楽しくお喋りしたの、凄く久しぶりで嬉しかったんだ」


 ヒロは満面の笑みでそう言った。ユキミチは一瞬目を丸くして、それから笑った。


「大袈裟だなぁ。俺、何か面白いこと言ったか?」


「そうじゃなくて、お喋りそのものが楽しいんだよ」


 頬を膨らませて言うヒロ。ユキミチにはそれが冗談を言っているようには見えなかった。


「そっかそっか。俺も、この世界で最初にできた友達がヒロで良かったよ」


 今度はヒロが、満更でもない様子で笑う。


「あはは、ユキミチこそ大袈裟じゃないか。"この世界で最初の友達"って、今まで一人も友達いなかったの?」


 ユキミチは自分が勇者だと知られる訳にはいかないのに、うっかり異世界に召喚された(てい)で話をしていた。


「あ、いや!! これはその、言葉の綾と言うか何と言うか‥‥‥。この国! この国で最初の友達だ!」


「それにしたっておかしいよ。このメイドさんも、ユキミチの友達なんでしょ?」


 ヒロの返しにユキミチは少し悩んだ。


 確かに、リリアは友達といっても過言ではないかもしれない。もっと一緒に商店街を見たいし、この世界中を好奇心旺盛なリリアと旅できるならどれだけ楽しいだろうと思う。


 だが、彼女はこの国の王女である。勇者という一時の肩書きで偶然出会うことができただけであって、元々製造業に勤めるだけの凡人である自分とはまるで身分が違う。あまつさえ自分は国を裏切って逃亡している。


 そんな自分と仮にも友達呼ばわりされるなんてのは、リリアが可哀想だ。


「メイドさんは‥‥‥ほら、ちょっと道案内してもらってただけだし。それに俺が言いたいのは、"男の友情"ってやつよ! 良いだろ? 男の熱い友情!!」


「‥‥‥確かに。良いね、男の友情!」


 ――こうして、ユキミチはリリアを残して去っていった。

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