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この勇者の我が儘は異世界を滅ぼすらしい(仮)  作者: ラハズ みゝ
第1章 旅立ち、それぞれの決意
24/46

23話 王女は悩む

――

――――

――――――――で区切られた部分は、回想や夢の出来事を描いています。

 ユキミチは暗がりの裏路地を駆け抜ける。表通りの住民たちに悟られないよう、なるべく音を立てずに。


 やがて道の先に光の点が現れた。商店街の出口だ。


「もうすぐだな!」


 ユキミチは考える。このカイデン街を出たらどうしようか。魔法大国と呼ばれるこの国をもっと観光したいという欲はあるが、そろそろ"勇者が逃亡した"というニュースが国中に知れ渡っていてもおかしくない頃だ。


 国王と一緒に居た衛兵たちはもちろん、さらに戦力を増強して自分を追いかけてくるかもしれない。例えば優秀な功績をいくつも収めている冒険者とか、魔法大国が誇る異次元の魔法使いとか。


 ここは異世界。捕まってしまえば国を出るどころか、命があるかどうかさえ怪しくなる。


「真っ直ぐ国を出るしかないか」


 国を出れば、それ以上追い回されることはないだろう。ライトノベルでも"国外追放"という言葉はよく目にした。役に立たない者、国にとって害のある者は国から追い出されるのだ。


 国王にとっても、反抗的な態度の勇者など国に居ない方が好都合なはず。


「結局、武器屋も防具屋も、魔道具も全然見れなかったな‥‥‥」


 ――それはそうと、国の出口はどこにあるのだろうか。誰かに訊いておくべきだったが、すっかり忘れていた。ひとまずは南の方角にひた進んで、それから考えることにしよう。


 差し当たっての方針がまとまったところでいよいよ商店街の出口を目の前にする。ユキミチは止まることなく、その光の中に飛び込んだ――。




 ――そこは明るみだが、商店街の表通りとは違って人気が少なかった。


「やっと見つけた」


 そう呟いたのはユキミチではない。


 裏路地を抜けたユキミチの前に、一人の少女が立ちはだかっていた。少女は他の誰でもなく、ユキミチを見つめている。


 一瞬ユキミチは少女のことを国王が手配した追っ手かと思い、焦った。まさかこんな短時間で追いついたのか、と。‥‥‥しかし違った。


「その服は‥‥‥」


「王女様を返しなさい、勇者」


 狼のような鋭い眼差しでユキミチを睨む少女。衛兵でも冒険者でも、はたまた魔法使いでもない。追っ手の誰よりも早くユキミチの元に辿り着いた彼女は――――


「どうして俺が勇者だと分かった? ‥‥‥お城のメイドさん」


 ――――リリアの世話役メイドであるアンだった。



 *  *  *  *  *



 ――

 ――――

 ――――――――


 "どうして私は、ユキミチと一緒に居るんだろう?"


 何もない真っ暗な空間に、ぽつんと一人佇むリリア。彼女は悩んでいた。


 ユキミチは異世界から召喚された勇者で、でも国王の頼みを断って逃亡している悪い人で。


 どうして自分はそんな人と一緒に行動してるんだろう?


 暗闇の中で、リリアの前に記憶の光がぽっと灯る。


 始まりは、勇者との思いがけない出逢いだった――。



 本を読んで、猛獣(モンスター)と戦う冒険者に強い憧れを抱いた。だけど誰も王女である自分が冒険者になることを許してくれない。


 しばらく後に、"三十八人目の勇者が召喚される"という知らせがリリアの耳に入ってきた。


 それまで勇者について考えたことはほとんどなかった。何故ならこれまで勇者に会ったことがなく、一番長く一緒に居るアンの口からも勇者に関する話題は出たことがなかったから。


 透かさずアンに勇者のことを訊いた。アンは表情を曇らせながら、勇者は冒険者の比にならないほど強いのだと答えた。


 とても勇者に会いたくなった。


 何となくそう言われる(・・・・・・)と予感していたが、それでもアンに"勇者召喚の儀式"に連れていってほしいと強請(ねだ)ってみた。


 ――やっぱり、駄目だと言われた。


 何故なのか訊いたが、アンは国王の命令だからとしか答えず、それ以上は教えてくれなかった。


 どうしても諦め切れない。一目で良いから勇者を見てみたい。それはいつになく強い好奇心だった。


 勇者召喚の儀式当日になって、リリアはとうとう一人で城を抜け出した。誰にも迷惑をかけないように、そして勇者を一目見ることができたならすぐに帰ろう。そう胸に誓って。



 ――しかしその誓いは果たせなかった。


 どうしようもなく本当にバッタリ、勇者と出逢ってしまった。まさか勇者が一人で"始まりの間"から出てきていたなんて、予想だにしなかった。


 そこからリリアの予定は一気に狂った。


 国を出ていくと言う勇者――ユキミチに手を引かれ、リリアは商店街まで来てしまった。一人で城の敷地外に出ることさえ生まれて初めてのことだというのに、商店街なんて不安で仕方ない‥‥‥はずだった。


 ユキミチは国を裏切った男。今すぐに国王のところへ連れ戻すべきだ。自分だって城に戻らなければいけない。


 ところが、リリアはユキミチを止めるどころか変装するための服を買い与え、あまつさえ自分も一緒になって商店街を歩いた。


 この時、自分は何を感じていたのか。リリアは思い返してみる。


 ユキミチに「その服装では目立ってしまう」と指摘し、新しく服を買ってあげた。はしゃぐユキミチを必死で追いかけ、魔石屋のおじさんから「魔石で魔法が使える」と聞いて二人で興奮した。貰った魔石を見つめながら嬉々として期待を膨らませるユキミチを隣に、自分も想像してしまった――。


 "もしこのまま私もユキミチと一緒に旅に出たら、一体どんな冒険が待っているんだろう‥‥‥?"


 ――――――――


 ――――


 ――



 暗がりの裏路地で、リリアは目を覚ました。

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