第35話 仲良し高校生カップル
最近遅れていて申し訳ありません……
「ん、水音。こっちの野菜の方が新鮮だよ」
「ああ、ありがとう」
水美に何か食べたいものがあるかどうか聞いたら「サンドイッチ!」とノータイムで返された。
火凛の家にはもう材料がほとんど無かった。白雪達に作ったからだ。だから、家へ帰る前に買い出しに来ていたのだった。
「……ん、次はお肉だよ。行こ」
「ああ」
火凛に手を引かれて歩く。火凛はご機嫌なようで、ずっとニコニコとしていた。
手をぎゅっと握れば、きゅっと握り返される。
一歩先を進んでいた火凛が横に並び、肩を寄せてきた。
ここが家や人気のない場所なら頭を擦り寄せてくるぐらいはしただろう。そこまでしないのは周りに、そして俺に配慮しての事だ。
俺はあまり視線を向けられるのが得意でないから。特に悪意のあるものは。
「ねえねえ、そこの仲良しカップルさん。お一ついかが?」
色々と使えそうなものを物色しながら歩いていると、そう声を掛けられた。振り向いた火凛に追随して振り向くと、そこにはハンバーグを焼いている女子高生の姿があった。
ここのスーパーは俺達がよく行くところで、店員もほとんど顔見知りとなっている。しかし、その女子高生は見ない顔だった。新しく入ったバイト生だろう。
「今日はこのお肉が安くて美味しいですよ。このソースをかけたらもっと美味しくなります! どうですか? 彼氏さんのお弁当に入れても喜ばれますよ!」
火凛はどうする? と俺に視線で訴えかけてきた。
まさか無視をする訳にもいかないだろう。
「二つ、いただいても良いですか?」
そう尋ねれば、女子高生は顔を輝かせた。
鉄板の上のハンバーグはジュージューと良い音を立てている。いくつか焼いている中の一つを他から離した。
「どうぞどうぞ! 今切り分けるので熱々のうちに食べてください!」
女子高生は鉄板の上に乗っている小さめのハンバーグにソースを掛け、半分に切った。そして、紙皿へと二つ取り分けてから爪楊枝を刺し、差し出してきた。
火凛から手を離し、紙皿を受け取る。しかし、そこで俺は失敗した事に気づいた。
片手は買い物カゴで埋まっていたのだ。仕方ないと火凛へと紙皿を渡そうと差し出した。紙皿を持ってもらおうと思っての事だ。
しかし、火凛は予想外の行動を取った。
ハンバーグを二つ取り、一つを自分で食べ、もう一つを俺の口元へと運んできたのだ。
……まさか、今更持っててくれなどと言えない。
大人しく口を開けると、ハンバーグを口に入れられた。
ソースは甘酸っぱく、噛むと肉汁が溢れ出してくる。なかなか美味い。
「ん。結構美味しいね」
「ああ。夕飯に買ってくか。もう用意してるかもしれないが、その時は明日に回せば良いし」
「お買い上げありがとうございます!」
横に並べられていたミンチ肉を取ってカゴに入れる。
「いやー、それにしても仲良いですね。先輩達が言ってるだけあります」
俺達を見て、その女子高生はそう言葉を漏らした。
「……先輩達?」
そう聞き返すと、女子高生は笑顔で頷いた。
「はい! 何でも、とっても仲良しな高校生カップルが居るって話でした! 結構前からこのスーパーの常連で、見てるだけで凄い癒されるって言ってました!」
……まさかそんな風に思われてたとは。
火凛をちらりと見ると、嬉しそうに頬を緩めていた。
「えへへ……仲良しな高校生カップルってよ、水音」
「……ああ。そうみたいだな」
説明が面倒なので、こうした場面でカップルと言われても否定しないようにしている。あの書店では店主に見抜かれたので幼馴染と言っているが。
「それにしても、本当に見てて幸せそうだなって思います!」
「ふふ。ありがとう」
火凛はそう言って顔を引き締めながらも微笑み返し、また手をぎゅっと握ってきた。
「私の友達にも見せてあげたいです。こういうのが好きな子が居るんですよね」
随分とお喋りな子のようだ。高校生らしいと言えばらしいのだが。
しかし、その女子高生はあっと声を上げた。
「……あ! すみません、お客様の時間取っちゃって。私もこれ以上喋ってたら怒られそうですし、そろそろお仕事に戻りますね!」
「ん、頑張ってね」
「ああ。それじゃあこの辺で」
女子高生へとそう返し、その場を離れた。遠くから見てみると、もう次の客を捕まえていたようだった。なかなかやり手の子らしい。このスーパーでは最年少という事もあるのだろうが。
「……それにしても凄い子だったな」
火凛は苦笑しながらも頷いた。
「そうだね。でも、どこか輝夜ちゃんに似てた気がした」
「そうなのか?」
俺はあまり平間の事を知らない。精々、平間は内気であまり喋る子ではない……が、自分の中にちゃんと芯を持っている子ぐらいか。
「うん。輝夜って結構お喋りな子なんだよ? 掃除の時とか、喋りすぎてて怒られた事だってあったし」
「そうだったのか」
親しくなると自分を全てさらけ出すタイプなのだろうか。俺がそんな平間の姿を目にする時があるのかどうか分からないが、覚えておこう。
「ん、それじゃそろそろ行こっか。水美ちゃんも待ってるだろうし」
火凛は手をくいくいと引いてきた。その手をしっかりと握り直しながら、俺は頷いた。
「ああ、そうだな」
◆◆◆
家が見える場所まで歩いてきた。スマホを開き、水美へ連絡を取る。
『もうすぐ着くぞ』
送った瞬間に既読が付いた。
「これは……あのパターンだろうな」
「……? どうしたの? 水音、連絡取れないの?」
「まあ、すぐに分かる」
俺がそう言った瞬間、家の扉が開いたのが見えた。
そこから一人の少女が飛び出し、俺達を見て元気よく手を振ってきた。
そう。俺の妹の水美だ。
「……水美は待つことを知らないからな。待つよりは自分から来るタイプだ」
「ふふ。そっか。そうだよね。水音と離れるのが寂しいって私の家まで来ようとする子だもんね」
ちなみにだが、水美が火凛の家に来れなかった理由は父さんと母さんが居たからだ。
自分の子供が急に二人とも居なくなるのは寂しいから、と二人に言われて寂しそうにしながらも了承したのだった。
水美はこちらまで走ってくる。水美はバスケットボール部に入っているので、体力や瞬発力もあるのだ。
「兄さん!」
「久しぶりだ……なっと」
水美は飛びついてきた。買い物袋を潰さないよう、片手で抱きとめる。
「とは言ってもまだ一週間しか経ってないんだけどな」
「一週間でも寂しいものは寂しいよ!」
水美は一度ぎゅっと力強く抱きしめてきた。そして、離れる。
「火凛ちゃんも久しぶり!」
そして、今度は火凛へと抱きついた。火凛は軽々と水美を受け止めた。
火凛も俺も部活に入っていないが、お互いの体重を支えられる程度には筋肉を持っている。何が影響しているのかは伏せさせてもらうが。
「ん、久しぶりだね。水美ちゃん、元気にしてた?」
「うん! 元気にしてたよ! 火凛ちゃんは?」
「私も元気にしてたよ」
火凛が水美の頭を撫でると、水美は嬉しそうに頬を緩めた。
「遅くなってすまなかったな、水美。お腹空いただろう」
時刻は十二時を回っている。思っていたよりも買い物に時間がかかってしまった。
「ううん、大丈夫だよ!」
水美は笑顔を返してくれる。本当に出来た妹だ。早く作ってやろう。
「外で話すのもなんだ。中に入ろう。俺が作っている間に火凛と喋ってたら良い」
「うん! 火凛ちゃんにも兄さんにもいっぱい話したい事があるからね!」
「ふふ。分かった、いっぱいお喋りしようね」
「ああ。時間はまだまだあるからな」
水美は右手で俺の手を握り、左手で火凛と手を繋いできた。
そして、俺達はそのまま家へと向かったのだった。




