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星割の明滅閃姫  作者: 零の深夜
前章:生還、性転換、英雄譚!編
36/136

35:反撃の咆哮とココロ繋ぐ明滅と


 立ち昇った光の柱がやがて消え去ると、その中央には、黒と青の二機が佇んでいた。


 「くっ!」


 魔力と体力を消耗しよろめいたクロの肩を、イリスが掴んで支える。


 「クロ、へーき?」


 「あぁうん。大丈夫。すぐに乗って応戦を⋯⋯」


 「させると思いますかぁ?」


 イリスが駆け出そうと足を踏み出したその時、ネフィルが二機に指を突きつけると、メルナが口腔に蓄えた豪火を吐き出した。


 「させない!」


 イリスが手を翳すと、放射状に広がる炎は噴水からせり上がる大きな氷の壁によって阻まれた。


 「イリス! ()()()!」


 「ん!」


 クロはイリスに手を向けて目を瞑り、イリスが力強く返事を返し、小さく呟く。


 「転送⋯⋯」


 瞬間、青と白の輝きに包まれたイリスが目を開けると、クロスと共に何度も見た、ステラの内部からの光景が広がっていた。


 イリスは、はたと気づくと、左右の魔石を乱暴に掴み、魔力を流す。


 力強い魔力の波動を受けたステラは、右腕に担いだ狙撃銃を構え、メルナの右前足に狙いを定めて放つ。


 「メルナごめん。いまは、ゆうじだから!」


 クロへと迫っていた鋭利な爪は弾き上げられると、その間にクロはメイメツへと乗り込んだ。


 『ホントに⋯⋯ホントに()()にのってるの、クロなんだ⋯⋯』


 魔伝石に触れたイリスが、動き出したメイメツを見て声を震わせる。


 『ずっと⋯⋯ずっとさがしてた! しんじゃったかとおもって、不安だったの!』


 『何度も伝えようとした! けど、私にも事情が⋯⋯』


 『ふざけないで!』


 イリスは会話の途中、熱線(ブレス)を放たんと口腔から炎を漏らしたメルナの顎下を、寸分の狂いもなく撃ち抜いた。


 『となりで、ずっと、あざわらってたの、ゆるさないから!』


 硬い鱗によって貫通することはなかったが、衝撃によってメルナの顎門は、上空へと向けられ、紅蓮の火柱となって里中を明るく照らし出した。


 「なんっだありゃあ!? 俺たちの中に、あんな力があったのか!?」


 ふと、ざわめく声を感じ、クロが周囲を見渡すと、騒ぎ立てているロクスと、里の人々が広場を囲うように見物に訪れている様子が目に入った


 「あらあらぁ⋯⋯本当にウジムシのように湧いて出てきますねぇ。あぁ。怒り、憎しみ、戸惑いすら、その感情全てが魔王様の糧となるのですぅ!」


 恍惚の笑みを浮かべたまま、ネフィルは自身の頬に指を這わせて更に続ける。


 「はあぁ。上げて落とされた方が、深い絶望が生まれやすいというお話は本当だったわけですねぇ。ならば、更に盛り上げて差し上げなければ失礼というものぉ!」


 他を掲げたネフィルが、指輪パチンと鳴らすと、里を囲む山々から、幾つもの瘴気の柱が立ち昇る。


 「策というものはぁ、二重三重に張ってこそ意味をなす物なのですよぅ!」


 いつの間にか、里の周囲は瘴気を吸い込み自我を無くした魔物達で溢れ返っていた。


 クロが真正面のメルナへと向かい合うと、彼女は衝撃による眩暈を取り払うように、頭を振っていた。


 『クロ⋯⋯アタシを⋯⋯殺して』


 僅かな視線の交錯の末、響いた一言に、クロは首を横に振って否定する。


 『できるわけない! 絶対なんとかするから! もう少しだけ⋯⋯』


 『⋯⋯アタシの自我はもうすぐ取り込まれる⋯⋯だから、お願い』


 クロはメイメツの中で俯き、ギリリと奥歯を噛み締め、握った拳からは血が滴る。


 「⋯⋯ざけんにゃ!」


 次の瞬間、クロは大きく息を吸い込み顔を上げて慟哭する。


 『うにゃああああああああああ!!』


 里中に響き渡る大声に、全ての音が静止し、辺りは静寂に包まれた。


 『ふっざけんなぁ! どいつもこいつも好き勝手! もう!全部丸ごとまとめて完膚なきまでに(どうしようもないほど)どうにかしてやる!』


 メイメツはまず、黒髪の大男を指差す。


 『まずロクス! この里の夢幻騎兵(ルナティック・ギア)をありったけかき集めてきて魔物の対処! 戦えない人達は安寧の塔へ誘導! 分かった!?』


 「ハッ!」


 クロが強く聞き返すと、ロクスは敬礼を返し、足早に去って行く。


 『ショタコーン! 彼の先導と警護、なるべく魔物のいないところへ!』


 「了解ですぅ!」


 ショタコーンが人化を解き、一角獣の姿を取り、人のあつまっているほうへと走り去るのを確認すると、次に青い夢幻騎兵、ステラへと指を向けた。


 『そんでイリス! 話は終わったらするから今は我慢!』


 『ん。はい⋯⋯』


 ステラは狙撃銃を再び構え直し、ネフィルへと照準を向ける。


 『次ぃ! ネフィルはその厄介な力を全部抜いてラスティの所へ送り返す!』


 「(わたくし)を⋯⋯? あのちんちくりんの元で木端騎士としてまた働けと⋯⋯? 尚更、アナタに負けるわけには行かなくなりましたねぇ!」


 ネフィルの指から放たれる瘴気の弾丸を避けつつ、クロは最後にありったけの声を肺から吐き出した。


 『メルナぁ! 簡単に諦めんじゃない! 私が絶対なんとかする! だから!だから、諦めんなぁぁぁ!』


 ビリビリと空間を震わせた声に、ハッと息を呑んだメルナが、メイメツを庇うように覆いかぶさると、苦悶の表情と共に雄叫びを上げた。


 『ぐうううう!』


 メルナの背中には、無数の瘴気の柱が腕の形を取り、群がるようにして襲い掛かっていた。


 『メルナ!』


 『フンッ、何しけた声出してんのよ。啖呵切ったんだから、やるだけやりなさいよ! アンタのこと⋯⋯信じるから⋯⋯』


 メルナの言葉が尻すぼみに小さくなると、その瞳は再び赤黒く染まる。


 最早その瞳からは理性を感じられず、メイメツは一旦距離を置いて拳を真正面に突き出す。


 「⋯⋯ごめんメルナ。少しだけ痛いかも!」


 突き出した拳を開き、メイメツの手が青白い光を放つ。


 『来い(アクセス)! クロガネ!』


 眩い閃光が収まると、そこにはメイメツの身の丈以上に大きな黄金の大剣が姿を現した。


 「やらせませんよぉ!」


 ネフィルは黄金の剣を手にしたメイメツに向かい手を振り下ろすと、それに呼応するように無数の瘴気腕が迫る。


 『クロのジャマは⋯⋯させない!』


 ステラの構えた銃の先から閃光が迸り、巨大な赤黒い腕は手首から先が跡形もなく消し飛んだ。


 「ふふっ、(わたくし)のお相手は貴女かしらぁ? いいでしょう。先ほどよりもっと鳴かせてあげましょう」


 ステラを睨みつけ、標的を変えたネフィルはニヤリと笑いかける。


 『じょうとう。やってみるといい』


 二人が視線で火花を散らしている一方で、クロの乗るメイメツと、メルナの攻防は一進一退を繰り返していた。


 メイメツは、自身の身の丈の倍はあろうかという巨体から繰り出される爪撃を、クロガネを水平に構えて凌ぐ。


 まるで鋭利な剣のように研ぎ澄まされた爪が、風切り音を立てて三度振るわれる。


 「この剣! よく! わかんない!」


 メイメツは軌道を読みクロガネを水平に構え、爪を剣身で受けて逸らす。


 火花を散らしながら、振り下ろされる爪を弾きつつ、ままならない状況に、クロは小さく舌を打った。


 「このままじゃメルナが⋯⋯!」


 先の戦いで見せた黄金の光を放つわけにはいかず、お互いに一手足りず攻めあぐねている状況は、クロに更なる焦りをもたらす。


 「うぁっ! しまっ⋯⋯」


 真正面の爪を凌ぎ切る事に気を取られていたクロは、足元から迫る尻尾の存在に気がついた時には、横薙ぎの一撃を受け吹き飛ばされていた。


 「ゲホッ⋯⋯やってくれるじゃない!」


 つう、と口の端から流れる血を舐め取り、クロは狂気に駆られたメルナを見据えて魔力を更に練り上げる。


 『メルナァ! そんなチカラに飲み込まれるなんて、らしくないよ!』


 魔伝石を通じて放たれたクロの声に、メルナは小さくピクリと反応を返した。


 『私は知ってるんだから! フォゲルナでも、ファウンティでも、皆の避難に尽くしてた事。本当は優しいって事。その優しさだって強さだよ!だから!』


 メイメツは青白い光に包まれ、メルナの顎下へと転移し、炎を蓄えた口の顎を大剣の剣身で打ちつけて大空へとかち上げる。


 『だから、絶対にその悩みも、不安も、絶望も全部受け止めるからっ!』


 口内から紅蓮の火炎を吹き散らしながら、夜空を切り裂くように遥か彼方へと舞い上がったメルナを追いかけ、メイメツは青白い光に包まれて消える。


 『帰る場所がある。話す相手もいる。またクッキー食べながら話そうよ、メルナぁぁぁぁぁ!』


 メルナの頭上まで跳んだメイメツは、淡く輝く透明なガラス玉のような球体、封玉(ほうぎょく)を拳の中に握り、メルナの額に優しく触れる。


 『こんなチカラ、もう要らないんだ!』


 エルフの知覚能力を最大限に発揮し、クロはメルナの身体を流れる瘴気全てを視界に収めて呟いた。


 『だから⋯⋯出て行け(リリース)!』


 瞬間、夜であった事を忘れるような、青白く眩い光がドランの里中を照らしだす。


 両の手足を動かすこともできず、顔をくしゃくしゃに歪めたクロが涙を流しながらメルナを見つめると、その巨体は徐々に小さくなり、メイメツの手の中には赤黒く澱む禍々しい色の封玉が握られていた。


 鱗が剥げ落ち、体の縮小したメルナがメイメツの腕の中でゆっくりと目を覚ます。


 『メルナ!』


 「そんなに大声出さなくても⋯⋯聞こえてるわよ⋯⋯」


 よろめきつつも両腕を支えに立ち上がったメルナは、メイメツの頭部に視線を送り、手を振って無事を表現してみせた。


 『良かったぁ⋯⋯』


 「ひっ! ちょっとぉ!? その玉っころ、投げ捨てるかなんかしなさいよ! こんなの、二度と近寄りたくないからね!」


 『ええっ、いや、そう言われても⋯⋯ここ、空の上だよ?』


 メイメツがメルナを包んだ手を開くと、満点の星空が広がり、下を見れば地面が迫ってきていた。


 「な、何か考えとかないわけ!?」


 『いやぁ、もう魔力はすっからかんだよ。⋯⋯どうしよう?』


 「アンタ無鉄砲の馬鹿直ってないじゃない! アタシに聞くなぁぁぁぁ!」


 『馬鹿って言う方が馬鹿なんですぅぅぅぅ!』


 二人の絶叫が辺り一面に響き渡り、クロが星空を見上げていると、星の一つが瞬いた。


 『クロくぅぅぅぅぅん!』


 それは赤い月に照らされた、濃緑色に光るディピスであり、魔伝石を通して声がクロの耳をつんざいた。


 『ネ、ネメア!?』


 『無駄足にならなくて良かった! さぁ、この手を掴み取るんだ!』


 ネメアの言う通りにディピスの腕を掴み取り、メイメツはふわりと宙に浮かぶ。


 『助かったぁ! ネメアありがとう!』


 クロはメイメツの胸部にある操縦席のハッチを開き、内へと招き入れた。


 「はぁ。認めるわ。アンタの無鉄砲に助けられたのは事実だし⋯⋯その、ありがと⋯⋯」


 「え? なんだって?」


 「ちょっと! 聞いてなかったわけ⋯⋯うわ、アンタ、その格好で戦ってたの?」


 改めてクロに視線を移したメルナは触手に四肢を絡めとられている姿を半目で眺めた。


 いつもの調子を取り戻しつつあるメルナに、クロは苦笑いを浮かべて返す。


 「いやぁ、あはは、そこは触れないでもらえると助かるかなぁって⋯⋯」


 言い切った瞬間、ズシンと衝撃を感じたクロは、周囲を見渡すと、破壊された噴水が目に入った事から、地表にたどり着いた事を悟る。


 「あ、メルナ。そんなに気負わなくてもいいんだよ。だってもう私たち、仲間でしょ?」


 「あ、アンタ、やっぱ聞こえてたんじゃない!」


 「何の事かなぁ?」


 話をしつつ、メルナの言動と体内の魔力の流れを見ながら、瘴気完全に取り払えた事を確認すると、クロは広場の中央に佇むネフィルに改めて目を向ける。


 『さて、残るはネフィル! 貴女だけだよ!』


 イリスの冷気によって両足を凍漬けにされたネフィルは、大きく項垂れた。


 やがて肩をわなわなと震わせると、空を見上げて高らかに笑う。


 「あははぁ! こんな程度で(わたくし)を追い詰めたとでも? 笑わせてくれますねぇ!」


 メルナがメイメツから飛び降りて走り去ると、入れ替わるようにイリスの操る青い機体、ステラがズシンと重厚な響きを立てて広場へと舞い降りた。


 『クロ、ごめん。あいつ、めんどい』


 『無事で良かった! めんどい?』


 ん。と頷いたステラは背中の狙撃銃をネフィルの足へと構え、躊躇なく引き金を引く。


 『あ、ちょっと!?』


 放たれた弾丸は厚い瘴気の壁によってキンと軽い金属音を残して阻まれる。


 その様子を見ていたクロは、顔を顰める。


 『自動的に防御するわけか⋯⋯ならさっきのはどうやったの?』


 両手足が氷によって拘束されていた場面を思い出し、クロが思案顔で訊ねると、イリスは小さく頷く。


 『フェイントで、ひっかかった』


 『あぁなるほど。半自動的って事ね。分かった』


 再びクロがネフィルへと視線をやると、彼女の声が響き渡る。


 「用意した魔物達は竜人に阻まれぇ、肝心の竜人は何故か元の姿に戻りぃ、(わたくし)は今、こうして夢幻機兵(おもちゃ)共に囲まれているぅ。あぁ!これほどの絶望がありましょうか! しかぁし!この絶望感すらも魔王様の血となり肉となるのですぅ!」


 どこか芝居がかった動作で腕を広げた彼女へ、無数の瘴気の腕が絡みつき、小高く赤黒い丘を形成する。


 『やらせない!』


 イリスはネフィルの姿を見失う前に、瘴気の塊に向かって弾を打ち込むが、それは先と同様金属音を奏でるのみに留まった。


 「ヒトには到底辿り着けない、チカラの極地をお見せしましょう」


 少しして赤黒い丘が弾け飛ぶと、大きな影が姿を現す。


 『あれは⋯⋯夢幻機兵(ルナティック・ギア)!?』


 その姿は、クロ達の乗る機体をベースに、赤と黒の配色が為された鋼鉄の巨人であった。


 『いいや。違うよクロ君。魔力を糧に動くのが夢幻機兵だとしたら、それとは対をなす存在。瘴気を糧に動く、そうだね⋯⋯“虚瘴機兵(アカシック・ギア)”とでも言おうか』


 「あぁ、あぁ、絶望が怨嗟が怒号が悲鳴が⋯⋯そして、この全能感んんんん!」


 ネフィルの乗る機体、虚瘴機兵は空中へと跳び上がると、背部の排気口から多量の瘴気を吐き出す。


 「まだまだ終わりませんよぅ!」


 吐かれた瘴気が収束すると、機体の背中には、羽ばたく度に瘴気の塊を散らす翼が生えていた。


 「さぁ、まだ始まったばかり⋯⋯第二幕の開演ですよお!」


 赤黒き月を背に、両手を広げてクロ達を見下ろしたネフィルは、恍惚の笑みを浮かべるのだった。

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