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星割の明滅閃姫  作者: 零の深夜
後章:崩壊境界のスターブレイク編
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89:デルトの策


 「な、なんだあのネズミは!?」


 レイルが指差す先では、瘴気の色と似た赤黒い体色の鼠が前歯を剥き出しに夢幻支柱(ルナティック・ピラー)に刻まれた魔法文字へと齧り付いていた。


 「まさかこんなに早く強襲をかけて来るなんて、やはり嫌な仮説なんて言うもんじゃないね」


 あまりのタイミングに、レイルは思わずネメアに食って掛かろうと拳を握るが、その手はシフィによって止められた。


 「今は言ってる場合ではありませんわ、レイル様。クロさんとメルナさんは坑道内の全員の救援を。そしてレミ。この坑道内であればあなたの歌声はどこまでも響きますわ」


 お任せください!と桃色の髪を振り乱して胸を叩いたレミに、シフィは満足げに頷くと、イリスとレンに向き直る。


 「ネメアさんの仮説を基にするなら、相手の目的は夢幻支柱へ刻まれた魔法文字を書き換え、ルナフォートの沈没ですわ。相手の瘴気を浄化する歌声は目的の邪魔になり、止めようと動くはず。二人とも、やれますわね?」


 イリスとレンは二人で顔を見合わせると大きく頷きあう。


 「委細承知した。ワシはレミ殿をお守りするのじゃ。ところでクロや。ワシらにも⋯⋯」


 「夢幻機兵だね。ちょっと待ってて!」


 クロは素早くメイメツに乗り込むと、機内の魔力を練り上げて口を開く。


 「来い(アクセス)。ディピス、レドラ!」


 次の瞬間、メイメツの目の前には鈍色の夢幻機兵と赤い翼竜を模った夢幻機兵の二機が青白い光と共に現れた。


 「やはりお主の魔法は便利じゃのぅ。ちと羨ましいのじゃ」


 「助かるわ。それじゃあアタシは先に行ってるわね」


 メルナはレドラの胸部に乗り込むと即座に飛び去りあっという間に坑道の影となって姿が消えた。


 「行け、クロよ。ここの守りは任せよ」


 「ん。クロ。頑張って」


 「それじゃあ、行って来るよ!」


 メイメツは青白い光に包まれてメルナの後を追った後、イリスは魔力を練り上げて準備を始めるのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「これは⋯⋯想像以上だね」


 鉄を主食として生きてきたヒトの体以上に大きな蟻の魔物。ドワーフ達が読んで字の如く“鋼鉄蟻”と呼ぶそれらが、メイメツの前に群れをなしてひしめいていた。


 『やっと追いついた!⋯⋯って、アンタに送って貰えば良かったわ』


 『メ、メルナ! 文句言ってないで手伝って!』


 『へぇ? これがここら辺の魔物ってわけね。虫なら簡単に⋯⋯』


 レドラが一つ羽撃いて滞空すると、その口には膨大な熱量が収束し⋯⋯


 『待って、メルナ! そんなの撃ったら坑道一帯が火の海だよ!』


 『はぁ? それじゃあどうすんのよ!』


 レドラの口内で蓄えていた炎熱が霧散すると、メイメツは右手のクロガネを振りかぶり、精一杯に投擲する。


 ヒュンヒュンと音を立て鋼鉄蟻の中央を走るクロガネは、鋼鉄の身や瘴気すらも黄金の光で蒸発させていく。


 『アンタだけできる方法でどうすんのよ!』


 黒と金の大剣を魔力糸で引き寄せ、手に戻ったクロガネを大きく振りかぶる。


 『ならこれで⋯⋯助けに行って!』


 振るわれた黄金の光は鋼鉄蟻を弾き飛ばし、一直線に伸びた金色の道を作り出す。


 『ふん!アンタの助けなんて要らなかったんだから!』


 メイメツが肩を竦めて見据えた先には、道の奥で異様に群がる鋼鉄蟻達が居た。


 魔力を見通せるクロの瞳には、十五の魔石が映っていた。


 『投げるわ! 上手く“送って”よね!』


 『任せて!転移!』


 青と白の光に包まれて消えたドワーフ達の姿を見届け、メイメツはクロガネを構えて再び夢幻支柱へ群がるネズミへと目を向け直す。


 『さて、それじゃあ本格的にネズミ狩りと行こうか!』


 『ええ。これなら、ブレスを撒いても良いのよね?』


 「全部丸焦げにしないでね」


 ボソリと呟かれた言葉を知ってか知らずか、洞窟内に炎の波が生まれ、灼熱の業火と溶け出した鉱石は更に溶岩となって蟻や鼠を押し流す。


 『あら。丁度歌が聞こえるわね』


 メルナが耳を澄ませれば、確かに清涼な歌声が坑道内に響き渡っていた。


 歌の響く方向とは逆の方向へ足を踏み出した二機は、更に突き進む。


 『この程度、数のうちにも入らないわ!』


 レドラの吐く灼熱の吐息を受けた鋼鉄蟻はあまりの熱量に身を溶かし、仲間を巻き込んで溶解していく。


 『メルナ、少し止まって。この先にはまたドワーフの皆がいる』


 暗く長い道を通り抜けた先には、四本の夢幻支柱に囲まれた巨大な岩が鎮座しており、辺りは赤と黒に塗りつぶされていた。


 『あー⋯⋯これさ、もしかして全部⋯⋯?』


 『ええ。レミに歌ってもらったら、全部消えて気持ちいいでしょうね』


 軽口を叩きながらもメルナの闘志は途絶えておらず、レドラの口からは灼熱の炎が瘴気を丸ごと飲み込むような勢いで解き放たれていた。


 『ちぃっ! キリがないわね!』


 数から減らないことへの怒りを魔力に変え、懸命に炎を吐き続けていたレドラだったが、流石に瘴気の中では魔力の補給が間に合わず、レドラは部屋の中央にある巨岩に背を預けてぐったりと身を預ける。


 『お疲れ様。あとは任せて!』


 メイメツは魔力糸を周囲一帯に張り巡らせるとメルナが溶かした、赤熱する鋼鉄蟻の残骸を転移魔法で一ヶ所に集め、やがて一つの大きな鉄球を作り出した。


 「全部まとめて吹き飛ばしてやる!」


 鈍い音を立てながら夢幻支柱に齧り付くネズミへと飛んでいったソレは、男の腕によって止められたのだった。

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