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第28話 家族を褒められると自分も嬉し

「水音! そっち行ったぞ!」

「ああ!」


 ボールを持っている生徒の顔を、目を見る。それと同時に軸足がどちらなのかも。



 ……右だ!


 手のひらで弾かないよう、体の中心でボールを受け止めた。


「ナイスぅ!」


 ボールを止めると歓声が湧いた。女子もいるからか、いつもより声援が強い。


 ボールを奥へと飛ばすと、てくてくと歩いてくる人影があった。


「や、凄いね。今の止めるんだ」

 そう言ってきたのは白雪だった。日差しが暑いからから胸元を掴んでパタパタとさせながら近づいてくる。


「まあ、今のはかなり怪しかったがな。今日は練習時間もあったから皆温まっててキレが凄いな。……女子がいるからかもしれないが」

「や、でもそれ止めるの凄いって」


「ん、やっぱり水音……くんは凄い」


 話していると、どこからか火凛もやって来ていた。女子二人から褒められるとどこかむず痒いものがある。


「……ああ、ありがとな」


 ボールが来ないか確認しながら二人へそう返した。すると、白雪がはぁとため息を吐いた。


「私達が話してる間も周りの確認してるのとかさ。気配りの鬼というか……なんでモテてないの、ほんとに」

「いや、ここで喋ったまま点決められた、となれば非難がすごいだろうからな」


 火凛達が危ない目に遭わないように、との考えももちろんある。しかし、そちらも怖い。クラスの立ち位置が悪くなるのは火凛の幼馴染としてどうなんだ、との思いからだ。


 その時、敵にボールが渡ったのが見えた。


「お、来るぞ。女子だ。火凛……さん、行ってみるか?」

「ん、頑張ってみる」


 スポーツ系女子がボールを持って来たので火凛を見ると、そう息巻いて走っていった。


 相手も運動神経は良いのだろうが、サッカーは慣れていないのだろう。どこかぎこちない。


 そこへ火凛はゆっくりと近づき……ボールを思い切り蹴った!


「ナイスだ! 火凛!」


 ボールは高く、遠くへと飛び、敵陣の中へ落ちる……それを響が取った。


「行け!」

「任せろ!」

 響はそのまま蹴り……一点をもぎ取った。火凛のナイスアシストだ。


「よくやったぞ! 火凛!」

 そう火凛へ声を飛ばすと、嬉しそうに微笑んできた。



「……いや、普通に名前で呼んでるけど大丈夫?」

「あっ……」


 白雪に言われて気づいた。バレていないか周りを見る。


「……まあ、雰囲気と言う事にしておこう。皆気づいてないようだし」


 視線はいやに感じるが、主に男子からだ。こういうのに食いつきそうな女子は……来栖と平間ぐらいしか見ていない。


「火凛の笑顔を独り占めしてるから嫉妬凄いみたいだけど」

 白雪が笑いながらそう言っていた。実際その通りで、負の視線が多いし強い。主に外から見学しているチームからの。


「……気にしたら負けだ」


 だが、これぐらいなら許容範囲だ。


 ……それにしても、シュートを決めた響もこっちを見てニヤニヤしているのはどうなんだ。


「それにしても凄いね、火凛。ちゃんと前にボール飛ばせてたし」

「火凛は運動神経も良いからな。教えた事はどんどんすぐに吸収していく。勉強もそうだがな」


 火凛はあまり表には出さないが、天才気質である。そしてもちろん、努力も人一倍行っていた。


 一部の層からは嫉妬が凄いみたいだが、火凛の周りは皆良い人だらけなので守られている。


 その中でも特に白雪。悪いところがあればズバズバと言ってきてくれるのは火凛にとっても、俺にとってもありがたい。


 ……俺の想像でしか無いが、火凛の見えない所でも色々頑張ってくれていそうだ。


「……白雪も色々とありがとな」

「色々ってまた大雑把だね。……ま、お礼は受け取っとくよ」

「白雪には本当に感謝してるからな。今度改めて火凛とお礼させてくれ」


 周りに聞こえないようそう小声で言えば、白雪は笑った。


「もう十分色々して貰ってるけどね。……じゃあ、また今度サンドイッチ作ってよ。今度は火凛と一緒にさ」


 ニカッとそう笑う白雪は太陽のようで、こちらまで穏やかな気持ちになる。


「……ああ。分かった。飛び切りの物を用意する」


 笑顔でそう返すと、周りの男子からの視線が強くなった気がした。


 ◆◆◆


 帰り、水音はサンドイッチの準備をするとの事で三人を連れていつものカフェに行ってきていた。


「今日、二人とも大活躍でしたね! 獅童さんも火凛ちゃんも凄かったです!」

「本当ね。獅童君ってあんなに運動出来たんだ。余裕持ってボール取ってたの凄かったね」

「ふふ。水音は凄いんだよ。昔から色々と私にも教えてくれたから」


 来栖ちゃんと輝夜ちゃんから水音の事を褒められて、思わず笑顔になってしまう。


「ほーんと嬉しそうにするよねえ。好きな人が褒められて嬉しいのは分かるけど」

「……え、えへへ」


 三人にはもう知られてるけど、それでも『好きな人』と言われるのはどこか恥ずかしいものがある。


「そういえばさ。普通に獅童君に頭撫でられてたけど。あれ普通なの?」


 そう来栖ちゃんに言われて思わず表情が固まった。


「……えっと」

「あ、私も気になります!」


 そんな私に追い打ちをかけるように輝夜ちゃんが目をキラキラとさせている。思わず目を逸らすと、ため息を吐いている奏音と目が合った。


「バレちゃったものは仕方ないと思うよ。てか二人の事だからどっちみちバレてただろうし」


 ……確かに奏音の言う通りかもしれない。幼馴染として怪しまれない範囲で、となるけど。


「……頭を撫でられるぐらいは割とあるかな」

「そ、それ以外にも何かやってたりするんですか!?」


 輝夜ちゃんの食い付きが凄まじい。思わず苦笑してしまった。


「輝夜、お行儀悪いよ。ちゃんと座って」

「あ、すみません」


 それを来栖ちゃんが諌めていた。それを見ながら、話しても大丈夫そうな内容を頭の中で整理する。


「えっと……そうだね。膝枕とか……あと、あーんとか? お見舞いに来てくれた時だけど」

「あーんされたんですか!?」


 あーんは今となっては結構されてるけど……一番最初にあーんされた時の事を思い出した。



 ◆◆◆


 あの日、私は久しぶりに風邪を引いて寝込んでいた。


「38.2か。病院行くか?」

「ん……だいじょぶ」


 心肺そうに見つめてくる水音を見ながら、私は寝返りを打った。


「……分かった。そのまま寝ているんだぞ?」


 そして、水音は部屋から出ていった。


 水音のいない部屋はとても静かだ。そんな静けさが今の私には辛かった。


 熱でぼうっとする中、水音はもう学校へと向かったんだと思ってた。うつらうつらと夢と現実の間を行き来している。


「……水音」

 うずくまるようにベッドの中へと身を寄せた瞬間だった。


 カチャ、と扉が開いた。


「悪い、火凛。待たせた」


 そこには水音が居たのだ。その手にはお膳を持っていた。


「……みなと?」

 どうしてそこにいるのか、そんな言葉を出す前に水音は微笑んだ。


「火凛のお父さんと俺の母さんに相談してな。火凛を看病するために休みたいって言ったらOKを貰えたよ」


「でも……」


「火凛の病状が悪化して病院に行けない、となったら大変だ。だから、火凛が嫌って言ったとしても看病するからな。ちゃんと治るまで」


 そう言って、水音は私のベッドに腰を下ろした。


「嫌じゃない。ごめんね、ありがとう。水音」


「俺がやりたくてやってるからな」


 水音はそう言って私に微笑みかけた。


「火凛、リンゴを剥いてきたんだけど食べられそうか? 薬も飲ませたい」

「……ん、だいじょぶ」


 水音から手を借りて座る。やっぱり頭がぼうっとしていた。


「火凛、口開けてくれ」

「……あ」


 言われるがまま小さく口を開けると、冷たい感触が唇に走った。


「火凛、もう少し口開けられるか?」

「……ん」

 口を開け、口の中に侵入してきたリンゴをしゃくりとかじった。


 冷たい感覚が熱を持った体に心地良い。その時、私はやっと水音にあーんされてる事に気づいた。




 水音を見れば、私を見て微笑んでいた。


「……あ」

「はい、次のだな」


 口を開ければ水音が口へとリンゴを運んできてくれる。



 その時が、初めて水音にあーんされた瞬間だった。そして、それから時々あーんして食べさせ合いっこするようになった。


 ◆◆◆


「はわわ……凄いです。良いです。ご馳走様です」


 この話を聞いて輝夜ちゃんは顔を真っ赤にしていた。


「……いやー、本当に凄いね。本当にその辺に居るカップルより仲良いじゃん」

「てか私もその話初耳なんだけど。はよ結婚しろ」


 来栖ちゃんと奏音にもそう言われて思わず照れてしまう。


「えへへ……奏音と会う前の事だったし」

「まじか、とはならんよ火凛。イチャイチャしてるんだろうなとは思ってたし」


 そうして話していると、スマホが一度ヴー、と震えた。


『準備出来たぞ。いつでもOKだ』


 それを見て、私は思わず微笑んでしまった。

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