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この勇者の我が儘は異世界を滅ぼすらしい(仮)  作者: ラハズ みゝ
第1章 旅立ち、それぞれの決意
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22話 勇者を捜す冒険者

「おい‥‥‥。これはどういうことだ!!」


 商店街の入り口で驚嘆する男。背中に大剣を背負う彼は、ゴールドクラスの冒険者である。名をターベス。彼が目にしたのは、大声を上げながら表通りを駆け回る住民たちの姿だった。


「メイドが拐われた!!」

「男はまだ捕まってないぞ!! 捜せ!!」


 あちこちから聞こえる住民たちの声。彼らはとある"男"を捜しているようだった。ターベスは歯軋りをしながら怒りを露にする。


「何故この商店街で騒ぎが起こっている!? 住民は既に知っているのか!? 或いは勇者がここで暴れていたのか!? ならば話が違うぞ! これでは俺たちが秘密裏に動く意味がないじゃないか!!」


 ゴールドクラスの冒険者ターベス。彼こそ、先の冒険者召集にてギルドマスターを相手に煽るような口を利いたその男である――。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「――ギルマスさんよ。こうも改まって、一体何が起こったっていうんだ? ドラゴンの群れでも襲ってきたか?」


 ターベスの質問に、ギルドマスターはこう答えた。


「本日召喚された第三十八人目の勇者が、現在逃亡している」


 冒険者らは動揺した。


「勇者が逃亡!? 大問題じゃありませんか!!」

「この国を裏切ったというのか!?」

「住民たちが危険だ! すぐに知らせなければ!!」


 "勇者が逃亡している"という現状は、ゴールドクラス以上の冒険者たちでさえ驚き焦るほどの異常事態だった。そんな冒険者たちをギルドマスターは制する。


「落ち着いてくれ。急いで対策しなければならないというのは尤もだ。君たちを集めた理由も"勇者を捕らえるため"で間違いない。だが勇者の捜索を行うにあたって、いくつか留意してほしいことを国王より賜っている。これを遵守していただきたい」


「おいおいギルマスさん。留意してほしいことだって?」


 他の冒険者が動揺する中、余裕そうにニヤニヤしているターベス。皆がターベスに視線を向ける。


「それは勇者ってのが強いからなのか? みんなで協力して勇者を捕まえましょうってか。笑わせるぜ」


「‥‥‥何が言いたい」


「わざわざゴールドクラス以上の冒険者を居るだけ集めて、ビビりすぎじゃねーかって話だよ。能力(ステータス)がヤバいだとか確定でスキルを持ってるだとか聞くが、勇者はこの世界の常識を知らない異世界人だ。才能があっても使えなきゃ無意味だろ。大した脅威じゃない」


 ギルドマスターは深くため息をついた。


「君の気持ちは、分からんでもない」


 これにフッと笑うターベス。そしてギルドマスターは続ける。


「数年ほど冒険者として経験を積むと、自信過剰になる者がよくいる。特に若者はその傾向が強い」


「‥‥‥は?」


「君の冒険者歴は確か二年と少しだったろう。若くしてゴールドクラスにまで昇格している。ヴァルトリア王国の冒険者全体で見れば、間違いなく成功している側の人間だ。自信を持つなという方が無理な話だろうな」


 ターベスのニヤついた表情が怒りに変わっていく。


「おい、さっきから何の話をしている? その言い草、そりゃあつまり――」


「逸るな、青年。君は世界を知らないだけだ。言葉を選ばずに言わせてもらうとすれば、世界ではまだ君より弱い人間の方が少ない」


「‥‥‥てめえ!!」


 怒りが頂点に達したターベスはついに長机に身を乗り出し、それを他の冒険者らが引き止める。


「落ち着けターベス!!」

「ギルドマスター、彼を挑発するようなことを言わないでください!! 今はこんなことをしている場合じゃないでしょう!!」


 ターベスは長机の上で押さえつけられながら暴れている。


「お前に世界の何が分かる!? 一生ギルドの奥で引き籠っているだけの、戦えもしない老いぼれが!!」


 ギルドマスターは席を立ち、ターベスの方へ歩み寄っていく。


「ギルドマスター!? 危険です、ターベスに近づかないでください!!」


「構わない。大丈夫だ」


 ターベスの目の前まで来ると、ギルドマスターはターベスの目の高さに合わせてしゃがみこんだ。


「勇者は強い。その目で直接見てくると良い。但し、国王からの指示には従ってもらう。真に強き者は、厳しい制約の中でさえ最大限に実力を発揮できる適応力を持ち合わせているのだ」


 鋭い眼光でギルドマスターを睨みつけるターベス。彼はそこで、暴れるのを止めた――。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 ギルドマスターが言った、勇者を捜索するにあたって留意することは三つ。


・できる限り戦闘は控え、住民に危害を加えないこと。

・住民には知らせず、秘密裏に動くこと。

・勇者は殺さずに捕らえること。


 住民に事態が知れれば、間違いなく住民も勇者を捕まえようと動き出す。そうなれば被害の拡大は免れないだろう。国王はそれを阻止しようとしている。


 だが勇者の方が住民を襲ってしまえば、こちらが秘密裏に動く意味がない。


 ターベスはそう反論した。しかし国王によれば、勇者は理由もなく攻撃をするような非道な人間ではないらしい。だから極力戦闘は控え、勇者を殺さずに連れ戻してほしいのだと。


 第一に国を裏切って逃亡している勇者を相手に、国王は何を考えているのか。ターベスには理解できない話だが、ギルドマスターから挑発されたため、この制約を受け入れることにした。


 ――ところが、既に商店街は騒ぎになっていた。


 ターベスは叫ぶ。


「どこに居やがる!? 勇者ぁぁ!!」

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