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星割の明滅閃姫  作者: 零の深夜
前章:生還、性転換、英雄譚!編
14/136

13:友と散策と道化と


 ネメアに見送られた二人は、予定通り先に寄っていた服屋へと再び足を運んでいた。

 目の前には、赤い服に白いエプロン姿の女性店員が笑顔で出迎える。


 「うふふ。とぉ〜っても遅かったですねぇ〜」


 その口元は確かに弧を描いていたが、目が笑っては居なかった。


 「ひぇ⋯⋯」


 クロがその様子にたじろいで小さく声を絞り出すと、イリスも繋いだその手をきゅっと握りしめる。


 「ずっと待ってたんですよぉ〜? ずぅ〜っとずぅ〜っと⋯⋯うふふ⋯⋯」


 両腕をだらりと垂らした店員に、二人は肩を寄せ合って震える。


 「にげる?」


 「そんな訳にも行かないだろう。いや、服の受け取り忘れてただけだぞ? そこまで酷い扱いにはならないだろ」


 「こほん。まあ、そうですねぇ〜。ただ私が待ちぼうけで、今日までずぅ〜っと店番をしていて、クタクタなだけですからねぇ〜」


 うぐ、と言葉に詰まったクロはどうにか許してもらおうと、口を開く。


 「私に手伝える事なら何でもする! だから⋯⋯」


 その言葉に、店員の耳がピクリと反応を示した。


 「あら?あらあらあらぁ〜? 今、とってもいい言葉聞きましたよぉ〜」


 眼をギラリと輝かせ、店員はわきわきと手を動かしながら、クロへとにじり寄った。


 「じゃあ⋯⋯私とお友達になってくださぃ〜」


 言った後で後悔をし始めたクロだったが、その意外な提案に彼女の様子を改めて見てみると、彼女はモジモジと顔を赤らめていた。


 「え、ああ。それ位なら喜んで⋯⋯?」


 「私⋯⋯その、興奮したりすると周りが見えなくなっちゃうタイプでしてぇ〜。新しい服を作っても着てくれるお友達も⋯⋯」


 今にも泣きそうなその表情に、慌ててクロとイリスが彼女に駆け寄った。


 「わ、分かった。なろう! 友達になろう。な!」


 クロの言葉に、こくりと小さく頷いたイリスも加わり、彼女の背中を優しくさすった。


 「うぅ⋯⋯ありがとうございますぅ〜」


 暫くそうして宥めていると、店員の女性がこほんと小さく咳払いをした。


 「私の名前はシルキィって言いますぅ〜。宜しくお願いします!」


 こうして、何故か友達となったシルキィは店の奥から服を引っ張り出してきて、クロたちの前へと広げるのだった。


ーーーーーーーーーーーーーー


 クロたちが店へと足を踏み入れてから数時間が経ち、空がオレンジ色の様相を示す頃、二人がそろそろ帰ろうかと切り出して注文した服を受け取ると、シルキィは見送りながら、にこりと微笑んだ。


 「またのご来店、お待ちしておりますねぇ〜。あ、実は私、他にもお店の経営もしているので、他の地域で会ったときには是非!ご贔屓(ひいき)お願いしまぁ〜す」


 「え、もしかして、シルキィって⋯⋯」


 「じつは、えらい?」


 「いえいえ。私自身はそんなに偉くないですよぅ。私の父が経営する、ラルスリー商会共々、今後ともよろしくお願いしますぅ!」


 彼女はその深緑色の髪を垂らして深々とお辞儀をした。


 「ラルスリーって⋯⋯」


 服や装飾品にも興味のないクロですらその名前に聞き覚えがあった。

 服飾や製鉄、更には夢幻機兵の製造にも一役買っているという大商会だ。


 「なんで?」


 イリスが色々と聞きたそうな顔をして首を傾げると、シルキィはそれを察して口を開く。


 「私はラルスリー家の四女でしてぇ~。父から商会の名前を出さずにお店の経営をして、商才を磨いて来いとのお達しでしてぇ~」


 頭を抱えるシルキィの姿に、名家には名家の悩みや苦しみがあるのだろうと納得したクロたちは、今度会った時はよろしくと告げ、荷物を背負って店を後にした。


 店を出て少し歩いた先で立ち止まり、クロはイリスへと向き直る。


 「さて、これからどうする?」


 「わたし⋯⋯ろてんがみたい。それと、たいちょーの情報も⋯⋯」


 「ああ。コレ、羨ましがってたもんな」


 クロが自身の首に付いている鈴付きのチョーカーを触ると、ちりんと小さく音がした。


 「それじゃあ、街を少し見て回るか!」


 「ん。はやくいこ」


 そうと決まれば、とばかりに足早に先を進もうとするイリスの手を、クロが掴んだ。


 「そんなに急ぐなって。ほらその、またはぐれても困るしさ、手、繋ごうぜ?」


 その提案をクロからするのは気恥ずかしかったため、空いている左手でいつものように後頭部を掻くと、イリスはふふ、と小さく微笑んでその手を取った。


 「ともだちと遊ぶの、ひさびさ」


 「友達?」


 「クロはいや?」


 上目遣いにクロを見つめ、首を傾げたイリスにクロは首をぶんぶんと横に振る。


 「嫌なわけないだろ」


 「よかった。じゃあ、いこっ」


 イリスがクロの指の間にその手を絡めて足を踏み出したその時、クロが彼女を呼び止めた。


 「いっ、イリス!?」


 「どしたの?」


 「え、あ、いや、なんでもない!」


 友達同士でこれは普通なのか、と問いかけようとしたクロだったが、嬉しそうなイリスを目にして口を噤んだ。


 「それより、あっち」


 イリスが指差す方向には、オレンジの布を屋根代わりにし、店の前に手作りと思われる装飾品が陳列された露店があった。


 「いらっしゃいませ〜」


 売り子をしているのは、茶色の髪と頭頂部に狐耳を生やした獣人の女性だ。

 彼女がクロ達の存在に気がつくと、にこやかに手を振った。


 「ふふ。とっても仲が良いんですね」


 二人の繋がれた手をみて、彼女がそう言った。


 「えっ、と、そう見えます?」


 「はい。とっても!」


 満面の笑みで答えた彼女に、クロ達は顔を見合わせるとイリスは少し嬉しそうに、はにかんだ。


 「はは、ありがとうございます。さて、この子のアクセサリーを探してるんですけど、こういう首飾りみたいなのってありますかね?」


 クロが首を元のチョーカーを見せるように触れると、売り子の女性はカウンター越しに顔をずいっとクロの元へと寄せる。


 「ははぁ。なるほど。⋯⋯こんな高度な魔法文字の刻まれた物ではありませんが、一応取り扱いはしてますよ」


 「クロ、ちょっとちかい」


 イリスがクロの手を引いて半歩下がると、彼女も狐耳を揺らして元居た位置へと戻る。


 「すみません。珍しい文字が彫ってあったので、少し見過ぎてしまいました」


 深々と頭を下げた彼女に、クロは慌てて手を振った。


 「いえ、良いんですよ。それより、これと似たような物あるんですか?」


 「はい。こちらがその商品になります」

 

 木製のカウンターの下から取り出したのは、前面に雪の結晶を象った装飾の取り付けられた、水色のチョーカーだった。


 「これはここよりもっと北西にある獣人の国、ガルドニア王国の第二王女様の生誕祭で献上される贈り物だったんですけど、これを作った職人が倒れてしまい未完のまま⋯⋯という報われない子なんです」


 「それがどうして露店に?」


 「実は、その職人というのが私の父でして。自由にして良いと持たされた物なんです」


 「えぇ⋯⋯? 売っちゃって良い物なんですか?」


 「はい。なんとなく、そちらの方に似合いそう、と思いまして。実は、父の看病もあって、商売は今日限りで終わりにしようと思ってるんです⋯⋯。持っていても仕方ないですし⋯⋯」


 彼女の視線の先には、青い髪を垂らし俯いているイリスの姿があった。


 「イリス、どうする?」


 「ん。これがいい」

 

 「分かった。すみません、それではそちらを購入させていただきたいと思います」


 「かしこまりました。では、お代の方が⋯⋯」


 そう女性が勘定を始めたところで、割り込む声があった。


 「あれ、お二人ともこんなところにいたんすね!」


 「ホント、よく会うなぁ」


 声を掛けてきたのは、ワイズとガリムだった。


 「まずはお礼っすね。助けてもらい、ありがとうございました!」


 深々と頭を下げたガリムに、クロが手を振った。


 「良いんですよ。とにかく、無事でよかったです」


 「いえ! あの時割り込んで貰わなかったら確実に死んでました!本当、ありがとうございました」


 「ああ、ホントに助かったんだ。何か俺たちに出来ることはないか?」


 「あの、そろそろ良いですかね⋯⋯?」


 おろおろとした様子の女性が気まずそうに声を掛けた。


 「ああ、わりい、買い物の途中だったか」


 「それで、お代の方が金貨三枚なのですが⋯⋯」


 「はあ!?そんなバカ高ぇもん買うのか? 俺らの月の給料一年分だぞ⋯⋯やっぱ王都の騎士は違うなぁ」


 そんなワイズの嘆きに、クロ達が半歩下がって鞄から、ずだ袋を取り出して確認すると、イリスは耳をぺたんと畳み、尻尾を地へと垂らす。


 「ぜんぶで、ぎんか百まい。たりない」


 「あー、その、残念ですが⋯⋯」


 クロが口惜しそうに袋を鞄に仕舞おうとした時、待ったの声が掛かった。


 「その装飾品は本当にそんな価格なのか?」


 「ちょっと隊長!失礼っすよ!」


 「あぁ?俺たちの仕事の範疇だろ? そういう詐欺で借金被っちまう奴らも多いだろ。まあ、俺たち騎士は恨まれてナンボってこった。諦めな」


 ニヤリと口を歪めたワイズに、狐耳を生やした女性が口を開く。


 「そんな!無理矢理売ろうなんてしてません! この装飾に使われている素材の、エターナルフォースブリザードという氷が高価で⋯⋯」


 「ん?おお、エターナルフォースブリザード使ってんのかよ⋯⋯むしろ安いくらいだな! 確か遥か北の極寒の島で取れる、溶岩の中でも解けない氷だよな?」


 「そうです! 証拠に常温でも溶けてないですよね?触ってみますか?」


 ああ、と頷いてその装飾に触れると、彼は目を見開いてその手を引っ込めた。


 「冷たぁ!こんなもん首に巻くのかよ!?正気じゃねえぞ!」


 「いえ、これは首に装着すると、自動で魔力を吸って温度を調整してくれる物なんです。こんな風に」


 そう言って女性がチョーカーに手を触れて魔力を通し、再びワイズがそれに触ると、ほんのりと冷気は感じるが、先程のような指すような冷たさでは無くなっていた。


 「はあ。なるほどなあ⋯⋯よし分かった!俺達が足りない分の金を払ってやろう!」


 「え、俺もっすか!?」


 「命と比べれば安いもんだろ?」


 「まあ、そうっすね⋯⋯」


 とんとん拍子に金を支払う話を進めてしまうワイズ達に、クロが割って入る。


 「ちょ、悪いですって! 私は当然のことをしただけなんですから!」


 「かー!やっぱ王都の騎士は言うことも違ぇ! ここは意地でもカッコつけなきゃなぁ?」


 「そうっすね! 男見せてやりましょう!」 


 クロの言葉は男達のやる気を更に燃え上がらせるだけだった。


 「じゃあ、二人で金貨一枚ずつの折半な!」


 「良いっすよ!」


 ワイズ達は懐から財布を取り出し、金貨を一枚ずつ取り出してカウンターの上に置いた。


 「その、ふたりとも、ありがと」


 イリスが二人を見上げるようにそう言うと、彼らは鼻を擦る。


 「良いってことよ。まあ、なんだ。命のお礼に金を出しただけじゃ味気ねえ。困ってた時はいつでも呼んでくれ。すぐ飛んでって駆けつけるからよ」


 「またお会いできると良いっすね! それじゃあまた!」


 「あの! ありがとうございました!」


 クロが彼らの去って行く後ろ姿に深々とお辞儀をすると、小さく手を上げて行ってしまう。


 「⋯⋯貰い物だし、大切にしないとな」


 「うん。ほんとに、かっていいの?」


 「もちろん。というか、あんなにカッコ付けたのに、返しに行くのは流石に可哀想だろ」


 それもそうかと頷いたイリスは、金貨十枚に銀貨百枚の、合計金貨三枚分を支払い、狐耳の女性から氷のチョーカーを受け取る。


 「クロにつけてほしい」


 彼女がそれをクロへ手渡すと、クロは小さく頷いて、イリスの細い首へ手を回し、水色のベルトを巻いた。


 「と、これで良し。苦しくないか?」


 「ん。ぴったり。ひんやりしてきもちいい。ありがと」


 「このくらいなんでもないさ」


 さて、と一息入れると、クロが正面の狐耳の女性へと顔を向けると、深々とその黒い髪を垂らして頭を下げた。

 それに倣ってイリスもまた、頭を垂れる。


 「貴重な品を譲っていただき、ありがとうございました!」


 「ありがとうございました」


 「お二人の役に立てるのなら、その子も本望でしょうし、大切に使ってあげてくださいね」


 彼女の言に、二人は神妙な面持ちで頷くと、また手を繋いで大通りを歩いて行く。


 「ずっと気になってたんだよな」


 暫く歩いた所でクロがそう溢し、イリスが首を傾げた。


 「どしたの?」


 「いやなに。イリスが獣惑粉を盛られたタイミングっていうのが気になってさ」


 「んう。たしかに⋯⋯」


 「ギルドで食事を取った時に混ぜるなんて、そんな不確実な方法を取るかなぁ?」


 「たしかに。まちにはいったらすぐにご飯はたべたいだろうけど⋯⋯」


 「それなら、街に入ってすぐに見た物といえば⋯⋯?」


 そこまで言って、南門から入ってすぐの大通りで足を止めた二人の目の前には、大玉に乗った大道芸人が小さな玉を手の中で(もてあそ)んでいた。


 「ヨホホ。これは可愛いお嬢さん方、こんばんは」


 白と赤の入り混じる奇抜な格好の男は、大玉を勢いよく蹴って彼女達にずいっと近付いた。

 その白塗りの顔に対して、クロが睨み返す。


 「率直に聞く。獣惑粉を撒いてたのはアンタだなろ」


 「ヨホ? なぁんの事だか分かりませんなぁ? 言い掛かりはやめて頂きたいですぞぉ」


 「アンタはその粉を小玉に詰めて爆発させる事で拡散させていたんだ」


 「ヨホホ!証拠はございますのですかなぁ?」


 「うんまあ。そう返してくるわな」


 そこでクロがスカートのポケットから取り出したのは彼の持つ藍色の小玉と同じ色の破片だった。


 「この裏に粉が付いているのは確認した。後は守衛所で調べて貰えば何の粉なのかハッキリするだろ」


 「なっ!? ヨ⋯⋯ヨホホ。それはワタクシのものではございませんよぉ?」


 クロがその苦し紛れの言葉に首を振る。


 「いいや。それも調べればアンタの魔力の残滓が残っているから分かるはずだ。ウチにも優秀な人が揃ってるからな」


 「ぐぬ、た、退散!」


 男はじりりと一歩下がると、その場から消え去ってしまった。


 「あっ!おい待て! 取り逃したか⋯⋯あれは転移魔法なのか?」


 しん、と静まり返った周りを見渡してクロがそうぼやくと、イリスが首を横に振った。


 「ううん。転移は、ひかりがでるから、ちがう」


 「はあ⋯⋯。なんにせよ、あいつには要警戒って事だな。常に白塗りの顔と奇抜な格好をしてるとは思えないけどな」


 「かえる?」


 「ああ、そうだな。ここに居てもしょうがないし、もう日が暮れる。帰ろうか」


 煮え切らない気持ちのまま二人は指を絡めて、フューリーに向けて足を踏み出すのだった。

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