第58話 火凛の懺悔
完全に更新忘れてました……申し訳ないです
「やっほ、火凛。言われた通り来たよ」
扉を開けると、ニカッと元気な笑顔を浮かべた奏音がそこに立っていた。
今日は奏音が珍しく課題をやり忘れていたらしく、先に帰っていて欲しいと言われた。
待つとも言ったんだけど、どれぐらい時間が掛かるか分からないと言われて帰された。
……もちろん、水音にもちょっと時間がかかると伝えていた。
水音は珍しく友達とどこかに行くようだった。水音の交友関係は基本的に狭く浅いんだけど、一部例外があるみたい。
家に帰ってから一時間近く経ってから奏音が来たのだった。
「ん……入って」
「お邪魔しまーす」
奏音を家の中に入れ、部屋まで連れて行く。その間ずっと、私の心臓は嫌な音を立てていた。
「それでさ。どったの? 火凛、急に呼び出してさ……火凛?」
奏音が不思議そうに首を傾げた。
一度、深呼吸をする。
まだ、すぐ感情的にはならない方がいい。それだけじゃ奏音も私が何を伝えたいのか分からないはずだ。
「奏音。いきなりじゃ分からないと思うから、まずは土曜日にあった事を説明するね」
「ん? ……ああ、なんだっけ。『私を利用したい』って連絡入れたやつ? よく分からないけど……何があったの?」
……あの日、私は水音のお父さんから二つの宿題を出された。水音と将来の事を考えるためにやって欲しい事。
一つ目は、水音を見つけ出すこと。昔遊んだ場所を巡るつもりだったけど、運良く最初で見つける事が出来たので問題ない。
……問題があったの二つ目の方だった。
「『水音から本音を聞き出す事』」
そう、言われたのだ。
「……水音のお父さんからは二つ宿題は出されたんだけど、もう片方は大丈夫だった。だけど、こっちは私にはどうしようも……ううん。あの時の私にはすぐに解決策が思い浮かばなかった」
目を伏せそうになってしまうが、無理やり視線を上げて奏音の顔を見る。
「へぇ。でもまたどうして私を使いたくなったの?」
水音がずっと私に気を使っていたこと。……特に、女性関係。水音は女の子と意図的に関わらないようにしていた事も話した。
「ああ。……確かに。水音がビビるぐらい女子と話さなかったのって、確かに火凛の事があったからなんだろうね」
そう……だから、私の言葉だけでは水音から本音を引き出す事は難しいと考えた。
「ん……ここからが本題」
水音から話していいと許可は貰った。だから……あの時の事を話す。
「私は、水音が気を使わないようにさせるにはどうしたらいいのか考えた。……それで、思い浮かんだのが、『他の女子とセックスをしてもいい』って私から言う事だったの」
本当にそれで良いのか。悩んだけど……水音と玉木君が話しているのを聞いて、私は決めたのだった。
「……え!? ちょ、ちょい待ち。それで私の名前を使ったって訳だよね?」
「……うん。奏音が、水音の事を少しでも気にし始めていたから。だから、奏音を引き合いに出してしまった」
あの時の私は必死だった。でも、そんなのただの言い訳にしか過ぎない。
私は、友人の心を弄び、利用したのだから。
慌てた様子を見せていた奏音の瞳がスっと細くなった。
「……続けて」
一度目を瞑り、言葉を続ける。
『奏音とセックスしない?』
『私が奏音と、水音と3Pしたいって言ったら?』
『奏音とセックス出来る?』
「……って、聞いてしまった。だから、今日はあやまり「待って」」
奏音は今まで見た事がない表情をしていた。
酷く冷たい眼だ。
怒っている。いや、私のやった事を考えれば当然だ。
殴られようと、罵られようと覚悟は出来ていた。
……たとえ、私の事が嫌いになったとしても――
「まだ、話してない事あるよね?」
しかし、その口から出たのは意外な言葉だった。
「……え?」
奏音は自分の手を揉み、眉を顰めた。
「それだけで火凛が私の名前を出すなんて有り得ないから。絶対に。少なくともあと一つ、火凛が急ごうとしていた理由、あるよね」
思わず言葉が詰まった。
「火凛は良い子だよ。根っからの。理由がそれだけなら私の事を言ったりしない。時間ならいくらでもかるからゆっくり解決すれば良いよね。私に相談すれば良いし。でも、火凛はそうしなかった」
どうにか喉から声を絞り出す。
「……でも、それは。言い訳にしかならないから」
「良いから。全部言って」
あまりの圧に思わず一度目を閉じてしまう。
「……あの時、水音が。辛そうにしていたから」
違う。これだけじゃ伝わらない。
「……私が、水美とお風呂から出てきた時。その時、水音が水音のお父さんと話してて……凄い落ち込んでたみたいだったから。早く元気になれば良いなって思ったけど……水音のお父さんに言われて。……自分から一人になるぐらい落ち込んでいたみたいだから」
水音も、あんな後ろ姿は……見られたくなかったはずだ。
現に、あの時の水音は決して振り向こうとしなかった。自分の事でいっぱいだったから。
……そんな水音を今すぐにでも助けたかった。でも、私にはなんて声を掛ければ良いのか分からなかった。
「水音のお父さんの宿題をすぐに解決すれば、水音が助けられると思った」
だから私は奏音を利用した。一番手っ取り早く自分の覚悟を示せる方法だったから。
最低だと思う。自分の覚悟を示すために友達を――親友を売るなんて
「火凛。顔上げて」
気づけば、私は俯いていた。顔を上げた瞬間、体が暖かいものに包まれていた。
「……え?」
「前も言ったっしょ? 私は水音と火凛が仲良くするためなら何でもするって。その言葉に偽りは無いから。そんなんじゃ怒んないよ。怒るはずが無い。……まあ、水音の事がちょーっとだけ気になってるってのが火凛にバレてたのは驚いたけどさ」
奏音は、そう言ってとんとんと背中を叩いた。
「私が怒ってたのはね。ちゃんと相手の立場になって考えたかったから。でも、火凛は自分が有利になるはずの情報を一切話さなかった。自分がその人だったらどう対応するのか、どんな感情だった、とか考えたいんだ。だから、火凛が私の事を使ったのは間違ってない……ううん。嬉しいぐらいだよ。私を頼ってくれたって事だから。当然、水音がその提案に乗らないって事まで織り込み済みなんでしょ?」
「……ん。それは分かってたから。でも、私は奏音と水音が…………しても怒ったりしないよ?」
そう言うと、奏音は笑った。
「しないっての。……それに、私もまだこの感情がよく分かってないからさ。単純に慕ってるだけかもしれないし? まあ、それは置いといて。だから、謝る必要は皆無。……ま、正直にちゃんと言ってくれたのは嬉しいけどさ。ありがとね、火凛」
「……ううん。私こそ、ありがとう」
そう言うと、奏音はニコリと笑った。
「正解だよ、火凛。謝ってたら説教してた。これからも私の事はガンガン利用してって良いからね」
奏音はそう言ってくれたが、私は首を振った。
「……ううん。やめとく。あの時は必死だったけど、後から考えてどれだけ酷い事を言ってたのか分かったから」
そう言うと、奏音は優しく頭を撫でてくれた。
「そっか。偉いよ、火凛。私以外の名前を出してたら私も怒ってたからね。……一般的に見たら、良い事では無いからね」
「うん……」
また、私は抱きしめられた。
「よし、それじゃまた仲良くなった事だしさ。風呂入らない? 一緒に」
「……え? また急だね。服は……私の着ける?」
「おお……拒まないんだ。や、火凛が水美ちゃんと風呂入ったって聞いたからさ。裸の付き合い的な?もっと火凛の事知りたいから。あと、制服着けてくから良いよ、大丈夫」
「……分かった。奏音なら良いよ、入っても」
思わずくすりと笑ってしまった。
「お詫びも兼ねて、ね?」
「よし、じゃあ入るぞー!」
これからは困った時はちゃんと考え、水音か奏音に相談しよう。
元気よく立ち上がる奏音を見ながらそう思った。
◆◆◆
「……それにしても、またどうして俺を誘ったんだ?」
「ん? 別に理由なんか無いに決まってるだろ。強いて言うなら暇そうだったから。次行くぞ、次」
俺は響に声を掛けられ、何故かゲームセンターへと来ていた。そこでリズムゲームやダンスゲーム、クレーンゲームなど様々なゲームを響とやった。
「……ゲームセンターって案外楽しいんだな。相応の体力は使うが」
「妙に珍しそうにやってるなと思ったら来た事無かったのかよ。その割にはセンスあったけどな」
俺はゲームセンターに行った事がほとんど無かった。理由としては……偏見に満ち溢れているが、治安が悪そうだからである。
火凛と来るのは厳しそうだと思っていたが、この様子だと問題無いだろう。今度行ってみよう。
そう考えていると、スマホが一度ヴー、と震えた。
『ちゃんと話をして許して貰えた。もういつでも帰ってきて良いから』
……上手くいったようだ。まあ、白雪が怒るとも思っていなかったが。
「響、今日の所はそろそろ帰る事にする」
「お? まじか。じゃあよ。今度は玉木も連れてカラオケにでも行こうぜ」
玉木の名前が出た事に多少なりとも驚いてしまうが、そういえば知り合っていたと言っていたな。
「……ああ。今日も楽しかったが、玉木が居るとまた一段と騒がしくなりそうだな」
「同意だよ。でも、別に玉木と居るのが嫌って訳では無いだろ?」
「ああ。騒がしいのは嫌いじゃない」
玉木は見ていて飽きないし、振り回されるのもたまには良いだろう。
「じゃあ俺はもうちょい遊んでくるから。気をつけて帰ってな」
「ああ。そっちも。……ありがとな」
手を振ると、響も笑って手を振り、去っていった。
「……久しぶりだったな。火凛以外の同級生と遊びに行くのは」
俺は友人が少ない。だからこそ、こういった時間は貴重だ。玉木と響との時間も大切にしよう。
……響は俺と火凛を面白がっている感じはあるが。まあ、馬鹿にしているという訳では無さそうだし良いだろう。
そうしてゲームセンターから抜けようとすると、一つのクレーンゲームが目に留まった。
「……お土産でも持っていくか」
◆◆◆
「……まさかこれほど難しかったとは、ギリギリ許容範囲だが」
二千円近く使って取ったお土産をカバンの中にしまい、家へと帰る。ここから火凛の家まではそこまで遠くない。
帰り道を歩き、火凛の家がすぐそことなる。すると、スマホがまた震えた。
『お風呂入ってるから洗面所の所は来ないでね』
火凛の家は脱衣所と洗面所が近い所にある。だから言ってるのだろうが……
「……白雪と風呂に入ってるのか? いや、単純に火凛が恥ずかしがってるだけか?」
……まあ、どちらにしても台所で手を洗えばいいか。
『もう家に着くからな。了解した』
そう送り、スマホをポケットの中に滑らせる。
火凛の家の鍵をカバンから取り出し、玄関を開いた。
「あ、火凛! ちょっとお願いしたいのが……」
脱衣所の……そして、洗面所の外にまで出ていた白雪は……
全裸だった。




