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肉体関係を持っていた“元”幼馴染と関係を取り戻す  作者: 皐月陽龍
二章過去のトラウマを乗り越えるためには
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第95話 秘策と吉報

 想像していた内容と違ったのか、水美が間の抜けた声を上げた。火凛も驚いた顔をしている。



 ……二人の驚く理由はそれぞれ異なっているようだが。


 そこで、二人が納得できるように頭の中身を整理し……俺は口を開いた。


「まず……そうだな。火凛が悪夢を見るようになった。理由として、目を瞑ると襲われそうになった光景がフラッシュバックするようになったからだ」


 ……PTSDと言ってもいいのかもしれないが、診断された訳でも無いのでそこは置いておこう。


「しかも……かなり酷い悪夢になる。悲鳴を上げながら起きるというのも珍しくなかった」


 その時の火凛はあの……瑠璃さんと桐島を見た時のようなパニックになる。


「……それで、俺がやってきたのが火凛を無理やり眠らせるという方法だ。詳しい事は割愛するが……まあ、お互いに体の負担が大きいやり方だ。しかも、火凛がそれに慣れれば慣れるほど時間がかかってしまい、お互いに負担が大きくなる。何より……」


 ……子供ができる可能性がより高まってしまう。


「まあ、一つ問題があってな。それをどうにかしたかった。それで思いついたのが……」


 火凛と水美を見る。


「楽しい事で全て上書きする。火凛が寝る本当に直前まで楽しい話をして、リラックスさせながらそのまま眠らせる。という事だ。火凛も普通に眠くはなるからな」


 火凛が寝る直前……本当にギリギリまで意識を水美と俺に持っていかせる。桐島の顔など脳裏に過ぎらないほどまでに、だ。


「で、でも、それって別に兄さんでも「俺じゃ無理だ」」


 思わず水美の言葉に被せてしまった。水美は口を噤んだ。


「……悪い。だがな、俺だとどうしても……火凛が求めてしまうんだ」


 俺の言葉に火凛があっと声を出して……頬を赤らめた。


「そ、そっか……」

「ああ。だから、水美と俺で火凛をリラックスさせたいと考えている。」

「で、でも……水音、大丈夫なのかな?」


 火凛が不安そうに言う。もちろんその気持ちも分かる。



 だが、

「大丈夫だ。今の水美と火凛なら」



 ……二人は、俺の言葉に迷う事無く頷いた。


「ん。水音が言うなら信じる」

「僕も……頑張る? 別に頑張る訳じゃないから良いのかな? 姉さんと夜までお喋りって楽しそうだし」

 理由すら尋ねてこない二人に、信頼されてるんだなと思いながら苦笑した。


「……それと、夜にすぐ深く眠るには『激しい運動』をして疲れておかないといけない」

 火凛が俺の言葉に頬を赤らめながら頷いた。水美はきょとんとしている。



「遠足とか疲れた日の夜って目を瞑って少ししたら朝になった、とかあるだろ?」

「うん。それをやるんだよね?」

「ああ。本当なら外でするべきなんだが……まあ、火凛は外に出られないから仕方ない。……水美。朝起きてご飯を食べてから昼まで。それと、昼過ぎから夕方まではこの部屋に入らないようにな。それと、リビングにもなるべく居ないで欲しい……軋むらしいから」

「え? ……あ、うん……分かった」


 水美の顔が赤くなった。……セクハラしているみたいで嫌だな。……いや、セクハラなのか。


「……なんかすまん、水美」

「う、ううん! 二人が仲良くて僕も嬉しいから!」


 顔は赤いが、水美はショックを受けた様子は無い。……だが、強がっているだけなのかもしれない。後で母さんに聞いておこう。


「で、でも、姉さんとお喋りかあ……今まで話せてない事いっぱいあったから楽しみだなあ!」

「ふふ。私もちょっと……ううん。結構楽しみ。水音も一緒なんだよね?」

「ああ。もちろんだ。念の為俺が居た方が良い、とも思っているが俺も楽しみなんだ。それと、俺も居る方が火凛がリラックス出来るはずだと思う」

「ん。良かった。……もちろん水美は信じてるし、楽しいはずだけど……いざとなった時に迷惑を掛けそうで怖いから」


 火凛がそう言えば、水美がムッとした。それを見た火凛がわたわたと手を振る。


「いや、違うの。そうじゃなくてね? ……ほら、もし私が水美に襲いかかったりしたら大変じゃない? 私力も強いし」

「あ……そっか」


 ……水美は頬を赤くした。というかさっきからずっと赤いが。


 しかし、そんな考えはすぐに吹き飛んでしまった。


「で、でも……僕、姉さんになら……」

「「!?」」

「あ、いや! 違うからね! 兄さん! 僕は兄さんと姉さん一筋ってだけだから!」

「いや、それは二筋じゃないか。……まあ、それは置いておこう」


 何となく予感が確信めいたものへと変わって来ているがまあ大丈夫だろう。


 ……大丈夫なのだろうか。一度ちゃんと話し合った方が良いのだろうか。




 と、その時だ。火凛の電話が鳴った。火凛がビクリと震えた。


「俺が見るか?」

「…………ん。お願い」


 水美が火凛の手を握ったのを見届けて、俺はベッドに置かれていたスマホを見た。




「……ああ。そうか。そういえば言っていたな」

 俺はスマホを持って戻る。


「ほら、火凛。火凛のお父さんからだぞ」


 そう言えば、火凛の顔はパッと輝いたのだった。




 ◆◆◆


 お父さんからの電話だと聞いて、私は嬉しくなった。


 スマホを受け取って電話を取る。


「もしもし、お父さん。私だよ」

『火凛かい? 良かった、出てくれて……伊吹……水音君のお父さんの知り合いの人が来て話は聞いたよ』

「良かった……あ、お父さんのスマホにGPSが付いてたって話は?」

『大丈夫だよ。機種変更してきたから。今は電話番号だけ移したスマホで電話を掛けてるんだ。それと、スマホに付いてたGPSは精度が悪くて大まかな位置しか発見出来ないらしい。伊吹の知り合いの人がその辺詳しくてね。そのスマホはしばらくの間伊吹の知り合いの人に預かってもらう予定だよ。……家に戻っているのがバレたら面倒だからね』


 用意周到だ。さすがお父さん。


『それより、火凛の事だ。水音君はそばに居るかい?』

「あ、居るよ。水美も居るけど……水音に代わろっか?」

『……そうだね。ちょっとだけ良いかな?』


 水音へスマホを渡す。水音は頷き、少しだけ緊張しながら耳に当てた。


「……代わりました。水音です」


 そうして水音が二、三回ほど会話をする。その間水音は相槌しかしていなかった。



「はい……へ? い、いや、ですが」


 ……だけど、水音がいきなり困惑したような声を出した。


「で、でも……いや、はい。分かりました。ですが、大丈夫です。俺も水美も付いていますから。……それでは、はい。了解です。火凛に戻します」


 そう言って水音はスマホを返す。あとで何を言ったのか聞いておこう。


「もしもし、お父さん?」

『ああ、火凛。もう少しだけ時間を貰っても良いかな?』

「ん、もちろん」


 電話の奥から硬い声が聞こえた。


『……まず最初に。すまないけど、帰るのが少しだけ遅れそうだ。……大切なプロジェクトを全部無視して出てきたからね。新幹線と空港は会社の人が抑えているんだ……端的に言えば追われている』

「……え? それって大丈夫なの?」

 思わずそう尋ね返してしまった、……でも、プロジェクトから逃げ出したって……


『大丈夫だよ。今は火凛の方が大事だし、そもそも出張してきた人一人に全部押し付ける会社の方が悪い。必要な書類なんかは置いてきたし、まだプロジェクト開始前だったしね。そんなに迷惑にならないはずだけど……かなり面倒な案件だったから。捕まったら厄介だから隣の県まで行くから……それにちょっと寄らなきゃ行けない所があるから。多分、二、三日近くかかると思う。警察を呼ぶ手もあるけど、もっと時間がかかりそうだし』


 ……お父さんはかなりグレーな仕事場に居たらしい。

 私のために頑張ってくれていたんだと後ろめたい気持ちになるけど、どうにかこちらに来れそうで安心した。


「そっ……か、うん、大丈夫。水音達が居るから」

『なるべく早く帰れるよう私も頑張るよ。……それまでは水音君達を頼って欲しい』

「……ん。もういっぱい頼ってるよ」

『そっか。良かった。なるべく電話はするようにするけど……夕ご飯を食べた後とかは空いてるかい?』

「ん。ちょっとなら出来るはず」

『分かった。食べ終わったら連絡を入れて欲しい……っと、こっちも忙しくなりそうだ。この辺で切っておくね。それじゃ、また夜でね』

「ん、分かった。気をつけてね、お父さん」

『ああ。火凛も気をつけて』


 電話を切る。長く、深く息を吐いた。今までの緊張が解かれていく。


「良かったな、火凛」

「……ん。良かった」

 水音が手を広げてくれたので、そこにもたれかかる。


 水音の体温が肌に感じられる。……布越しだけど、それでも暖かい。


 言葉にしにくいけど、ほんのり甘く爽やかな匂いが鼻をくすぐった。


 そして……背中からも暖かいものに包まれた。


「えへへ……僕もぎゅー!」

「……ふふ」


 水美も後ろから抱きついて来ていた。それと同時に……私はなぜか、とても嬉しくなった。


 水音が居て、水美も居る。それが肌身で感じられて……心の底から安心するような。


「火凛……」

「どうしたの……? 水音」


 水音はすごく驚いた顔をしていた。そして……水美ごと、強く抱きしめられた。水音の堅い胸板と、水美ちゃんの……大きくは無いけど、柔らかい胸に押しつぶされる。


「えへへ……ちょっとだけ苦しいけど、幸せだよ、僕」

「……ん。私も」

 私がそう言えば、水音が微笑んで……ホッと、安心したように息をついたのだった。


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