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星割の明滅閃姫  作者: 零の深夜
前章:生還、性転換、英雄譚!編
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3:迎撃と再会と選択と


 通り過ぎる艦内の様子など見る余裕もなく、一直線に向かった機体の格納庫で、彼女のよく知る濃緑色の機体に乗り込んだ先で、内蔵された紫色の石を通して、少女の声が響いた。


 『あー、あー。聞こえているよね?さて、キミの搭乗していた“夢幻機兵(ルナティック・ギア)”も修理が終わって、戦線復帰が可能な状態までなんとか持ってきた。キミ専用の装備はそのままにしておいたから、好きに暴れて来るとといい。では、キミに、勝利あれ!』


 一方的にそう言い終わると、ブツリと通信が切れ、クロスの乗る量産型夢幻機兵、ディピスは外に向かうハッチを一歩、二歩と動作を確認するように踏み出すと、やがてその足は早足へと変わり、更に加速を続け、走る動作へと切り替わると、その視界は一気に開けた。


 陽の眩しさに眩みながら振り返ってみると、自身の出てきた場所が、戦艦であった事に唖然とするも、今は目の前の有事だと首を振って、前方へ意識を向けると、すぐに目視で狼達の群れを確認できた。


 「さて、追い払うだけで良いって言ってたな。さっさと始めるか!」


 そうボソリと呟いて、手をそのたわわな胸の前で一度叩くと、深く呼吸をして左右の石に魔力を注ぐ。


 その石はたちまちに反応を示し、灰色から、淡い青色へと変化する。


 「感度良好。問題は無し⋯⋯と」


 そう呟いたクロスに連動するように、ディピスは腕を後ろへと回し、背中に背負った鈍色のバックパックの下に手をやると、それの底が開き、黒光りする二丁の回転式の拳銃が吸い込まれるように手に収まる。


 「動作も良好。さて、やるか!」


 クロスの気合い一声と共に、ディピスは手元の拳銃をくるくると器用に回すと、木々を避けつつ迫る、狼達にそれを構えた。


 「フレイムウルフにウィンディウルフ、ライトニングウルフまで居るのか。面倒だなぁ!」

 

 構えた拳銃の撃鉄に親指をかけると、それを起こし、引き金を引き、起こしたハンマーが解放される。

 それが弾丸の後部を打ち付けると、そこに刻まれた魔法文字が薄紅色に発光する。


 弾倉の内部では、小さな爆発が起き、その力を受けた弾は空を切りながら、群れの先頭を走っていた一頭の、緑の毛色をした狼の眉間を貫き、胸部まで到達すると、その体の中に巡る魔力を吸って魔法文字が薄紅色に発光すると、拳大の炎を吐き出した。


 炎は狼の脂肪や血液を燃料に一層と火勢を強め、あっという間にその身を火の塊へと変えてしまった。


 『あ、あー!聞こえているかなクロス君!すまない。移動中に襲撃者の撃退が主目標と言ったが、今艦長から指令が下った。その狼達の毛皮や牙は素材になるから、可能な限り回収して欲しいそうだ。だから、炎の使用は極力控えて欲しい。では、引き続き健闘を祈っているよ』


 ディピス内部の魔伝石を通してネメアがそう一方的に言うと、ブツッと音を立てて通信が切れてしまう。

 

 「えぇ⋯⋯?弾倉全部火にしちまったぞ⋯⋯仕方ねぇ!」


 クロスは再び両側の石に魔力を込めると、ディピスはレンコン型の弾倉を開けて銃を逆さにして弾丸を全て放出すると、銃を捨てると背中に手をやり、バックパックから銃弾を空いた両手一杯に取り出すと、それを空へと投げ放った。


 彼女はくるくると回り落ちて来る、弾丸の種類と軌道を見極める。


 「青い弾⋯⋯青い弾⋯⋯これと、それと、それ、あとあれもか!」


 ディピスは器用に弾倉の中に落下する弾を、時には穴の縁を使って強引に回転させ、右に二発、左に一発収めると、その銃を構え直して撃鉄を起こし、素早く引き金を引いて撃つ。


 虫のように小さかった狼達の群れも、次第に一頭一頭を視認できるほどの大きさになると、示し合わせたかのように半々に固まって左右へ広がり、挟撃の態勢を取った。


 「まあ、的にはなりたくないわな。揺さぶるのも正解なんだが⋯⋯うっぷ。()()()()()酔いそう⋯⋯」


 蛇行する狼達を見て、高くなりすぎた動体視力に翻弄されるが、寸での所で魔石から手を離さずに済んだ彼女は、両側の先頭を走る狼に狙いを澄ませ、引き金を引かせる。


 先ほどと同様に、空を切り裂きながら打ち出された青い弾丸は、右から迫る赤い毛色の狼に吸い込まれるように命中する。


 それは胴体を貫き心臓まで到達し、周囲の魔力を取り込んで藍色に発光すると、赤い狼の纏っていた炎すら打ち消し、その身に流れる血液までも凍てつかせた。


 左から迫るウェンディウルフにも同様に弾を打ち込んで氷漬けにすると、クロスはふぅと小さく息を吐いた。


 「三頭じゃ、まだ撤退はしてくれそうに無いか⋯⋯」


 倒れた仲間を見て狼達は激昂に声を上げるが、クロスは容赦なく、その塊に銃弾を打ち放っていく。


 追加で四頭を仕留めた辺りで、狼達も体内の魔力の準備を終えたのか、その口に炎や雷、風を含むと、左右から一斉に吐き出した。


 「いっ!?疾駆(ブースト)!」


 クロスがそう唱え、更に魔力を注ぐと、背中のバックパックに内蔵された魔石が白く輝き、魔力を噴射すると、その推進力で左へと避けた。


 避けた先には爆発と轟音が鳴り響き、地面には硬い土を抉り取ったような窪みが出来上がっていた。その威力に、クロスはぶるりと身を震わせた。


 「あっぶなぁ⋯⋯くそ。あんまり使えねえのに⋯⋯」


 クロスが目の前の映像から、チラリと手元の魔力残量を見ると、半分を切っているのが見えた。


 「遠距離戦は止めだな。あの魔法は食らわないようにしないと」

 

 彼女はそう言って、ディピスは両手の銃を捨てさせると、腰に差している剣の柄に空いた両手を交差させて引き抜く。


 その剣身は、薄い鈍色の光を放ち、所々に見られるサビと、刻まれた魔法文字のかすれ具合から、相当使い込まれていることを感じさせた。


 「はあああああ!」


 彼女の一声と共に駆け出したディピスは、近くに居るウェンディウルフに斬りかかると、あっさりとその胴体は両断される。


 死骸からポロリと落ちた魔石を足で踏み潰すと、白い煙のように立ち登る魔力が、ディピスの背負う魔石に吸い込まれた。


 「おお、一回で半分以上回復できるのか。や。逆にそれだけ一匹が強いのか⋯⋯」


 ボソリとそう呟いて警戒を一層強めたクロスに、群れから三頭が飛び出し、牙を剥き出して襲い掛かった。


 その口内には炎、風、雷が蓄えられて居るのが見え、噛み付いたと同時に放出する算段なのだろう。


 そう判断を下した彼女は一つ息を吐いて狼達を見据えると、左右の石に更に魔力を送り込む。


 ディピスは背中から魔力を噴射して高く跳び上がり、自然落下の力を利用して両手の剣を赤い狼へ振り下ろすと、狼の体は鼻先を軸に左右へと断たれた。


 更に、その勢いのまま回転を加えて他の二頭の首を刎ね飛ばす。


 その様子を伺っていた狼達が、じりと後退りをすると、その後ろから一際大きな咆哮が撤退は許さないとばかりに襲い掛かる。


 「おー、あれが群れの長だな!」


 クロスの視線の先には、他の狼達よりも一回り大きな、黒い毛並みの狼がその鋭牙を剥き出しにして威嚇の声を上げる。


 「ダークウルフか⋯⋯」


 取り敢えず、と呟いたクロスは、剣を鞘に仕舞うと、

 先に捨てた銃を拾い上げて狼達の魔法で吹き飛ばされてきた弾丸を拾って弾倉へ込めると、流れるようにそれを打ち出した。


 先程と同様に目にも留まらぬ速さで黒い狼へと迫った弾丸だったが、それは狼の目の前に現れた黒い壁に阻まれる。


 「やっぱダメかぁ⋯⋯」


 項垂れる彼女に、黒い狼は、一つ吠えると、目の前の壁が巨大で鋭利な槍となって射出される。


 それをディピスは紙一重で避けると、その槍を追いかけるように、左手で掴み取る。


 「うっわ!取っちゃった!?」


 つい、といった様子で叫んだクロスだったが、その槍がダークウルフの元まで戻ろうとする力は凄まじく、それを離すまいと彼女は背中の魔石の魔力噴射を利用して対抗した。


 「つい取っちまったが⋯⋯ん?」


 体が反転した事により見えた艦の甲板に、彼女は、寝そべりながら細長く黒いライフルを構える青い丸みを帯びた機体を見た。


 「あれは!?」


 その先端から閃光が迸ると、ディピスとの力比べに夢中になっていたダークウルフは防御する暇もなく、眉間に穴が空き、噴き出すはずだった血液すら瞬間的に凍てついて、あっさりとその命を散らした。


 ディピスの握っていた黒い槍が霧散したため、空いた手で腰の二本の剣に手を掛けると、対峙していた狼達は状況を不利と見たのか、即座に元来た道を引き返して行く。


 一方、ディピスの反対側から迫っていた狼達も、青い機体から放たれる弾丸を受けて撤退を選び取る。


 「終わったか⋯⋯」


 去っていく狼達を見届けて、クロスは両手を魔石から放し呟くと、それを聞いていたかのように、ザザと音を立てて通信が入った。


 『ご苦労だったね、クロス君。倒した魔物の回収はこちらでするから、そのまま帰投してくれて構わない』


 『了解。これより帰投する』


 クロスは流れるような動作ででそう送り返すと、元居た船へと歩き出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


 クロスは、辿り着いた船の中の格納庫で、ディピスから慣れた様子で降りると、同時にあの青い機体から降りて来る少女の姿があった。


 「イリス!」


 クロスがそう呼ぶと、イリスと呼ばれた青髪の少女は、振り返ってその銀色の眼を胡乱げに細めると、口を開いた。


 「なに?」


 「お前もこの船に乗ってたんだな。兎に角、助かったよ!」


 そう言って、いつものように、といった様子で少女の青い髪の頭頂部に生えている、二つの猫耳を撫でようと手を伸ばすが、それは彼女の手にてしっと払い落とされる。


 「触らないで!⋯⋯わたしはアナタを認めない」


 静かに、しかし、ぴしゃりとそう言った少女は、クロスから身を翻すと、毅然とした足取りで歩いて行く。


 「は?分からないのか⋯⋯?あー、いや、そっか、そうだよな、俺だよ!俺⋯⋯」


 「んっん!その先は喋らない方が無難だと思うよ?」


 イリスを追いかけようと足を踏み出したクロスを、態とらしく咳払いして止めたのは、金色の髪を揺らし彼女と入れ替わるように歩いて来た、ネメアだった。


 「どういう意味だ?」


 聞き返したクロスに、ネメアは小さく肩を竦める。


 「まずは今回の戦闘、お疲れ様だったね。それで、キミと出撃前に話していた事だけど、キミが生きている事自体、今はボクしか知らないんだ。だから⋯⋯」


 「別人として⋯⋯か。選択肢が残ってなさそうだし。分かった。俺は今からクロ・リュミナーレだ!」


 細くしなやかな自分の指と、膨らんだ胸、そして横に伸びた耳を触って、別人になった事を改めて突き付けられ、クロスは、その名前を捨ててクロ・リュミナーレの名前を選び取った。


 「それと、キミのその、“俺”って言う言葉も改めて貰いたい。そこから正体が分かったら本末転倒だからね。できれば言葉遣いも⋯⋯それは追々矯正して行けば良いか」


 今どうこうする事では無いと判断し、改めてクロを見やると、彼女が内腿を擦り合わせて赤面し、モジモジとしていた。


 「おや、どうしたんだい急に?」


 「いや、その、なんだか急に尿意が⋯⋯」


 そういう事かと手を打って、ネメアは格納庫の奥の方を指差した。


 「お花を摘みたいなら、あっちだよ」


 「いや、そう言う事じゃなくて⋯⋯」


 しどろもどろとしていたクロだったが、やがて意を決したように顔を上げて言う。


 「やり方がわからないんだ⋯⋯というか、知ってたらそれはそれで問題だろ!?」


 ネメアは彼女の返答に、その翡翠色の瞳を細めた。


 「ははぁ。そうだよね。うんうん。なるほど。それは死活問題だね。なら、お姉さんが一肌脱いであげようじゃないか」


 「は?いや、ちょっと!別にそこまで⋯⋯」


 「まあまあ。ボクに任せてくれたまえ。今キミはまさに大船に乗って居るんだからね。ははは。我ながら上手い事言ったと思わないかい?」


 少女は意気揚々とクロの手を引きつつ、その足取りは軽く、格納庫の奥の闇へと二人の姿は消えて行った。

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