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第61話 奏音「はよ付き合えや」

「おかえり、火凛」

「……ん、ただいま」


 火凛は白いシャツに太腿までしか丈のないホットパンツと……かなり際どい格好をしていた。シャツはあの時試着したものだろう。……存在感が凄まじい。


「すごい格好してるね、火凛」

「……そうかな? 水音はこういうの好きだから」

「サラッと言うな」


 とんでもない暴露をしながら火凛はクスリと笑い、俺の隣へと座った。


「でも好きでしょ?」

「……嫌いではない」


 火凛がわざとらしく服を下に引っ張ると、奥から更に白い布地が出てきた。


 そこから生み出される深い谷間に視界を奪われる。目を逸らす事など不可能だ。


「ふふ……手、入れる?」

「…………馬鹿な事を言うな」


 火凛が嬉しそうにこちらを見てくるが、首を振る。二人きりならばまた話は変わってくるが、この場には奏音だって居るのだ。


「……お邪魔だったりする?」

「あ、ごめん。そうじゃなくって……ちょっと水音が可愛いなって思ってからかいたくなっただけだから」

 奏音が苦笑しながらそう言うも、火凛がぶんぶんと首を振った。火凛もそんな意図は無かったのだろうが、少々配慮に欠けていた。……じっと見ていた俺もそうだが。


 まあ、火凛も色々と限界が近いとは思う。結局お預け状態が半日続いていたからな。


「あ、そうそう。水音、さっきの話の続き……って訳じゃないんだけどさ。明日は私達……春とか輝夜にももうちょいサッカーを色々教えて欲しいんだ」

「……? もちろん構わないが。あまり教えられる事も無いぞ。あくまで俺のポジションはキーパーだしな」

 奏音は俺の言葉を聞いて嬉しそうにガッツポーズをした。そして、理由を話し始める。


「いやさ。前の時に火凛が上手い具合にボール取れたじゃん? あれ見てさ。輝夜が『かっこいい!』ってなってさ。もちろん私も春も思ってたんだけど。折角だし私達も活躍してみたいなって」

「それ、私も初耳なんだけど」

 火凛も驚いた風だった。


「あれ、そうだっけ? ……まあ、面と向かって言うのはちょい恥ずいもんね」


 まあ、奏音の言いたい事も分かる。PKなどでボールを取れた時に浴びる声援は確かに嬉しい。それに、チームの役に立っていると実感出来る。

 少しだけ不安そうに見てくる奏音を安心させるように微笑みかけた。


「もちろん良いぞ。というか、元々ある程度は教えるつもりだったんだがな」

「ほんと!? ……や、最初はね。水音と火凛を二人きりにさせるために仕込んだんだけどさ……」

 奏音がばつが悪そうに火凛を見るが、火凛は微笑んだ。


「大丈夫だよ。アピール出来そうな時は遠慮無くするから。……それに、水音にももうちょっと二人と仲良くして欲しいから」

 火凛の言葉に俺も頷く。火凛の友人である二人と仲良くしても損は無いだろう。いざと言うときは頼りにしたい。


 奏音は少し考え込んだ後に頷いた。


「ん、そだね。……自分から言っといてなんだけど、輝夜には気をつけて接してね。あの子、相当男の子苦手だから」

「了解だ」

 必要以上に近づき過ぎない方が良いのだろう。念頭に置いておく。



「そんじゃ、良い時間になってきたし私はいこうかな」


 時計を見ると、時刻はもう六時半となっていた。俺が家に着いてからもう一時間半近く経っていたのか。その半分以上は一人だったが。


「もう行くの?」

「晩ご飯までに帰らないと怒られるからね。お風呂ありがとね、楽しかったよ。水音も色々ありがと、よろしくね」


 少し含みのある言い方だ。体育祭の件も含めての事だろう。……なんとなく、火凛にも言うなと言われている気がするが間違いではあるまい。


 サプライズか何かだろうな。……あと、行動を起こすなら俺の方からやって欲しいという思いも少なからずあるのだろう。その気遣いは俺からしてもありがたい。


「ん、じゃあ私が見送ってくるよ。ついでに晩ご飯も作ってくるね」

「良いのか……? 助かる」


 火凛はにこにこと頷いた。立ち上がり、奏音を連れて出て行く。


「それじゃまた明日ね、ばいばい、水音」

「ああ。明日な」


 笑顔を見せながら出て行く奏音に手を振れば、笑顔はより一層深いものとなった。


 ◆◆◆


「ご馳走様。おいしかったよ」

「お粗末様でした」


 夕飯を食べ終え、食器を片付ける役目は俺が請け負おうとしたのだが、火凛に止められた。

「いつもは水音がやってくれてるからね」

 との事だ。ありがたく座りながら火凛を見ていると、良くない感情が芽生えそうになってくる。


 ……家で火凛が家事をすることは珍しい事ではない。だが、こう……学校では決して見せない姿に見蕩れてしまう。



「ふふ。裸エプロンの方が良かった?」

 そんな俺の視線に気づいて火凛はそんな事を言う。思わず視線が泳ぐ。


「……いや、そのだな。今の姿もとても良いんだが……今度頼む」

「ふふ。素直でよろしい」


 実際、何度かやってもらった事はある。……最終的に料理どころでは無くなったが。


 そうして火凛を眺めていると、すぐに皿が無くなっていった。

「よし、洗い物終わり!」



 火凛がタオルで手を洗い、そう言った。


「お疲れ、火凛」

「ありがと」


 火凛が来るのを待ち、部屋へと向かった。手をぎゅっと握ってくる火凛を見る。



 その眼はギラギラと輝いていたが、見て見ぬ振りをした。



 ◆◆◆


 ベッドに座ると、火凛は俺に向き合うように膝へ座るようにした。膝に違和感が生じる。


 生暖かい。

「……ふふ。ばれちゃった」

「……お、お前な」


 火凛が選んだホットパンツは少し大きめの物となっている。……見てみれば、布と太腿の境目からチラチラと覗くのは下着ではなく……



 ぬぢゅり、と淫猥な音が響いた。


 だが、俺はその音が気にならなくなかった。これ以上に予想外の事が起きていたからだ。


「……剃ったのか」

「ふふ……ん、奏音とお揃いだよ。……水音、じっくり見たんでしょ?」


 俺は火凛の言葉に呼吸が止まったかのような錯覚を覚えた。

「なっ……んでそれを」


 その事は火凛に言っていなかった。……タイミングが無かったと言い訳を心の中でしてしまうが、首を振ってそれを消し去る。


「ふふ。なんでだろ? 前までの水音なら無かったはずなのにね。……同級生のスカートが捲れようが、転んだ女子を起き上がらせようとして変な所を触っても……一切反応しなかったのにね」


 火凛の言葉に俺は押し黙る。


 ……罪悪感が凄い。


「そんな顔しないで。……私ね。少し嬉しいんだよ」

「……え?」


 少し上を向けば、火凛と目が合った。……というか、俺は目を逸らしていたのか。


 こんな酷く蠱惑的で、野性的な瞳から。


「水音は女の子を知ろうとしなかったから。私だけを見てくれるのも嬉しかったけど……視野が広がって、私を選んでくれるのならもっと嬉しいかな。ううん。誰が相手だろうと私を選ばせるよ。絶対」

 その瞳から視線が離せない。……逃がさないと言わんばかりに頬に手を添えられた。


「『火凛より良い女は居ない』って、自信を持って言わせられるような女になるからね、私」


 頭が、では無く心で理解した。







 ああ、火凛から逃げる事は出来ないのだと。







 ……だが、それはそっくりそのまま火凛へ返せる。


「俺は独占欲が強いぞ。他の男にかまける時間なんか作らせないからな」

「ふふ。大丈夫だよ。私の眼には……もう水音以外映らないから」

「いつかは映るようになる。絶対な。……だが、その時が来ようと渡す気は無いさ」


 火凛が俺の手を取り……下腹部へと導かれる。火傷しそうなぐらい熱く狭い物の中に指がつぷりと入った。


「私の体は水音専用だよ」

「なら俺の体だって火凛専用だ」


 チロリと肩を舐められる。……そういえば噛み跡があったはずだが、奏音は何も言ってこなかったな。……気を使わせたか。


「今、奏音の事考えてたでしょ」

「……どうして分かったのか非常に気になるが……悪かった」

 行為中に他の異性を思い浮かべるのはマナー違反だろう。そう考えたのだが、火凛は舌なめずりをした。


「ふふ。意識させたのは私だから。……ほら、奏音も生えてなかったでしょ?」

「おま……えな」



 そう言われれば、嫌でも思い出してしまう。……全然嫌ではないという事は置いておいて。


 だが、火凛の顔から顔は逸らせない。それは不誠実にも程があるだろう。


 火凛は俺の顔を……それこそ舐めまわすように見た後に満足そうに息を漏らした。


「ふふ。意地悪してごめんね。こんなに慌てる水音、久しぶりだったからさ」


 愛しい子供を撫でるような手で頭を撫でられる。しかし、その瞳に宿る情欲は勢いをどんどん増していく。


「ほんと……かわいい。初めてみたいに顔が真っ赤で、でも……ん、体は私のどこが善いのか知ってる」


 ああ、あのモードに入った火凛はやっぱりいつもより……かなり積極的だ。


 ……だが。


「やっ……ちょ、水音、いきなり……ぁっ!」

「……悪いな。俺ももう限界なんだ」


 朝からずっと生殺しだ。……昼の事でも、帰ってからの事も。


 日頃から鍛えていなければすぐに臨戦態勢に入っていたはずだ。そうなれば迂闊に立ち上がる事も出来ないだろう。


「……ん、ふふ……やっ、良い、よ。来て。……ッ、」



 火凛を思い切り抱き締めれば、甘い匂いと共に柔らかい感触が顔を包み込んだ。




 あくまで『受け』の体勢を取っていた火凛であったが、その眼が捕食者の物から変わらなかった事を知った頃にはもう遅かった。

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