表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/156

第51話 本屋デート……?③

 もう大丈夫かと思ってレジの方を見てみる。しかし、火凛達三人はまだ話していた。もう少し時間を潰すかと思ったのだが、種崎さんが俺に気づいたのか笑顔で手をこまねいた。


 火凛も俺達に気づいたようで、ニコリと微笑んでからおいでと目で訴えかけてくる。春咲も俺と水美に気づいているようだった。


 水美と手を繋ぎ、共に三人の元へと向かう。すると、種崎さんは俺達を見て微笑ましそうに笑った。


「や。それにしてもさ。相当仲良いよね、二人共。火凛ちゃんは嫉妬とかしないの?」

「しませんよ。……水音を独り占めしてたのは私の方ですし」


 少し罪悪感に駆られたような表情で、火凛はそう言った。水美は当然それに気づいている。


「……僕は兄さんも大好きだけど、姉さんの事も大好きだからね?」

 水美は一度俺から離れ、火凛の手を握った。微笑ましい。そう思ってニコニコとしていたら、種崎さん……と、春咲が驚いた様子で俺を見た。


「え、何? 籍入れたの? おめでとう」

「やっと入れたんだね」


 しかし、驚きは納得へとすぐに変わる。そんな事を言い始めた二人を見てずっこけそうになった。


「いや……どうして納得してるんだ二人共。火凛とは幼馴染だって言ってるだろ……水美も幼い頃から火凛と遊んでいたから呼んでもおかしくないだろ?」


 実際の所、水美が火凛の事を『姉さん』と呼ぶようになったのは昨日からなのだが……長年そう呼んでいたかと錯覚するほど馴染んでいた。


 俺の言葉に二人は苦笑いをする。


「だって……ねえ? あれだけ仲良いんだし。私は次に二人が来た時、火凛ちゃんのお腹が膨らんでても驚かないよ? ……水音君なら責任もちゃんと取るだろうしさ」

「……火凛ちゃんから色々聞いてますけど、誠実みたいですし。獅童君は」


 それがありえない話では無いのが一番怖いのだが。もしそうなれば、俺は高校を辞めて働き口を探さねばならない。




 ………………というか、そうなれば俺は必然的に火凛と結婚する事になるのか。


 バカな妄想をしてしまった。それで良いはずがない。流れで、とか既成事実だから、などと言った理由で迫るのはダメだろう。


 一度呼吸を整えて火凛達を見てみる。火凛は上の空と言った様子だ。……それは良いのだが、問題はその横で火凛にくっついている水美だ。


 すっごい良い笑顔だ。ニコニコと楽しそうな表情をしている。


「……水美?」

「兄さんと姉さんの子供って絶対可愛いでしょ! その時は一番に僕に報告して欲しいな!」


 無邪気な笑顔でそう言われ、ピシリと固まってしまった。火凛もその言葉で上の空から戻り、顔を真っ赤にし始めた。


「へぇ……水美ちゃんさ。お母さん達も二人の仲は公認なの?」


 水美の言葉に頭が真っ白になっていて、その言葉に反応する事が出来なかった。


 ……いや、反応出来た所で、どう誤魔化せば良いのかも分からなかっただろう。


「はい! お母さんもお父さんも早く孫の顔が見たいって言ってます!」

「俺も初耳なんだが!? 嘘だろ!?」


 いや、父さんからは子供が出来てもどうにかすると言われたが……それとこれとは全然話が違うだろう。


「あれ? そうなの? 本当だよ。お父さんとかすっごい楽しみにしてるよ」

「……凄いね、獅童君の家族。まさか本当におっけーなんて」


 ……なんだかもうぐちゃぐちゃだ。種崎さんは俺と火凛が複雑な関係であると言う事は気づいてるはずなのだが……いや、正確に伝えてるわけではない無いしな。……そんな種崎さんは、面白そうにニヤニヤと俺と火凛を見ていた。


 かと思えば、口を開いてこう言った。


「へえ。でもこういうのって女の子の方のお父さんに許してもらうのが一番大変だよね。でさ。そこんとこどうなの? 火凛ちゃん」

「ふぇ!?」


 顔が真っ赤な時の火凛は極度に防御力が低くなってしまう……特に口が。あまり喋らせすぎない方がいい気がする。だが、どう遮ればいいのか分からない。俺も混乱が治まっていないのか。


「え、えっと……あの、お父さんは……水音と…………こ、子供はまだ家計が大変だからダメらしいんですけど、しょ、将来は「火凛、一旦ストップだ!」」


 物理的に火凛の口を手で塞ぐ。こちらだって頭はパニックだが、これ以上言わせるのは良くない。本当に。


「……種崎さん。あんまりからかわないでください」

 じろりと睨むと、種崎さんは笑った。


「ごめんごめん、お節介だったね」

「ええ、本当に。そろそろ本気で怒るところでしたよ」


 昨日あれだけお互いに言い合ったのに、ここでなし崩しに色々なってしまうのは良くない。俺にとっても、火凛にとっても。


「ごめんって。本当にお節介だったみたいだね」


 少し焦った様子の種崎さんを見てやっと溜飲が下がる。


「おねーさん達暇だからさ。もうちょいおしゃべり付き合ってよ」

「……種崎さんって凄い豪胆ですよね。良いんですけど」


 この店に客はほとんど来ない。どうしてなのか、と聞かれても俺には分からない。種崎さんは美人な方だし、現役JKがバイトをしているのに男性客すら来ないのだから。


 俺の疑問に気づいたのか、種崎さんは笑いながら口を開いた。

「ん? ああ、この店はね。ちょーっと訳ありなんだよね。色々あってご近所さんからも嫌われてるし、クチコミで悪い評判が広がってるのよ」


 ……サラッと衝撃の事実が明かされた。それに対して疑問が湧き上がる。


「……深くは聞きませんけど、一つだけ良いですか?」

「んー? いーよいーよ。さっきのお詫び。何でも答えちゃうよん」


 そのお言葉に甘えて疑問を解消させてもらおう。


「それで生活とかどうやって成り立たせてるんですか?」

「……ああ。私さ。色々と別の事業とかやってるんだよね。どっちかっていうと本屋は副業……? や、趣味みたいなもんかな。案外楽しいもんだよ。本に囲まれる生活ってのはさ。春咲ちゃんも来るし、こうして水音君達も来るから……ね」


 種崎さんはパチリとウインクをした。……なるほど。人が来なくても構わないというスタンスなのか。


「あ、そうだ。折角だし水美ちゃんの事知りたいな。中学生だよね、部活とかやってるの?」


 そして、納得している俺を横目に水美へそう質問した。……懐かしいな。確か、俺と火凛がここへ最初に来た時もそんな質問をされたか。


「あ、バスケ部に入ってます」

「へぇ。バスケかぁ……懐かしいな。って言っても授業でやったきりなんだけどさ」


 そうして水美と種崎さんの間で会話が進む。時折まだ顔が赤い火凛が会話に入ったりしている中、俺は肩をちょんとつつかれた。見ると、春咲が何か言いたそうにしている。


「……あのさ。獅童君。ありがとね、店長から聞いたよ。相談に乗ってくれたって。それで……今日火凛ちゃんも連れてきてくれたから。助かっちゃった」


 ……種崎さんはわざわざ水美を引き付けてくれたのだろうか。さすが大人だ。気遣いが凄い。人をからかうのさえ無ければ良識のある大人なのだが。


「ああ、どういたしまして。……無理だけはしない方が良いぞ。負担は掛かるだろうからな」


 ……最初の方は俺も火凛も筋肉痛になっていた。腰を痛めなかったのは単に運が良かったからだろう。一歩間違えればぎっくり腰などを発症してもおかしくないし、擦れすぎて痛む事もあるだろう。火凛はならなかったが。


 そう思って言ったのだが、春咲がくすりと笑ってるのを見て気づいた。


「……と、友人が言ってた」


 ……まるで、実体験を話していたみたいだ。実際そうなのだが。手遅れではあるがそう付け加える。すると、春咲はふっと噴き出した。


「ふっ……くく。そうだね。そういう事にしておこっか。もしかしたらまた相談に乗ってもらうかもしれないからね。二人には」


 かちゃりと眼鏡を掛け直しながら、春咲はそう言った。


「ああ。気軽に相談してくれ」


 異性に相談出来る事自体なかなか凄いと思うにだがな。たとえ種崎さん経由だとしても。


 そして、妙に会話が弾んでいる三人と合流するのだった。


 ◆◆◆



「あー、楽しかった」

「水美が楽しかったのなら良かった」


 ……だが、まさか昔の俺と火凛の話をするとは思わなかったが。



 種崎さんはどこまで俺達の関係を察しているのだろうか?

 ふと疑問に思った。変な勘違いをしてる可能性もある……いや、そもそも変な関係なのだが。今度聞いてみるか。


 そして、俺達は今火凛の家へと向かっている。着替えを取り、火凛のお父さんと合流するためだ。


 火凛が朝連絡を取ってくれていたらしい。二つ返事でOKを貰えたので、どうせなら一緒に行こうとの考えだった。


「そういえばさ。姉さんのお父さんってまだ忙しいの?」

「ん。まだまだ忙しいみたい。一週間に一回帰ってきたら良い方だから」


 少しだけ寂しそうに火凛は言った。……火凛の将来を考えてやっているのだから、当然火凛のお父さんが悪い訳では無い。家に居る時は火凛の事も、俺の事も可愛がってくれるし。


 ……だが、もう少し時間を取って欲しいと思ってしまう。俺が思った所でわがままに過ぎないのだろうが。


 そんなこんなで三人で歩いていると、火凛の家までもうすぐとなった。


「……? 珍しいな」

「どうしたの? 兄さん」


 路駐している車があった。白塗りで、少し高そうな車だ。


「ほんとだ……珍しい」

 火凛も少し驚いたようだった。


「この辺に路駐している車は少ないんだ。近くにスーパーがあるからな。やるとしてもそこに停める車の方が多い。……近所の車でも無いからな」


 ……そんなに気にする事でも無いのだが。


「まあいいか。……ああ、そうだ。俺もカバンを取らないといけないか」


 明日からは学校だ。その事を思い出して言ったのだが、火凛が俺に微笑んだ。

「ん。私が取ってくるよ。準備はすぐ終わるだろうし。お父さんも居るはずだからリビングで待ってて」

「ああ。分かった」


 玄関へとやって来て、火凛は鍵を取りだした。カチャリと鍵は開けられる。


 ふと、視線を感じて振り返った。しかし、歩いている人は居ない。


 まさか、と思い車を一目見てみた。中には一人の男が乗っている。



 視線が合ったような、そんな気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ