第23話 決意は何度でも
「それじゃ、ご主人様♡ 後片付けは火凛にお任せしてぐっすりおやすみください……♡♡」
整えたシーツに水音を横にし、頭を撫でつける。夕食は既に準備をしていた魚のムニエルを水音に食べさせてあげた。恥ずかしそうにしながらももごもごと食べていて可愛かった。
水音がすやすやと寝息を立て始めた事を確認して、机の上に置いていたお皿を片付け始める。
お皿に乗っていたリンゴの残りはプレイの一環として使った。温くなったらもったいなかったし。
「それにしても……ごしゅ、じゃなくて水音、かわいかった」
最近は水音を責める事が出来ていなかったので、新鮮な気持ちになれた。水音を責めるのはやっぱり楽しい。普段のかっこいい水音も良いけど、気持ちよくて何も言えなくなっているかわいい水音も好きだ。
なんだかんだ言いながら水音も乗り気だったし。もうお腹もたっぷたぷだ。
「ふふ♪ 明日は水音がいっぱいお返ししてくれるはずだし、楽しみ」
大抵こういうプレイをした翌日は私の意識が無くなるぐらい責め落とされる。お仕置きプレイも嫌いじゃないし、メイド服も洗濯しないといけないかな?
お父さんが帰ってくるのも週末だし、まだまだ水音とヤれる事はいっぱいある。
最近は高校生活に慣れてなくてあんまり片付けが必要なプレイは出来てなかったし。……ソーププレイとかやってみたい。ローションを通販で買っておかないと。ふふ。
そんな事を考えてるとふと気がついた。
「あ、来栖ちゃんと輝夜ちゃんの事話すの忘れてた」
明日来栖ちゃん達が家に来るのだ。水音は人見知りする方では無いけど、女子四人に囲まれたら萎縮するかもしれない。
……まあ、水音にお礼を言いたいってだけだったし大丈夫だと思う。奏音も居るから話し相手に困る事は無いだろうし。
でも、明日聞いてダメって言われたらちゃんと言おう。来栖ちゃんの意思は汲みたいけど、水音に負担が掛かるのはダメだ。絶対に。
そんな事を考えながら明日のお弁当の準備をする。主なおかずはチーズINハンバーグにするつもりだ。水音はチーズも好きだったはずだし。
……おかずで思い出した。水音って家で一人でする時って私じゃない別のもの使ってるんだよね。
「男の人ってそういう漫画とか動画が必要って言うけど……私が送れば使わなくなるよね」
水音は私のえっちな所を写真とか映像にしたがらない。
『何かあった時、俺が流出させるんじゃないかって心配するだろ』
って水音は言ってたけど、私は水音の事を信頼しているのだ。水音が流出させるとは思わない。
とは言っても、水音が撮らないってだけで私のスマホの奥底にあったりはする。その他、バレンタインの時に撮った写真やハロウィンの時に撮った写真なんかは本棚の奥底のアルバムに現像して飾っていたりも。それを水音に渡すのも無しでは無いんだけど……
なんか違う気がする。
やっぱり自分でしている所を送った方が良いのかな? それともチラって見えるぐらいの方が良いのかな?
……電話しながら二人でするってのも良いかもしれない。遠くても繋がってるみたいで。
そんな事を考えてると、すぐに明日の仕込みは終わった。後は明日、焼くなりなんなりして詰めるだけだ。
そういえば、明日からレクの練習も始まるんだった。ドリブルとかよく分からないから水音に教えてもらおう。多分練習の時間もあるはずだ。
そうして部屋に戻ると、水音はすやすやと心地良さそうに眠っていた。そのサラサラとした髪を撫でると、くすぐったそうに身を捩らせた。
「……可愛い」
思わずそう呟いてしまった。最後にもう一度だけぎゅっと抱きしめる。
ちなみに先程水音はお風呂に入れた。疲れていたようなので体を拭くか尋ねたけど、お風呂に入りたいって言ってたから一緒に入った。
奏音達からチャットが来てないか最後に確認し、水音の待っているベッドに潜り込む。
基本、水音は眠りが深い。これぐらいなら起きないし、多分えっちなイタズラをしても起きない。さすがに今日はしないけど。
……このベッドも二年前と比べると随分と変わってしまった。主に匂いが。
換気と洗濯はたくさんしてるから、不快な匂いは一切無い。あるのは私の匂いと水音の匂いの混じりあった安心出来る匂い。
まだ一人で眠っていた頃はベッドに寝転がっても何も感じなかった。だけど、水音が泊まってくれるようになってから変わった。
とても落ち着く匂いだ。これのお陰で次の日には私は元気になっていると言っても良い。睡眠の質がかなり向上したし、精神的にも安定するようになった。
そんな幸せな気持ちに包まれていると、体が暖かいものに包まれた。
水音に抱きしめられていた。
「ふにゃっ」
そんな不意打ちに思わず声を上げてしまう。起こしてしまったかもしれないと水音の顔を見るが、まだ目を瞑っていてホッとした。
「……良かった、起こさなくて」
こんなに幸せそうに眠っているんだから。その顔を見れば自然と私の頬も緩んでいくのが分かる。
そして、次第に私の中の感情が溢れだしてきた。
「……好き、だなぁ。やっぱり」
見れば見るほど愛おしさが溢れてくる。
水音とこうして毎日……セックスする関係は嫌じゃない。というか好きだ。水音も……いやいややってる訳じゃないはずだ。
それでも、何があっても水音はキスをしない。その度に悲しくなるけど、私が言ったことだから仕方ない。
この関係になった事自体は後悔していない。でも、何度もあの言葉を言ってしまった事には後悔している。
「でも、私ね。思うんだ。あの時私が言わなかったとしても、水音は私の唇を奪わなかったんじゃないかって」
水音ならきっとそうしたのだろう。どこまでも誠実で、私の事を考えてくれるから。
「ごめんね、大好きって言えなくて。こんなに水音の事が好きでたまらないのに、こうして眠ってる時にしか言えない、臆病でめんどくさい私で」
水音を私抜きで居られないようにする、そんな思惑が無かったと言えば嘘になる。
でも、それは私が水音抜きの生活に耐えられなかったからだ。
どんな形でも良い。水音と居られればそれで良いはずだった。
「……しかもね。私って欲深いんだ。水音と一緒なら良いって思ってた。それどころか、こんなに近い関係なのに、もっと水音に近づきたいって思ってる」
だから、この関係を変えたいと思った。私も変わろうと思った。
「でも、一気に変わろうとしたら水音も、周りも……私もびっくりしちゃうから。少しずつ変わって見せる。まずは、皆に水音の事は大切な幼馴染だって言ってみせる。……だから、待っててね」
水音が起きていたら絶対に言えないであろう言葉。
途中で起きないか不安だったけど、最後まで言い切ることが出来た。
これで、また明日も頑張れる。
水音の胸に顔を擦り寄せ、すんすんと匂いを嗅いだ。
「えへ。水音の匂い」
私と水音はほとんど同棲みたいな事をしているけど、使っているシャンプーやリンス、ボディーソープの種類は違う。
だから、お互いから香る匂いは違うのだ。……たまにどっちかがシャンプーを切らしたりしてて借りる時もあるけど、その時はその時で嬉しくなる。
水音が私色に染まっていたり、私が水音色に染まってるみたいで。
そんな事を考えていると、次第に眠気がやって来た。どうせなら寝る直前までは水音を見ようと見上げる。
水音はすやすやと、子供のような寝顔を見せている。普段の落ち着いている雰囲気との差が凄く可愛い。
こんな日がずっと続けば――ううん。
もっと幸せな日を作り続けるから、待っててね。水音




