第79話 一章最終話 肉体関係を持っている“元”幼馴染との関係を取り戻すまでの話と――
「……おいおい。全部予定が狂うぞ」
観客席の一番上で声を張る慎之介を見て頭を抱える。
「……いや、でも大丈夫か? 俺の役割が全部慎之介に移るだけだし……一応潤夏にも言ってた。水音達は……適当にイチャイチャしてもらっとくか」
元々、自分がやるべきものは玉木に頼んでいたものだった。
玉木がいくら待っても来なかったので俺がやろうとしていたんだが……
「……まあ、玉木ならどうにかすんだろ。空気を読めて無いようで読むからな」
とりあえず、匙を投げる事にした。
◆◆◆
「ちょっと君、他校の生徒でしょ。勝手に入ってきちゃダメだって」
「バチバチの従兄弟だっつーの! 苅谷響の従兄弟なんだわ! じゃなくて、今日はこの高校に文句言いに来たんだわ!」
警備員に止められそうになったが、玉木はそう言い返した。
「……まさか、本当は玉木がこの役やる予定だったのか?」
「……ん、多分?」
白木兄は状況に着いていけなくて戸惑っている。戸惑いたいのはこっちなんだが……
玉木は階段を駆け下り……近づいて、白木兄にビシィッ! と指を差した。
「まずはそこのお前ぇ! ずいっぶんと久しぶりだなぁ! 悪質なナンパ師さんよぉ!」
「あ……? あ、テメェ! あん時のクソガキ!」
「へん! 二つしか変わらないじゃねえかよ! それに人にクソガキって言う方がクソガキなんだぞ!」
白木兄の迫力など関係ないとばかりに玉木は小学生のような煽りをする。
「それになぁ! だいたいおめぇのせいで名乗り忘れたんだわ!『名乗るほどのものじゃありませんよ、お嬢さん』なんて人生で初めて言ったわ!」
「……それはお前が言いたかっただけだろうが」
「はいそこうるさい! 今男と男の愛憎劇やってんだわ!」
俺も男……というツッコミは置いておこう。というかもう玉木に任せてみよう。
「という訳でだ! おめぇの事は散々調べさせてもらった! 強引に女の子とデートするわ、見知らぬ男子高校生からお金を借りると名ばかりのカツアゲをするわ、男の……いや、漢の風上にもおけねえ!」
……やはり、余罪はまだまだあったのか。
「というかだな! この高校だってどうなってんだよ! その辺の女子高校生百人にアンケートしたぞ! この高校の一部の男子生徒が中々荒れてるって! こそっこそ女子生徒のランキングとかやってんじゃねえよ! 堂々と紙に書け! そんでその紙を落として見つかって怒られて女子達に蔑まれた眼で見られるのまでがセットだろ!」
いや、そもそもそんなランキングなんて作るな……という言葉を飲み込む。
とりあえず一歩離れ、火凛へ近寄る。火凛はキュッと服の裾を握ってきた。
「というかこの学校の女子からも聞いてるぞ! 先生達に言っても音沙汰が無いって! どうなっとるんじゃこの学校は! 高校は紳士を育む場所だろうが!」
その言葉に観客席がザワつく。……久佐も玉木を撮っている。
……まあ、成功と言っていいのだろう。
元々、響が考えていた作戦はこうだ。
まず最初に、俺と火凛で白木兄のヘイトを集める。具体的には目の前でイチャついてろと言われた。
白木兄は白木弟こと和樹先輩にコンプレックスを感じている。その弟を振った火凛に興味を持ったが、その頃には俺が……という事らしい。
だから、俺と火凛でイチャつけば簡単にヘイトが集まるとの事だった。……言うほどイチャイチャしていたかどうかは疑問だが。
そして、我慢出来なくなって手を出そうとした時に響がこの高校の内情をバラす。現に、白木兄がこれだけ派手な事をやっても学校側が対策を取っていないから保護者は信じるだろう。
そして、保護者伝いにでも知れ渡って、学校側に大勢の保護者にクレームを入れさせる……というのが主な流れだ。
念の為、久佐が動画を撮っている。いざとなればSNSで拡散させるようだった。……もちろん顔にモザイクとかはかけるらしいが。
「というかなあ! そもそも水音と火凛ちゃんに挟まるなど万死に値するぞ! おめぇよくあのイチャイチャっぷりを見せられて突っ込む気になったな!」
……気づけば、話の方向が変わってきているが。
「こいつら中学の頃からまーじで甘酸っぺぇ青春送ってきてんぞ! 目ェあったら微笑むわ、人目を忍んで指を触れ合わせるわ、席替えで隣になったらいつもより笑顔が増えるわ……」
「待て、玉木。話を戻せ」
「ああ? ……まあ、しゃあねぇ。そんでだ。ついでに響なんかが元凶チームも調べてきた。さっき話してた『ランキング』を運営してた輩だな。一応目を通したが……かわい子ちゃんランキングならまだしも、まじでクソみてぇなランキングもあったからな。全員名前を呼ばせてもらうぜ。まず最初、一年二組――」
そうして、何人もの名前が呼ばれる。およそ二十名。
「あー、つーわけで。証拠諸共まとめた紙は後で……ああ、後であの人に渡しておくんで。文句あったらあの人にって事で」
そう言って玉木は一人の男を見ながら紙をひらひらとやった。
……そこには、窶れた教頭先生と目を真っ赤にした校長先生。そして、その隣に父さん達が居た。
「うわぁ……私も受けた事ないガチ説教じゃない?」
「瞼腫れてるぞ……大の大人を泣かせるほどやったのか」
ブルリと震える火凛と共に、改めて父さん達は怒らせないようにしようと胸に刻み込んだ。
……と、その時だ。
「おいこらテメェ! さっきからうざってぇんだよ!」
白木兄が拳を振りかぶった。皆が息を飲む。
そんな中、俺と響。そして、玉木は笑っていた。
「振りかぶりすぎ。当てる気あんの?」
白木兄の拳は空を切った。
「チッ」
その後も何度も何度も殴りかかろうとするが、玉木には当たらない。
「おらおらどうした! こちとら三年前からやべーチンピラとかから女の子護るために闘ってるんだぞ! そんなチンケな拳なんざ当たる訳ねぇだろ!」
――そう。玉木は異性との出会いを求めて様々な場所へ赴く。そして、その時に妙な男に絡まれている子が居れば助けるのだ。今まで危ない橋を何度も何度もくぐり抜けている。
今更チンピラ高校生の攻撃など通じない。刺青のある怖い人からも逃げ切った男だぞ。
「クソがっ!」
「……というかこれだけ騒ぎを起こしても先生は駆けつけないのか。本当にどうなってるんだよ」
先生方は遠巻きに見ているだけ。自分が怪我をしたくないからお前らで片付けろとでも言いたいのか。
さすがに怒りが湧いてくる。その全てを長いため息に変化させ、吐き出した。
……と、その時だ。白木兄は玉木から離れ、俺を睨みながら来た。
「悪いがな――」
「オラ、死ねぇ!」
「話を聞く気は無いの――」
俺は白木兄を見て目を見開く事になった。
白木兄が振り上げた拳は、俺では無く後ろにいた火凛へと向かっていたからだ。
「……ッ」
火凛もいきなりの事で固まっている。
「誰に手出そうとしてんだ? あ?」
その腕を掴み、力任せに地面に叩きつけた。
「……俺だってこの馬鹿に連れられて危ない目に何度も遭ってんだよ。こいつは避けるしか出来ないからな」
「こちとらおめぇと違って貧弱なんだわ。女の子護るっていう重大な役目背負ってたじゃんかよ」
「護るのは火凛だけで十分だ」
手早くうつ伏せにし、腕を捻りあげる。
「というかほんっっとうに先生達はどうしてんだよ! 暴力沙汰だぞ! こいつどうにかしろって!」
「水音!」
そう愚痴るも、先生達より早く父さんが駆けつけた。
「父さん! こいつもうダメだ、警察呼ぶとかしないと……とにかく、怪我させないよう身動きを取れないようにしたい」
「ああ……大丈夫だ。俺が連れてく。あの馬鹿ん所に」
そう言って父さんが顎をしゃくった所に……校長先生と教頭先生が居た。馬鹿扱いしてるが……まあいいか。
「だが父さん、こいつそこそこ力強いぞ」
「父さん舐めんな。今の水音と水美片手ずつで持てるぞ。なんなら背中にお母さんも背負えるぞ」
そして、父さんは……なんと、片手で白木兄の両腕を拘束し、無理やり校長先生の所へ連れて行った。校長先生は慌てていたが……その時、学校の職員室がある方角から若い男の先生方やって来た。
父さんにぺこぺこして、白木兄が引き取られる。そして、校長先生と教頭先生と共にどこかへ向かった。……その前に、玉木が紙を渡しに走る事となったが。
「……誰だ? 今の」
戻ってきた玉木がそう尋ねてくる。
「確か……今年から入ってきた、体育の先生だった気がする。……あまり他の先生と仲が良くないと聞いていたが」
「それあれじゃね? あの先生だけマトモで普通に叱るけど、周りが無視する先生ばっかりで村八分食らってたとか」
玉木の言葉に無いだろと言いたかったが……言えなかった。
このグラウンドだって審判含め、十数人の先生が在中してるんだぞ。その全員が動かなかったのだ。
そうして考えていると、背中にどんと衝撃が走った。火凛が抱きついていたのだ。
「……ッ、そうだ。火凛。大丈夫か? 怖かっただろう」
そう言っても返事はなかった。ただぎゅっと抱きしめられるのみだ。
◆◆◆
……大変な事になってる。何がって私の心が。
だって、今の水音がかっこよすぎたんだもん。
『護るのは火凛だけで十分だ』って何? かっこよすぎて濡れ……こほん。もうびっくりした。
あーもう! 好き! 好きなのにもっと好きになっちゃった!
もう何もかも知らないって言ってキスしたい。それぐらい感情が爆発してる。
……あと、今多分凄い顔になってる。水音に見せられないからって抱きついたけど……顔が上げられない。
大変だ。水音が欲しい。帰ったら絶対に三回はする。絶対。水音の家行くから一時間で三回する。
「――火凛。大丈夫か? 怖かっただろう」
そう言われるけど、私は今水音の体温や匂いを感じようと顔をくっつけてるので返事が出せない。
「……火凛、少し腕の力を抜いてくれ」
「……ん」
痛かったのかと思って力を緩めると……水音がその隙を着いて振り返り、強く抱きしめてくれた。
そして、頭まで撫でてくれる……水音の暖かくて、おっきな手が心地良い。
……やっと顔が戻ってきた、水音から離れる。
「……怖い思いをさせてすまなかったな、火凛」
「ん、大丈夫。水音が助けてくれたから」
遠目に奏音達がこちらへ向かってるのは見える。近くに玉木君も居るけど……いっか。
私は背伸びをし、水音の頬へキスをしたのだった。
「……ん、これはお礼……ううん。したくなったからした」
「おまっ……皆見てるんだぞ」
「丁度いい。私と水音がお互い大切に思ってるって知らせよう。……幼馴染として、ね?」
真っ赤になっている水音へそう微笑んだ。私も顔は真っ赤だけど。
少しあたふたしてる水音へ微笑む。
今度は幼馴染じゃなくて……『恋人』だってみんなの前で胸を張って言えるようにしようね。
……その前に、水音と恋人にならないといけないけど。そう遠くないうちに、ね。水音。
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