表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星割の明滅閃姫  作者: 零の深夜
後章:崩壊境界のスターブレイク編
129/136

86:大鯨の正体


 『何を⋯⋯何をやっているだデルトォォォォオオオオオ!』


 レイルの怒号が空に響いた。


 『何を怒っているのです母上? このチカラがあれば、我が国に反旗を翻す、愚かで下賤の“トカゲ混じり”を成敗することも夢ではないのですよ!』


 彼の言葉にレイルは目眩を覚えたが、それでも、と踏みとどまって声を張り上げる。


 『貴様のせいでどれだけの被害が⋯⋯幾人もの同胞が傷ついたと⋯⋯ッ!』


 『同胞⋯⋯? ハッ、トカゲ混じりなどという雑種との共闘を張ろうなどと愚かな考えを持ったアイツらがか!? 奴らは死んで己の愚行と向き合わなければならなかった! ただ暴れるだけが取り柄の雑種と手を組んだことをな!』


 『お前⋯⋯どこまでッ!⋯⋯』


 『しかし母上! どれだけの綺麗事を並べようと、圧倒的な力の前にはひれ伏すしか無いのですよ! そう。この力で奴らへ報復するのですッ』


 『お前に一体何が⋯⋯いや、弁明は後でいくらでも聞いてやる。今は⋯⋯お前の異形を引き摺り出してやろう!』


レイルの駆る夢幻機兵は背中から大槌を取り出して振りかぶり、背中から魔力を噴射して接近する。


 「会話を聞く限り、レイル陛下はこの事は知らなかったようだね」


 「言ってる場合じゃないって!」


 空を飛ぶ鯨が一度大口を開けて咆哮を上げると、空には厚く暗い雲がかかり、そこを一閃するかの如く薄緑の電撃が走る。


 『速い! しかも⋯⋯住民にもお構いなしか⋯⋯レン!』


 『うむ。準備はできておる! 奴の攻撃には少しばかりの躊躇が見えておる。街に降り注ぐのは半数じゃ。消せるかの?』


 『来る場所さえ分かれば⋯⋯なんて事ないよ!』


 レンから魔伝石を通して送られた座標を辿って幾つもの光が空に閃き、空を煌々と引き裂くような稲妻を黄金の光が切り刻む。


 『同胞まで手にかけようというその姿勢⋯⋯矯正してやる!』


 レイルの乗る夢幻機兵の背中に取り付けられた推進器(スラスター)から凄まじい量の魔力が噴き出し、その推進力と質量を乗せた渾身の一撃だったが、大鯨は突如として頭を振って方向を変えたため、表皮を僅かに削り取るに留まった。


 噴き上がる血飛沫は赤黒い煙となって空気と溶け合い消える。


 『はははっ! 硬いのであれば倒れるまで、この“アルトマイス”が粉砕し続けてやろう!』


 身につけた豪奢な装飾品から光が溢れ、再度の突撃を試みる。


 『いつまで上にいると思っている!』


 大鯨の咆哮と共に噴き出した雷撃はアルトマイスへ襲い掛かる。


 『だけど今、このヒトには私が着いている!』


 メイメツは空中で体勢を崩しながらも黄金の光を撒き散らし、雷撃を打ち破りその体表に傷をつける。


 『また貴様か! 部外者は⋯⋯黙っていろ!』


 「ん、やらせない」


 再三に渡る雷撃が放たれようとしたその瞬間、暗雲が凍結して落下、分裂して大鯨に襲いかかる。


 『グッ⋯⋯キサマらぁぁぁぁぁ!』


 氷柱の突き刺さった場所から噴き出した鮮血は先と同様赤黒い煙となって空気に溶けて消える。


 「やっぱりあれ、瘴気なんじゃないのかな?」


 口元に指を添えてその様子を見ていたネメアがポツリと呟いた。


 「そうか、だからあの時手応えが無かったんだ」


 「あの鯨の出てきた場所というのは、瘴壁のあった場所だったようだし、あながち間違っているとも言い難い仮説じゃないかな。名付けるとするなら、あれは虚瘴鯨(アカシック・ホエール)といった所か⋯⋯この仮説が正しければ、斬撃はあまりやらない方が無難⋯⋯おや、面倒な攻撃をしてきそうだね」


 虚瘴鯨と名付けられたソレは、体表の色が薄緑から、澱んだ血液を思い起こさせるような赤と黒の混じり合った色へと変化、大きく開いた口からは体色と同様の霧が漏れ出していた。


 「それはやらせないよ!」


 ネメアが両手を合わせると、虚瘴鯨の口がガチン!と音を立てて閉じられる。


 「これで暴発⋯⋯は意味がないか。けれど、あの身体が瘴気でできている仮説は若干の信憑性を帯びてきたね。ともすれば、やはり斬撃は控えようか」


 それなら、とメイメツの腕からはクロガネが消え去り、アルトマイスの持つ大槌にも匹敵する大きさのシンクウが握られていた。


 「頭ばっかり狙ってたけど、アレがデルト王子なら、頭にいるとは限らないよね? イリス!」


 「ん。足場はオッケー」


 メイメツは自由落下に身を任せ、虚瘴鯨の腹下に潜り込み、氷の足場を蹴って跳び上がり、ヘソに大槌の一撃を叩き込む。


 『ぐぅぅぅぅおおおおおおおおおお!』


 「どうやら通じているようだね、流石だよ。このまま⋯⋯おや、あれは?」


 ふと、遠方の空を見上げたネメアは視界の端にチラリと映り込んだ急速接近する影に目を細め、徐々に顔を青ざめさせる。


 「うーん⋯⋯⋯⋯おおおおおおい!クロ君! あれ、ドラゴンじゃないか! こんな時に魔物の襲撃なんて⋯⋯おや?」


 赤と黒のモヤを纏う巨大な竜は虚瘴鯨の背中を鷲掴みにして連れ去って行く。


 『まだだ、まだ僕はやれる!』


 虚瘴鯨はジタバタと暴れるが、巨竜の瞳がジロリと睨みつける。


 『黙れデルト。貴様が痛みを負った時点で勝敗は決したような物だ。一旦退くぞ』


 『く⋯⋯クソッ覚えていろよ、貴様らァァァァ!』


 「持ってかせるかぁぁぁぁ!」


 メイメツは虚瘴鯨の真上を陣取り、シンクウを大きく振りかぶる。


 「うにゃっ!? す、すり抜けたぁ!?」


 片腕でシンクウを振り抜いたメイメツはバランスを崩し、真っ暗な海へと落ちていく。


 「深追いはよした方がいい。あの二体相手では、流石の君でも、なかなか骨が折れると思うよ」


 ネメアの反重力魔法によってふわりと浮いたネメアは、二匹の去っていく様子を見送るだけに留まるのだった。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ