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第38話 昔と今

「懐かしいな。このゲーム」


 水美が遊びたいと言っていたゲームは、国民的なゲームキャラがカーレースを行うゲームだった。


「えへへ……昔よく三人で遊んでたからね。この前お母さんに新しいの買ってもらったんだ」


 水美がコントローラーを持ってきた。数を揃えていると言う事は、友人達とも何度かやっているのだろう。水美は俺と違って友人も多いし。


 水美はニコニコとしながら俺と火凛へコントローラーを渡した。壊さないよう丁寧に受け取る。


「……大丈夫かな。あの時もそうだったけど、私はゲームあんまり得意じゃ無かったから」


 火凛は少しだけ不安そうにしている。それを見て、水美はくすりと笑った。


「大丈夫だよ。あの時だって一番楽しそうだったのは火凛ちゃんだったし。それに、私と兄さんでやり方とかも教えられるし!」

「俺も初プレイなんだけどな……」

 水美の言葉に思わず苦笑する。火凛の家にもゲームはあるが、昔の物だし、最近はあまりやれていない。


 しかし、水美はどこか得意げな顔をしていた。


「兄さんの事だからすぐに慣れるよ。操作方法は簡単だからね」


 軽く水美から操作方法を教わり、ソファーへと座る。俺の左に火凛、右に水美が座った。


 火凛がコントローラーをかちゃかちゃと触っている。それを見ている俺に気づき、火凛は恥ずかしそうに笑った。


「昔やってたのって、携帯ゲーム機とか、もっと重くて大きいコントローラーだったから。ちょっと驚いちゃった」

「そうだな。確かに軽くなってるし……このスティックとかも無かったしな」


 ぐるぐると滑らかに動くスティックに少しばかり感動しながら他のボタンも触ってみる。


「よし、準備出来たよ。好きなキャラ選んでみてね。軽いのとか重いのとかあるけど、最初はあんまり気にしなくて良いから」


 気づけばキャラクターの選択画面が表示されていた。


「……おお。かなり増えているな」

「ほんとだ。いっぱいいるね」


 敵キャラクターも味方キャラクターもかなり増えている。最新作で出たと思われるキャラクターなどもいる。中には俺の知らないキャラクターもいた。


 様々なキャラクターが居て目移りしてしまう。


 ……だが、いつもので良いだろう。パッケージの中央にでかでかと写っていて、タイトルにも名前が入っている看板キャラを選んだ。


「やっぱり兄さんはそのキャラクター選ぶんだね。じゃあ僕はこのキャラにしよっと」


 水美は俺のキャラの弟に当たるキャラクターを選んだ。昔もそうだった。


『兄さんの妹だから、なんとなくシンパシーを感じたんだ』


 そんな理由で選んでいて、この作品のシリーズではほとんど毎回このキャラクターを選ぶようになった。



「……じゃあ私はこれ」


 そして、火凛は女性キャラを選んだ。……確か、悪役に連れ去られて、俺の選んだキャラクターが助けに行く。そんなメインヒロイン的なキャラクターだったはずだ。


 そのキャラクターを選んだ理由は……聞いた事が無かった。当時はあまり気にしていなかったが。


 ……まあ、火凛も女の子だから可愛いキャラクターの方が好きなのだろう。


「結局、昔と同じキャラになったな」

「そうだね。なんとなく予想はしてたけど」

「ふふ。こうやって三人並んでゲームするのも含めてだけど、懐かしく感じるね」


 嬉しそうに微笑む火凛へと微笑み返していると、水美が俺にもたれかかってきていた。


「昔はこんな感じで兄さんにもたれながらやってたよね。……重くない?」

 少し不安そうに聞いてくる水美の頭を撫でる。


「まったく重くないから安心してくれ。兄なのに妹一人支えられなくてどうするんだ。もっとちゃんともたれても良いんだぞ」


 普段から、火凛に乗られたりだっこしたりしている影響もあり、筋力はかなり付いてきている。妹一人の体重ぐらいは気にならない。


「えへへー。じゃあ昔みたいにやーろおっと」

 水美は遠慮する事無く体重を預けて来た。兄として、こうして甘えて来てくれるのは嬉しい。


 そして、気づけば火凛も肩が触れる程度には近づいてきていた。


「……ん。私も昔みたいにやろうかなって」

「……ああ。そうだな」


 そして、そのまま水美から話を聞きながらカートのカスタマイズ、レースの場所などを決めた。


「最初だからCPU……敵は弱いに設定してるからね」

「ああ、助かる。今更だが、特殊な操作方法とかは無いよな?」

「だいたいあの時のと一緒で変わらないよ。後はさっき教えた通り。覚えてる?」

「……ああ、覚えてる。火凛は?」

「ん。大丈夫、覚えてるよ」


 俺と火凛の返事を聞いて、水美は満足そうな顔をした。


「それじゃ、始まるよ……」


 ◆◆◆


 試合は順調に進んでいた。十二人いる中、水美が一位で、俺が三位。……そして、火凛は十位となっている。


「……しょっちゅう落ちるんだけど、どうすれば良い?」

「んー……そうだね。今作はスピード感が凄いから、ブレーキとか使うと良いかも」

「ああ。あと、アイテムはちゃんと取る事も大事だな。多分、昔と同じで順位が低いほど良いものが出やすい仕様のはずだ」


 火凛は俺達の説明を聞いてふむふむと頷いた。


「まあ、やっていけば慣れると思うよ。火凛ちゃんは頭良いし」

「ああ。すぐ上手くなると思う」


 火凛はぐっと拳を握った。


「うん。頑張ってみる!」



 ◆◆◆



 ……そうしてプレイが再開されたが、その最中、もう一つ重要な問題点がある事に気づいた。



 プレイ中、左隣から視線を感じるのだ。


「……火凛?」

「ん。どうかした?」

「いや、今俺の事見てなかったか?」

「……気のせいだと思う」

「……そうか」


 画面へ戻る。現在の順位は二位だ、コーナーを落ちないようブレーキを駆使しつつ周り、アイテムを取る。



 また、視線を感じた。


「火凛?」

「気のせいじゃない?」

 火凛はじっと画面を見ながらそう言った。


「俺はまだ何も言っていないんだがな……」


 その時、水美がくすりと笑った。

「火凛ちゃんは昔から変わらないよね、ほんと。楽しそう」

「どういう事だ?」


 水美へとそう尋ねる。しかし、それに答えたのは火凛だった。


「だって……水音のこんな表情、あんまり見れないから」

「分かる。兄さんっていつも微笑んでくれたり結構表情豊かだから、真面目な顔っていうのも良いよね」


 水美は火凛の言葉にうんうんと頷いた。


 かあっと、二人の言葉で思わず顔が熱くなるのが分かった。


「……何を言ってるんだ」

「だって、兄さんすっごい集中してるんだもん。自分で知らないの? 兄さんってすっごいかっこいいんだよ?」

「ん。いつもかっこいいけど、特にかっこよくなってるから……言っとくけど、曲がる時とかはちゃんと画面見てたし、余裕がある時しか見てなかったからね?」


 どんどん顔が熱くなるのが分かる。しかし、そんな事を構わず二人は続けた。


「……ふふ。兄さんって褒められるとすぐ赤くなるよね。いつもとのギャップもあるんだろうけど、可愛く感じる」

「ん、すっごい分かる」

「お前らな……」



 顔を手で覆いたいが、コントローラーから手を離す訳にはいかない、



 ……こうなったら、反撃をするしか無い。


「そうは言うが、二人だって可愛いだろ」

「ふぇ?」

「……!?」


 画面から長く目は離せない。しかし、二人の様子が変わった事は雰囲気で分かった。


「水美は兄さん兄さんって人懐っこいし、表情もころころ変わる。それに、よく笑うからな。笑顔が似合う素敵な女の子になってくれて俺は嬉しいぞ」

「……うぅ…………あっ! 落ちちゃった。……急にそんな言わないでよ」


 自業自得だ。甘んじて受け入れて貰おう。


「火凛、お前もだ。一緒に料理がしたいとか、手を繋がないと拗ねる所とか可愛いにも程があるだろ。……それに、火凛って笑うと幸せが顔に滲み出る所も可愛い」


「んっ……」



 一目火凛を見てみれば、顔がにやけてしまっている。……水美も同様だ。


 ぽすりと、水美が俺の肩に顔を擦り寄せた。火凛もそれに続く。


 画面はと言うと、ポーズ状態へと切り替わった。



 俺も上を見上げ、顔を手で覆った。そして、長く深く息を吐く。




「……あんた達、本当に仲良いわよね。ママ友に聞いたんだけど、うち程仲良い兄妹は居なかったわよ。火凛ちゃんみたいな可愛い幼馴染もだけどね」


 いつの間にかやって来ていた母さんの言葉も、上手く頭に入って来なかった。

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