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肉体関係を持っていた“元”幼馴染と関係を取り戻す  作者: 皐月陽龍
二章過去のトラウマを乗り越えるためには
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第92話 繋がり

「ふふ。火凛は将来いいお嫁さんになるわね」

「そうかな? お母さんみたいになれるかな?」

「ええ。なれるわ、きっと」


 ――夢だ、ってすぐに分かった。だけど、どこか見覚えがある。いつの記憶だろう……



 ああ、そうだ。水音と仲直りして、ちょっとしてからの事だ。水音が晩御飯食べに来るからって、お母さんとご飯を作ってたんだ。


 あの時の記憶がそのまま蘇ってくる。確か、この後は……


「火凛。水音君、好き?」

 お母さんが優しく微笑みかけてくれた。


「……ん」


 夢のはずなのに、私の頬が熱を帯びているように思える。


「ふふ。良かったわね。ちゃんと仲直り出来て」

「……本当に良かった」


 ……うん。そうだ。水音は後悔してるみたいだけど、私は水音と仲直りが出来たならそれで良かった。身勝手だと分かっているけど。


 それにしても……どうして、こんなに心が踊っているんだろう。


 いや、分かってる。分かっていないといけない、


 私は夢の中で、お母さんとまた話せているのが嬉しいのだ。


 ダメだ。こんなのただの夢で、すぐに終わってしまう一時的なものなのに。




 でも、少し……あと少しだけで良いから


 ピンポン


 軽快なチャイムの音が鳴った。


「ほら、水音君来たわよ。ここは私が見ておくから行ってきなさい」

「ん!」


 お母さんの言葉に頷いて、私は玄関へと駆けた。そして、ドアノブに手をかけた瞬間だ。



 ゾワリ、と背筋に嫌なものが走った。


「火凛ー? どうかしたのー?」

「……な、なんでもない! 今開けるね」


 気のせいだ。だって、この後は水音がきて皆でご飯を食べるんだから。


 ドアノブを捻り、扉を開く。




 しかし、そこに居たのは水音ではな――



「俺はここに居るぞ、火凛」


「ぅ……あ、水音?」

「ああ、俺だ。俺はずっとここに居る」




 目が、覚めていた。どこからが夢で、どこからが現実なんだろう。




 違う。お母さんはもう居なくて――


「火凛。もう一度するぞ」

「……え、みな……ひゃん」



 私はまだ裸だった。水音の指が優しく私の体を揉みほぐした。


 ……ずっと、長期間の間水音に弄られているからか、私の反応は過敏になっている。


 胸を触られる度に仰け反ってしまうし、先っぽをいじくられると甘い声が漏れてしまう。


「……ああ、そうだ。下には俺の母さんがいるからな」

「……ぇ?」


 思わず、自分の耳を疑った。


 次の瞬間、ゾクゾクとした快楽が脳を染め上げていった。


 ぐちゅりと、水音が下を弄ってきた。


「ぅ……やぁ」

「まあ、声が下に聞こえないのは検証済みだからな。遠慮なく声は出してくれ」

「ん……んぅ……」


 そうは言っても、私は水音の胸に顔を埋めてしまう。



 そうしてそのまま、私は夢を全て忘れるまで水音とするのだった。

 ◆◆◆


 水音が私の体を優しく拭いてくれた。


「……すまなかったな、火凛」


 意地悪して来たことを謝っているのかと思った。でも、顔を見ればその事じゃないってすぐに気づいた。


 ……私が眠る前の事だ。()()()はよく覚えている。


「謝ったら怒るよ。水音は私を助けるために言ってくれたんだから。…………それと、分かってると思うけど、私のも頭が混乱して言っただけだから。誤解しないでよね」


 ……私は水音のプロポーズを断ったのだ、言い方はどうあれ、その事実に変わりはない。


 後悔はしてない。でも、水音がショックを受けてたらどうしよう? 私が水音の事が嫌いなんだって思われてたらどうしよう?


 そんな思いがあった。


 だけど、水音は私を優しく抱きしめてくれた。


「……ああ、分かってるよ。ありがとな」

「ん」


 ……良かった。大丈夫そうだ。


 と、そこで私はとある事を思い出した。


「そういえば、水音のお母さんが居るって言ってたけど……」

「ああ。呼んだ。……今回は火凛のお父さんが居ないからな。母さんに助けを求めた」

「……そっか」



 これで安心。そのはずなのに、心はザワザワしている。




 あの時と同じ。私は成長していないんじゃないか。


 思わず自分の腕を力強く掴みそうになった。けど、水音に止められた。



 そして、力強く抱きしめられた。それはもう、今までにないぐらい。



 痛さすら覚えるそれは、今の私には非常に心地よかった。


「痛みが無いと耐えられなくなったら言え。俺がいくらでも抱きしめる。……自分で自分を傷つけるような寂しい事はするな」

「……ぁ」

「あ、悪い。苦しすぎたか」

「……ううん。もっと……もっとして」


 私が力強く抱きしめたら、水音もその分力強く抱きしめてくれた。



 そうして五分ぐらい抱きしめられた後、私は水音の背中を叩いた。


「……もう、大丈夫」

「ああ、分かった」


 水音が離してくれた。そして、水音がニコリと微笑みかけてくれる。


「……それと、火凛。一つ報告しないといけない事がある」


 水音が改まって私を見た。私は首を傾げてしまったが……私も水音を見返した。


「母さんに全て話した」


「……え?」


 一瞬、水音が何を言っているのか意味が分からなかった。


「……ぜん、ぶ?」

「ああ。全部。俺と火凛が本当は付き合っていない事も……肉体関係を持っている事も。そして、細部まででは無いが去年、火凛が病んだ時にどう対応したのか、など」


 頭の中が真っ白になった。


「……ぅ、ぁ……ごめ、ごめんなさ「勘違いをするな、火凛」」


 私は顔を掴まれて無理やり目を合わせられた。


「俺は母さんに殴られてもいないし怒られてもいない……それどころか、褒められたぐらいだ」

「……ぇ?」


 水音は私へ優しく微笑みながらそう言った。


「…………『自分の息子が大好きな女の子を助けたんだ。誇りに思わなくてどうする』みたいな事をな」




 その言葉を理解した時、私は顔が一気に熱くなった。


「ぅ……ぁ。き、急にそんな……」

「……二度は言わないからな。それで、とにかく怒られる事は無かった。……あと、今回子供は絶対作らない事もな」

「…………そっ、か。そうだったんだ」


 現金だけど、嬉しくて頬が緩んでしまう。そんな顔を見られたくなくて――ちょっとだけ見られたかったけど、頬を手で掴んで無理やり直した。


「それと、夕飯も作ってくれていてな。火凛の顔色が悪くなり始めたらすぐに起こそうと思って来た」

「だから……あれ、どんな夢見てたんだっけ」


 思い出そうとしても、どんな夢なのか思い出せなくなっていた。ただ、楽しかった夢から――怖い夢に変わろうとしていたような。


「それなら俺の目論見は成功したって事だな」

「……ん」


 水音が私を抱き寄せ、頭を撫でてくれた。


「よし、それじゃ下行くぞ。母さんが待ってるはずだ」

「……ん!」


 水音にどうにか笑顔を返すと、笑ってくれた。



 ◆◆◆


「もしもし、お父さん?」


『どうしたんだ? お母さん、電話なんて珍しいじゃないか。……寂しくなったのか?』


 電話の先で真剣にそう言うお父さんの姿を考えてしまって思わずため息を吐いた。


「はぁ……今はそんな場合じゃなくって。水音と火凛ちゃんが助けを求めてきたの」



『……なんだって?』


 お父さんの驚いた声を聞きながら私は続ける。


「瑠璃が来たらしいのよ。桐島を連れてね。それで、水音が殴られそうになって、それを火凛ちゃんがドア越しに見てね。今火凛ちゃんが不安定になって、水音がどうにかしようと頑張ってるところ」

『……あの野郎共。よくぬけぬけと姿を見せたな。しかも水音を殴ろうとした?』


 ……まあ、予想はしてた。かなりお父さんは怒っている。


 私もそうなんだけど。


「ええ。それで……水音が『母さん達にお願いがあるんだ。助けてくれ』って、もう、辛そうな声で言って……」


 あの電話が来た時の衝撃は忘れられない。今でも思い出すだけで心がちぎれるんじゃないかってぐらい痛くなる。


『……分かった。俺がどうにかする』

「ちょっと待って、お父さん。聞いておきたいんだけど、お父さんの友人に警察の人が居たわよね? ……火凛ちゃん、今本当に危ない状態で、話を聞くのも難しい状態なの。どうにか出来ないかしら?」

『……』


 お父さんは何かを考え込んでいるようだった。私はそれをじっと待つ。


 何か、問題があるらしい。


『……お母さん。今まで黙っていて悪かったんだがな。言わなければいけない事がある』

「水音といい……本当に親子ね。いいえ、何でもないわ。それで、言わなきゃいけないのって?」




『桐島は暴力団との繋がりがある』



 私はまた頭を抱える事となるのだった。



 ◆◆◆


「って事があったのよ。……水音達には知っておいて欲しくてね」

「……なるほどな。道理で喧嘩慣れしていた訳だ」

「そう……だったんですか」


 不安そうにしている火凛の頭を優しく撫でる。


「それで、お父さんと話してさ。聞きたい事があって。水音、最近この辺でおかしな事とか無かった?」

「おかしな事……か。そんな事……」



 その時、一つの事を思い出した。


 火凛と水美と共に火凛の家に来た時だ。火凛のお父さんを迎えに来た時。



「おかしな車が居た。この辺では見た事のない車で……中には男が乗っていた」

「いつぐらいの事?」

「大体十日前。先々週の日曜日だ」


 その事を火凛も思い出したからか、頷いていた。


「……なるほどね。車の種類とかナンバーは分かったりする?」

「……すまない。車の種類には疎くて覚えていない」

「私もです」

 マークでもあれば覚えていれば良かったが……あまりじろじろ見ていると不審に思われそうなので見なかった。今頃ああすれば良かったと考えても遅すぎる。


 数少ない情報を頭の中から絞り出す。

「……だが、高そうな車だとは思った」

「ん。そうだった。真っ白で綺麗な車で、この辺では見なさそうな車」


 そう言えば、母さんがスマホで色々調べ始めた。


 そして、スマホを見せてきた。


「それってこんな感じの?」

「ああ、そんな感じだった気がする」

「……あ、このマークが付いてた車だったよ、確か」


 火凛と俺の言葉を聞いた母さんが少し難しそうな顔をした。


「やっぱりお父さんの言ってた通りだったのね」

「……母さん?」


 母さんはため息を吐いて、俺と火凛を見た。


「お父さんにもう一度電話してくるから五分だけ待っててね。大丈夫、前向きな話だから」


 そう言って母さんは席を外した。俺は火凛の頭を撫でた。


「母さんは俺達に嘘はつかない。母さんが大丈夫って言う事は本当に大丈夫だから心配するな」

「……ん」


 火凛の頭を撫でて、また母さんが帰って来るのを待った。


 ◆◆◆


『やはり……か』

「うん。やっぱり桐島には仲間が居たみたいだよ」

『……あの手の輩はかなり厄介だ。通報して終わり、と言う事にはならないだろう。……昔知人が警察に通報した後に危ない目に遭った。逆恨みでな。同じように水音達が憎まれて危ない目に遭いかねない』


 お父さんの言葉に思わず口を閉ざしてしまう。


『だから、この件は俺がどうにかしよう。俺の知り合いにその組の幹部がいる』

「……それ、初耳なんだけど」

『別にそいつは悪い奴ではない。話の通じる気の良い奴だ。それに、こういう時に役立つと思ってな。これから連絡を取ってみようと思う』

「……無理はしないでよ」

『水音達のためなら無理も無茶もする。だが、大丈夫だ。まずはそこで警察に通報する旨を相談するさ。あの手の者はカタギに手を出す事を一番許さない。その組合から追放されればそのまま警察へ通報。それか……そのまま処分されるか』


 思わず絶句した。


「……処分?」

『まあ、人伝に聞いた話だから信憑性は無いが。なるべく法で裁けるよう働きかけるつもりだ。……その方が拓斗も安心するだろうしな』

「そう、だね」


 もし瑠璃が……巻き込まれて処分されれば、拓斗は悲しむだろう。許せない事をしてるけど、でも……拓斗が一度は愛した女性なのだ。


『そういえば拓斗と連絡は取れたか?』

「それがもう、全然。何回掛けても繋がらないし、会社の方に掛けても『社員のプライバシーを守るため、お教えする事は出来ません。ご了承ください』ってしか言わないのよ」

『……その会社は大丈夫なのか?』

「分かんない、ってのが正直な所ね。働けば働くほどお金が貰えるらしいけど……」


 火凛ちゃんの学費を貯めるからっていくら何でも頑張りすぎだとお父さんと何度も説得しようとした。だけど、いつも言うのだ。


『もし逆の立場ならやらないのかい?』って。


 何も返せなかった。確かに私もお父さんも……水音や水美の学費を貯めるために頑張るはずだ。


『あんにゃろう……帰ってきたら説教の時間を設けてやる』

「そっちの方もどうにかしたいんだけど……私は生憎、九州の方に知人が居ない。お父さんは?」


 お父さんはしばらく考え込んだ後、口を開いた。


『居ない訳じゃ無い。知り合いの知り合い程度だが……そっちも掛け合ってみよう』

「ありがとう、お父さん」

『なに、水音と火凛ちゃんの為だ。……ああ、俺もそっちに行った方が良いか?』

「いや、家で水美を留守番させているから家に帰って欲しいわね。……明日からはしばらくこっちに帰って来てもらうかもしれないけど」

『了解した。水美に説明は?』

「……まだね。今から電話するつもり」


 優先順位の関係で、水美にはまだ説明していなかった。

 ショックを受けるだろう、って尻込みしているのもある。あの子、水音と火凛ちゃんが大好きだから。


 ……明日、話すのかどうかは分からないけど、もし二人が付き合っていなくて……更に肉体関係を持っている事を知れば強いショックを受けるはず。そうなったら水音達のフォローはしないと。


『……俺から説明するか?』

 そんな私の雰囲気を感じ取ったのか、お父さんが言った。見えていないと分かっているのに思わず首を横に振ってしまう。


「いいえ。私から説明するわ。……私は水音から詳しく話を聞いてるから」

『ああ。分かった。それじゃ俺は今日は仕事は早退して家に帰ろう。……有給も溜まってたから数日は休んで色々やってみる』

「分かったわ。ありがとう」

『お礼を言うのは俺の方だ。水音達の助けになってくれてありがとな。それじゃ、また後で連絡する』




 お父さんはそう言って電話を切った。私は次に水美へ電話を掛けたのだった。




 ◆◆◆


「……母さん。どうだった?」

「全然大丈夫よ。お父さんの顔が広くてね。そっちの人でマトモな人と知り合いだって。カチコミに……はさすがに行かないだろうけど、連絡を取ってみるって」


 母さんの言葉にホッとする。


「後はお母さん達に任せてゆっくり休んで、火凛ちゃん。火凛ちゃんのお父さんにも連絡の目処が立ってきたから」

「……本当、ですか?」

「ああ。多分近いうちに電話が掛かってくるはずだよ」


 火凛もホッとしていた。……だが、その眼からは怯えが消えていない。


 まだ、時間は掛かりそうだ。今は大丈夫のように見えるが、一人にしてはいけない。


 あの頃もそうだったから。


「もしチャイムなんかが鳴ったとしても私が出るようにするよ。頼んでいたものとかあったりする?」

「……無かったとは思うが」

「ん。私も頼んでない」


 それを聞いて母さんは頷く。


「なら問題ないね。それじゃ、晩御飯にしよっか」



 その日の夜は、体の芯から……心の底からホッとするような、暖かいスープだった。

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