第5話「わち、つめた、つめたい!」
翌朝、窓から差し込む光で目を覚ます。いよいよ、リリとルルの対決の日だった。リリはいつものように、裸足のまま、ローブを羽織る。私は、昨日靴と一緒に買ってもらった異世界っぽい服を着て、サンダルを履いて、宿屋を出た。
「まずは、朝ご飯を食べなきゃね」
リリはそう言って、競技場へ続く道の途中にある食堂のようなお店へ立ち寄った。
「おばさん!ルーメン、2つおねがい!」
「はい、ルーメン2丁!」
リリの頼んだ謎の”ルーメン”は、日本でいうラーメンのような料理だった。スープは醤油ベースっぽくて、麺はラーメンそのものだ。朝からラーメンは…と思ったけれど、おなかがすいていたのか、ぺろりと食べてしまった。意外と、麺がお腹にずしっとこないのだ。どんな材料を使ってるんだろう…?
「よし、じゃあいこっか!」
リリに連れられて、競技場へたどり着く。中へ入ると、うわさを聞き付けたらしい観客たちがすでに観客席にずらっと座っていた。あれ、意外と人気があるの…?
「魔法使い、まあリトルウィッチの対決ってあまりないらしくって。物珍しさからみんな観に来るらしいわ」
リリに聞いてみると、そう教えてくれた。
「そうなんだ!野球の試合みたいなんだね!」
「ヤキュウ…、ええ、たぶん、そんなものよ!」
私はリリの付き添いということで、特別に競技場の関係者席みたいなところに通された。かわいた土の地面の競技場のなかに、ローブにブーツを履いたルルと、同じくローブを着て、裸足のままのリリが対峙する。
「いけー、やってやれー!」
「どっちとも、がんばれー!」
観客たちはどちらの味方というわけでもなく、両方の勝負する光景を見てみたい様子だった。私は関係者席の固い木のイスに一度座ったものの、そわそわしてしまって、結局フィールドのギリギリのところで立って観ることにした。風が吹いて、場内に土埃が舞っている。裸足の足をその地面に慣れさせるように擦り付けていたリリが、私に気付いて小さく手を振った。この勝負に負けたら、私はリリと離れ離れになってしまうかもしれない。ルルもルルでかわいいんだけれど、やっぱり最初に助けてくれたリリと一緒にこれからも旅がしたい。
「がんばれー!まけるな、リリ!」
私は、観客たちの声にかき消されまいと、精いっぱい、普段出さないような大きな声をリリに届けた。
「ファイ!」
試合はなんのアナウンスもなく、審判役の掛け声でいきなり始まった。最初に仕掛けたのはルルで、見たことのないような強烈な光をリリに向かって放っていた。どひゅん、どひゅん、とその光が地面に当たるたびに穴が開き、土埃が舞う。
「さあさあ、リリもおいでよ!」
「わかったわ、カクゴしなさい!」
リリも負けまいと、色の違う光をルルに向かって放つ。すんでのところでルルはかわし、代わりに競技場の壁がゴロゴロと崩れた。
「じゃあ、次はルルのばんね!えいっ」
ルルはそう声を出すと、白っぽい光、というか煙を出した。すると、その煙が当たった地面がみるみるうちにカチコチと凍ってしまった。地面を凍らせる魔法。かなりの上級魔法だと、私の隣にいつの間にか立っていた審判役の人が教えてくれた。
「わち、つめた、つめたい!」
ルルは大きめの杖にまたがって、上空から魔法を放っている。けれどリリは手元にある小さい杖しかないので、体を浮かせることができなかった。そのため凍ったフィールド上で裸足のままのリリは、つま先立ちになってぴょんぴょん跳んでいた。こんな時にこんなことを思っちゃうのも申し訳ないけれど、ぴょんぴょんするごとに頭の帽子もゆらゆらして、リリをかわいいなって思ってしまった。
「えい、えい!」
ルルはそんなリリにおかまいなく、別の魔法を放っていく。今までとは別の魔法で、光が当たった部分に氷の柱ができていき、それにもう一度攻撃を与えることで破壊していった。
「いた、いったたた」
凍った地面に、さらに氷の柱が壊されてできたかけらがばらまかれ、裸足のままのリリはそれを踏むごとに痛そうにしていた。かろうじて攻撃を出したり交わしたりしているけれど、見たところ圧倒的にリリの方が不利だった。一番のネックは、リリが裸足じゃないと魔法が出せないところだろう。裸足のまま走り回るにはあまりに大変なフィールドの状況になっている。氷はどんどん溶けていくけれど、ルルが片っ端から地面を凍らせて、氷の柱を作って、それをバカーンとしてかけらをちらす。リリは必死でそれをよけていくものの、やはり足への負担は重くなって、氷のかけらで切ったのか、冷やされて足の裏を痛めてしまったのか、血がにじむこともあった。どうやらけがを負うとそのたびに瞬時に魔法で回復しているみたいだけれど、それもどこまでもつかわからなかった。私は祈るようにこの戦いを見つめていた。
つづく