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肉体関係を持っていた“元”幼馴染と関係を取り戻す  作者: 皐月陽龍
二章過去のトラウマを乗り越えるためには
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第91話 最低最悪のプロポーズ

遅くなって申し訳ないです

 ……水音の言葉が、とても甘美に聞こえた。


 その言葉は優しく頭に染み込んでいき……心が震えてしまう。嬉しいって、心も頭も……体も言ってる。


 だけど、それ以上に……



 腹が立った。


「……みな、と」


 声を絞り出す。震えようが、詰まろうが構わない。


「わ、私を……助ける、ために子供を作るって、事?」

「…………ああ」


 私は……水音の顔を両手で包んだ。血の気が引いて、真っ白な手だと今になって気づく。


「じ、じぶんが、な、何をい、言ってるのか、分かっ、てる?」

「………………ああ。責任は取るつもりだ」


 その言葉に目が滲んだ。その瞳に映った水音の顔は……酷く真剣な表情で。


「そん、そんなの……さいっ、てい。さい、あくの……プロポーズだよ」


 ごつんと額をぶつけた。


 水音はじっと私を見ている。


「こど、もはね。しあ、しあわせになった、ふたりがつく、つくるものだよ」

 自然と涙が溢れてきた。

「い、いまの……わ、私たちは、どう、かな。しあわせに、見える?」

「……いや、見えない」


 涙が流れて、視界がぼやける。でも水音から絶対に目は離さない。


「こども、を、引き合いにし、して、わ、私を不安にさせな、いのは、だめ。やっ、ちゃいけ、いけないこと」


 もう一度、こつんと頭をぶつけた。もちろんこんな事を言った水音に腹は立った。


「でも、みなとに、そういわ、いわせてしまったのはわたしだ、だから」



 だけど、それ以上に自分が許せなかった。



 ……もう、あの男の不安は消えていた。……今だけなんだろうけど。


「……水音。じ、自分から、悪者になろ、なろうとしないで」


 そう言えば、水音は目を見開いた。




 ――試されていた。


 もし、私が頷いていたら……水音は迷いなく中に出すだろう。……一度ではなく、何度も。何日かけてでも。子供が出来るまで。



 そうなれば水音は色んな人に怒られる。……水音のお父さんとお母さんにも、私のお父さんにも。


 それこそ……学校も退学になるはずだ。


 そんなの、私が幸せになる訳が無い……でも、今の私を救えるなら水音は……迷わない。悪者になってでも、私を救う。



 あの頃の私なら……もしかしたら頷いたかもしれない。いや、頷いたはずだ。



 だけど――私はもうあの頃の私じゃない。




「わ、私は……しん、じるから。信じる、から!」


 水音は私の傍から離れない。今、ここで再確認した。出来た。


「……だから、()()、その、返事は、断ります」


 水音は私の言葉にまた驚いた後……優しく微笑んだ。


「ああ、分かった」


 そう言って水音は避妊具の袋を開けた。


 ……まだ、多分しばらくの間は眠れないから。水音に負担を掛けないよう、いっぱいイかないと。


「そんな不安そうな顔をするな。火凛」

 水音はそんな私を押し倒し……頭を撫でてきた。


「あれから成長したのは俺だって同じなんだからな」


 そう言って微笑む水音は……



 とてもかっこよかった。




 ◆◆◆


「……三回、か。前よりは全然良い」


 意識を失い……色々な液体でべたついた肌を晒しながらベッドで眠る……否。気絶と言った方が正しいか。火凛を見る。



「……成長、したんだな」

 まだあれから一年も経っていない。……あの頃の火凛と比べれば、かなり変わった。


 体ももちろんだが……特に心だ。


 あの頃の火凛なら、頷いていただろう。快く。


 かなり乱暴な質問だとは自分でも思う。だが、今の火凛の心を繋げ止めるには必要なものだった。


 それに、今回は時期が悪すぎた。


 火凛の女の子の日が終わって大体五日。


 ネットの聞きかじりの知識でしか無いが、今から子供が生まれやすい時期になる。……もし火凛の状態が長引けば、危険日に当たってしまうだろう。


 そうなれば、もうどうしようもなかった。今、火凛に聞くしか方法が無かったのだ。



 避妊はする。絶対に。……だが、もし他に方法があれば――


 泥のように眠る火凛の頭を撫でた。



「俺が――俺達が絶対にお前を守るからな」


 火凛へ、そして自分へそう誓って俺はスマホを取り出したのだった。




 ◆◆◆


「来たよ、水音」

「……ありがとう、母さん。随分早かったな」


 電話をしてから十分も経たずに母さんが来た。


「そりゃ息子からのSOSだからね。……しかも、初めての救援サインだもの。それで、水音。何があったの? ……火凛ちゃんの姿が見えないけど」

「とりあえず中で話す。……来てくれ」


 リビングへと行き、母さんと向き合って座る。


「どこから話すべきか……まず最初に……瑠璃さんが来た」

「……嘘、でしょ?」


 母さんは目を見開いた。


「……しかもあの男も連れて、だ」

「あの男……ってまさか桐島も!? って……水音、あんたは大丈夫だったの!?」


 母さんは俺の体をぺたぺたと触ってきた。


「俺は大丈夫だ。……ちょっと荒事になりかけたが対処した」

「あんたね……無茶はしないでよ」

「火凛が助かるなら無理無茶は承知だ。……だが、怪我をしたら火凛が悲しむからしない」

「わかってるなら良いけど……お母さん達も悲しむからね?」

「……ああ、そうだな」


 母さんの言葉に頷く。……そうだ。なるべく母さん達に心配も掛けたくない。

 しかし、母さんはため息を吐いた。


「……まったく、本当に火凛ちゃんが好きなんだから」

「……否定はしない」

「ま、それも今更よね。それで、火凛ちゃんは? ……一緒にいたの?」


 母さんの言葉に首を振る。


「火凛は偶然上の階に居たんだが……その後、ドアスコープから二人の姿を確認した。それで、俺が殴られる所まで見たらしい」

「……ツッコミたい所はあるけど今は置いておくよ。それで……あの頃みたいに?」


「まだ、あと一つ……厄介な事があってな」

 そう言えば、母さんが眉を顰めた。


「あの男が、最後に一言。『絶対に逃がさない』 と。叫んだそれを火凛が聞いて――」

 それ以上言わなくても母さんは理解してくれたようだ。母さんは頭を抱えた。

「あの、男は……というか、瑠璃もなんであんな男に……」


 母さんはぐっと拳を握る。その気持ちは非常に分かる。

「……って事は二人は火凛を探しに?」

「ああ。……三十分で良いから火凛を貸せ、と。絶対に火凛は会わせなかったが」

「なるほど……ねぇ。それで、もう火凛ちゃんは大丈夫なのかい?」



 母さんの言葉に生唾を飲み込む。



「……母さん。一つ、話があるんだ。大切な」



 母さんは腕を組み……俺をじっと見た。


「良いよ。何でも話して。お母さんはいつだって水音と火凛ちゃんの味方だから」


 母さんの言葉に……俺は頷き、口を開いた。


「この話は本当なら……俺と火凛の関係が変わった時に言うつもりだった。良い意味でも……悪い意味でも」


 そう前置いて、俺は痛いほどに高鳴る心臓を握るように手を置いた。














「俺は、火凛と交際していない。……そして、俺は火凛と肉体関係を持っている」


 その言葉に母さんは……少しだけ目を丸くしていた。だが、それだけだった。


「……怒ったり、何かしら反応を見せたりしないのか?」

「…………付き合ってない、ってのは何となく気づいてたよ。……だけど、肉体関係を持っていたってのは正直お母さんも驚いた。あと、水音は一つ勘違いしてるけどね。親っていうのは子供の話を最後まで聞いて、全部受け止めてからアドバイスをするもんだよ。頭ごなしに否定するほど硬い頭はしてないしね」


 随分と母さんらしい言葉だ。



 だからこそ……俺は母さんに話そうと思った。


「……切っ掛けは、俺と火凛が疎遠になった時だ――」


 そうして俺は話した。


 どうして疎遠になったのか。火凛に話しかけても次第に無視をされるようになった事。


 そして、もう話しかけないでと言われた事。


 火凛がその言葉をずっと後悔していた事。


 ……火凛が友人だった人から『体で誘えば男は落ちる』と言われ……俺は見事に引っかかってしまった事。


 それからずっと、肉体関係を結んでいた事まで。



「……なるほど、ね」

「とりあえずここまでが母さんに知っておいて欲しかった事だ。……これからあの時。火凛の両親が離婚した後の話になるが」


 遠回しに言いたい事があるなら言って欲しいと言ったのだが……やはり母さんは俺の気持ちに気づいたらしい。


「まず最初に言わせて。私は水音も火凛ちゃんも責めないよ。……火凛ちゃんは良い子だし、水音もちゃんとその事は後悔して、反省してるみたいだしね。……世の中では不純異性交友、って言われるけど、これまでの事をちゃんと聞いてたら避妊はしてたんでしょ?」

「……ああ、基本的には」

「なら大丈夫。避妊が失敗するリスクについては……確認しなくても分かるわよね」

「もちろんだ」


 今まで、避妊具が敗れていたり中身が漏れ出す事はなかった。本やネットで調べ……なるべくリスクを抑えようとしてきた結果だ。


「よし、偉いぞ男の子。……まあ、してきたものは仕方が無いし……その関係を今まで続けていた、というのも理由がありそうだし、これからの話でその理由も分かるって事だよね?」

「……ああ」


 母さんの言葉に頷く。


「火凛があの男……桐島に襲われそうになったって話は聞いてるよな?」

「もちろん……水音がギリギリで助けたけど、火凛ちゃんの心に深い傷を負わせたって事も……まさか」

 母さんは言っているうちに何かに気づいたようだった。



 俺は頷く。


「ああ。俺は火凛を慰めるために何度もした。……眠れないと辛そうにしている火凛を眠らせるために、何度も避妊をせずにした」


 母さんは絶句した。それもそうだろう。母さんは俺へ近づいてくる。

 俺は殴られるのを覚悟して、ぎゅっと目を閉じてしまった。









 ……だが、衝撃は走らなかった。


「それだけ……酷い状況だったんだね。よく頑張ったよ、水音は」


 代わりに頭が撫でられた。


「なん……で」

「確かに、世間一般的に見れば水音は悪い事をしている。でもね。私はそうは思わない」


 母さんが、まっすぐ俺を見た。


「水音は優しくて賢い子だ。……そして、誰よりも火凛ちゃんの事を考えている。そんな子が子供が出来るかどうかの事までするなんて……それだけ、火凛ちゃんが危ない状態だったって事しか考えられない。……あの時の事はなるべく聞かないようにしてたけど」


 その瞳は労るように俺を見ていた。


「火凛ちゃん、命まで危なかったんじゃないかい?」

「……ああ、そうだ」

「それで、何をしても立ち直る気配が無かった?」

「…………ああ。毎日、寝る度に……違うな。寝ようとする度にあの男の顔がフラッシュバックしたらしい。手を繋いでも、抱きしめても、それ以上の事をしても……無理だった。市販の睡眠薬も試したが……今度は夢に出てくると。悪夢に(うな)されて、いつもパニックを起こした」

「……そんなに」


 病院にも行こうか迷った。……だが、一つ決定的な問題があった。


「それと、火凛は外に出られなかった。……家に入る時に襲われそうになったからな。外に出ればまた襲われるんじゃないか、とパニックを起こした。寝てる間に運ぶのも試そうとしたんだが……雰囲気で分かったらしい。悲鳴を上げながら起きた」

「……」


 母さんは絶句していた。


「無理やり連れていく、という手も考えなかった訳では無いが……火凛も力が強くて、怪我をさせるんじゃないかと出来なかった。……また火凛が傷つくのなら、と考えると無理だった」


 火凛のお父さんは親権争いで忙しく……自分では火凛は助けられない。助けてくれ、と俺は頼まれたから。


「それまでも繋がりはあったが、あの事があってからより顕著になった。それからは……ほぼ毎日している。火凛は今でもまだ不安を募らせてパニックになってしまうから。だから、この関係は続いている」



 そして、幾ばくかの時が流れる。母さんは、俺を抱きしめてくれた。


「私は、あんたを……水音を誇りに思うよ。他の誰かが水音を責めたとしても」

「かあ……さん」

「もしそんな奴が居ればこう思えばいい。『それじゃああんたには火凛を救えたのか』って。火凛ちゃんを救えたのは水音だけだ。お母さんには相談して欲しかったけど……事情が事情だし仕方ないと思う。今言ってくれてるのだって、相当勇気を出して言ってくれたって事だもんね」


 視界が滲み始めた。


「……ああ」

「他に方法はあったのかもしれない。だけど、今火凛ちゃんが生きているのは間違いなく水音のお陰だよ。自分の息子が大好きな女の子を助けたんだ。これを誇りに思わなくてなんて思うんだい」


 否定されても仕方ないと思っていた。怒鳴られても仕方ないと思っていた。


 殴られても仕方ないと思われるような事をしたとずっと思っていた。


「……ありがとう、母さん」

「それはこっちのセリフだよ、水音。……随分とたくましく育ってくれて。お母さんは嬉しいよ」



 涙を流したのは……何年ぶりだっただろうか。久しく流していなかった気がする。


 そうして、数分ほどして落ち着いてから。


「……すまな……いや、ありがとう、母さん」

「ふふ。どういたしまして。泣きたいならお母さんかお父さんの胸の中で泣いて良いんだからね」


 そして……母さんは微笑んだ。


「ああ、そうそう。子供は出来なかったのかい? 大丈夫だった?」

「ああ。運良く……と言うべきなのかは分からないが、出来なかった」

「世の中欲しいと思っても出来ない夫婦も居るからねぇ……ま、それは置いておいて。今回も同じ手段を取るのかい?」


 俺は母さんの言葉に首を振る。


「……火凛はもうすぐ危険日だ。話し合ったが……最低最悪のプロポーズだと断られた」

「ふっ……く」

 母さんが吹き出した。思わずじろりと睨んでしまう。


「ふふ……ごめんごめん。まさかあんなイチャイチャしてたのに断られるとは思ってなくて…………それにしても、最低最悪のプロポーズねぇ……大体想像は着くけど」

「……火凛は身近な人が居なくなる事を極端に恐れていた。俺の事も、な。桐島に奪われる……では無いが、俺も居なくなるんじゃないかと危ない状態になっていた。だったら、居なくならない理由を作るかと聞いたらそう返された」

「へぇ……まさか息子の初プロポーズが失敗とはねぇ。でも、断ったんだ。火凛ちゃん」

「ああ。『子供は幸せになった二人が作るものだ』と説教された」


 その言葉に母さんが微笑んだ。


「じゃあちゃんと幸せになってからもう一度言わないとね?」

「………………そうだな」


 よし、と母さんは手を叩いた。


「瑠璃達の事はお母さんとお父さんに任せな。またここに来たらお母さんが対応するから」

「……だが、あの男は母さんでも容赦しないと思うが」


 母さんは俺の頭をくしゃりと撫でた。


「お母さん、こう見えても昔護身術習ってたんだよ。運良く料理の才能はあって、結構妬まれたりしていたからね。料理は筋肉も使うし衰えてはいないよ。何より、水音達を守るためならお母さん頑張れるんだ」


 そう言って母さんが袖を捲りあげた。……本当に筋肉が付いている。


「とりあえずお父さんに話は通しておくからね……ああ、火凛ちゃんと肉体関係を持ってるってのは言わないでおくよ。タイミングが来たら水音から言って」

「ああ、そのつもりだ」

「あと、警察にも話は通しておくけど……火凛ちゃんから話は聞けないわよね」

「……今はやめておいて欲しい。俺ならいくらでも話せるが」


 ……世の中でこうした事件が起きた時にも思うが、全て事細かく話すというのは当事者には酷な話だ。

 それが必要な事だとも理解しているが……


「でも、水音は火凛ちゃんから離れられないものね。……確か、お父さんの知り合いに警察の人も居たはずだから話をしてみるわ」

「……父さんの顔って広いんだな」

「あら? 知らなかった? あの人かなり顔広いわよ。しかも結構お偉いさんなんかとも仲良いし。その食事会が私のお店で……それが馴れ初めだったりもするわ」

「へぇ……そうだったのか」

 初めて聞く話だった。思えば、父さんと母さんの馴れ初めなどは全然聞いてなかった気がする。


「さて、それじゃあ私はお父さんと警察……それと、火凛のお父さんが向かってる会社に電話してくるけど他にして欲しい事とかある?」

「……そうだ。瑠璃さんが火凛のお父さん……拓斗さんの携帯にGPSを付けていた。まず火凛のお父さんに知らせて欲しい」

「……ほんと、瑠璃は何をしてるんだか。でも、分かった。どうにか連絡を取ってみる」


 母さんが頷き、俺は少しホッとした。



 だが、まだ言わなければならない事があった。


「……あと二つ、頼みがあるんだ」

「なに? 何でも言って」


 俺は一度深呼吸し、口を開いた。


「まず一つ目。……火凛が一人で居られるようになるまで学校を休みたい」

「分かったわ」


 あまりにもあっさりと発言が受け入れられ、俺は戸惑った。


 そんな俺を見て母さんはくすりと笑った。


「もし水音に誰もお友達が居なければ考えたかもしれない。でも、水音にはもう奏音ちゃん達が居るでしょ?」

「……ああ、そうだな」

「なら大丈夫。水音の事だから勉強に関しては問題ないし、授業内容はそのお友達から聞けばいいわね」


 ……いや、まあ。確かに問題は無いのだが。まさか、そこまで簡単に話が進むとは思わなかった。


「それで、あと一つっていうのは?」

「ああ……それはだな」


 しかし、こちらは上手くいかないかもしれない。今の話をした後は。


「明日、水美をここに泊まらせて欲しい」

 母さんは、その言葉に首を傾げた。

「どうして?」

「……俺一人じゃ出来ない事がある。水美が来てくれれば……いや、来てくれなければ俺がキツイかもしれない」

「分かったわ」





 しかし、母さんは俺の言葉を聞いて頷いたのだった。


「……良いのか?」

「水音の事は信じてる……というか、自分の息子が信じられなくて親は勤まらないって。水美が火凛ちゃんや水音と三人で眠っても何ともなかったからね。……あの子もブラコンでシスコンだから、助けてって言ったら飛んでくるわよ」


 母さんのその言葉がとても嬉しかった。


「……ありがとう、母さん」

「どういたしまして。他はもう無い?」

「……今の所は。だが、もし水美が来てくれて……上手く事が運べばまた明日言うかもしれない」

「分かったわ。それじゃあ私は電話して……ご飯も作っておくわね。材料はあるかしら?」

「ああ。冷蔵庫にそれなりにある。……ありがとう」


 俺の言葉に母さんはニコリと笑って頷いた。……そして、俺は頭を撫でられた。


「お母さんも嬉しかったよ。水音が全部話してくれて。……それと、ちゃんとお母さんにも頼ってくれてね」


 俺は何も返さず、ただ母さんに頭を撫でられていた。


「大丈夫。瑠璃達の事は全部お母さん達に任せて。もしかしたらちょっとだけ時間は掛かるかもしれないけど、全部解決させるから」

「……ああ。……本当にありがとう」



 そして、最後にもう一度抱きしめられ……母さんは電話をし始めたのだった。

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