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第4話「 だって、リリの裸足、かわいいんだもん!」

 「その声は…、ルルね」

「覚えててくれたんだね!久しぶり!」

そこにいたのは、リリと同じくらい、10歳の小学生くらいの女の子だった。リリと同じような黒いローブを羽織って、同じような杖を持っている。栗色の髪をツインテールにしていて、かわいい女の子だった。けれど大きな違いが一つ。リリが裸足なのに対して、ルルは立派なブーツを履いているのだった。絵本などで魔女が履いているような、茶色のブーツだ。ちょっとぶかぶかな感じに見える。

「あれ、その子はどうしたの?リリのおともだち?」

「そうね、家に帰ろうとしていたら、迷っている様子だったから。どうやら別の世界から迷い込んだみたいなの」

「そうなんだ!あ、初めまして、リリとおなじ、リトルウィッチの、ルルって言います。よろしくね!」

ルルはそう言って、丁寧にぺこりとお辞儀してくれた。あれ、礼儀正しい子だな…。

「あ、うん、よろしくお願いします…」

私もつられて、お辞儀する。

「ルルもあたしと同い年くらいなの。生まれは違うんだけれど、魔法学校で一緒になって、卒業して、それぞれ暮らしているの」

「そうなんだ…」

リリと同い年くらいということだけれど、どうやらみためは年をとらないらしくって、やっぱり小学生くらいに見える女の子だ。けれどひとつ、気になることがあって…。

「ルルちゃんが裸足じゃないのは、どうして…?」

こっそりとリリに聞いてみる。

「あ…、そうね、裸足じゃないと魔法が使えないのは私特有のものらしくって。ふつうは靴を履いていても使えるものらしいわ。とくにルルは優秀なウィッチだったから、普通の格好をしていても小さいころから魔法を使うのがとても上手だったの」

ルルの方をうかがいながら答えるリリ。聞こえていたらしく、少しだけほおを赤くして照れるルル。

「えへへ…、リリにほめられるとなんかうれしいなあ。そうなんだ。そこのリリと違って、ルルは裸足じゃなくてもちゃあんと魔法、使えるんだ!こんな感じ!」

そう言って、ルルは私たちに向かって杖を向けた。何やら呪文を唱えると、私の体がほのかな光に包まれる。え、なに!?とおもったけれど、みるみるうちに、なんだか元気になってきた。

「体力の回復魔法だよ。どうかな?」

「すごい、エナドリ飲んだときみたい…」

「えなどり…?まあ、こんなものよ!」

リリのチユ魔法もすごかったけれど、ルルの回復魔法は。今までの旅の疲れがすべてどこかへ飛んでいくような感じがした。魔法って、すごいな。

「でもどうしてルルがここに?アメルカに行ったんじゃなかったの?」

「うん、でもちょっと用があって、ここに来てたんだ。ぐうぜんだね!」

ルルはそう言いながら、じりじりとリリに近づく。瞬間、リリが小さく悲鳴を上げた。

「イタ…!」

「えへへえ」

「ちょっと、ルル、やめてよ!」

「だって、リリの裸足、かわいいんだもん!」

ルルはそう言って、リリの裸足の足を、ブーツで踏んずけようとしていた。私の周りを、2人のリトルウィッチがくるくる、くるくると回っている。ただ、2人ともまんざらでもない様子で、楽しそうにおいかっけっこをしていたので特に止めないでいた。

「もう、そんなにイヤなら、サンダルくらい履いたらいいのに!」

「何か履いたら、急に何かあったときに魔法が使えないじゃん!ルルも知ってるでしょ!」


 「それにしてもアカネちゃんって、かわいいよね…」

ひとしきりリリを追いかけまわして満足したのか、ルルは急に私の方を向いてつぶやいた。リリは追い回されて疲れてしまって、はあ、はあと一息ついている。何度か足を踏まれてしまったらしく、足の裏だけでなく表も土で汚れてしまった。

「ねえ、リリなんかと一緒にいないで、ルルと過ごしましょうよ!きっとその方が楽しいわ」

「え…?」

突然のルルの申し出に、私は一瞬思考が停止してしまう。

「ちょっと、ルル、何言ってるの?アカネはあたしと旅してるの!」

「だってえ、リリと一緒にいてもなにもわからないかもよ?ルルだったら、もっと力になれると思うけどなあ」

「だめ!あたしと一緒に行くの!」

今度は2人して私の前で言い合うようになってしまった。雰囲気が険悪になってしまったので止めようとすると、

「…わかった、じゃあ、ルルとリリで、勝負しましょ!」

「え、勝負?」

「うん、勝った方が、アカネと旅をするってことで!ルルが負けたら、なんでもいうこと、聞いてあげる!」

「…わかったわ」

「え、リリ、いいの!?」

「ええ、だって勝ったら、ルルになんでもやってもらえるのよ!こんな機会はないわ…!」

負けたら私はルルと一緒になっちゃうのに大丈夫かな…?リリに何か考えがあるのだろうか。

「じゃあ明日、ギルドの競技場で!予約はルルがしておくね!」

「わかったわ、明日、よろしくね」

「リリこそ!しっかり準備しておくんだよ!じゃね!」

そう言って、ルルは手を振って、杖にまたがると、スイーっと飛んでいってしまった。あの杖、飛べるんだ…!


 「今日はここに止まることにしましょ。旅人向けの安宿だけれど」

ルルと話しているうちにすっかり夕ご飯の時間になって、私とリリは裏通りのお宿に泊まることにした。どうやらリリは何回か泊まったことがあるようで、主人とは顔見知りのようだった。

「やあ、リリちゃん、久しぶりだね!」

「おじさん、今日もお世話になります!」

「おや、今日はお友達も一緒かい?」

「こ、こんばんは…」

お宿はかなり年季の入った木造の建物で、リリは手続きを済ませると、階段の方へ向かった。

「ここの3階だって。一緒の部屋にしたけれど、いいわよね?」

「う、うん!寝られれば、大丈夫だよ!」

異世界のホテル…って感じかな。どうなっているんだろう。少しわくわく。急な階段を、ギシギシ言わせながら上る。先を歩くリリの足の裏が見えて、やっぱり街の中を歩くせいか、ホコリや砂ですぐに真っ黒なってしまっていた。

「ここよ。いつも同じ部屋にしてくれるんだ」

暗く、しいんとした廊下をギイギイと足音をさせながら歩いて、角の部屋へ。カギを開けると、そこには机と、ベッドがひとつづおいてあるだけの、いたってシンプルな部屋があった。つくりは古めかしいけれど、いわゆるビジネスホテルのようなイメージだ。入ってすぐ横の扉を開けると、小さいながらもちゃんとお風呂が付いている。シャワーに、バスタブ、タオルもしっかり人数分ついていた。

「ほわあ、なんか、ビジネスホテル、って感じだね!」

「びじねす…?アカネの世界ではそう呼ぶのね。意外と、しっかりしてるでしょ?ここなら安くてぐっすり眠れるから、重宝してるの」

人生はじめての野宿をした昨日の夜を思い出す。それと比べると、天国のような空間だ。久々の、お風呂にも入れる…!

「うん、すごくいいよ!リリ、さっそくお風呂、入ってもいい?」

「ええ、いいわよ、あたしは片付けとかお手入れ、しておくから、ゆっくり入っておいで」

そう言って部屋の方へペタペタ歩いていくリリ。私は少し考えて、

「…せっかくだし、一緒に、入らない?」

「うえ!?」

私の提案に、素早く反応するリリ。顔が赤くなっている。

「そのほうが、早く寝られるし!」

「え、で、でも、アカネ、嫌じゃない、の?」

「ぜんぜん!体も洗ってあげるから!いいでしょ?」

「ううう、じゃあ、そうしようかしら…」

「やった!」

私はリリが片付けをしている間に、お風呂にお湯をためていった。思ったより勢いがすごくって、すぐにバスタブにアツアツのお湯がなみなみと。

「リリ!お湯、たまったよ!ほらほら!」

「わ、わかったから!服は自分で脱げるから!」

誰もいないのをいいことに、私はリリの服を脱がして、自分も脱いで、お風呂場へ。まずは体を洗っていく。特に、髪と、あとは、足かな。

「すごい、シャンプーもボディソープもある…!」

異世界だし、体を洗うのは石鹸みたいなものしかないかなと思っていたら、ディスペンサーに、シャンプーやコンディショナー的なものも置いてあった。進んでるな、異世界…!

「魔法で生成できるからね。意外と安く手に入るのよ」

服を脱いで、私の前にちょこんと座るリリ。白く長い髪に、つるつるしたお肌をしていた。長旅のせいか、髪はギシギシになっている。

「じゃあ、髪からあらうねー」

「ええ、お願い」

さっきは照れている様子だったけれど、もう慣れたのか、大人しく座って、私に洗われていくリリ。シャンプーをたっぷり、コンディショナーもじっくりなじませて、髪はなんとかサラサラとはいかないまでも、ゴワゴワ感はなくなった。次は、体だ。あちこち汚れてしまって、スポンジを使ってごしごししていく。特に、足の裏は入念に。真っ黒になっていた足は、何度かゴシゴシして、ようやく元通りになった。

「…よし、と!はい、おわったよー」

「ふう、ありがとね、アカネ。こんなに丁寧に洗ったの、初めてだわ」

「は、はじめて!?」

そうして、リリを湯船につからせて、今度は私自身の体を洗っていく。髪を洗い終わったところで、リリが湯船から上がってきた。

「あたしにも、アカネの体、洗わせて」

「え、いいよいいよ!」

「いいから!さっきのお礼よ。座って」

そういって、スポンジを手に取るリリ。ボディソープをなじませて、背中に当てる。誰かに洗ってもらうのって、小さい頃お母さんにしてもらった時以来だな。そう考えると、少しだけ元の世界のことを思い出して、寂しくなった。早く帰れるといいな…。

「じゃあ次、足ね!」

「あ、いや、そこはさすがに…!」

「いいからいいから!」

サンダルを履いていたとはいえ、土埃などがかかったせいか、私も足の裏は汚れていた。そこを丁寧にごしごししていくリリ。くすぐったい…!

「…はい、終わったわよ」

「えへへ、ありがとね」

2人とも体はすっかりきれいになって、ようやく湯船につかる。少しぬるくなっていたけれど、2人で入るとポカポカだった。お風呂から上がると、これまでの疲れからか、さっき回復魔法をもらったはずだけれど、すぐに眠りについてしまった。前はスマホをしばらく見てからじゃないと寝られなかったのに、不思議なものだ。まあ、それもどこかへいってしまったんだけれど…。


つづく

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