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第32話 頼られない事が一番怖い

更新するのめちゃくちゃ忘れてました……すみません

「お待たせ、待たせたよね……水音? 大丈夫?」


 火凛は扉を開けてすぐに俺を心配そうに見てきた。


「ああ、大丈夫だ。何でもない」


 火凛は俺の目を見て気になったのだろう。充血までは行っていないだろうが、少しは赤みがかっているはずだ。


 そう言ったものの、火凛はまだ心配そうに見てきていた。


「ちょっと昔の事を思い出してただけだ。本当に何でもないから気にしないでくれ」

「……ん、分かった。奏音も?」

「あ、うん。そうだよ。ちょっと昔をね」



 やはり白雪が泣いていたのにも気づいていた。最近は火凛も周りをよく見るようになったからな。


「……火凛、ありがとね。ちゃんと獅童君にお礼言えたから」

「ふふ、どういたしまして」


 火凛は来栖へとそう微笑み、お膳をテーブルの上へと置いた。


「お待たせ、今日は前より上手く作れたんだ。ちょっと張り切っちゃったけど」


 そのお膳の上には四人分のパンケーキが乗せられていた。


 ……凄い。


「えっ……これ火凛が作ったの?」

「ふああ……凄いです。ふっくらしてて美味しそうです! イチゴも乗ってます!!!」


 それぞれにパンケーキは二枚乗っていて、上にはクリームが載せられている。そして、頂上にはイチゴが一つ、ちょこんと載せられている。


 ……よく見れば、クリームは一昨日のようなホイップクリームでは無さそうだった。


「ふふ。最初はバターを載せるだけにしようと思ってたんだけどね。この前作ったアイスが残ってたから載せてみたんだ」

「ああ……あの時のか」


 先週、暑くなってきたからと火凛が作ったんだった。水美にもお土産にと持って帰ったら喜んで食べてたな。



「えっ……作ったんですか?」

 アイスクリームを作ったと聞いて、平間は目を丸くした。


「ふふ。結構簡単に作れるんだよ? 今度教えるよ」

「良いんですか!? やった♪ これでいつでも食べられます!」


 平間は火凛の言葉に顔を輝かせた。子供のように無邪気な笑顔だ。


 それを見て来栖は苦笑した。


「食べすぎてお腹壊さないようにね、輝夜」

「はい! 春も一緒に作って食べましょうね!」

「うんうん。分かってるよ。それよりアイス溶けちゃうよ?」


 平間はハッとした表情でパンケーキを見る。アイスの下の方はパンケーキの熱で少しだけ溶けていた。


「そうでした! 食べても良いですか?」

「もちろん。召し上がって」


 その言葉を聞いて、俺達はナイフとフォークを持つ。


「いただきます!」

「いただきます」

「いただきまーす」

「いただきます」


 パンケーキにナイフを刺しこむ。ふわふわなパンケーキは抵抗する事無く切り分ける事が出来た。


「んー♪ すっごく美味しいです!」


 平間は一足早く食べたらしい。頬を手で抑え、とても美味しそうにしている。


 俺もパンケーキの上にアイスを載せ、一口食べた。


 口の中に入った瞬間、冷たいアイスが口の中で溶けていく。その冷たさとパンケーキの熱さがちょうど良い。


 噛むと、パンケーキに染み込んでいたバターがジュワッと溢れ出した。どうやら、パンケーキ一つ一つにバターを塗っているようだ。凝っている。


「やばっ。これめっちゃ美味しいんだけど。前食べたのも美味しかったけど」

「ほんと。こんなに美味しいの初めて食べたかも」

「ああ。バターの塩味とアイスの甘さが絶妙だ。美味いぞ、火凛」


 バターだけだとくどくなったり胃もたれしたのかもしれない。しかし、アイスが口の中をさっぱりとさせてくれる。


 ふと見てみると、火凛はニコニコしながら俺が食べるのを見ていた。


 そう言えば、火凛は自分が食べる分を用意していなかった。パンケーキを切り分け、フォークを刺して火凛の口元へ持っていく。アイスを付けるのも忘れないように。


「……ん、ありがと。うん、美味しい。ちゃんと作れてる」


 火凛の事だからちゃんと味見はしただろう。しかし、どうせならこうして皆と食べた方が楽しいだろう。


 ……皆と?


「……わあ……ほんとにあーんしてます。凄いです」

「すっごい自然にやってたんだけど」

「本当に隙あらばイチャつくよね。良いんだけどさ」


 凄い見られてた。いや、それも当たり前だろう。目の前でやっていたのだから。


 背中を冷や汗が伝う。完全にやってしまった。


「あー、水音。大丈夫だよ。帰る途中で火凛に色々聞いてたから。ギリあーんぐらいならするって思ってたから」


 そんな俺を見兼ねたからか、白雪がそうフォローしてくれた。


「……そうだったのか?」

「ん、昔の話だけどね。私が風邪で寝込んでた時の話」

「ああ……あの時の事か」


 ある程度火凛が話していくれて助かった。ホッとしていたのも束の間、火凛にちょいちょいと肩をつつかれた。


「あと一口だけちょうだい、水音」

「……お前な」

「一回も二回も変わらないから。あー」


 豪胆と言うか何と言うか。火凛は小鳥のように口を開けてパンケーキを待った。


 ……仕方ない。最初にやったのは俺なんだし。とパンケーキを切り分けて火凛の口へと持っていく。視線が凄い刺さる。


「……ん、美味し」



 ……まあ、火凛が嬉しそうなら良いか。


 ◆◆◆


「ご馳走様でした」


「はい、お粗末様でした」


 俺達はぺろりとパンケーキをたいらげた。火凛は満足そうに俺達を見て、お皿をお膳へと戻し始めた。



 その時、来栖が火凛へと話しかけた。


「……ね、火凛。火凛と獅童君に改めて話したい事があるんだけど良い? ……獅童君も」

「ん? 良いよ、もちろん」

「ああ。俺もだ」


 先程『火凛と一緒に居る時に』と後にした話だろうか。


 火凛は俺の隣に座り直す。


「……えっと。そうだね。火凛から聞いてると思うんだけど、私と輝夜も二人の話は聞いたんだ」


 そう前置く来栖に俺は頷く。


 ……火凛は全て話した訳では無い。それでも、俺と火凛が肉体関係を持っている事以外の話は言ったはずだ。


「その事で改めて言いたい事があってさ。……学校だと周りの目があるから」

「ああ、なるほどな」

 今まで関わりが無かったはずなのに、急に俺が来栖や平間と話し始めたら注目を浴びるだろう。


「火凛から聞いた事の確認するね、火凛は獅童君が()()()()()()だと公表出来るぐらい仲良くしたいと思ってる。獅童君もそれで合ってるよね?」

「ああ。俺もそうしたいと考えている」


 火凛と学校でも仲良くする。それが今の俺の第一目標だ。




「じゃあ、今ここで言っておくね。火凛にはもう言ってるけど、私と輝夜は二人がまた学校で仲良くするのに協力したいと思ってる。その為に必要な事なら何でも私達に言って欲しいの」


 俺の目を真っ直ぐ見ながら、来栖はそう言った。


「わ、私も出来る事ならなんでも手伝います!」


 平間も俺の目をしっかりと見据えながらそう言った。男性が苦手と聞いていたが、それだけの覚悟があると言う事だろう。


「まあ、今すぐ頼みたい事とかは無いはずだけどさ。気軽に私達を頼って欲しいって二人に伝えたかったんだ。火凛もチーム分けの時の事があって少し遠慮しそうだったから」


 ……なるほど。来栖は俺に生徒会長になりたいと話していたし、火凛に話していてもおかしくない。


 そんな彼女の立場を考えると、頼みにくくもなるだろう。


「……でも」

「でもじゃないよ。友達に頼られなくなるのが一番怖いんだから」

「それに、いざとなったら私とか皆がフォロー出来るからね。あの時の水音みたいにさ」


 白雪はそう言ってニヤニヤしながら俺を見てきた。そんな茶化しながら言われても動じるはずが無い。


「ああ。ある程度なら俺もフォローは出来るだろう」

「私も……頑張ります!」


 俺達の言葉を聞いて、火凛は驚いた様子を見せた。



 ……そして、笑った。


「……そっか。そうだよね。いざとなれば私もフォローに回れれば良いんだよね……うん、分かった」


 火凛は顔を上げ、来栖を見返した。


「もしかしたら、これからも何かしらお願いするかもしれない。その時は手伝って欲しい」

「ああ。俺からももしかしたら頼む事があるかもしれない」

「もちろん任せて!」


 笑顔で頷く来栖を見た後に視線を平間へ移す。


「平間もその時はよろしくな」

「は、はい! 任されました!」


 平間は俺の目を見てそう言った。……男性が苦手と言っていたのに、本当に良い子だ。


「ふふ。私からもお願いするかもしれないから、その時はよろしくね」

「もちろんです!」


 火凛が微笑み、平間は笑顔でそう言った。微笑ましい光景だ。


 ……今更だが、今の状況をクラスの男子に見られたらかなり危ない気がする。



 いや、火凛の家に居る時点で本当に今更なのだが。


「あ、そういえば輝夜は時間大丈夫? いつも門限気にしてたけど」

「遅くなるとは言いました……けど、あんまり遅くなっても心配させてしまうかもしれません」


 時計を見てみれば、既に六時近くなっている。二人の家が何処の方にあるのか分からないが、確かに遅い時間になる前に帰った方が良いだろう。



「そうだね。要件も言い終わったし、二人の話も聞けたし。そろそろ行こうかな」

「ああ。色々とありがとな」

 二人と話す事が出来て良かった。火凛の事も知る事が出来た。


「ううん。お礼を言うのは私の方だよ。ありがとね。色々と。サンドイッチとパンケーキもご馳走様。美味しかったよ」

「どっちも美味しかったです!」

「ふふ。なら良かった。奏音ももう帰るの?」

「んー、そうしよっかな」


 白雪も帰る支度を始める。忘れ物は無いか辺りを見渡すが、どうやら無さそうだった。


「あ、玄関まで見送ってくるから水音はこっちで待ってて」

「ああ、分かった。それじゃあ明日な。三人とも」

「うん、明日ね。獅童君」

「また明日学校で。さようなら、獅童さん」

「それじゃね。また明日」


 火凛は三人を連れて、部屋を出たのだった。

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