82:襲撃の代償
「それで、キミ達はどうしてこんな事を⋯⋯なんて聞かなくても大体分かるけれどね。さて。それじゃあキミ達の流儀に則ってご挨拶を返しても良いんだけれどね?」
ネメアが睨むと、ただでさえ背の低いドワーフ達はさらに平身低頭、雁首を揃えて縮み上がり、額を地にめり込ませていた。
手首に錠をかけられ魔力を操る術を剥奪された彼らには、既に先程の戦意は見受けられなかった。
「オレ達はただ、売国奴にお灸を据えてやろうとしただけで⋯⋯」
「それで、話を聞くまでもなくこの会議場をこんな有様に変えてくれた⋯⋯と?」
彼らの代表と見られる、一際大きな筋肉を露出させた男が反論を口にする前に、ネメアは更に強い口調で威圧感を放つ。
「すまないネメア殿。今保守派の者達とコトを構えるのは少々都合が悪い。お怒りは承知しておるが、ここは矛を納めて頂きたい」
リルラが困ったように声を絞り出すと、ネメアは息を潜めてゆっくりと首を横に振る。
「それでも、彼らに暴力を振るってどうにかできる、なんて嘗められたままでは、同盟なんて築く事は不可能だよ。せめてお互いの利益を主張しあえるテーブルに着く算段を立てないと」
むぅ、と納得は行かない様子のリルラだったが、先の夢幻機兵を個人で圧倒しうる戦力を思い出し、それ以上口を挟む事はなかった。
そこら中に飛散した瓦礫の中で、丁度いい大きさのモノを椅子代わりに座り込んだ彼女を尻目に、ネメアは縮み上がる彼らを見下ろした。
「さて。それじゃあ少し質問をさせて貰おうかな。キミ、名前は?」
「ヒ、ヒトに名前を尋ねる時は⋯⋯」
「今は礼儀の話はしていないよ」
僅かに怒気を滲ませたネメアがピシャリとはねつけると、彼らの肩はビクリと跳ね上がる。
「⋯⋯はぁ。それじゃあ気の短いキミ達に合わせて単刀直入に聞こうか。ボク達を襲うように指示を出したのは別に居るんだよね?」
ネメアの核心を突いた言葉に、彼らの顔はみるみるうちに赤く染まり、即座に否定の言葉が返ってくる。
「ち、違う!オレ達はただ、街の中を我が物顔で歩くお前らに⋯⋯」
「独断で夢幻機兵を動かせるわけないだろう? 夢幻機兵の私物化はどの国も重罪だよ」
隣で聞いていたクロは巻き込まれる形で眉間に皺を寄せ、難しい顔をしていた。
「クロには恩赦が出た。平気」
「あーいや、うん。分かってるけど、やっぱりこう、指名手配はキツかったなあって⋯⋯」
「ならガルドニアに来る?」
後ろで密かに行われる引き抜きに、ネメアは長い耳をピクリと動かして声の方向に耳を向ける。
「こらこら。イチャイチャに乗じてボクらの国の最高戦力を引き抜こうとするんじゃないよ、まったく⋯⋯それで、キミ達に襲撃を命じたのは、ダルガンの第二王子にして保守派の代表、デルト殿下だね?」
「なッ!? 貴様らッ!どこまで知っている! ますますこの要塞に受け入れるわけには⋯⋯」
「どうやら図星みたいだね。教えてくれてありがとう」
「はぁ⋯⋯お前はもう少しばかり思慮を深めてもいいと思うがな」
ぬぬぬ⋯⋯と口を開こうとして声も出せずに居た彼を一瞥し、ネメアは重力の拘束を解き、話は終わったとばかりに身を翻す。
「お、おい待て貴様ら! 何処へ行くつもりだ! そいつらが何を企んでいるか⋯⋯」
「黙れ。そもそも夢幻機兵を身一つでどうにか出来てしまう方々だ。我々を害そうという意思があればとっくにどうにかされているだろう」
「く、くそ! 貴様らが余所者を招き入れただけでなく、肩入れをするなど、デルト殿下が黙っていないぞ!」
「ううん。それもそうだね。よし、上に報告されても面倒だし、キミ達にはここで暫く過ごして貰おうかな」
ネメアは有無を言わさず彼らを一瞥し、窓のない部屋に錠を掛けて後にする。
「さて⋯⋯」
崩壊した会議室に立ち、よく見えるようになった裂空砲の砲身を眺め、ネメアは小さく息を吐き出した。
「ボクらを害そうとする相手の名前と立場は分かったけれど⋯⋯彼らをここに収容したままでいれば、現状維持どころか関係を悪化させてしまうかもしれない。早めにコトを進めたいのだけれど⋯⋯」
「それなら一つ、貴君らを謀っていた旨を謝罪せねばならんな。我のこの身は、この要塞の守護を任された最高司令官ともう一つ⋯⋯ダルガンの第一王女としての身分もあるのだ⋯⋯つまりその⋯⋯」
「えぇ、リルラ、お姫様だったッスか!?」
「リア。逆にお前の隣に並び立つ者が相応の身分を持たないわけ無いだろう? 宮廷鍛治師の愛娘よ」
「その言い方は好きく無いッス。オヤジはオヤジ。ウチはウチッス」
その場の全員が目を丸くしてリアを見る。
「「「きゅ、宮廷鍛治師!?」」」
揃って響く声に、今度はリアが驚きの表情を浮かべる。
「あ、あれ? 皆さんに言ってなかったッスか? ウチのオヤジは夢幻機兵の製造、量産、改造の全責任を負ってるんで、それをアテにしてるかと思ったッスけど⋯⋯」
はて、と小首を傾げたリアに、その場の全員も小首を傾げるのだった。




