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第29話 類は友を呼ぶ

 火凛に連れられて数十分ほど歩く。すると、少しずつ帰宅している生徒が減っていき、最終的にはほとんど見なくなった。


「こっち側は交通の便とかあんまり良くないから住んでる人が少ないんだよ。スーパーとか、コンビニとかお買い物する場所は近くにあるんだけど」


 疑問に思っている私を見て、火凛はそう説明してくれた。なるほどと思った反面、ふと疑問が浮かんだ。


「そういえばさ。奏音も家こっちの方なの? 朝二人と来たって言ってたけど」

「ん? ああ、こっちの方ではあるんだけどね。もっと奥の方にあるんだ」

「そうだったんだ」


 二人はあまり私生活の話をしないので初めて知った。

 ……思えば、私と輝夜の事もあまり話していない。聞かれなかったというのもあったけど。


 そんな事を考えていると、視界の端でちょろちょろと顔を忙しなく動かしてる輝夜の姿が見えた。


「こっち側の道はこうなってるんですね。あ、スーパーがあります!」


 輝夜は門限とかは無いけど、こうして寄り道をするのは珍しい。


『親が心配しますから』


 と言って、普段は誰かと遊びに行く事は少ない。私とは時々お出かけするけど。

 今日は私が行くのを知って、男の子も居るのに勇気を出して着いてきてくれたのだ。


 少し世間知らずだけど、良い子なんだ。輝夜は。


「そういえばさ。あんまり聞かなかったけど、二人も昔からの仲なの?」


 輝夜を微笑ましくみていると、奏音からそんな事を聞かれた。つい先程考えていた事だ。


 私が説明するより早く、輝夜が嬉しそうに口を開いた。


「私達は従姉妹なんです! 私のお母さんの妹の子供が春なんですよ!」


 奏音と火凛は驚いた顔をした。この事は今まで二人にも、他の人にも言った事が無い。


「そうだったんだ……全然気づかなかった」

「うん、あんまり似てないからね。私と輝夜は」


 輝夜を見る。ニコニコと子供のように無垢な笑みを向けてくれた。


 輝夜は小さくて可愛い。昔からお人形のような顔立ちをしていて、とてもお上品な子だ。


 そして、誰よりも純粋で、優しい心を持っている。


「春は私と違ってしっかりしてますから。色んな人とお話をして、色んな事を知っていますし。とても優しくて、かっこいい人なんです」


 ……そう、こんな事を笑顔で言い切れるぐらい純粋なのだ。


「……ふふ。仲がいいんだね、二人とも」


 火凛はそう微笑ましそうに言った。


「はい♪ 私と春は仲良しなんです♪」


 輝夜は嬉しそうに言った。それを見て、奏音がムッとした顔をした。


「時間では負けるかもしれないけど、私と火凛も仲良しなんだからね! ね、火凛!」

「ふふ。そうだね、奏音」

 そう言って、奏音は火凛の肩を抱いた。


 火凛は急にそんな事をされて驚いていたけど、微笑みながら体を預けていた。本当にこの二人も仲がいい。知ってたけど。


 その時、私の肩にとん、と何かが触れる感触があった。

「ん……私達も仲良いです!」

 輝夜が頭を乗っけていたのだ。変に対抗心を燃やしているので、その頭を撫でておく。


「はいはい。分かってるから。輝夜もそんなふうに対抗心を燃やしちゃだめだよ? 皆仲良し。それで良いでしょ? それとも、仲良くしたいのは私だけで、火凛と奏音とは仲良くしたくないの?」


 それを聞いて輝夜はハッとした表情になる。


「な、仲良くしたいです! せっかく出来たお友達ですのに!」

「ふふ。分かってるよ、輝夜ちゃん」


 火凛は輝夜へ微笑んだ。


「私だって、輝夜ちゃんと来栖ちゃんと仲良くしたいって思ってるから」

「もちろん私もね」


 火凛と奏音の言葉に、輝夜はホッとした表情を見せる。


「良かったです……」

「ふふ。もちろん春もそう思ってるよね?」


 奏音に振られ、私も思わず笑ってしまった。


「当たり前だよ。なんか、波長が合うって言うのかな。二人とは仲良くなれそうだし……もちろん、輝夜とはもっと仲良くなれると思ってるからね?」


 話していて輝夜かまた不安そうな顔をしたので、そう付け足した。寂しがり屋でもあるのだ、この子は。


「うんうん。仲良きことは美しきかな、ってね。火凛、そろそろだよね?」

「うん、もう見えてきた。あの二階建ての家が私の家だよ」


 そう言って、火凛は奥の方に建っている家を指さした。


「火凛の家って結構大きいんだ」

 今時、マンションとかアパートなどの集合住宅に住んでいる人も多い。輝夜の家は違うけど、私の家だってそうだ。


「……昔、お父さんがローン組んで買ったんだ。私が生まれるからって」

「へえ。凄いね」

「はい……良いお父さんです」


 輝夜は少し寂しそうにそう言った。……輝夜の家は色々あったから。


 火凛の顔が少し曇った。罪悪感を感じているのだろう。


「……火凛。これは私から聞いた事だからね。それに、輝夜」


 輝夜を一度見ると、微笑みながら頷かれた。


「はい、私は大丈夫です。完全に振り切った訳ではありませんけど……それでも、私は大丈夫です。お母さんも居ますし、春も……火凛ちゃんと奏音ちゃんだって居ます。今を幸せに生きてるんですから」


 ……輝夜はまだ、男の人は苦手だけど。それでも火凛の応援をするために頑張ろうとしている。


 火凛は獅童君との関係を()()()()と思っている。輝夜は人が変わる事の大変さを知ってる。だからこそ、応援しようと頑張っている。


 もちろん、私だってそうだ。変化する事は難しく、勇気のいる事だって分かってるから。


「私も輝夜も、火凛の手助けのために出来る事は何でもするからね」

「はい! 何でも言ってください!」


 輝夜と二人でそう言うと、火凛は笑顔を見せてくれた。


「うん……ありがとう、二人とも」


 その笑顔はとても魅力的で、よく獅童君は我慢しているなとも思ってしまった。


 ◆◆◆


「ただいま! 水音!」

 扉を開け、水音に聞こえるよう奥へ向かって声をかけた。


「ああ、おかえり、火凛」


 エプロン姿の水音が迎えに来てくれた。うん。今日も似合ってる。


「よ、今日もお邪魔するよ」

「私も今日はお邪魔します」

「お、おおお邪魔します!」


 私に続いて奏音達も部屋に入ってきた。輝夜ちゃんは緊張しているようだ。三人を見て、水音は笑顔を見せた。


「いらっしゃい、三人とも。火凛と一緒に手を洗って部屋に行っててくれ」

「はーい、分かったー」


 奏音が水音に間延びした返事を返すと、水音は苦笑しながらもキッチンへと戻って行った。


「……すっごい家庭的な雰囲気的だったんだけど。え、びっくりした」

「……はい。学校とは全然違いました」


 来栖ちゃんと春ちゃんは驚いた様子でぽかんとした顔をしていた。


「だよねだよね、ビビるよね。めちゃくちゃ分かる」

 それに奏音がうんうんと頷いた。


「……あんまり言わないでおこうと思ったけどさ。獅童君と火凛の雰囲気が……いや、私も経験した事無いんだけど。新婚夫婦みたいな感じしたし」


「分かるッッ! すっっっっごい分かる」


 奏音が物凄い勢いで頷いていた。首を痛めそうで少し怖い。


「……ごくり。二人が家でどんな感じなのか気になります」


 そして、輝夜は目をキラキラとさせていた。……楽しそうで何より?


「ええと……とりあえず、手洗って上行こっか」


 でも、水音に嫌な印象とかを持たれなくて良かった。特に輝夜ちゃんは男の人が苦手だったから。


 私は三人を連れて、手洗い場へと向かった。

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