第85話 父娘水入らず
遅れて申し訳ないです
「ただいま、火凛」
「おかえり、お父さん」
パタパタとスリッパの音を立てながら玄関へ行くと、スーツを着けたお父さんが帰ってきた。
「すまないね、ご飯まで作ってくれたみたいで。とても良い匂いがしてるよ」
「ふふ。張り切っていっぱい作ったんだ。いっぱい食べてね? あ、でもまだ時間かかるからお風呂先に入った方が良いかも。もう私もお風呂入ったから」
「ああ、ありがとう。じゃあ入っておこうかな」
お父さんをお風呂へ見送り、ご飯の準備を再開する。
……明日からしばらく会えないから。いつもは水音と二人で作るけど、今日ぐらいは頑張らなきゃ。
もう一度気合いを入れ直して、料理の続きへ向かった。
◆◆◆
「……本当にいっぱい作ったんだね」
「ん! 頑張った! でも入らなかったら明日また水音と食べるから大丈夫だよ」
サラダにコンソメスープ。スパゲッティにハンバーグ。そして、ミックスベジタブル。
「凄く美味しそうだ。それじゃあいただきます」
「ん。私もいただきます」
お父さんはハンバーグを一口食べた。
「……美味しい。凄く美味しいよ、火凛」
「ん。良かった」
お父さんの言葉にホッとしながら私も食べ進める。
うん。いつも通り美味しい。
お父さんも夢中になって食べてくれた。そして、ある程度食べてから会話が始まる。
「そういえば、最近水音君とはどうだい? 仲良くやれてるかい?」
「ん。もうらぶらぶ。最近は学校でもずっと仲良くしてるから、毎日楽しい」
正直にそう話せばお父さんは優しく微笑んだ。
「そっか。良かった、火凛が楽しそうで。……本当に水音君には感謝してもし切れないよ」
「……ん」
……本当にそうだ。水音にはどれだけ感謝しても足りない。
「ああ、そうだ。火凛も頑張ってるし……今から暑くなる時期だからね。冬になったら二人で温泉旅行でも行ったらどうだい? お金は私が出そう」
「……温泉……水音と…………行く!」
二人でどこかへ行く事はあっても、泊まったりする事はしなかった。
「私も今回の出張が終われば昇給してくれるらしいからね。ゆっくり二人で羽を伸ばしてきて欲しい」
「ん! ありがとう! お父さん!」
水音と温泉……さすがに混浴では無いはずだけど、でも想像するだけで楽しい。
「……最近、水音君の周りに可愛い女の子が増えてるみたいだけど大丈夫かい? 不安に思ったりとか」
「無いよ」
お父さんの言葉に即答すると、驚いたような顔をした。
「水音は私から離れないって言ってくれたから。だから、私は信じてる」
「……うん、そうだね。水音君なら大丈夫か。ごめんね、変な事聞いて」
「ううん。お父さんが私の心配をしてくれてるのは分かってるから」
……今日だって、水音は奏音達と一緒だ。奏音達は可愛いし、優しい子だ。……普通の男の子なら鼻の下でも伸ばすのかもしれない。
でも、水音は違う。いや、別に鼻の下を伸ばしても良いんだけど。
……何があっても私を選ばせるから。
思わず舌なめずりをすれば、お父さんが苦笑した。
「はは。水音君も大変そうだね」
「……ん」
水音が大変なのは私も分かる。……だから、早く恩を返さないと。
いや、でも焦るのはだめだ。少しづつでも、着実に進まないと。
「ああ、そうだ。あと一つ火凛に聞いておきたい事があったんだ」
お父さんはポンと手を叩いてそう言った。それに首を傾げていると、お父さんはじっと私を見てきた。
「将来、水音君とカフェを開きたいんだったね。……どれぐらい本気なのかを聞きたい」
「ん。本気でやりたいと思ってる」
確かに最初は一時の感情かも……とか思ったりした。でも、ゆっくり、じっくり考えて。改めて思った。
水音とカフェで働きたいって。
「……分かった。なら私も最大限のサポートが出来るようにしよう。大学はどうするんだい? ……料理の専門学校とかに切り替える?」
「んー……まだ決めれてないけど」
水音と大学に行く、と言う事もしたい。でもそんなわがままは良くないだろう。
料理をするなら免許とか資格とかも必要だ。なら専門学校へ通った方が良い。
「……今のところは専門学校の予定かな」
「分かった。……でも、まだまだ時間はあるんだし、ゆっくり考えると良い。大学も良い人生経験になるからね」
「うん!」
……いつか、お父さんにも恩返しが出来るように頑張ろう。水音と同じぐらい……ううん。水音以上にお父さんも私のために頑張ってくれたんだから。
……結婚式とかで泣いてくれたりするのかな?
その様子を想像して思わず微笑んでしまった。
◆◆◆
『……姉さんだ! こんばんは!』
『この手があったのを忘れていたな。こんばんは、火凛』
「ん。こんばんは、二人とも」
画面の奥でニコニコしている水美と水音に微笑む。
ビデオ通話だ。
『どうだった? 火凛。お父さん喜んでくれたか?』
「ん。すっごい喜んでくれた」
『そうか……良かったな』
「ん!」
こうして水音と話していると、自然と水音へ手が伸びそうになってしまう。
「そういえば、水音達はどうだった?」
『楽しかったぞ。……色々と輝夜達の事を知る事が出来たからな』
『うん! 僕も楽しかった!』
二人ともちゃんと楽しんでくれていたらしくてホッとする。……無いだろうと分かっていたけど、喧嘩とかもしなかったらしい。
『それで……だな。輝夜から聞いたか?』
「あ、うん……別に怒ったりはしなかったよ。水音達になら知られても別に……ちょっと恥ずかしかったけどね」
さっき、輝夜から謝罪の電話が来ていた。どうやら少し前に私が言った事を話したとか。
……まあ、あのメンバーになら言っても良いんだけど。私も口止めしてなかったし。
ふと、お父さんの話を思い出す。……水音はどうするんだろう?
「……さっきお父さんと少し話したんだけどさ。水音は大学は通うつもりなの?」
そう言えば、少しだけ水音は考え込んだ後……口を開いた。
『……分からない、だな。まずは奏音の伯父と話してみない事には。大学に行くにしてもどの大学へ行けばいいのか分からない。……経営を学ぶべきなのか、料理を学ぶべきなのか』
「あ……そっか。やるならお店の経営とかも学ばないといけないもんね」
そこの所を忘れていた。
『ああ、もしやるとしても俺がしようと思っているんだが……火凛、やりたいとかあったりするか?』
「んー……」
あんまり水音に 負担は掛けたくない。でも、私が経営を……出来るのかどうか不安だ。
「でも、水音は料理の勉強をしたいんじゃ……?」
『経営しながらでも少しぐらいはできる時間があるはずだ。それに……俺は火凛と料理がするのが一番好きって分かったからな』
その言葉に思わず顔が熱くなった。からかって言われてる訳じゃないのは顔を見れば分かる。
……やばい。嬉しい。
緩みそうになった頬を手で押さえる。凄く熱かった。
『うー……兄さん、僕も料理出来たら嬉しい?』
『……ああ、そうだな。いつかは水美とも料理したいな』
『……! じゃあそのうちお母さんから教えてもらう! 姉さんも一緒にやろ!』
こういう時は水美の無邪気さが嬉しい。
「ん。一緒にやろうね。きっと楽しいよ」
水美と料理……うん。楽しそうだ。二人でも楽しいんだから、三人でやったらもっと楽しいはず。
そうしてたくさん話をした。その時だ。
『水美、もう遅いからお風呂入りなさい』
『あ、はーい! 分かった!』
水美がお母さんに呼ばれていた。
『あ、じゃあ入ってくるね! ……もうおやすみって言っといた方が良いのかな?』
「ふふ。私も水音もまだ寝ないから大丈夫だよ」
『ああ。ゆっくり入ってこい。焦って滑ったりしないようにな』
水音と二人でそう言うと、水美は笑顔いっぱいで頷いた。
『分かった! 入ってくる!』
そう言って水美が画面から消えた。画面には水音だけが映る。
「……ん。そういえば今日も水美と寝るんだよね?」
『ああ、そうなるだろうな。……大丈夫だと思うぞ』
私を気にしているのか、水音はそう付け加える。思わず笑ってしまった。
「ふふ。私も水美は信じてるから大丈夫だよ? ……水音こそ、眠りながら水美のおっぱい触ったりとかしないでよ?」
『大丈夫だよ』
水音は基本的に寝相が良い。……寝惚けるのはおいておいて。
……待って、不安になってきた。
「……でも、水音。寝惚けて水美を襲ったりしないでよ?」
『大丈夫だ。……朝はどちらかと言うと火凛の方からしてくるんだろ』
……それもそっか。……だけど、前水美が居るのに吸われたんだよね。しかも水美に見られながら。
……でも、あれは水美の寝相で私の服が捲れたから起きた事故らしいし。
「……まあ、大丈夫なのかな」
まあ、私が居ない時も何事も無く水美と眠れてたみたいだし。
こうして水音と話していると、少しうずうずしてくる。
「水音」
『なん……』
ちらり。と見せてみた。水音の顔が真っ赤になる。
「ふふ。水音ってこういうの好きだよね」
チラリズム、だっけ。確かに水音とは裸でする事も多いけど、脱ぎかけでする時もそこそこある。
……そっちの方が好きだったりするのかな?
『……火凛。そういうのは辞めておけ。俺が撮ってたりしていて脅すとかするかもしれんぞ』
「水音なら大丈夫。それに……撮っても良いんだよ? ほら、私の所には色々あるからさ」
水音はあまりしないけど、撮りながら……という経験も無い訳では無い。
誤爆とか防ぐためにスマホにはデータを入れてないけど。
『…………だめだ』
「残念」
なら仕方ない。私は手を伸ばす。
「……ん」
『……火凛?』
「どうせなら水音を……ぅ、見ながらしたいな、って」
一人寂しく慰めるよりはその方がいい。それに……水音に見られながら、と言うのも良い。
『なに……を』
「ふふ……ぅく、ナニに……決まってるで、しょ? 水音は……しないの?」
『……水美がいつ帰ってくるか分からないんだぞ』
……ぅあ、やばい。水音の顔見ながらだとすぐに達しちゃいそう。
「でも、もうおっきくしちゃってるんでしょ?」
手の動きを緩めながら水音へそう聞くと、顔を真っ赤にさせた。
「ほら、私も……ゆっくりしてるから。……一緒にイこ?」
そう言えば、水音は更に顔を真っ赤にさせて……小さく頷いた。
私も体勢を変えて、水音からよく見えるようにする。
結局水美が帰ってくるまでに二回もしてしまったのだった。




