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第82話 デイリーミッションが達成されました

遅れて申し訳ないです……今日はあと一回更新します

「おはよーさん、水音、火凛」

「おはよ、奏音」

「ああ、おはよう。奏音」


 火凛と登校していると、いつも通り声をかけられた。


 振り返れば、ニカッと朝から元気の貰える笑顔が見える。奏音だ。


「水音、昨日風邪引いて大変だったんだって? もう大丈夫なの?」

「ああ。聞いていたのか……もう大丈夫だ。火凛が付きっきりで看病してくれたからな」


 まさか夜まで食べさせて貰う事になるとは思わなかったが。……火凛のお父さんが死ぬほど暖かい目で見てきたからな。


 余談になるが、火凛のお父さんは水曜から出張へ行ってしまう。だから、今日の火曜までは家へ帰って来る事となった。


 そして、折角なので今日は父娘水入らずの時間を過ごして欲しいので俺はいつもの……と言えるほど帰っていないのだが、実家へ帰る事にした。


 ……ああ、そうだ。


「奏音。今日の放課後は空いてたりするか?」

「ん? 空いてるけど……まさかデートの誘い!? 嫁の前で!?」

「んな訳あるか。……というか嫁じゃないぞ」


 奏音は俺の言葉にケラケラと笑った。


「冗談冗談。……や、嫁ってのは冗談じゃないけど。ま、いいや。それで何の用だい?」

「水美と前会っただろ? 今度は火凛の代わりに俺が参加したいと思ってな」

「ああ、なるほどね。……そーいや火凛のお父さん明日から出張だったっけ。火凛はなんか準備とかしてるの?」

「ん。ケーキ焼くから私は参加出来ない。水音って輝夜達ともあんまり遊んでないからやって欲しいなって。前のサッカーの練習とは別でさ」


 火凛が二人ともっと仲良くなって欲しいからと提案してきた事だ。……俺としても、火凛の友人とは仲良くしたいと思っていたので丁度良かった。



「なるほどね。輝夜達には言ったの?」

「ん。昨日言っといた。奏音は平日は割と空いてるけど、水音とも仲良くなってきてるし忙しいならまた今度でも良いかなって」

「おお……私の事よく分かってんじゃん。暇も暇。大暇よ。んじゃ、いつものカフェで良いんだよね?」

「ああ。水美にはもう連絡しておいた。……俺が今日は帰ると知ってたから、部活も休むらしい」


 最近部活をよく休んでいるようで不安に思ったりしたのだが……水美曰く、気軽に休められる空気を作りたいとの事だ。無理をする生徒が多いらしい。


「へぇ……やっぱお兄ちゃんっ子だね。喜んでたんじゃない?」

「ああ、そうだな……火凛は居ないと聞いて少し寂しそうだったが」

「そーいやお姉ちゃんっ子でもあったか」


 奏音は苦笑し、火凛の肩をちょいと突いた。


「ね。あの時水美ちゃんさ。輝夜の事すっごい警戒してたじゃん。ちょっと気になったんだけど、私ってどう思われてんのかな?」

 火凛は奏音の言葉を聞いて一瞬きょとんとした後……くすりと笑った。


「奏音の事は気に入ったんじゃないかな? 元々接点があったって言うのもあるんだろうけど。ほら、奏音って大人だから。水美はそういう大人っぽい所が好きだったりするんじゃないかな? ね、水音」

 火凛の言葉に頷き、俺も奏音へ微笑みかけた。


「ああ、そうだな。それに、奏音はかっこいい所もあるからな」

「かっこいい?」

 首を傾げる奏音へまた頷く。

「見た目の話もあるんだがな。それ以上に……芯があるってすぐ分かるんだよな」


 火凛が俺の言葉にあっと声を出した。

「あ、それもだ。『自分は絶対に曲げない』ってオーラがあるんだよね」


 そして、自分でも言いながら納得したのかうんうんと頷いていた。


 奏音は俺達の言葉を聞いて……顔を真っ赤にしていた。


「分かった分かった。そゆことね」

「あれ? 珍しい。奏音照れてる?」

「照れて無いし。別に嬉しい訳じゃ……や、嬉しいは嬉しいんだけど。照れては無いし」


 目を逸らしながらそう言う奏音に苦笑する。分かりやすい。

「ふふ。奏音可愛い」

「あーもう! この話やめ!」


 奏音が耳を塞いでそう言い、火凛は笑ったのだった。



 ◆◆◆


「〜〜♪」


 火凛は鼻歌を歌いながらゆらゆらと揺れ、ぽすりぽすりと頭を俺の肩へ当てながら歩いていた。手はしっかりと繋いでいる。


 いつかと同じように、かなり機嫌が良いらしい。


「どうしたの? 火凛。すっごい機嫌が良いじゃん」

 俺が尋ねるより早く奏音が聞いた。火凛はえい、と俺へ抱きつきながら答える。


「だって、学校でも()()こうやって水音と手繋いだり、ぎゅってしたり出来るから。嬉しくなっちゃって」

「……まあ、そうだな。確かに嬉しく思う」


 家で、とか人気の少ない通路でするのとはまた違う。堂々と学校で出来るのだ。……あの頃のように。


 しかし、奏音は俺達の言葉を聞いて引き攣った笑みを浮かべた。


「……まさかとは思うけど、二人共学校でもめちゃくちゃイチャつくつもり? ……てか、聞いた事なかったんだけど、二人が疎遠になるまでってどんな感じだったの?」

「ん? 中学一年生までは普通だったよ? さっき言ったみたいに手繋いで登下校したり、ハグしたり……水音の膝の上に座ったり? あ、あと頭撫でられたり!」


 奏音が頬をひくつかせながら俺を見てきた。


「……ほんと?」

「ああ。いつからだったか、少しずつやらなくなっていったけどな」


 奏音は俺の言葉を聞いて考え込み……ため息を吐いた。


「……はぁ。まあいっか。でも程々にしなよ。あんまやりすぎると先生に『不純異性交友だ』とか言われかねないから」

「ん。大丈夫。中学生の時にも怒られたからどこまでならセーフかとか分かってる」

「まさかの経験済み!?」


 そんな奏音と火凛のやり取りを見ながら、ふと疑問に思った。


「俺と火凛って割と有名だった気がするんだが、知らなかったのか?」

 何せあの時は火凛を見ようと他クラスの連中が見に来て……俺の姿を見て血涙を流しながら去っていくまでが日常だった。そのせいもあり、割と校内で俺と火凛が仲がいい事が知れ渡っていたのだ。


 ……しかし、その質問は地雷だったらしい。


 一瞬。本当に一瞬だけ、奏音が寂しそうな顔をしてしまった。


「……や、私火凛と会うまでは全然友達居なかったし、同級生に興味無かったからさ」

「――そうか」


 謝ろうかと思ったが、それは違うだろうと脳が押しとどめた。


 奏音は後ろ向きな言葉は嫌いだと思ったからだ。謝るのは俺の自己満足にしかならない。


 ならば、俺の言うべき言葉は一つ。


「火凛に会えて良かったんだな」

 そう言えば、奏音は笑って俺を小突いてきた。


「もちろん、火凛には感謝してるよ。すっごいね。でも、水音にも感謝してるんだよ」


 そう言って、奏音は笑いかけてきた。俺も笑い返し、はっとなりながら火凛を見る。


 火凛は俺がこうして女子と話す事を嫌う……では無いな。怖がっている節があった。


 自分が必要なくなるのでは無いか。そんな思いから、その日のプレイはかなり押される事となる。


 俺としても、火凛にそんな思いはさせたくなかった。そう思って見たのだが――


 火凛は優しく微笑んでいた。俺と火凛を見て。


「……ん? どうかしたの? 水音」


 …………怒っている訳では無さそうだ。悲しんでいる素振りも無い。


 不思議そうにしている俺に気づいたのか、火凛はくすりと笑った。


「私、もう決めたから。水音を信じるって。……ずっと待っててくれるって言ったから」

 その言葉に俺は目を見開き……思わず火凛の頭を撫でた。


「俺は居なくならないぞ。火凛の傍からな」

「ん!」


 火凛が胸の中に飛び込んできたので、抱きとめる。


「……はよ結婚しろ。…………日課にしようかな。この言葉」


 奏音の言葉は聞き流しつつ、しばらくの間はそうして火凛の頭を撫でていたのだった。



 ◆◆◆


 視線が痛い。それはもう視線だけで射殺されるんじゃないかと思えるぐらいには。


 ……だが、それ以上に暖かい視線を向けられているのは何故だろうか。


 俺の不思議そうな顔に気づいたのか、奏音は苦笑しながら口を開いた。


「この歳の女の子って色恋沙汰が好きだからね……輝夜程好きって訳ではないけど。火凛は美人さんだし、可愛いし。水音も顔良いからね。誠実だし、レクの時のもあったから結構二人共応援されてるんだよ?」

「一部疑問は残るが……そうだったのか」


 男子は置いておいて、女子からは結構認められているらしい。


「……む。水音の自己評価が低い気がする。水音はかっこいいよ?」

「ははっ……ありがとな」


 自分で悪い顔をしているなどと卑下はしないが、イケメンだとも思わない。


 火凛の言葉は身内贔屓のようなものだろうと考えていた。……が、奏音が口を開いた。


「火凛の言う通りだよ。別にお世辞でも何でもなくて。女子達の中でも割と名前出たりするよ? クールとか、裏ではドSそうだとか」

「ただのコミュ障だよ」

「あれ? ドSは否定しなかったり?」

「日によって変わると前答え――外で何を言わせるんだ」


 幸い、声が聞こえる距離に生徒は居なかった。奏音はケラケラと笑う。


「ごめんごめん。でも、まさか本当に自分の顔が良くないって思ってたの? 水音も結構頑張ってそうじゃん」

「……火凛の傍に居るなら半端な人間にはなりたくなかったからな」


 そこそこ頑張ったとは思う。部活はやらなかったし、今もほとんど活動をしていない文芸部だが……筋トレをしてだらしない体にはならないようしていたし、勉強もかなりやってきた。


「はぁ……まじでよく女子から言い寄られなかったね」

「話す機会が無かったし、クラス会などもあまり参加しなかったからな」


 火凛が居たから、とは言うつもりは無い。……俺も女子と関わるのは面倒だとか思ってた節もあったからな。


 しかし、この話はあまりしたくない。何か話題はないか探す。……一つ、気になっていた事を思い出した。


「……そういえば、錦がどうなったのか知っていたりしないか?」

「あー……停学くらってるよ。確か二週間だっけな。友達が言ってたから絶対そう、って事では無いけど」


 ……二週間。長い方なのだろう。それほどまでの事をしたのかと聞かれれば分からないが。


「あ、そうだ。あのよく分かんないランキング作ってた生徒達は無期限停学になったらしいよ。しかも、次に問題行動を起こしたら退学処分まで検討するって。脅しなのかどうかは分かんないけど、実際あの……白木のお兄さんの方は退学処分くらってたらしいからね。結構効いてるみたいだよ」


 ……疑っていた訳では無いが、どうやら本当に校長先生達は変わったらしい。


「……お父さん達凄いね」

「ああ、本当にな」


 火凛の言葉に同意し、何度も何度も父さん達は怒らせないようにしようと心に刻み込む。


「……あ、あと風の噂でしか無いんだけどね。先生達も相当忙しかったらしいよ。今まで目を瞑ってきた処分を受けるとか。文句を言おうにも、その校長先生と教頭先生が給料ストップして停学した生徒達と奉仕活動をするらしいから文句も言えないんだって」

「……よく情報を掴めるな」

「交友関係は浅く広く、一部だけ深くでやってるからね。遊んだりはしないけど、こうした時は便利なんだよね。親がここの教師やってる生徒とかいるし」


 コミュ強の奏音に感心しつつ、これで平和になるのかと安心する。


「ま、一部の先生は受けなかったらしいよ。マトモな人も居たらしいから。身近な所だと……現代文の先生とか? 水音、仲良かったよね」

「ああ……そうだったのか。あの人は部活の顧問でな」

「……え? 部活やってたの?」


 奏音が驚いた顔をする。


「ああ、そういえば言ってなかったか……というか俺も時々忘れかけるんだがな。俺はラノベ含む本が好きで文芸部に入っている。……生徒が俺以外に居ないから辞めておこうかとも思ったんだが、元々今年廃部の予定だったらしく、担当の先生……現代文の先生に引き止められてな。入るだけ入っておいてくれと。教室まで自由に使ってくれて構わないから、とまで言われては断れなかった。」


 そのお陰で端にある空き教室を自由に使える。……あまり良くない事だとは思うが、まあ自由に使えと言われたし。今回で鍵は回収されるかもしれないが、まあもう大丈夫だろう。


 火凛とも教室で弁当は問題なく食べられそうだしな。


 火凛を見ると、笑顔で肩を寄せてきた。ふわりと甘い匂いが強くなる。



 ……今更だが、これが香水の匂いでは無いと言うのが驚きだ。



 そうして歩いているうちに学校へとたどり着いたのだった。

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