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星割の明滅閃姫  作者: 零の深夜
後章:崩壊境界のスターブレイク編
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93:一時の休戦


 デルトと、ジャック、と呼ばれた赤黒い巨竜によって穿たれた岩盤から流れ込む海水を、イリスが氷を張って堰き止めている間、ドワーフ達は一気呵成に飛び出し、あっという間に穴の補修を終えてしまった。


 「龍人の諸君! 助かったのである! 貴君らが居なければ、この者らはおろか、この頭上の要塞までもが陥落しておった! 改めて礼を言う!」


 全員が険悪な雰囲気で睨み合い、警戒や牽制を込めて動けずに居た者たちの中で、そう先陣を切ったのはレイルだった。


 彼女は夢幻機兵の操縦席から弾き出されたかのように飛び出すと、竜の形を模した夢幻機兵達の前で四肢と額を地に着けた。


 「頭を上げてくれ、レイル殿。私達は盟約に従い参上したまでのこと。武の力が必要であればいつでも受け入れよう」


 そうレイルに手を差し伸べつつ朗らかに笑う、淡い女性の顔を見つめ、クロは首を傾げ、イリスも同じく首を傾げていた。


 「どしたの?」


 「いや。あの隊長っぽいヒトの顔に見覚えある気がしてさ」


 むぅ、と唸った後イリスはクロの胸を鷲掴みにし、頬を膨らませて怒りを露にしていた。


 「こんな大きいの、ついてるくせに、ナンパ?」


 「ひぎぃ!? イタタタ痛いよイリス! 違うんだって! なんだかつい最近見たような⋯⋯」


 などとやり取りしているうちに、地下は一時補修に留まっており、また水没する可能性もあるとの事で、会議も兼ねて地上への一時退避が決まったようだ。


 促されるままに、“姫園”の面々も撤収に向けて準備をしていると、一人の少女が紅の髪を翻して緋色の女性に駆け寄る。


 「ママ!」


 「⋯⋯ってメルナの!?」


 メルナは彼女の腕に飛び込み、湧き上がる疑問や言葉を飲み込んで、彼らは地上への帰路に着くのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 クロによる転移魔法で一斉に地上へ帰還した諸々含めて三十名を超える大所帯は、改めて裂空砲の足元にある拠点で寛いでいた。


 「それで、メルナのお母さん⋯⋯なんですよね?」


 腕の中でくるくると喉を鳴らすメルナの姿に目を丸くしたクロはそう声を震わせて問うた。


 「いかにも。私はオウカ所属の国守を任されているラビアだ」


 腕の中の蕩けきったメルナの頭を撫で回したラビアは、しかし、と息を吐いて続ける。


 「五十年程前、突如武者修行と称して出て行ったメルナが、まさかこんな形で戻るとは。貴殿らにメルナは迷惑はかけていないだろうか?」


 「迷惑だなんて! メルナは私達の大事な仲間ですし、これまで何度も助けられてます!」


 「そうか。それでメルナよ。真の強さとやらは見つけられたのか?」


 「そうね。戦う能力(チカラ)だけが強さじゃないって事は、この旅で学んだわ。それこそ、自分の築き上げてきた全部をかなぐり捨てて、人助けをしちゃうようなのも、ある意味“強さ”よね」


 熱烈な敬愛の視線を受け、クロが若干の気恥ずかしさに悶えていると、ラビアは関心したように口を開く。


 「⋯⋯変わったな。私以外の者とは一切相容れなかったお前が、そんな顔をするとは⋯⋯して、そこの研究マニアが一緒にいるという事は、やはり魔王が?」


 研究マニア、と称されて視線を投げかけられたネメアは、ティーカップに口をつけて小さく頷く。


 「久しぶりだね、ラビア。相変わらずボクには辛辣なのが気になるけれど、息災で何よりだよ。あぁ、それと、魔王の事だけれど、そうだね。レイル陛下の耳にも今の状況を聞いて欲しいからね。ボクから少しばかり説明させてもらうよ」




 それから、ネメアが半刻ほどかけてこれまでの旅のあらましを説明し終えると、その場の全員は神妙な面持ちを浮かべていた。


 「なるほど。やはりあの瘴気には、私達の内に眠る竜の姿を解放するチカラが⋯⋯しかも、自身を蝕み、苦痛を与え続ける、と。メルナも変わるわけだ」


 ラビアの腕の中で溶けるように身を任せるメルナに、まあ、ある意味変わり果てているけど、と言葉を飲み込んだクロは、顔を引き締めて立ち上がり、二人に頭を下げる。


 「魔王が復活した今、オウカとダルガンで争ってる場合じゃない筈です! どうか、度々起きている小競り合いを止めて、チカラを貸してください!」


 クロに倣って“姫園”の面々の尽くした礼に、ラビアはふむ、と口元に手をやる。


 「貴殿らと協力できるのはありがたいとは思うが⋯⋯私の一存で決めるわけには行かぬ」


 「そんな⋯⋯」


 蕩けた顔から一転し、蒼白に染めた顔色のメルナの頭を、ラビアはゆっくりと撫で付ける。


 「しかし、私から提案すれば少しは話が通りやすくなるだろう。それに、そうさな⋯⋯オウカ近海に出没する鯨と竜を追い払えば、更に話は通りやすくなるだろうな」


 暖かな熱を帯びる手を頭に乗せられ、遂にメルナは穏やかに眠るのだった。

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