第14話 更なる変化への準備を
予約投稿するのめちゃくちゃ忘れてました。すみません。
「それでさ。どうして急にこんな事をしてって言ったの?」
移動教室の際、奏音に聞いたのは朝呼ばれた時に言われた事だ。
『もっと獅童君と距離を詰めて。ちょっと強引になっても良いから』
と、奏音に朝連れ出された時に言われたのだ。だから、少し……いや、かなり強引に色々やってしまった。
すると、奏音は難しい顔をした。
「いやさ。火凛が獅童君狙い、って事を周りにもっとアピールしないとちょっと危ないんだよ」
「……?」
奏音の言葉がよく分からず首を傾げていると、奏音は唸る。理解出来なくて申し訳なく思う。
「正直に言うよ? 獅童君、今のうちに火凛が狙ってるって見せつけないと口説かれるかもしんないから」
その言葉は全く予想していなかったもので、思わず立ち止まってしまった。
「……え?」
奏音も止まり、私をじっと見た。そして、詳しく説明しようと口を開いた。
「なんかさ。男女どっちでも良いんだけど、モテそうなイケメン、美女ってオーラがあるじゃん」
「ん。言いたい事は……なんとなく分かる」
私自身、まだあまり男の人とは話す経験が少ないためよく分かっていない。だけど、女子生徒なら話していて彼氏が居そうとかはなんとなく分かる。
そんな人は気の配り方なども上手で、相手が遠慮しないよう距離感を測りながら喋ってくれる。だから、話していても気が楽……だ…………?
「あ、水音……君ってもしかして」
「そう、獅童君がそうだったの。話してみるまでは分からなかったんだけどさ。朝話して思ったもん。めちゃくちゃモテそうだなって」
……確かに今まで思う節が無かった訳では無い。朝も、水音がどうして女子から人気が無いのか疑問に思っていたし。
「……でも、水音君は女子と話さないから」
「そう、そこが疑問に思ってたの。男の子ってさ。やっぱりモテたいじゃん。自分がモテないって思い込んでるのかとか色々考えたんだけどさ。一つ思ったんだよね」
奏音は神妙な顔をした。けど、言葉を躊躇っている。
「……奏音?」
「…………ごめん、さすがにこれはちょっと言えない。火凛が気づくべき事だから。でも、これだけ言わせて欲しい。火凛は学校でもガンガン獅童君に攻めてって。そうすれば獅童君も……火凛も悲しい目には絶対遭わないから」
その言葉を全て理解する事は出来なかった。でも、奏音のアドバイスが間違ってるとは思わない。
「分かった」
頷くと、奏音はホッとした顔を見せた反面、少し複雑そうにも見えた。
「いや、私を信じてくれるのはうれしいんだけどさ。火凛って仲良い人の事簡単に信じすぎじゃない?」
「私が信じてるのは騙されても良いって思ってる人だけだから」
私の言葉に奏音は納得していなさそうだったけど、満更でも無いのか頬を赤くして少しだけ照れていた。
「……でも、私とか獅童君が絶対間違えないって事は無いんだから。何かおかしいなって思ったらもう片方か他に信頼出来る人に相談するんだよ?」
「ん、分かった。ありがと」
お礼を返すと、奏音は頬を赤くしながら咳払いをして、照れ隠しからか話を変えてきた。
「そ、それよりさ。朝、席に戻る時って獅童君になんて耳打ちしたの?」
あまり周りに聞かせないよう配慮してか奏音は身を寄せてきた。周りに生徒が少ない廊下を歩いてきたけど、用心はしておいた方が良いだろう。奏音の耳元に口を寄せた。
『ありがと、大好き』
今思えばかなり大胆な言葉だ。私は今まで、極力水音に『大好き』という言葉を使ってこなかったから。
「……やっと……やっと言えたんだ」
「そうだったんだ」
未だに鳴り止まない心臓を抑え、奏音の言葉を待った。
奏音は笑って、私の背中をバシッと叩いた。
「きゃっ!」
「よーがんばった! また一歩すすんだじゃん!」
その言葉に対する恥ずかしさより、嬉しさの方が勝った。自然と頬が緩む。
「一回言えたらもう後は数をこなすだけよ! いっぱい言いましょ!」
……私が掲げた目標の一つに、『水音に好きだと伝える』というものがあった。しかし、今まではあくまで“セフレ”という関係だったから言えなかった。
だけど、“幼馴染”としてなら言う事が出来たのだ。
無事その目標は達成された訳だけど、そうしたら今度は『何度も伝える』という目標がアンロックされた訳だ。
「で、でも……何回も言ってたら軽くならない?」
しかし、懸念事項も当然出てきてしまう。
「じ、冗談とか、ふざけてるって思われたら……」
もしそれが原因で嫌われたら……もう私は生きていけない。
「大丈夫だって」
しかし、奏音はそんな私の考えをバッサリと否定した。
「火凛はそんな軽い気持ちで言ってた? それとも、これからは軽い気持ちで言うつもり?」
「そんな事ない!」
「なら大丈夫」
「……ッ、で、でも」
「じゃーさ、逆に考えてみ?」
尚も食いつこうとする私を諭すように、奏音は微笑んだ。
「彼に同じように言われて、火凛は嫌だったりする? 何回も言われて慣れたりする?」
思わず言葉が詰まった。それを見逃さず、奏音は続けた。
「そんなはずがないよね。好きな人に好きって言われる。そんなの、幸せじゃないはずがない」
周りに聞こえないよう小さな声で奏音は言って、私の手を取った。
「もし、火凛が何回言ったとしても彼の方から言われる数は少ないかもしれない。火凛なら知ってると思うけど、男の子は恥ずかしがり屋だから」
「まあ……それは分かるけど」
また周りに聞こえないよう、奏音は耳元で語りかけてくる。
「私の意見になるけどさ。もっと火凛は『好き』って言うことに慣れた方が良いと思うよ」
目を瞑って、考える。私が水音に明確に好意を表した事は無い。……例外はあったけど。
……行為の最中に昂って言ってる可能性はある。でも、『水音が好き』と直接的な表現をぶつけては無いはずだ。
「火凛。一度変われたのなら、今から二度目の準備をしても良いと思うよ」
あの日から私は変わり続けて来た。水音にも勇気を振り絞って言ったし、学校でも頑張って水音に近づいてる。
だけど、ここから私が変えるべきものは違う。
『幼馴染』じゃなくて『恋人』になるための変化。
……まだ、周りにちゃんと『大切な幼馴染』だと伝える事も出来てないけど。
それでも、布石は早いうちに打っておくべきだから。
「……やるよ、私」
二度目の宣言。今すぐどうこう出来る訳じゃ無い。最優先事項は『幼馴染』への変化だから。
それでも、自分の心に、そして奏音に表明する事で志は変わる。変われるんだ。
「もう一歩踏み出すための準備をするよ」
私は胸に手を当て、そう呟いた。
◆◆◆
放課後、私は奏音を呼んでいつものカフェに来ていた。作戦会議だ。
「……とは言っても、そんな大仰な事じゃないんだけど……一つだけ心配事があるの」
「まあ、なんとなく予想はつくんだけどね……」
私と奏音の口が開くのは同時だった。
「錦君のことなんだけど」「半治のことね」
そう言って、奏音は腕を組んで難しい表情をした。
「うーん。私でどうにか出来るって思ってたんだけど、アイツ最近暴走気味だしなぁ……」
「う……ごめんね。私が『話しかけないで』って言えたら良かったんだけど」
「謝らない。元々アイツを引き受けるって言ったのは私なんだし、火凛に落ち度はないよ」
奏音の言葉に心が暖かくなる。
「うーん……どうしようかな」
二人でうんうん唸る。すると、スマホがポケットの中で一度震えた。
「ん、ちょっとごめんね」
スマホを確認すると、水音からであった。
『何か軽食でも作るけど食べるか? それとももう何か食べてるのか?』
思わず目が輝いた。
『食べる! サンドイッチ作るの?』
即座にそう返すと、奏音がどこかポカンとした表情でこっちを見ていた。
「ど、どったの? そんなめちゃくちゃ美味しい上に穴場のラーメン屋見つけたJKみたいな顔して」
「なに? その例え……」
よく分からない例えであったが、まずは説明しようとスマホを置――
『肉、サラダ、ハムチーズ。この中から二個選んでくれ』
「奏音、肉、サラダ、ハムチーズの中から二個選んで」
「え? は? なに? 肉? え??」
奏音は困惑した表情を浮かべている。だけど、そんな事は気にせず私は畳み掛けた。
「サンドイッチだよ、ほら。それとも食べない? 食べないなら私だけ食べるよ」
「情報が足りない! でもなんかよく分かんないけど食べる!」
「おっけ。呼び出しておいてごめんね。作戦会議はまた後でね」
「りょーかい!」
まだ水音に確認していなかったけど、奏音を呼んでも断られない自信があった、
『奏音も居るけどいい?』
なぜなら――
『ああ。望むところだ』
彼は人一倍負けず嫌いだから。




