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星割の明滅閃姫  作者: 零の深夜
前章:生還、性転換、英雄譚!編
32/136

31:奮戦と新たな力と蝕む瘴気と


 前脚を大きく上げながら嘶いたショタコーンは、そのしなやかな四肢に力を巡らせ、地を揺らす。


 クロがショタコーンの体内を駆け抜ける魔力と瘴気の流れを追いかけると、それはショタコーンの額から突き出した黄金の輝きを持つ大きな角へと集中している様子を見て、クロは目一杯大声を張り上げて警告を促す。


 「来るよ! 話に聞いてた光を出すつもりみたい!」


 「やらせない!」


 徐々に強まる金色の光を目を細めながら見たイリスは、両手を正面に向けて氷柱を射出する。


 瘴壁によって阻まれた氷柱はショタコーンの目の前で弾け、煌めく粒子となって散った。


 「ショタァッ!?」


 突然の出来事に驚き怯んだショタコーンはは大きく前脚を上げて竿立ちすると、すぐさま体制を整え、氷柱をを撃ったイリスへと標的を絞り、坑道のレールがひしゃげる程の力で後脚を沈み込ませて黄金の一本角を彼女へと向ける。


 「突進来るよ! 横に回避!」


 咄嗟にイリスは左へ前転を繰り出して緊急回避を試みるが体格差は倍以上もあり、その鋭利で素早い角に背中を掠らせた。


 「ん。うごきやすくなった」


 彼女を包んでいた魔力で精製した幻影素体が背中の傷から裂け、内側からイリスの青い髪が露わになった。


 「怪我は!?」


 クロが心配そうに駆け出そうとするのを、イリスは手を上げて無事を伝える。


 彼女がほっと胸を撫で下ろし安堵の息を吐いたのも束の間。ショタコーンが坑道の壁を蹴って黄金の鋭角をイリスへ向け飛び掛かった。


 「後ろだ!」


 クロの指示を聞き、背後から突進を繰り出して迫るショタコーンを見たイリスは大きく跳躍すると、その黒い体毛に覆われた背中を踏みつけてやり過ごす。


 「イリス! よくやったわ。あとは任せなさい!」


 メルナが赤い髪を掻き上げつつ袖のボタンを外して捲り上げると、一回りも二回りも大きくなった腕をグルグルと振り回しながら駆け出し、真正面から迫り来るショタコーンの顔面目掛け腕を振るった。


 「ぺしゃんこにしてあげる!」


 「ショタアアアアアアアアアアアッ!?」


 薄緑色の竜鱗にびっしりと覆われた腕は的確にショタコーンの鼻先を捉え、その身をふわりと浮かせる。その腕撃の威力は計り知れず、ついにショタコーンは目の前のメルナを睨みつけながら足を震わせ地に倒れ伏した。


 「さて、じゃあちょっと失礼して」


 横たわるショタコーンに駆け寄ったクロは、黒毛に覆われた首筋へ手を添えると、顎に手を置いて暫く黙り込む。


 「やっぱり瘴気の影響かな⋯⋯」


 気絶し、ピクリとも動かないショタコーンを眺めつつ警戒を一層強めたクロは、目の前の馬体に流れる瘴気と魔力の流れを視線で追いかけると、腹下辺りに二つの力が混じり合う地点を見つけた。


 「何かある⋯⋯けどどうしよう、お腹裂くわけにもいかないし⋯⋯」


 目の前の一角黒馬が神獣と呼ばれてる存在であることを思い出したクロがこめかみに指を当てながら、むむむ⋯⋯とうなり声を上げて悩んでいると、地表に舞い降りたイリスが小首を傾げながら近づいて来る。


 「」


 「ああ、うん。できれば殺したくはないけど⋯⋯」


 すかさずイリスの頭にしがみついたクロが叫び散らすと、メルナが顔を顰める。


 「それで、こいつどうすんのよ? こうしている間にも、目を覚ます危険は⋯⋯」


 付き纏うのよ、と言いかけたメルナの足元が大きく揺れて足を取られた。


 「まさか、もう目覚めたの!?」


 横たわったショタコーンに目を向ければ、その真黒な体毛へと吸い込まれるように、周囲に蔓延っていた瘴気が集まり、風圧となって場にいた三人を吹き飛ばす。


 「ぐぅ⋯⋯!」


 「ショタアアアアアアッ!」


 ショタコーンの咆哮と共に散らされた瘴気の波動は更にクロ達の身体を吹き飛ばそうと襲い掛かる。


 「全員、レールにしがみついて息止めて!」


 いち早く地面を走るレールを握ったクロは、声を張り上げて肺の中の空気を全て出し、大きく息を吸い込むと、じっと目を閉じて風圧に備えた。


 「クロ!」


 「私は大丈夫! 瘴気を絶対吸わないように! それと、角の先から出る光にも注意して!」


 クロの忠告にイリス、メルナが順に頷き返し、いよいよ三人は赤黒い瘴気の暴風に飲み込まれ、姿が覆い尽くされた。


 びゅうびゅうと坑道の中を渦巻くように吹き荒れる風の中、頬を袋のようにパンパンに膨らませたクロは、瞳を閉じつつ身体中に魔力を流して暴風に逆らって一歩足を踏み出した。


 (なんとか耐えられるか⋯⋯よかった。二人とも、私の言う通りにしてくれたんだ)


 視界が塞がれている為、最早エルフと同程度の魔力探知の力を頼りに歩き出したクロはイリスとメルナの魔力を感じ取り、一先ず安堵の息を心の中で吐き出しつつ、正面に居座るショタコーンを睨みつける。


 (正直、いつまでもこの状態だとマズイな。なんとか瘴気の放出を止められれば良いけど⋯⋯)


 何か手はないか、とショタコーンの様子を観察していたクロの見つめる先、腹部で蠢く物体には既視感があった。


 (腹に何か⋯⋯あれは!)


 眺めていれば頭がズキリと痛むような邪悪なそれは、以前大蛇と対峙した際に見た魔石と似た物だ。


 (行くしかない⋯⋯よな)


 ぺち、と頬を叩いて腹を括ったクロは、瘴気に混ざり合い、青い光の線となって流れるショタコーンの魔力に手を伸ばす。


 イリス達の様子を眺めつつ、青白い光を散らしつつ転移を繰り返したクロは、ショタコーンとの距離をぐんぐんと詰めていく。


 「ショタァァァァ!」


 赤い瞳をギラリと光らせ、ショタコーンは迫るクロへと黄金の角を向けて力を溜める。


 (安全地帯は多分⋯⋯ここ!)


 漆黒の巨体の近くへと走り込んだクロは容量の小さくなった肺の限界を悟りながら、駆け抜けると、その巨大な腹の下へと転がり込む。


 「ここなら、()()!」


 クロは両手首の付け根を合わせてショタコーンの黒い毛に覆われた腹を、突き上げるように手を伸ばして魔力を解き放った。


 「おおおおお!! 転移ぃぃぃぃぃぃぃ!」


 肺の中の空気を絞り出しながら叫んだクロの腕は青白い閃光に包まれる。


 「クロ!?」


 クロの叫び声と閃光に反応したイリスがレールを支えに立ち上がり走り出す。


 「⋯⋯クロ!」


 やがて青白い光が収まった先にで、クロの腕の中には禍々しい赤と黒の入り混じったような球形の物体が収まっていた。


 「けがはない?」


 「うん平気。イリスは大丈夫そうだね。⋯⋯メルナは?」


 「アタシも問題ないわ。それよりも、その球が今回の原因なの?」


 メルナはイリスの後ろから顔を出し、クロの手に持つ赤黒い球体に指を差して尋ねると、クロは大きく首を縦に振った。


 「多分⋯⋯この中に物凄い量の瘴気が封じ込められてるよ」


 「ショ⋯⋯ショタァ」


 力の根源を奪われ、ぐったりと身体を横たえたショタコーンはクロのに近寄ると、舌を出して顔を舐め回した。


 「わっ、ぶふっ!? ちょっと、くすぐったいって!」


 もみくちゃにされたクロは目の前の真っ黒な長い鼻先を掴んでショタコーンと目を合わせた。


 「ひとまず、瘴気は落ち着いたみたいだな」


 瞳に宿っていた狂気が薄れているのを確認し、クロが笑顔を浮かべると、ショタコーンの黄金の角が輝き始める。


 「あっ!? ちょっと、本気!?」


 背筋に嫌な汗が伝い、クロが光から逃れようと身を翻すが、坑道を明るく照らし出す強烈な光に呑み込まれた。


 黄金の輝きは数十秒かけてゆっくりと収まり、クロが次に目を開けたとき、目の前にはクロを見下ろす黒髪の美女が立っていた。


 「ヒトの身でありながら、よくぞ⋯⋯よくぞ乗り越えてくれました」


 「ん⋯⋯あれ、ショタコーンは!?」


 光の焼き付く視界の中、クロは目を瞬かせながら周囲を見るが、あの黒い毛に覆われた巨馬の姿が一向に見当たらず首を傾げる。


 ふと、見上げた目の前の美女の額にある黄金の角を見てまさか、とクロは恐る恐る尋ねた。


 「もしかして、ショタコーン⋯⋯さん?」


 「さん、などと他人行儀な敬称は不要ですよ。何せ(わたくし)を狂わせていた元凶を取り除いてくれた恩人なのですから」


 「狂わせていた⋯⋯?」


 「その事は後でお話ししましょう。まずは貴女のその手に持っている球の処分ですが⋯⋯いつ他の魔物が口にするとも限りません⋯⋯困りましたね」


 キラキラと黄金の光を振り撒きながら手を頬に当てて眉尻を下げたショタコーンに、クロはおずおずと手を挙げた。


 「それなら、コレを浄化できる人に心当たりがあります⋯⋯」


 「本当ですか!? それならば、迅速に参りましょう!」


 彼女は黄金の粒子を撒き散らして身を翻し、レールの上を歩き出そうと足を踏み出す。


 「そっちじゃない⋯⋯」


 ショタコーンの着る漆黒のドレスの裾を掴み、イリスは彼女を見上げつつ首を横に振った。


 「え⋯⋯と、コホン。案内をしていただきたいのですが⋯⋯」


 肩を縮こませてそう提案するショタコーンに、クロとイリスは顔を見合わせて小さく笑い合うと、もと来た道を辿ろうと踵を返す。


 「クロ。それ、あぶないから⋯⋯」


 小さな手の中で蠢く赤黒い球体を取り上げようと、イリスが手を伸ばすと、クロは後ろ手に隠して遠ざけた。


 「ダメ! ⋯⋯ごめん。でもコレは渡せないよ」


 「でも、それじゃあクロが⋯⋯わかった」


 彼女の強い意志の篭った瞳を見て、聞く耳は持たないだろうと判断したイリスは、小さく溜息を吐いてクロの手を握る。


 「これなら、しょうき、はんぶん」


 「あ、良いですねそれ。私も混ぜてくださいな〜」


 少し足を曲げつつ、クロの空いた左手を掴んだショタコーンがゆったりとした足取りで出口へと向かう。


 「ちょっとぉ。まさかアタシのこと忘れてないわよねえ?」


 クロの頭を撫で回したメルナが飛びつき、耳元でそう囁くと、彼女はそっと身を震わせる。


 「そ、そんなわけないよ! あのパンチは強烈だったね!」


 「ええ。まだほっぺがジンジンしますもの」


 「うっ⋯⋯悪かったわね。でもああでもしないとアンタ止まらなかったじゃない」


 「ええ。ですから、感謝してるのですよ。本当に、取り返しのつかない被害が出る前で済んで良かった⋯⋯」


 「コレのせいでもっと被害が出るかも⋯⋯早く行こう!」


 右手の赤黒い球体を掴む手に力を入れたクロが歩き出すと、全員揃って足を踏み出した。


 「歩き辛いんだけど⋯⋯」


 「でもそれ、瘴気の塊ですからねぇ⋯⋯」


 その足取りは重いながらも今度こそ出口へと向かうのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 「それで、君が(くだん)のショタコーンだね?」


 大型戦艦フューリーへと戻り、レミの浄化を受けた四人は格納庫へと通された。

 経緯を聞きつけたネメアが、黒いドレスの美女を見つめて問いかけると彼女はゆっくりと頷く。


 「ええ。間違い無いです。なんなら元の姿、お見せしましょうか?」


 「いいや。クロ君たちの話は聞いているからね。今更確認するのも手間だよ。それよりも、ボクはクロ君と少し話があるからね。失礼するよ⋯⋯キミたちは部屋に戻って少しだけ待機していてもらえるかい?」


 「クロ、へーきなの?」


 心配そうにネメアを見つめるイリスにネメアは手を顔の前で振って否定する。


 「ああいや、そんなに深刻な話じゃないんだ。心配は要らないよ」


 宥めるようなこの声音に、イリスは殊更不安にはなったが、クロがうんと背伸びをして彼女の頭を撫でようと手を伸ばす様を見て、逆に少し膝を折って彼女の頭を撫でる。


 「わかった⋯⋯ねえ。どんな姿になってもクロはクロだからね?」


 「イリス⋯⋯うん。少しだけ待ってて。すぐ戻るから。そしたらまた、香油を塗り合おう」


 「ん。じゅんび、しとくね」


 それだけ言うと、イリスはショタコーンとメルナを連れて格納庫の扉を開けて去って行く。


 「私は私⋯⋯か」


 「丁度誰も居なくなったからここで話をさせてもらうよ」


 彼女の後ろ姿を見送ったネメアが口を開くと、クロはごくりと固唾を飲んで聞き入った。


 「単刀直入に言うとね⋯⋯キミの身体は今、瘴気に蝕まれているんだ」


 「そんな!? まさか、あの球が原因で?」


 「いや、それもあるけど、度重なる戦闘と、ファウンティの街で受けた蛇の毒が原因だと思う。普通なら浄化の魔力で中和できるはずなんだけれど⋯⋯なにせキミは体内に魔石を二つも持っているからね。瘴気の影響を受けにくい分、浄化の魔力の影響も受けにくいんじゃないかな」


 「まさか⋯⋯助かる方法は無いの?」


 「いや、方法はあるよ。それにはまず、キミの身体を元に戻す必要があるんだ。かなり精密な魔力の操作が要るからね。その体のままじゃ、魔力操作に支障が出るよ」


 「じゃあ、これからやる事は⋯⋯」


 「「ロリコーンの捜索」」


 揃った声に、ネメアはよく出来ました、と声を掛けつつクロの頭を撫でるのだった。

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