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第80話 その後 ※この話は犯罪行為を推奨・容認するものではありません

 その後、緊急でレクは中止。一応俺達のクラスの勝ちになるとは思うのだが……まあそれは良いか。




 ……そして、家に帰ってきた瞬間の事だ。


 俺は火凛に押し倒された。

「……火凛?」

「ごめんね、我慢出来ないんだ。あんなにかっこいい事言われたら」


 そう言って火凛は体育着の上を捲った。……真っ白な肌と真っ白なレースの下着が視界に映る。火凛は俺の手を取り、その胸へ誘導してきた。


「ほら、私。こんなにドキドキしてる。……水音のが欲しいって、体も心も言ってる」

「待っ……火凛の父さんだって帰ってくるだろ」

「お父さんは先に水音のお家行くって言ってた。変更するなら連絡入れてくる。というかある程度察してるはず」

「……自分の父親に色々事情を察されてその反応はどうなんだよ」


 そう言いながらも下着の中に手を滑らせる。


 熱い……そして、かなり蒸れている。今日は暑かったし、火凛も頑張っていたからな。


「ん……今更? お父さんが気を利かせてくれてるなら私達もその分した方が良い」

「……火凛のそういう所、嫌いじゃないぞ」


 とくんとくんと高鳴る心臓の音を指で感じながら、絹のようにすべすべでありながら、もちもちと柔らかい感触を楽しむ。


「ん……ぅあ、そこ、好き」



 甘い声を漏らす火凛の背中を抱くようにすれば、倒れ込んできて体を預けてきた。


「……ぅ、く、ふぁぁ……ぁ、水音の、もうおっきくなってる」

「これで無反応はEDどころでは済まないだろ」


 上気して赤くなった頬に、情欲に濡れた瞳。真っ白な肌と手には柔らかい感触があり……その中央に少しだけ硬い感触もある。


「絶対、三回はするから」

「……おいおい。時間はそんなに無い……ぞ」

「ん、大丈夫。一時間あれば三回ぐらい出来る。……私はその十倍ぐらい達せるから」


 その瞳の奥に宿る熱を見て、俺も覚悟を決める。


「……じゃあ、今日お互い頑張ったご褒美として、だな」

「うん!」


 ◆◆◆


 火凛と共に家へ向かうと、水美が家の前に立っていた。


 俺達に気づいたのか、目を輝かせる。


「……! 兄さん! 姉さん! おかえり!」

「ああ、ただいま。水美」


 ぴょんと飛び込んでくる水美を抱きしめると、嬉しそうに微笑まれた。

 水美は一旦俺から離れ、今度は火凛にも抱きついた。


「ん。ただいま、水美。今日はたくさん頑張ってたね」

「うん! 姉さん達もいっぱい頑張ってた! お疲れ様!」

「ふふ。ありがと」


 火凛がニコニコと微笑みながら水美の頭を撫でると、嬉しそうにしていた。


「父さん達は中だよな?」

「うん! 中で色々お話してるよ!」


 話……か。教頭先生と共に姿を消したあれか。


「……まさか、転学しろとか言われないよね?」

「まず無いとは思うが。奏音や輝夜達、来栖の事も話しているからな。またここから高校を変える事はしないだろう」


 入学前ならまだしも、今は火凛は友人が出来ている。父さん達ならその事も理解しているはずだ。


「……まあ、もしそんな事になったとしても俺も一緒だ。奏音達との縁が完全に切れる訳でも無いから心配するな」


 そう言って火凛の頭を撫でれば、不安は少し和らいだようだ。


「とりあえず家の中に入るぞ」


 ◆◆◆


「おお、来たか。水音、火凛ちゃん。リビングに来てくれ。話がある」

「……ああ、分かった」


 父さんに言われ、火凛と手を繋いでリビングへ向かう。水美も後ろをてくてく着いてきていた。



 リビングへ入ると、母さんと火凛のお父さんが待っていた。

「ああ、水音君、火凛。来たんだね。今日は凄い活躍だったじゃないか」

「ありがとうございます」

「ん。水音にいっぱい教えてもらったから」


 火凛のお父さんにそう返すと、優しく微笑まれた。どこか見覚えのある、人を安心させる微笑み。


 俺は父さんを見た。


「……それで、父さん。話って……高校のだよな?」

「ああ。先に言っておく。水音達に悪い所とかは一切無いからな。悪いのは全部あの馬鹿だ」


 珍しく父さんは怒りを剥き出しにし……そう言葉を吐き捨てた。


「お父さん、行儀が悪いよ」

「……ああ、悪い。母さん。水音達も。だが、相当酷くてな。色々水音達にも聞きたかったんだ。……まず、あの生徒達がやってた『ランキング』とかいうものは知ってたのか?」

「俺がそれを知ったのは最近だ。……教えてくれる友達が少なかった、と言えばそうだが。あと、その妙な男子のグループにも入ってないぞ」

「ん。私もちょっと前に奏音に教えて貰った。一応知っておいた方が良いかもって」


 俺達がそう言うと、父さんはふむふむと頷いた。


「じゃあ、次だ。……俺も拓斗も知らなかったんだが、あの高校の男子は治安が悪いらしい。その事は?」

「……クラスに変なやつは何人か居たが、多い訳では無かったと思う」

「ん。絡んでくるのは……時々居たかな」

「大丈夫だったのかい? 火凛」

「ん。奏音も水音も居たから……今日も見てたでしょ?」


 火凛がそう言えば、火凛のお父さんは優しく頷いた。


「……そうだね。心配する事じゃ無かったか。ありがとう、水音君」

「いえ。火凛の事を任せてくれと言ったのは自分ですから」


 火凛のお父さんへそう返し、父さんを見直す。


「……なるほどな。あ、別に深い意味がある訳ではなく無いぞ。単に気になっただけだ」

「……なら良いんだが」

「それで、ここからが本題だ」


 父さんの言葉に自然と俺と火凛の背筋が伸びる。


 父さんは、ゆっくりと口を開いた。


「高校での事は俺と母さん、そして拓斗で解決した」





 一瞬、言葉の意味が理解出来なかった。


「……どういう事だ?」

 そう尋ねれば、父さんはニヤリと笑った。


「あの馬鹿……もとい、校長先生と教頭先生に三人がかりでガチ説教してきた」

「ふふ。お父さんったら久しぶりにすっごい怒っちゃってね? もう今までにないぐらいよ」

「……真奈さんも凄い剣幕でしたけどね。『教育者として恥ずかしくないのか』って」

「おいおい。拓斗だってブチ切れてただろう。無言で校長先生と教頭先生を睨みつけてて……一時はどうなる事かと」


 どうやら、相当キツい奴をぶち込んだらしい。俺からしても想像がつかないが……


「それで、どういう形で話はまとまったんだ?」

「ああ。二人とも改心した……というかさせた。責任を取って、生徒と保護者達へ謝罪。そして、先生達への処分と再教育。ランキングとかいう制度を作った、及び運営した生徒達は停学処分。この生徒達は次に問題を起こせば退学処分を下すとの事だ。……そして」


 父さんは一度言葉を切り、俺と火凛を見た。


「白木和虎の退学処分を行う」


 思わず火凛と顔を見合わせた。火凛も驚いた顔をしている。



 ……いや、よくよく考えれば妥当なのか……?


「元々、無期停学には何度もなってたみたいだ。親御さんの謝罪、そして部活や勉学でもかなり活躍をしていた弟さんまで『どうにかして改心させるから』と何回も頭を下げられていたから退学にはしなかったとの事だ。……まあ、経歴に傷がつくとか、退学させるには何度も会議を行って話し合わなければといけないので時間がかかる、との理由もあったらしいが」

「……なるほどな」


 白木家の謝罪は校長先生からすれば都合のいいものとして捉えられていたのか。


 思わずため息を吐いた。


「……でも、それって普通責任を取って辞める、とかするんじゃないのかな?」

 ふと、火凛が疑問に思ったのかそう聞いてきた。

「あれはね。責任を取って辞めるって言ってるけど、結局は逃げてるだけなのよ。自分の撒いた種は無視できるし、世間もまあ納得する。……でも、後任にすっっごい迷惑が掛かるのよ。それはもう……私が働いてた所の二代目店長がどれだけ頑張ってたか」


 ああ、そういえば昔母さんの働いてた店の店長が女子高生とお金のやり取りをしていたとかで大変だったと話していたな。


「だからまあ……辞める可能性が無くなった訳では無いけど、最低限の仕事はやって居なくなるのなら誠意は見せたって事になるのよ」

「……初めて知った」

「まあ、不祥事を起こした人でも各所への謝罪とか仕事の引き継ぎとかする人はするんだけどね」


 火凛が母さんの言葉に納得し、水美も隣で驚いたような顔をしていた。この話は初めてだったからだろう。


「もしまだ何かあったら父さん達に言ってくれ。今日中で解決してくるぞ」

「……本当に、父さん達には感謝しか無いよ。ありがとう」


 そう言葉を漏らせば、父さんは照れくさそうに笑った。


「親ってのは子供が幸せになれる環境を整えるために居るんだよ。水音と、水美と、火凛ちゃん。三人が幸せに暮らせるようにな。だから、礼なんか言わなくていい。水音達が幸せなら俺らも幸せだ。な、お母さん、拓人」

「ええ、そうよね。たまにはお父さんも良い事言うじゃない」

「ああ、そうだね。火凛が今もこうして笑顔を見せてくれるのは本当に水音君達のお陰だ。感謝するのは私の方だよ」


 火凛と水美と目が合い、笑う。


 まだまだ父さん達から学ぶ事は多そうだった。


 ◆◆◆


 夕食を終え、のんびりとした時間を過ごす。


「……少し蒸し暑いな」

「ほんとだね」


 まだ梅雨入りは遠いはずだが、少し汗ばむぐらい気温が高く、湿度も高そうだ。


「暑ければ冷房入れるか?」

 父さんに聞かれるが、首を振る。そこまででは無い。


「アイスでも買ってくる。水美も風呂から出たら暑いはずだしな」

「大丈夫か? 俺が行ってこようか?」

「いや、いいよ。コンビニまでそこまで遠くないし」


 日は落ちているものの、まだそう遅い時間では無い。


「いや、だがな。この辺人通りも少ないし……」

「あ、私も行くから大丈夫ですよ」


 火凛が俺へ体重を預けながらそう言う。……さすがにそれは父さんも難色を示すだろうと思っていたのだが。


「……なら良いか」

「いやなんでだよ。普通ダメって言うだろ」


 俺一人ならともかく、火凛は一人でで歩けばナンパされる率が九割を越すのだ。


 しかし、父さんは笑った。


「火凛ちゃんが居た方が水音も注意して道を進むだろ。な? 拓斗」

「うん、そうだね。水音君は火凛が絡むと色々と凄いからね」


 火凛のお父さんの言葉に思わず引き攣った笑みになる。


「ん。水美が出てくる前にちゃっちゃと行っちゃお、水音」

「……はぁ、分かったよ、火凛」


 火凛に腕を引っ張られ、俺は火凛とコンビニへ向かう事にしたのだった。



 ◆◆◆


「……暗いな」

「ね。この辺あんまり街灯無いんだ。あんまり夜は外に出なかったから気づかなかった」


 やけに暗く、雰囲気がある。コンビニは近いはずだが、この辺は少し入り組んでいるので目に見える場所には無い。


 パキ……と木を踏んで折ってしまう。思わず火凛の手を握る手に力が入った。



「……そういえば、水音って心霊系の番組とか苦手だったよね」

「…………怖くないぞ? べつに」


 男として譲れないものはある。


 ……しかし、強がっている俺に気づいているのか火凛は笑った。


「ふふ。……ね、ここって人通り少ないよね」


 火凛はそう言って俺へ抱きついてきた。柔らかい物に腕が挟み込まれる。


「……火凛?」

「えっちな気持ちが怖い気持ちに勝ったりしないかなって……ほら、ん」


 火凛はラフなTシャツを着ている。……俺の物なのだが、それはいつも通りだから良いとして。


 火凛はそのTシャツの中に……俺の手を入れた。


「……外はまずいだろ」

「人に見られなきゃ大丈夫じゃない? ……ほら、出してる訳じゃ、んぅ……無いし」


 悩ましい声を出す火凛に思わず反応してしまう。



 ……良くない。非常に良くない。何が良くないって、俺のは人のより大きい事だ。すぐに人にバレてしまう。


 そして、もう一つ。俺は動きやすいようにラフなジョガーパンツ……あの紐の付いたゆったりした物を着ている事だ。



 端的に言うとはみ出てしまう。



「……ふふ。水音の方こそぴょこって見えてるよ」


 火凛の言葉に顔が熱くなるのが分かる。顔を隠すように手で覆うのだが、火凛はくすりと淫靡な笑みを浮かべた。


「このまま鎮めるのを待つより、一回出した方が良いんじゃない?」

「……いや、だが」

「二分」



 火凛がそう言って、しゃがみながら指を二本立てた。


 その言葉の意味が分からない訳では無い。


「水音の()い所、全部知ってるから」


 火凛が舌なめずりをする。……その小さく、しかし淫猥に動く舌に思わず生唾を飲み込んだ。




「……一回だけ、頼んでも良いか? ……周りは俺が見ておく」

「ん♪ おまかせあれ♪」


 ◆◆◆


 コンビニで買い物を終え、帰る途中で火凛が口を開いた。

「……どうする? 帰りも一回する?」

「…………いや、辞めておこう。アイスが溶ける」


「残念」

 首を振ると、火凛が少しだけ残念そうにしていた。


 そんな顔に心が引き寄せられつつも、頭を振って煩悩を打ち消す。


「……じゃあ、こうする」

 火凛はそう言って俺と腕を組んできた。……胸で挟み込むように。


「心臓の音って落ち着くでしょ?」

「……まあ」


 火凛の家に居る時はほぼ毎日聞いている音だ。……ゆっくりな時から、ドクドクと早く、力強く脈打つ所まで知っている。


「私もね。水音の心臓の音聞いてたら落ち着くんだ。不安な事とか、嫌な事とか。全部忘れるんだ」

「……俺もそうだぞ」


 火凛の言葉に頷き、目を瞑る。腕の真中から小さく、しかし確かな鼓動が伝わってくる。



 気づけば、ざわざわとしていた心は凪いでいた。



「ありがとな、火凛」

「ふふ。どういたしまして」


 そう言って微笑む火凛は酷く優しげなもので……魅力的なものだった。

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