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第62話 火凛の再考、輝夜の覚悟

昨日は投稿出来なくて申し訳ないです

「ん……さすがにちょっと疲れた」

「ちょっ……と、だと……自信、無くすぞ」


 仰向けになっている水音の首筋を撫でれば、ピクんと中で震えた。



 多分、水音の事だからまだいける……はずだけど、明日に響くはずだ。


 かくいう私も実は限界に近い。すぐに歩く事は出来ない。


「……んっ」


 突き刺さっていたものを抜き、水音に負担が掛からないよう気をつけながら倒れる。



 水音は疲労困憊だ。それなのに優しく抱きとめてくれた。


「ふふ……今日何回したっけ?」

「……十、だな」


 その言葉に驚きながらも納得する。


 いつもはゆっくりしてるから回数は伸びなかったけど、今日はずっとハイペースだった。それこそ水音は最初の一時間で四回出してた。



 もちろん、水音が早漏とかそんな訳では無い。なんなら私が絶頂を迎えた回数は水音の五倍近くあるし。


「ゴム、尽きてなかったら記録更新出来たかな?」

「勘弁してくれ……いや、出来ない訳では無いんだがな」

 水音のモノをぐりぐりとお腹で擦れば、ビクンと跳ねてムクムクと膨れ上がる。


「それとも……する? 生で」

「ダメだ。……そろそろ危ない時期だろ。無理はしない方がいい」


 水音が気にしているのは、そろそろ私に女の子の日がやってくる事だろう。


 幸いにも私の場合はあんまり重くないし、お薬を飲めば普段と調子は変わらない。


 でも、体に負担が掛かるだろうし……血が出てる所とかあんまり水音に見られたくないからしないのだ。


 でも、あくまで本番はしないってだけ。


「ふふ。そうだね。明日からは口と……おっぱいでするから」

「……ああ」


 微睡んでいて意識を朦朧とさせる水音の髪を撫でる。


「お風呂は明日入ろ。軽く体は拭いとくから」

「……ああ」


 水音の額から目に手を滑らせ、瞼を無理やり閉じさせる。


 相当疲れていたんだ。水音はすぐに寝息を立て始めた。


「ふふ。可愛い」


 そんな水音を眺めながら休息を取る。あれだけ強く求められるのは初めてで嬉しかった。


 今になって考えれば、奏音を意識して剃ったり……色々言ってしまったのが恥ずかしい。完全に勢いで言ってた。


 でも、水音も私に応えてくれた。


 私以外見る気は無いって。……私専用だって言ってくれて嬉しかった。




「好き、だなぁ……やっぱり」


 私自身も色々考えた事はあるのだ。


 本当にこれが恋心なのか。助けてくれたのが水音だったから水音の事を好きになってるんじゃないか、とか。



 ……でも、やっぱり違う。こんなに水音の事を考えると心がぎゅってなって、ドキドキして。でも、同時に安心感があって。


 これが恋じゃなくてなんだって言うんだ。



『大好きだから付き合って欲しい』

 と、言う事が出来ればどれだけ楽だろう。



 ……怖さもある。関係が変われば終わりが見えてしまうんじゃないか、とか。


 ちゃんと考えるべきだ。……恐らく、付き合う事が出来ればそのまま結婚まで一直線に行けるはずだから。


 あと――私は今はまだ幼馴染を楽しみたい。学校で幼馴染をしたい。


 自慢の幼馴染なんだって皆に言いたい。それで……


 奏音達も含めて、堂々と水音とお昼を食べたい。


「……わがまま、だと思う。でも、水音から言ってくれるまでの間だから」


 私から『付き合って欲しい』と言うのは精神的なものもあって難しい。……私、臆病だから。


 それに、私から言えば水音は傷つくと思う。こういうのは自分が気を利かせたいって人だから。多分私の想いをずっと無視し続けていた、って罪悪感に苛まれるはずだから。



 三年後とか五年後とか、そんなに遠くないとは思う。でも、今週とか来週で解決するような事でもない。


 ……ゆっくり行こう。まだまだ私達は変わり始めてしかいないんだから。



 青虫は蝶になるために蛹にならないといけない。私達だって、今はまだ蛹になってすぐなんだから。急ぎ過ぎてはいけない。じゃないとお互い中身がぐちゃぐちゃなまま固定されてしまう。


「……よし、タオル持ってこよ」



 ぐっと拳を握り、私は洗面所へと向かったのだった。


 ◆◆◆



「あの……火凛ちゃん、獅童さんと何かありました? もちろん良い意味でです」

「あ、それ私も思った。なんか、距離が縮まった……? というか、獅童君から縮めようとしてるみたいな感じ」


 次が体育なので着替えていると、輝夜ちゃんと来栖ちゃんからそんな事を言われた。


「……土日で色々、ね」


 結構プライバシーに関わる事だから深くは言えない。でも、それだけで二人は色々と察したようだ。


「……! も、もしかして助けられたりしたんですか! 火凛ちゃんが悪い男の人に絡まれてる所を助けられたりしたんですか!」

「まさか……そんな人今どき居ないでしょ」


 輝夜の言葉に来栖ちゃんが笑う。


「男の人に声を掛けられるのは良くあることだよ。……水音に助けられるのもね。日曜、水音の妹……水美って言うんだけどさ。その子と水音と

 お買い物に行ったんだ。待ち合わせして行ったんだけど、何人かに絡まれちゃって」

「えっ、あるんだ。今どき」


 来栖ちゃんが驚いた風だった。でも、一人だと結構な確率で遭遇する。


「うん。人通りが多いところだと変な人も多いからね」

「へぇ……まあ、私は大丈夫だろうけど」


 来栖ちゃんはそんな事を言う。……だけど、来栖ちゃんもかなり可愛いと思うんだけどな。


 大人びた顔立ちに、切れ長の瞳。確かにカッチリした風に見えるけど、顔立ちも整っているし端的に言って可愛い。


 話してみれば、そんな固い印象も崩れるし。


「春も可愛くてかっこいいですよ!」

「ん、私もそう思う」

「ふふ。ありがと、お世辞でも嬉しいよ」


 お世辞では無いんだけど、来栖ちゃんは笑いながら言った。


「なになに? なんの話してんの?」


 その時、奏音がお手洗いから帰ってきた。


「あ、奏音」

「奏音ちゃんからも春の事可愛いと思いますよね!」


 輝夜ちゃんが奏音へいきなり尋ねた。奏音は一瞬訳が分からないと言った顔をしていたが、すぐに口を開いた。


「うん、可愛いと思うよ。まじで。そこら辺の女の子十人ぐらい適当に集めたとしても春の方が可愛いと思うね」

「もう、からかわないでよ」

「全然からかったつもりは無いんだけど……てか何の話してたの?」


 奏音に軽く事情を話すと、ニヤリと笑った。悪い笑い方だ。


「ほう? 確かに私もナンパとかはちょこちょこされるけど。それで水音はどうやって追い払ったの?」


 思わず私は言い淀んだ。……どうしよう。


「もしかしてあれかい? 彼氏の振りして撃退したとか? ありがちだけど悪くないね」

「……半分は合ってるけど」

「えっ! 本当ですか!?」


 私の言葉に輝夜ちゃんがびっくりするぐらい過剰に反応する。


「ほら、輝夜も落ち着いて。火凛が困ってるでしょ」

「う……ごめんなさい」


 それは来栖ちゃんが鎮めてくれたけど……


 ……どうしようかな。


「無理に話さなくて良いんだよ?」

 来栖ちゃんもそう言ってくれてるけど。







 二人になら大丈夫かな。遅かれ早かれ言う事になるんだし。



「今更だけど、移動しながら話そっか。一応距離は取ってるけど……」


 皆お喋りに夢中で気づいていないように見える。だけど、誰かが耳をそばだててるかもしれない。


 まだ、休日にデートをしたという話だけだ。でも、これから話すのはもっと際どい話。


「あ、ごめん。パって着替えるから待ってね」

「ん、良いよ」



 奏音が着替えるのを待ち、移動を始める。


「それでそれで、どうやって追い払ったんですか!?」


 ちょろちょろと私の周りを歩きながら輝夜ちゃんが聞いてくる。その様子が可愛くて思わず笑ってしまった。


「……えっと、そうだね。……水音が彼氏の振りをしたというか……その、二人でカップルの振りをしたみたいな?」


 正確には水美もなんだけど、それは置いておこう。ややこしくなるだけだ。


「……つまり、イチャついてナンパ師を撃退したと」

「…………そうなるのかな」

 奏音の言葉に頷く。来栖ちゃんがどこか呆れたような視線を向けてくる。



「火凛が言うカップルの真似っていつものイチャイチャとはまた別なんだよね」


 痛いところを突かれた。普段は人前だと精々手を繋ぐ程度のことしかやらない。それが普通になっているとも言える。


「……ん、まあ……見せつけないといけなかったし」

「……! 良いです! すっごい良いです! 男の人に護られるのも良いですけど、二人で勇気を出して……恥ずかしがりながら撃退ってのも好きです!」


 輝夜ちゃんは眼をキラキラとさせながら私の周りをくるくると回っている。


「ちょっと、輝夜落ち着いて」

「そうだよ。危な――」


 私達は移動中だった。グラウンドへ降りるための階段がすぐそこだったので二人は注意をしようとしたけど……遅かった。


「きゃっ――」


「輝夜ちゃん!」


 反応が出遅れてしまう。手を伸ばす……けど、届かない。



 だけど、私は下から滑り込んでくる影を見て安心した。






「大丈夫か?」



 水音が軽々と輝夜を受け止めた。階段の途中で足場も不安定だったけど、水音は体幹も力もある。



 だけど、私は焦っていたあまり忘れていた。



 輝夜ちゃんは男の人が苦手だった事を。


「……ッ、獅童君、輝夜下ろして!」

「ッ、ああ!」


 来栖ちゃんが一段飛びに階段を降りる。


 輝夜ちゃんは……ぐっと唇を噛んでいた。

 それを見た来栖ちゃんがかなり驚いた様子を見せていたけど、すぐにハッとして輝夜ちゃんを抱きしめた。


 輝夜ちゃんは来栖ちゃんをぎゅっと力強く抱きしめ、荒い息を吐いた。


「偉い……偉いよ、輝夜。よく叫ばなかったね」


 子をあやす親のように来栖ちゃんが輝夜ちゃんの頭を撫でる。



「……すまなかった」



 水音は一言そう言ってその場を去ろうとした。悪くない判断だとは思う。


 軽いパニックを鎮めるためには、原因……とは言いたくないんだけど、今の場合は水音が見えない場所でゆっくり落ち着くのを待つべきだ。



 でも…………そんなの水音が可哀想だ。


 水音の元へ行こうと思ったら、奏音に肩を掴まれた。


「……待って、火凛」


 どうして、と言いそうになったが、(すんで)の所で堪える。奏音がなんの理由も無しにこんな事をするとは思えなかったから。



「ちょっと待って! 獅童君!」


 声を上げたのは来栖ちゃんだった。私は二人を見て……更に驚く事となった。



 輝夜ちゃんが……怖がりながらも首を振っていたのだ。ぎゅっと抱きついていたはずの右手が水音を求めるように伸ばされている。




 水音もそれに気づいたからか立ち止まった。


「……輝夜、いけそう? 無理なら私が代わりに言うけど」

「……だ、だ大丈夫です」



 輝夜ちゃんは来栖ちゃんの手を借りて階段に座る。そして、ぎこちない動きで手招きをした。


 水音がゆっくり、少しずつ近寄る。距離感を見誤らないように。


 そして、階段に足をかけようとして……輝夜ちゃんがビクッとして、水音は足を止めた。



「……あ、あありがとうございました。助けて、くれて」

「どういたしまして」



 輝夜ちゃんの言葉に水音は優しく微笑む。……本当に優しい笑みだ。凄い既視感がある。





 ……あ、そうだ。私が病んでいた時、水音はよくああやって微笑んでくれていたんだ。


 とても落ち着く笑い方だ。抱きしめたい衝動に駆られたが、ぐっと堪える。



 輝夜ちゃんはゆっくり深呼吸をした。来栖ちゃんがぎゅっと手を握る。幾分か落ち着きを取り戻したようだ。


「……ごめんなさい。怖がってしまって」

「いや、良い。苦手と言う事は聞いていたからな。俺の方こそすまなかった。…………もっと上手いやり方があったはずなのに」


 最後の言葉はやけに感情が篭っていた。私は何も言えない。


「……お願いが、あるんです。奏音ちゃんから聞いてると思いますが、改めて私から言わせてください」


 手は震え、体も震えている。


 それでも、眼はしっかり水音を見据えていた。



「私にサッカーを教えて欲しいんです」


 その言葉に水音も、来栖ちゃんも、私も、奏音も驚いた。


 男の人が怖いはずだ。それは水音も例外では無かった。


「……分かった。俺に出来る範囲ならな。だが、響とかに聞いた方がもっと「獅童さんが良いんです」……そうか」


 水音はじっと輝夜ちゃんを見た。輝夜ちゃんは目を逸らさない。


「ただ、一つ約束して欲しい。無理は絶対にするな」

「……はい、分かりました」


「あと、一つ……これはただのお願いになるんだが」


 一瞬、水音は躊躇った様子を見せた。珍しい。


「言ってください。私も獅童さんにお願いしているんですから」

「……そう、だな」


 水音は一度、ふうと長く息を吐いた。


「いつかで良い。理由を聞かせてくれ」


 私はその言葉の意味が分からなかったけど、輝夜ちゃんは分かったみたい。こくりと頷いた。



「さて、そろそろ皆集まってくる。先に行っとくからな」

「本当にありがとう……ございました」


 輝夜ちゃんは深々と頭を下げた。水音は微笑み、一足先にグラウンドへ向かった。




「ごめんなさい、火凛ちゃん。余計な事しちゃって」

「ううん……ちょっと驚いたけど大丈夫だよ」


 輝夜ちゃんから水音と仲良くしようとしてくれるのは嬉しい。輝夜ちゃんは男の人が苦手だったから。


「……そっちもですけど、獅童さんに酷い事をしてしまいましたから」

「ふふ。良いんだよ。輝夜ちゃんの事情も分かってるし、気持ちも痛いほど分かるから」



 とん、とんと階段を踏みしめて輝夜ちゃんの隣に行く。頭を撫でるとくすぐったそうに身を捩った。


「頑張ったね、輝夜ちゃん」

「……はい。ありがとうございます」


 そうしていると、奏音に肩を叩かれた。


「そろそろ行くよ、皆集まってくるし。あ、二人はもうちょい休んでた方が良いよ。先生には言っとくからさ」

「あ、ありがとう。奏音」


 来栖ちゃんはお礼を言って、またぎゅっと輝夜ちゃんを抱きしめた。本当に心配だったのだろう。


 その後、先生から許可を貰って輝夜ちゃんと来栖ちゃんは十分ほど休憩をしてから参加するのだった。

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