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第3話「アカネも裸足のまま、ってわけにはいかないわよね」

 「あ、見えたわ!あそこが、目指してた街よ。この辺りでは一番大きいの」

「すごい…!人も建物もたくさん見えるね」

2日間森の中を歩き続けて、私たちはようやく目指していた街にたどり着いた。途中、家もお店もなかったものだから、私たちの身なりはすごいことになっていた。リリの家を飛び出して着の身着のままだったから、服はボロボロで、せっかくリリに巻いてもらった足の布も、土で真っ黒に染まっていた。

「えっと…あそこで、食事をとりましょうか」

「うん!」

そこはちょうど森を抜けて開けた場所だった。標高も高いせいか、眼下にある街を一望できる。これからこの山を下りなきゃいけないと思うと、しっかり栄養補給をしておかなきゃ。街が見えたとはいえ、先はまだまだあるらしい。

「はい、アカネも食べて」

「ありがとう」

このときの食事は、森を歩きながら見つけた木の実と、途中の川でくんだお水。この木の実は、ブドウのような味がして、ジューシーでとてもおいしいのだ。リリによると、いろいろな栄養分が含まれているらしく、これだけ食べていれば体はとりあえず大丈夫らしい。

「えいっ」

リリはそれに加えて、川で釣った魚を魔法で調理してくれた。さすがに木の実だけだとタンパクシツが足りないのだ。リリの持っている、炎の魔法で一瞬でいい感じに魚が焼けると、ランチタイムだ。アユのような大きさで、身が詰まっててとてもおいしい。

「あそこはどんな街なの?」

「そうね、この国の重要な組織が集まってて、あとは魔法の本部もあるわ。あたしが通っていた魔法学校もあるのよ」

「すごい、東京みたいなかんじだね」

「トーキョー…は知らないけど、アカネが言うんならきっとそんな感じよ」

そうして食事を終えると、立ち上がったリリがちょっとひきつった表情を見せた。

「リリ、大丈夫?」

「ええ、またどこかで石か何かをふんじゃったみたい。我慢してたんだけれど…」

慌てて近寄って、リリの足の裏を確認する。布で足の裏の土を拭いていくと、またしても切り傷ができていた。まだ血がにじんでいて、とても痛そう…。

「ダメだよ、私はいいから、早く足を治して!」

「でも、何かあったら…」

「私も一緒に何とかするから!それより、リリがそんなんじゃ、歩けないでしょ?」

「う…、わかったわ」

私の圧に押されてか、リリはまた座ると、自分の足にチユ魔法をかけた。フワアアアと光った後でもう一度足の裏を見てみると、無事に元通りになっていた。相変わらず土で汚れているけれど、傷のない足の裏だ。

「…つん」

「きゃっ、もう、アカネ、なによ?」

「あ、ごめんごめん!リリの足、柔らかくて気持ちいいなあって」

「や、やめてよう…」

どうやらリリは足の裏がそんなに強くはないらしい。ずっと裸足なのに不思議だな…。もしかして、ケガするたびに治しちゃうのが関係するのかな?

「さ、アカネ、支度できた?進むわよ。今日の夕方までには、たどり着けると思うわ」

そう言って、リリは脱いでいたローブをまた羽織って、裸足のまま歩き出した。私も、足の布を改めてぎゅっとしめなおして、リリのあとを追う。足先とかかとが見えているけれど、足の腹をケガしないからすごくありがたかった。


 「ついた…!」

「ついたわね…!」

山を下りること半日、日が傾きかけたころ、私たちはようやく街の入り口にたどり着いた。信じられないほど多くの人々や馬車、さらには自動車までもが行きかう様子を、脇道の影からこっそりと垣間見る。車が通るたびに砂ぼこりや排気ガスが舞っている。昔の映像を観てるみたいだ。

「どうしよう、この服、職質されないかな…?」

「ショクシツ…?大丈夫よ、みなりなら、今から治すから」

そう言って、リリは私に向かって杖を差し出すと、また何やら呪文を唱えた。とたんに、私の体全体がほのかな光に包まれて、破れていた布たちが元通りになっていった。足元に巻かれた布も、元のきれいな状態に戻ったのだ。

「わあ、すごい!服も戻せるんだね!」

「ええ、魔力は消費しちゃうけれど一応、ね。あたしのも直さなきゃね」

そう言って、リリは自身にも魔法をかけて服を直してしまった。私の足に布をくれたせいでおなかが出ていたのも、すっかり元通りだ。これなら問題ない、かもだけれど…。

「あ、そういえば、リリって裸足のままだけど…」

「大丈夫よ、いつもこれで街中も歩いているから。この街には顔見知りもいるし…」

「そうなんだ!」

「でも、アカネも裸足のまま、ってわけにはいかないわよね…」

「そう、だね…」

私とリリは、街の入り口で簡単な検査を受けると(どういうわけか、私の身分証明書的なものがいつのまにかできていてびっくり!)、無事に、いよいよ街中へ入る。

「わあ、すごい!ヨーロッパの街並みみたいだね!」

「あら、この街の名前言ったかしら?ヨーロパっていうのよ」

「え、そうなの?!」

それは偶然なのか関係あるのか…。

「まずはあそこへ行かなきゃね」

「どこどこ?」

異世界の街だし、”ギルド”みたいなのがあるのかなと思ってリリの指さす先を見ると、靴のイラストが描かれた看板が。その下には見慣れない文字が書いてある。まったくわからないけれどおそらく”靴屋さん”なんだろう。

「さすがに、このままアカネを裸足のまま歩かせるわけにはいかないわ。何か履くものを買いましょう」

「え、いいよいいよ!リリのこれもあるし…」

そう言って私は足元を見つめる。さっき直してもらってきれいになった布は,街中を歩いたせいか、また黒っぽく汚れてしまっていた。通りを歩いていると、馬車や自動車も多く行き交っているため、森と比べると空気はどこかよどんでいるように感じる。足の裏を見てみると、今までは土汚れで真っ黒だったけれど、今度はホコリのようなものがこびりついてまた真っ黒になっていた。そんな足の裏を見て考えるリリだったけれど、何かを決心したように私の目を見て,

「いいえ、やっぱり履くものは必要だわ。アカネは気にしないでいいから!」

「え、ちょ!」

そう言って、私の手を引いたリリは、靴屋さんに飛び込んだ。


 「いらっしゃいませ!わあ,かわいいですね!妹さんですか?」

外のざわざわとはうって変わって、お店の中はとても静かな空間だった。オイルランプのほのかな光と、窓の外からの日光でほんのり明るい。中には革靴やハイヒールなど、いろいろな靴がそろっていた。思った通り、ローファーやスニーカーといった現代的な靴は見当たらない。日本とは全然違うな。

「私たち、姉妹ではないのだけれど、この子に何か履くものを買ってあげたいの」

「そうなんですね!どういったものをお探しですか?」

店員さんとはきはきと会話を進めるリリ。見た目は子供だけれど、その様子を見ていると大人びて見える。やがて店員さんは、お店の一角にあるサンダルが並んだコーナーへ案内してくれた。これからもきっとたくさん歩くことになると思うし、歩きやすくて履きやすいものがいいな。ハイヒールなんてもってのほかだ。

「こういった履物はいかがでしょう?」

「いいわね!どれがいいかしら…。アカネはどう?」

そこに並んでいるのは、日本でも売られていそうなおしゃれなサンダルたち。どこかしらアジアっぽい雰囲気を感じる。

「そうだなあ、これとかいいかも!」

「どうぞ、履いてみて下さい!」

「あ、ありがとうございます!」

店員さんに促されて、近くにあった木の椅子に腰かける。足に巻かれた布をとって、床に置かれたサンダルに足を通そうとして、自分の足がすんごく汚れていることに気付く。

「あ…、あのすみません、なにか拭くものってありませんか…?」

自分から言い出すのが何となく恥ずかしくって、顔が真っ赤になっているだろう。店員さんも、

「あら、ほんとだ。裸足で歩いてこられたんですね!ちょっと待っててください!」

きっとお店に入った時から気付いていたんだろうけれど、今気づいたかのようにそう言って、一度お店のカウンターに入る。そしてすぐにタオルのような布を持ってきてくれた。受け取ると、麻のような手触りだ。

「ありがとうございます!…すみません、汚しちゃうんですけれど…」

「大丈夫ですよ!」

もらったきれいな布を汚しちゃうのは忍びないけれど、こんな真っ黒な足でサンダルを試し履きするのはもっと忍びない。私は片足を椅子の上にあげて足の裏を拭いていった。すぐに布は真っ黒になっていって、両足がきれいになるころには、布の方が真っ黒になってしまった。それでも、足の裏はまだ全体的に黒っぽくて、しわの間に入り込んだままになっているようだった。またお風呂に入って、体も足も洗いたいな。

「すみません、ありがとうございます」

「いえいえ、それでは、どうぞ試してみてください!」

店員さんに言われて、サンダルに足を通す。親指とその隣の指で鼻緒を挟んで、かかとをベルトで留めるタイプだ。底はペタンとなっていて、足をひねることはなさそう。ペタペタ、と歩いてみると、これでもかというほど、足の裏に安心感が生まれた。

「いかがですか?」

「はい、すごく歩きやすいです!」

リリにも見せようとしたけれど、どこかに姿を消している。

「あれ、お連れ様は…?」

「あれ、リリー?」

「はあい、どうしたの?」

リリがひょっこりと物陰から顔をだす。手にはおしゃれな靴が乗っていた。

「これ、どうかな?」

改めて、サンダルを履いた足を見せてみる。リリはにっこり笑顔になって、

「あら、かわいいじゃない。これにする?」

「うーん、あれもいいかなって思って!」

「せっかくだし、いろいろ試してみたら?今後しばらく履き続けるだろうし」

ということで、たっぷり時間をかけて一足のサンダルを選び出した。かかとにかけるタイプだと、歩いている間に靴擦れしちゃうんじゃないかと思って、つっかけて履くタイプにした。念のため、脱げにくいようにしっかり包まれる感じがする一足を選んだ。

「いいですね!すごくお似合いです!」

「ありがとうございます!」

サンダルのお金はリリが出してくれて、靴屋さんを後にした。

「せっかくなら、リリも買ったらよかったのに!」

本当に久しぶりに足の裏を守られてる気がして、とても心強い。サンダルだけれど、こんなにありがたいものだったんだと気づく。

「いいのよ、どうせ履かないんだし。何かあったときのために、ずっと裸足のままでいなきゃ」

「そっか…。ちょっと残念だなあ」

そうして、裸足のままのリリに対してサンダルを履いてるのがちょっと申し訳ない気持ちを感じながら、まちのなかを見て回ることになった。冒険者さんたちが集まる場所や、おいしいレストランなどを見て回る。ほかにも、大聖堂や運河を見て回っていると、

「あら、そのきったない足…。リリじゃない!」

唐突な背後からの声。びっくりしてふりむくと、小さな女の子が立っていた。見た目はリリと同じくらい。知り合い、なのかな…?


つづく

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