92:坑道内の共闘
『待たせたわね! 近隣の海域で飛んでいた竜人族と漸く話をつけてきたわ。大いに感謝しなさいよね!』
メイメツの真正面に止まり、大きく胸を張ったオウルに、クロは深く胸を撫で下ろす。
『助かったよ、フクロウ』
飛び出した素直な賞賛に、フクロウは若干照れた様子で翼を払うと、メイメツを蹴り飛ばして空に飛び立つ。
『い、今はまだお礼なんていいわよ。それに、お金だってネメアからたんまりもらってるんだからね!』
照れ隠しのように張り上げられた声はしかし、デルトを大いに刺激した。
「雑兵ガッ⋯⋯!」
坑道内に現れた十機の夢幻機兵と相対し、禍々しい瘴気を放つクジラの姿を取ったデルトは、口腔内に圧縮され尽くした瘴気の光線を溜める。
『総員散開せよ! アレをまともに受けたらひとたまりもないぞ!』
竜を模った夢幻機兵達は、一歩前に出ている真白な隊長と思しき者からの言葉を受けて頷き合い、それぞれ散り、放たれた光線を避ける。
「フン、劣等種共メ!」
『皆をバカに⋯⋯すんなぁぁ!』
大口を開けて追撃を図るデルトの真上に、透き通るような青白い光が閃き、クロガネの一撃が見舞われる。
『何やってんのよ!?』
振り下ろしたクロガネをデルトから退けようともせずに居たメイメツにメルナがそう声を張り上げると、クロは焦りから来る熱を冷ますように首を横に振る。
『刃が⋯⋯通らないッ!』
頑丈でありながらも、つるりとしたデルトの皮膚にクロガネの刃は、切れ味を発揮する事もなくその身に沈み込んでいた。
『グゥゥゥゥウウウオオオオオオオオ!?』
しかし、口内に蓄えていた瘴気の渦は、口が閉じられたことにより体内に飲み込まれ、デルトから苦しむ声が聞こえる。
『やっぱり打撃が効くみたいね。それなら!』
大きく空に飛び上がったレドラは空中で宙返りをし、遠心力と重力を受けた尻尾はデルトの額に叩きつけられ、衝撃波を生み出した。
デルトから再度の絶叫が上がり効き目を実感すると、オウカ所属と名乗った夢幻機兵達はレドラに倣って尻尾による攻撃を繰り出した。
「グガガ⋯⋯貴様ラァァ!」
空を飛ぶ赤黒い鯨の巨体を活かし、デルトはその場で一回転し、風圧と瘴気を吐き散らす。
『みんな!』
赤黒い瘴気はまるで煙幕のように辺り一帯に広がり、魔伝石を通じて咳をする声が響き始める。
『魔力量の少ない者は退避せよ!』
先陣を切っていた夢幻機兵から放たれた声が起点となり、他の夢幻機兵達が数機退いて行く。
『くそっ! このままでは』
次第に夢幻機兵の退く数が増えていくと、前線で奮闘する夢幻機兵の数が減衰し、隊の長と思しき声にも焦りが見え始める。
『まだまだぁぁああああああああああ!!!!』
竜を模した夢幻機兵の羽撃を利用して風を起こし、虚瘴鯨の起こす瘴気の風を相殺させる。
「小癪なぁぁぁ!!」
虚瘴鯨から放たれる瘴気の量も勢いも増して行き、次第に魔力を帯びた風が押され始める。
勢いを増すばかりの瘴気に対し、今度は夢幻機兵が押され始め、その力は彼らの気力と共に衰えて行った。
『〜♪』
誰もが劣勢を悟る中、少女の勇ましい歌声が坑道の中に響く。
『レミ!』
浄化され、魔力へと変換された瘴気は遂にその勢いを完全に止め、再びクロ達が巻き返す。
『これで!止まれぇええええええええええ!』
メイメツがクロガネを打ち下ろした衝撃によって生まれた黄金の光は、デルトの巨大な体躯すらも容易く押し込み、坑道の壁をガリガリと削り取っていく。
『そのまま出てけ!』
硬い岩盤を突き破って尚もその身で衝撃を喰らい続けるデルトは、ついに背中の圧迫感から解放されると同時、息ができずにもがいた。
「う⋯⋯海まで出たのか!? 奴ら一体⋯⋯い、いや、それよりも! お、おいジャック!」
ジャック、と呼ばれた彼と同じ赤黒い体色をした竜は、咆哮を上げつつ再びデルトを連れて去っていくのだった。