第6話「ふっふっふー、さ、いくよ!」
「どう?リリ、そろそろコウサンしたら?かなり弱ってきてるんじゃない?」
それまでかなりの量の魔法をぶつけられていたが、それがいったんおさまった。上空で大きな杖にまたがって、ルルがリリに声をかける。リリはフィールドの中でほんの一部だけ氷が溶けて、ドロドロになった地面にじっと膝をついて、体力を回復しているところらしかった。ちょうど私の方に足の裏が向いていて、赤くなっていた足の裏に土汚れがついて、全体が茶色く染まっていた。そしてかなり息が上がっているようで、肩が大きく上下に揺れている。ローブも土があちこちついていた。
「ま…まだまだだよ…!」
リリは魔法で体力と、そして足の裏の傷を治すと、また立ち上がって、天に向かって杖を振った。私も、観客たちも、そしてルルも空を見上げる。
「なにをやって…きゃ!」
次の瞬間、フィールドの上にだけ黒く厚い雲が集まって、急に土砂降りの雨が降ってきた。観客たちは悲鳴を上げて、上空に浮いていたルルは雨に打たれてバランスを崩し、地面すれすれまで落ちてきた。フィールド内にあった氷は、温かな雨のおかげできれいに溶けてしまっていた。その代わり、地面はドロドロ、べちゃべちゃのぬかるみになっている。
「ふっふっふー、さ、いくよ!」
リリにとってはこの柔らかで温かい地面が好都合。べちゃべちゃと土を跳ね上げながら裸足で走り、雨をぬぐっていたルルに向かって杖を振った。
「ふっとべ、ルル!」
「な…きゃあああ!」
弱っているリリを見てすっかり油断していたルル。雨でびしょ濡れになっていたところ、突然の風に、杖ごと吹き飛ばされてしまった。リリの最後の魔力を凝縮した攻撃だったのだろう。ぎゅるぎゅると吹き飛ばされたルルは、ぼかん、と競技場の壁にぶつかって気を失ってしまった。
「…しょ、勝者、リリ!」
審判役の人の掛け声で、一瞬しいんとなった闘技場は、次の瞬間には観客たちの歓声であふれかえった。戦いのルールをよく知らなかったけれど、相手が続行不能になったら、勝ち判定が出るらしい。
「よくやった、おじょうちゃん!」
「最後の魔法、すごかったよ!」
「ルルちゃん、がんばれー!!」
観客たちは思い思いに声を上げ、勝ったリリはその場に膝をついてしまった。私は居ても立っても居られなくなって、汚れる足も気にすることなく、サンダルのままべちゃべちゃと土でぬかるむ地面を、リリに向かって駆け寄った。
「リリ!大丈夫!?」
私が駆け寄ったのと、リリが地面に倒れ込むのとがほとんど同時で、私はギリギリ、リリが地面に横たわる前にからだを支えることができた。私は地面に正座をして、その足の上にリリの頭をのせた。
「お疲れ様、リリ」
「…あ、アカネ…?えへへ、がんばったよ」
回復する魔力もほとんど残っていないのか、リリは力なく笑顔を見せた。
「ありがとう、リリ。今日はもうゆっくり、休んでね」
私はそうつぶやいて、リリの頭を優しくなでた。そんな私たちを、観客たちの声が包んでいった。
つづく