第30話 誰だって褒められると嬉しい
「よし、これで完成だ」
サンドイッチを四つ、どうにか用意する事が出来た。肉が一つ、ハムチーズが一つ、サラダが二つ。一つは火凛が好きな甘いドレッシングを。一つは別のドレッシングを使ったものだ。
形が崩れないようピックを刺す。そして、それぞれのソースが混じらないよう少しだけ離した。
「さて……運ばないとな」
先程もそうだったが、やはりあまり関わらない人が居れば緊張してしまう。それが異性なら特に。
「……まあ、この家に男友達を呼ぶ予定も無いが」
候補としても玉木と響ぐらいだろうが、呼ぶとしても俺の家になる。この家は色々と見つかったら危ないものもあるし。
そもそも、この二人も人の家を勝手にあさぐるタイプではないが。
そんな事を考えながらとん、とんと階段を上がる。火凛の部屋は上がって二番目だ。
……一応言っておくと、一番目が俺の部屋となっていたりしている。
火凛の父さんから
『荷物を置くだけでもあった方が良いはずだからね。あ、止まる時とかは火凛の部屋に泊まって大丈夫だからね。この家はちゃんと防音対策とかもされてるから』
と言われた。……バレてるよな、完全に。
まあ、あの夏休みの時とか火凛と俺がほとんど部屋から出てこないのは知ってただろうし。……洗濯とか何も言わずにやってくれてたからな。
さて、現実逃避はこれぐらいにしよう。ちゃんと目の前と向き合わないとな。
コン、コンと火凛の部屋の扉をノックした。
◆◆◆
女三人寄れば姦しくなる。そんな言葉があったのを思い出したが、この三人に限ってそんな事は無かった。
「おかえり、水音」
「今、水音について火凛に聞きまくってたんだよね。昔水音がやった恥ずかしい事とか」
火凛はにこやかに微笑み、白雪がニヤニヤとしながらそう言ってきた。
「……まあ、過去の事なら別に構わないが」
火凛なら俺が話されて嫌な事などは絶対に言わないだろうし。話していたとしても、別に話の肴になるなら別に良いと思っている。
「もう、そんな事話してないって。小さい頃の話とか、昔の話をしてたんだよ。……このお守りの事とか」
そう言って、火凛は手のひらに乗っている小さなお守りを見せてきた。
「……ああ、あの時の事か」
それは俺が火凛に作ったお守りだった。嬉しい事に、今でも肌身離さず持っていてくれている。
「ふふ。今でもあの時の事は覚えてるよ。ありがとね、水音」
「……いや、火凛こそ俺にお守りを作ってくれただろ。中学生の時に……あの時はありがとう」
今はカバンに付けているため見せる事は出来ないが、付けているのは毎日見ているから分かるだろう。
「……ね、分かったでしょ? 二人の世界っていうかなんというか」
「……確かに、朝からこれはちょっと心にくるかも」
「……良いです。とても良かったです。ご馳走様です」
そんな声で我に返った。客を待たせて火凛と話を続けるのは失礼だろう。
「……待たせて悪かった。これが軽食のサンドイッチだ。後で火凛がパンケーキを焼いてくれるらしいから本当に軽めだが」
テーブルの三面を囲うように四人は座っていた。窓際を来栖と平間が。そして、その右側面に白雪が。対面に火凛が座っている。
その中央にサンドイッチの入った皿を置く。
「右からサラダサンドが二つ、ハムチーズサンド、肉サンドになってる。端のサラダサンドは甘めのドレッシングを使ってるから選ぶ時は注意してくれ」
「あ、でも野菜の青臭さとか無くなるから輝夜ちゃんにおすすめかも」
俺の説明に火凛がそう付け足した。しかし、その名前を呼ばれた平間と来栖は目を丸くしてサンドイッチを見ていた。
「……すっごい綺麗。これ獅童君が作ったの?」
「ああ」
「凄いです。断面がとても綺麗です」
二人の美少女に真正面から褒められ、思わず照れてしまう。
「だよねだよね。私も初めて見た時驚いたもん」
「ふふ。水音も頑張って美味しくしようとしてたからね」
更にそこへ二人が加わる。誤魔化すために一つ咳払いをした。
「冷めたらもったいないからな。早速食べてみてくれ」
「ん、私は最後で良いから三人とも先に選んで。あと、水音はこっち座って」
火凛がぽんぽんと隣を叩いてきたので、遠慮なくそこへ座る。
「あ、私も食べた事あるから先二人選んで。ちなみに全部美味しいから。サラダサンドも甘くて最初はびっくりしたけど、めっちゃ美味しいよ」
二人はじっとサンドイッチを見ていた。
「……どうしようかな」
「……どうしましょう」
どれを食べようか非常に迷っているようだ。それを見て、火凛と白雪はくすりと笑った。
「何も、一人で一つ食べなくても良いじゃん。私が選んだのも少しあげるって」
「ん、私もだよ」
二人の言葉に平間はおずおずと手を伸ばした。
「……じゃあ、私はおすすめされたこれにします!」
「私はこっちのサラダサンドにしようかな」
平間は端の、そして来栖はその隣のサンドイッチを手に取った。
「じゃあ私はこっちにしてもいい?」
「もちろん」
続いて白雪がハムチーズサンドを取った。そして、残りの肉サンドを火凛が取る。
「……じゃあ、食べるね。いただきます」
「いただきます」
「ああ。召し上がれ」
来栖と平間が最初にサンドイッチを口にした。……考えたくはないが、口に合わなければどうしよう、などといった不安はやはりある。
だが、やはりそれは杞憂に終わった。
「ん! おいふいいふぇふ!」
平間の瞳が輝いた。ちゃんと喋れていないが、美味しいと言いたいのだろう。
「ん、美味しい。すごい美味しい。野菜もシャキシャキしてるし、ドレッシングも美味しい。パンもふわふわだし」
「水音は材料からこだわるから……ん、美味しい」
「その辺のカフェで食べるのより全然美味しいよね」
二人からも良い反応が貰えて胸を撫で下ろした。
「でも……これ、凄いです! 私、野菜が苦手だったんですけど、これなら全然食べれます! 美味しいです!」
「そう言ってくれるとこちらとしても嬉しいな」
元々は火凛のために作ったドレッシングではあるが、美味しく食べてくれて思わず頬が緩んでしまう。
「……それにしても、本当に美味しい。奏音が言ってるみたいにお店に負けてない。というかお店も開けるんじゃない?」
と、来栖が言っていて思わず笑ってしまった。
「ふっふっふ。そうなんだよ、春! 来月から水音と火凛はカフェでお店の経営とか教えてもらうんだから!」
白雪がそう言って二人を驚かした。来栖はぽかんとした表情を浮かべている。平間も似たような表情だ。
「もう、奏音。違うでしょ? ……まずは会って話したいって言われただけだから。それに、奏音のおじさんなんだよね?」
「そうなんですね。でも、凄いです!」
「……ああ、そういう…………ん? でも、それって火凛達は将来カフェ開くって事?」
来栖の言葉に火凛がちらりとこちらを見てきた。話してもいいか、との事なので頷いた。
「……出来れば開きたいなって思ってるよ。水音とカフェが出来たら……楽しそうだから。何もやらないよりはやってみたいって思ったんだ。奏音に後押しされたっていうのもあるんだけどね」
「ああ。完全に衝動で言った事だったが。俺も将来の夢がある訳でも無かったし……何より、火凛と働けたら楽しそうだなって思ってな。頑張る予定だ」
そう言うと、来栖と平間はすごく不思議そうな顔をしていた。
「……二人って付き合ってはいないんだよね?」
「……お二人は交際されていないんですよね?」
そして、同時にそう言われた。思わず苦笑する。
「ああ。俺と火凛は幼馴染だ。昔からのな」
「……うん。でも、大切な幼馴染だから」
火凛は恥ずかしそうにそう言った。それを聞いて、来栖はほう、と溜息を吐いた。
「……なるほどね。…………そうだ、輝夜。一口貰っても良い?」
来栖は何事かを考え込んだ様子を見せた後、平間へそう話しかけた。
「もちろん! すっごい美味しいよ!」
平間は嬉しそうにサンドイッチを差し出した。
「あ、じゃあ輝夜は私の食べてみて」
白雪はそれを見てすかさず自分のサンドイッチを差し出した。輝夜は目を輝かせながらハムチーズサンドを食べた。
「わ、甘い。でも美味しい、不思議な感覚だね」
「ん〜♪ こっちのも美味しいです!」
「あ、じゃあ輝夜ちゃん。私のも食べてみて」
しばらくの間、そうしてサンドイッチの交換会が行われた。小さめに作られたサンドイッチはそれぞれが一口ずつ食べるとすぐに無くなった。
「もう無くなっちゃったね」
「どれも美味しかったです」
満足そうに二人はそう言った。輝夜の口の端にサンドイッチのソースが付いている。
「ほんと美味しかったね。ありがとうね、獅童君。あと、ちょっとティッシュ貰うね」
「ああ」
来栖はそう言いながら机の上にあるティッシュを取り、平間の口元を拭いた。かなり仲がいいらしい。
「ふふ。まだ私の番が残ってるからね、二人とも」
「そうだ、パンケーキもあるんでした。ちゃんと食べる分のお腹は空けてるから大丈夫です! 美味しく食べれます!」
平間は幸せそうに微笑んだ。小動物的な愛くるしさがある。
「ふふ。それじゃ、私も作ってくるね。ちょっと待ってて。お皿もかたづけとくね、水音」
「ああ、ありがとう、火凛」
お皿を持つ火凛へそうお礼を言うと、微笑まれた。
振り向くと、来栖は佇まいを正していた。俺への要件だろう。俺も、きちんと座り直した。




