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肉体関係を持っていた“元”幼馴染と関係を取り戻す  作者: 皐月陽龍
二章過去のトラウマを乗り越えるためには
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第99話 父の帰宅

遅れて申し訳ないです

 夕飯を食べ終え、まったりとした時間を過ごす。火凛と水美が俺へもたれかかってきているので頭を撫でていた。



 一見すれば、火凛はもう大丈夫なように見えなくもない。だが、こうして甘えているのが不安の裏返しなのは分かっている。



 ……水美はただ単に甘えているだけなのだろうが。まあ、甘えてくれるのは兄としても嬉しいので良いだろう。


 火凛の不安を拭うように頭を撫でる。もう片方の手では水美の頭を。



 母さんは台所で皿を洗ってくれている。……これも俺がやると言ったのだが、『水音は二人とイチャイチャでもしてて、お母さんはいつお父さんが帰ってきてもいいようにしてるだけだから』といわれた。



 父さんはいつ帰ってくるのだろうか、と考えていた時だった。キッチンの方から母さんのスマホの通知音が鳴り、母さんがパタパタとスリッパをはためかせてリビングへ来た。


「お父さんもうすぐ着くらしいから。鍵開けとくけど急に扉開いても驚かないでね」

「ああ。分かった」


 チャイムを鳴らしたり、こうして事前に言ってくれるのは火凛を気遣ってくれているからだろう。


 それから程なくして扉が開く音が聞こえた。母さんのお陰で火凛はビクリと震える事も無かった。


「ただいま……っと、拓斗達の家で言うのも不思議な気分だな」

「おかえりなさい、お父さん。水音達はリビングに居るわ」

 父さんの声が玄関から聞こえる。足音と共に父さんがリビングへ顔を出した。


「……ただいま。水音達も相変わらずイチャイチャしてるな」

「おかえり、父さん」

「おかえり! お父さん!」

「あ……おかえりなさい?」


「ああ。それじゃ俺はちょっと手を洗ってくる」

 父さんはニカッと笑い、手を洗いに洗面所へと向かった。


 少し……ほんの少しだけ身を固くしている火凛を強く抱きしめる。


「あまり緊張し過ぎるな、火凛。父さんが悪い報告だけをするはずがない。解決方法も一緒に示してくれるからな」

「……ん」


 水美もこっそり移動し、火凛へ抱きついた。そうしてじゃれていると、父さんと母さんがリビングへ入ってくる。


 示し合わせたように母さんが同時に入ってきたのは……そういうことだろう。


 父さん達は俺達の向かいに座る。俺達も姿勢を正した。


「お母さんから少しは話を聞いていたよな?」

「……ああ。奏音をこの家に泊めた方がいい、だったな」


 火凛の手を握りながら父さんの言葉に頷く。


 父さんは、静かに目を閉じ……そして、ゆっくりと目を開けた後に口を開いた。







「正確には少し違った。白雪奏音ちゃん。平間輝夜ちゃん。来栖春ちゃん。三人が桐島とその仲間達に狙われる可能性が出てきた」



 思わず目を丸くした。……瑠璃さんが知っていたのは奏音だけのはずだと。そう思い込んでいたから。


 気づけば俺は、自然と歯を強く噛み締めていた。


「……それで、どうすれば良いんだ?」


 どうして、とは今聞かなくていい。火凛の不安を消し去る方が先だ。


「お父さんかお母さんが登下校の迎えをする。……それと、出来ればこの家に泊まってくれた方が都合が良い。狙いが分散していたらいざという時に助けに行けないからな。……考えたくないが、もし人質に取られたら不利になる」


 …………そこまで危ない人達、って事か。


 思わず考え込む。


 正直、奏音と来栖は分からないとしか言えない。……家族の話などプライベートな話はしていないからな。


 だが、輝夜は厳しい気がする。


「……」


 火凛も同じように考え込んでいた。


 そして、火凛はゆっくりと口を開く。


「……皆、厳しいと思います。奏音は……家庭の事情があって、同じで輝夜ちゃんも難しくて…………来栖ちゃんも輝夜ちゃんの事を一番気にかけてますから」



 でも、と火凛が続ける。


「奏音達が危ない目に遭うかもしれないなら……説得します。どうにか」

「……ああ。お願いだ。……輝夜ちゃんに関してはお母さんにもお願いして良いか?」

「ええ。任せて。というか親御さんへの説明は私がするつもりよ」


 ……ああ、そうか。そうだよな。巻き込んでしまう事の説明と謝罪はしなければいけないか。


 これは母さん達にやって貰うべき事なのか。……いや、母さん達が適任なのは分かっている。


 母さん達に非は一切無いのに……というか母さん達も火凛も、皆巻き込まれた形なんだ。それなのに謝ると言うのは……


 すこしだけモヤモヤした気持ちになった。


「水音も火凛ちゃんもそんな顔しない。こういうのは大人の……親の私達がやるべき事なんだから」

「……ああ」

「……はい」


 どうやら火凛も同じ事を考えてたらしい。火凛の手をぎゅっと強く握ると、強く握り返された。


「後は……そうだな。軽く説明までしておくか。水音と火凛ちゃんの友達達がどうして危険な目に遭うかもしれないか」


 父さんの言葉に頷く。……火凛も頷き、父さんを見た。


「まず最初に。……水音。大体十日前だったか。妙な車と男を見たって言ってたよな」

「ああ。真っ白で高そうな車だ」

「それだ。その車なんだがな。……向こうの暴力団の組合の……何と言えば良いか。専属の探偵のような者が好んで使う車だった」


 父さんの言葉に思わず目を見開く。


「……見間違いの可能性は?」

「ほとんど無いだろう。……少なくとも、この街でその車を使う奴はそいつぐらいしか居ないらしいし、水音達をジロジロ見てたのでほぼ確定との事だ。……そいつにはカタギ……普通の人間相手なら一度くらいならバレても構わんと大胆になる癖があるらしい」



 なるほど。確かにあんな車は今まで見た事が無い。……いや、普段から他人の車を観察するような事はしていないのだが。


「それで……俺の顔見知りの顔見知り……まあ、桐島のグループメンバーって言った方が早いか。そいつをちょっと…………脅して裏切らせた」

「また物騒な話だな」

「や、アレだよ。そいつも桐島ん所には色々と思う所があったらしくてな。ちょっと……本当にちょっとだけ忠告したら折れてくれた。そんで出てきた話がそれだった。火凛ちゃんと水音を尾行して、仲が良さそうな女子に目星を付ける。それで……人質にすれば火凛ちゃんを出さざるを得なくなる、とな」


 ……桐島達はどうしようもないクズ野郎のようだ。知っていたつもりだったが、ここまでとは。



 というか、父さんもかなり危ない橋を渡っていそうだ。


「それで、どうにかなりそうなのか?」

「……ああ。向こうの組長と話す事になった」

「「「「え?」」」」



 思わず俺達は声を上げた。頭で理解するより早く声が出てしまった。


 そして……シンとなる。止まっていた頭が最初に動き始めたのは……やはり母さんだった。


「……何があったのか聞いても良いかしら?」

「ああ。……とは言っても難しい話じゃない。さっき言ってた専属の探偵。そいつが動くほとんどが向こうの幹部絡みらしい。そんで、幹部より上ってなると限られてくる訳だが……俺の知り合いの幹部は組長と懇意になってるらしくてな。実際にアポまで取り付けられた。限られた時間ではあったが」


 どこまでアクティブなんだこの父さんは。


「……だ、大丈夫なのか? そんな所のトップと話すって」

「ああ。話に聞く限りは問題無い。カタギに手を出す事は絶対に許さないって言ってたからな。それに、念の為に俺の知り合いでフリーのボディーガードをやってる奴が居るから日雇いするつもりだ」


 ……また新しい知り合いが出てきたが。どうなっているんだ。俺の父さんの顔は。顔が広いってレベルじゃないぞ。


「その俺の知り合いの幹部も出席してくれるし大丈夫だ。時刻は明後日、月曜の午前十時にとある場所で待ち合わせをしている」

「……また急な話ね」

「相談も出来なかったのは悪かったと思ってる。だが、なるべく早めに事は解決させたかったからな」


 ため息混じりの父さんの言葉に頷く。あまり事態を長引かせたくはなかったから。


 長引けば相手にこちらの情報が行き渡るリスクも高くなるし、何より火凛の精神衛生上にも宜しくない。


「ま、今のところ話せるのはこれぐらいだな。後は細かい話とかしかしなかった」

「……なるほどな。ありがとう、父さん」

「ありがとうございます」


 俺と火凛が言えば、父さんは笑った。


「良いっての。俺の繋がりはこんな時にしか役立たんし、しかもその繋がりがまだ増えるんだ。お父さんにだってメリットがあったんだぞ?」


 そのどこか茶化したような言葉に思わず微笑んでしまう。照れ隠しとも言うか。


「そんな事より早めに休んだ方が良いぞ。明日は水音達の友達に説明もしないといけない」


 時刻はまだ九時にもなっていない。だが、その言葉通りにしておいた方が良いだろう。


 火凛がちゃんと眠れるかどうかもちゃんと確かめなければならないし。


「……そうだな。そうしておくか。火凛、水美。部屋に戻ろう」

「え? でもまだ早過ぎないかな、兄さん」

「……火凛と水美と話したい事もたくさんあるからな」


 水美の頭を撫でてそう言えば、パッと目が輝いた。


「……! そうだった! 兄さん達に話したい事がたっくさんあるんだ!」


 水美はぴょん、と立ち上がってそう言う。火凛へ手を伸ばすと、手を取って立ち上がった。もうさきのどのようにふらふらしたり変な歩き方になったりはしていない。


「……じゃあ、先に上がっておく。おやすみ、父さん。母さん」

「あ、おやすみ! いい夢見てね!」

「おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい。三人もいい夢見てね」

「ああ。おやすみ。ゆっくり休むんだぞ」


 父さん達へそう告げて俺達は二階へ上がった。



 ……父さん達は、まだ休まないようだった。


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