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第87話 変化

 授業が終わり、昼休みが始まった。

 今日の昼はどうするべきか。火凛は奏音達と食べるのだろう。来栖達の所へ向かっている。

 なら俺はぼっち飯にでもするべきか。


 ……同じクラスの生徒は多少視線が柔らかくなりつつあったが、それでも仲良く出来ているとは言えない。響も普段は数人の友人と食べているし。


 いや、言えば入れてくれそうではあるのだが。響と彼らの仲を険悪にしたい訳では無い。


 だがな……どうしたものか。火凛の幼馴染としてみっともない真似は出来ない。部室で食べればバレないだろうか。

 そんな事を考えていた時だ。


「水音、一緒に食べよ?」


 火凛にそう声をかけられた。


「火凛? だが……」


 火凛は輝夜達と一緒に居る。……待て、なんで来栖達までここに?


「ん。来栖ちゃん達と話してさ。水音も一緒に食べたら楽しいんじゃないかなって」

「……いや、だが俺がその輪に入る訳には」

「それも今更っしょ」


 俺の言葉を奏音が一言で一蹴した。それに来栖が続ける。

「獅童君には色々お世話になってるしね。それに、輝夜達とは仲良くなってきてるけど、私はあんまり話してないなって思ってさ。私が提案したんだ」

 その言葉に思わず驚く。まさか来栖の提案とは思わなかった。

 ……確かにこの中では来栖とあまり話していない気はするが。


「ん、来栖ちゃんが言わなかったら私が言ってたんだけどね」


 張り合うように火凛が言うと、来栖が苦笑した。


 来栖がニヤリと笑いかけてくる。


「ま、そゆこと。で、こんな可愛い私達のお願いを聞いてくれないのかい?」

「自分で言うな……まあ、そうだな。俺も一人で食べるよりは全然楽しいはずだ。こちらからも頼む」


 そうこちらから言えば、火凛に手を取られた。


「ん♪ じゃあ行こ」


 そうして、俺は火凛へ連れられて普段四人が食べる席へと組み込まれたのだった。


 ……周りからの視線は気にしないよう努力したいと思う。


 ◆◆◆


「……こうして見てたらちゃんと分かってたんだね」

「はい、材料も全部同じで……今日は火凛ちゃんと水音さんどちらが作ったんですか?」


 ……まさか、一緒に作ったなどとは言えない。いや、別に言っても良いのか?


「ん。一緒に作った」

「!?」


 そんな俺の考えを知ってか知らずか、火凛が言って輝夜が驚く。


「……朝、火凛の家で作ってるんだよ」

 丁度今思いついた言い訳を言う。すると、来栖が納得したように頷いた。


「ああ、そういう。早起きして火凛の家に行ってるって事ね」


 ……よし、上手い具合に勘違いしてくれた。


「な、なるほど。びっくりしました。てっきりお、お泊まりしてるのかと」


 輝夜の言葉には曖昧な笑みを返す。


「それにしても美味しそうだね。……ね、なんか交換しない? 折角だし」

「……ああ、別に良いぞ。ならこのだし巻き玉子をやろう」

「っしゃやりぃ! レクの時に食べてからめっちゃ好きだったんだよね」

 ガッツポーズをする奏音に苦笑いをし、だし巻き玉子を弁当箱へ差し出す。


「……もちろん出来は母さんには負けるが、とハードルを下げておこう」


 母さんのと比べられると当然負ける。

「だいじょぶだいじょぶ。水音達のご飯が美味しいのは分かってるし……ほい、私は昨日の残りの春巻きをあげよう。味は保証するよん」


 そう言って奏音は半分に切られた春巻きを俺の弁当箱へ入れた。

 その時ふと、強い視線を感じた。


「じー……」

 輝夜がじっと弁当箱を見ていたのだ。残りのだし巻き玉子をあげようかと思ったが、それより先に火凛が声をかけた。

「ふふ。輝夜ちゃんには私のあげるね」

「良いんですか!? えっと……じゃあ私は…………エビフライあげます!」


 輝夜が手をぷるぷるとさせながらエビフライを突き出した。


「……良いの?」


 きっと輝夜の好物なのだろう。見ていてわかる。しかし、輝夜は首を縦に振った。


「美味しいのには美味しいのを返したいですから!」

「……ふふ。そっか。じゃあおまけもしようかな」


 火凛はだし巻き玉子を一つ、そして唐揚げを一つ輝夜の弁当箱へ入れた。


「……わ、やった!」


 輝夜は子供のように無邪気に喜び、エビフライをひょいと火凛の弁当箱に入れた。

 それを微笑ましく思いながら、俺は来栖を見る。


「なら、来栖にはこれだな」

 俺はミートボールを来栖へ差し出した。


「……良いの?」

「ああ。ちゃんとこれも手作りだぞ……これは火凛が作った物だがな」

「ふふ。でもソースは水音が作ったでしょ?」


 火凛がそう言うと、来栖が迷っていた。


「えっと、良いの?」

「ああ。……もしかして苦手だったりするか?」

「ううん。そんな事は無いよ。ただ、レクリエーションの時に食べたのがかなり美味しかったからさ。良いのかなって」


 その言葉を聞いて、思わず笑ってしまった。


「……さっき奏音にもいったが、母さんの料理は異次元だ。あんまりハードルを上げすぎないでくれ」

「そうは言っても……あ、やっぱ何でもない」


 サンドイッチの事を言おうとしたのだろう。しかし、奏音ならともかくとしてだ。来栖や輝夜まで俺の家へ行ったとなると、俺のクラスでの立場が悪くなると察したのだろう。


「……んー。じゃあどうしようかな。生姜焼き一枚と交換でもいい?」

「ああ。俺はいいが……良いのか?」

「うん。そんなに大きくないし……あ、ご飯の上そのまま置いて良いよ」

「ああ。俺のもご飯の上に置いて大丈夫だ」



 そうして火凛と共に全員と弁当を交換する事が出来た。


 もちろん奏音や来栖から貰った食べ物も美味しく頂いた。女子複数人と上手く会話が出来るのかも不安だったりしたが、その辺は奏音が上手いことまとめてくれた。


 会話も楽しむことが出来て、昼休みを有意義に過ごせたのだった。



 ◆◆◆


 家に帰ってきて二人きりになる。今まで言わないようにしていたが、思わず口を開いてしまった。

「……それにしても、今日のは驚いたぞ」

「ふふ。水音ならちゃんと返してくれるって信じてたから」


 火凛の言葉を嬉しく思いながらもため息を吐く。


 ……高校受験の為に勉強を頑張っていて本当に良かった。特に苦手だったリスニングを克服できて。


「日曜、ね?」

「ああ」


 火凛の髪を耳に掛け、頬をくすぐる。ぷにぷにもちもちしてして触り心地が良い。


「ふふ。くすぐったい」

「……その割には随分嬉しそうだが」

「当たり前でしょ? 水音に触られるのは全部好きだもん」


 思わず俺はピタリとその動きを止めてしまった。火凛の頬に手をやったままで。





 ドクン、と心臓が強く鳴り出した。






 視線が交わる。一歩、踏み出してみた。火凛は退かない。


ドクドク、と心臓の勢いが早くなった。




 もう一歩、踏み出してみる。火凛の体が……胸が俺の体に少し潰される。ふわりと火凛から甘い匂いが漂ってきた。しかし、火凛は下がったり避ける動作はしない。







 そして……火凛の心臓の音が聞こえてきた。俺と同じでドクドクと強く早く脈打っている。







 火凛の顔がすぐ目の前にある。瞳は潤み、頬は赤く上気していた。







 火凛の甘い吐息が俺の吐息と交わった。それほどまでに近い距離だ。







 俺はそのまま――

















 火凛を抱きしめた。





「……ふふ」

 火凛の笑い声が耳にかかる。


「……驚かせて悪かったとは思う」

「いいんだよ? ……嬉しかったから。一瞬でも水音から理性を奪えるなんて初めてだったし」


 火凛の言葉にまた抱きしめる力が強くしてしまった。


「……悪い。我慢が効かない。このまましても良いか?」

「ん、もちろん。……さっきのでもう準備万端になっちゃったから」


 火凛が俺の右手を握り、誘導してきた。


 スカートの奥からぬちゅりと卑猥な音が耳に届く。確かに火凛の言う通りだった。


「ふふ。久しぶりじゃない? 立ちながらするのって」

「……そうだな」


 火凛がそのまま俺のモノを手で擦ってきた。


「ん。水音も準備万端。……いいよ、このままで。替えはあるから。それに、着けながらの方が興奮するでしょ?」


 そのまま火凛は器用に俺のズボンのポケットから銀色の物を取り出して脱がし……そのまま致したのだった。


 ……久しぶりに俺が火凛を責めた日となった。

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