第8話「え、裸足!?」
「あ、アカネ…!」
2人の姿が完全に見えなくなって、あたしはようやく体を動かすことができた。べちゃ、べちゃ、とドロドロの土の地面に足を踏ん張って歩き出す。そうでないと倒れてしまいそうだった。わずかに残っていた魔力で、体力を精一杯回復させると、ようやく動き出すことができた。あたしは土の上に残されたアカネのサンダルを手に取り、走り出した。行き先はおそらく、ルルの家。治すこともできなかったので、あたしはヒリヒリと痛む裸足のまま、そして服はボロボロのままで、競技場を飛び出した。
「え、裸足!?」
「あの子、どうしたんだろう、服がボロボロ…」
行き交う人たちの視線を痛いほど感じながら、よろよろと歩いて街を抜けると、その先は街を囲むように深い森がある。ルルの家はこの森のどこかにひっそりと建っている。以前一緒にいたときに、一度行ったことがある。その時はルルの魔法の杖でひとっとびだったけれど、今日はそういうわけにはいかない。魔力がほとんどないから、自分の足で目指さなきゃならなかった。大体の方向はわかっている。街からも見えるとても大きな木。それを目指していけばその近くに家はある。
森の中を歩いていると、服、というか残された布が取れてきて大事な部分があらわになってしまう。そのたびに結びなおして、また歩く。立ち止まるたびに、足の裏に激痛が走っているのを感じていた。いつのまにか、あたりは深い森になっていて、地面には落ち葉や木の枝、そして大小さまざまな石が無数に落ちていた。こんなところを裸足で歩いていては、ケガをするに決まっている。さすがに息が切れてしまい、一度切り株にこしかけて息をつく。急がなければならないのはじゅうぶんにわかっているのだけれど、体がそれについてこない。はあ、はあと激しく息をつきつつ、じんじんと痛む足を確認する。ポタポタと、足の裏から血が地面に落ちていた。どこかで切ってしまったのか、右足に切り傷ができているのを、ドロドロになった足の裏からなんとか判別できる。アタシは少しばかり回復していた魔力でその傷口をふさぎ、また足の裏を地面につけた。歩き始めると、体全体の痛みと疲れからか、足の裏への痛みはもはや感じなくなっていった。
どれだけ歩いたかわからないけれど、大きな木がまだまだ遠くに見える森の中、アタシは大きな魔物に出くわしてしまった。魔力があれば倒せる相手。けれど今のアタシでは到底無理で、アタシは慌てて近くの茂みの中に身を隠した。いつもなら何でもない相手でも、いまはこわくって体が震える。足元は土が全体にこびりついて全体が茶色く染まっている。じっと息をひそめていると、やがて魔物は諦めてくれたのか、アタシが向かう方とは逆の方へ去っていってくれた。アタシは自分の杖と、アカネのサンダルがあることを確認して、一度ほどけそうになっている服の裾をもう一度ぎゅっとしばって、また森の中を進んでいった。
つづく