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星割の明滅閃姫  作者: 零の深夜
後章:崩壊境界のスターブレイク編
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78:洋上の要塞


 世界の果てすらも見渡せるのではないか、とすら思えるようなどこまでも広がる青い海原と、境界を失ったかのように海と繋がる快晴の青空を甲板から眺め、クロはポツリと呟いた。


 「⋯⋯流石に遠くない?」


 「おや、ボクらエルフの感謝を背に受けて格好良く飛び出したというのに、もう根を上げるのかい?」


 日傘を片手に遥か遠くを見つめたネメアに、クロはギリリと奥歯を噛み締める。


 「もう⋯⋯もうあれから一ヶ月だよ!? こうしている間にもドワーフと竜人族の関係は悪化して⋯⋯」


 「まあまあ。焦る気持ちもわかるし、悠長な事をしていられないのも正論だね。しかしここで気を揉んでも仕方がないのも事実だよ」


 「そうは言うけどさぁ⋯⋯」


 言い淀むクロの肩を抱いたネメアは、ゆっくりと息を吐き出した。


 「大丈夫だよ。“フクロウ”から連絡があって、ドワーフと竜人族の諍いはこう着状態のままだ⋯⋯それによれば、今介入するには少し状況がマズい。そもそも介入するのかしないのかの判断と、タイミングも大事なんだよ。それはわかるね?」


 「確かにネメアの言うとおり、私達が顔を出す状況次第ではドワーフと竜人族の関係どころか、他種族との関係すらも修復不可能にまで壊れるかもしれない⋯⋯それに、皆を危険に晒してしまう事も、そんな事は分かってるんだ!」


 「ふふ。“それでも”だろ? 勿論、アストラーダ王国のファズ様から与えられた任務を果たすため、少しでも有利な状況で交渉の席に着きたいじゃないか。そのためには⋯⋯と言ってるそばからほら。ついに見えてきたみたいだね。あれがドワーフの最高傑作にして国境を守る最強とまで謳われた城砦都市 ルナフォートだよ」


 「あれが⋯⋯って、もしかしてアレ全部!?」


 遠目に見えたルナフォートのサイズは首都エルンにすら匹敵するのではないかと思われるほどに大きく、何よりも目についたのは水平線から空に伸びる、“安寧の塔”を彷彿とさせるような、巨大な砲塔である。


 「あぁ。あの巨大な浮島全てが、島のど真ん中に見える消費魔力度外視の超弩級砲“裂空砲”と、それを起動させるための施設さ」


 「あれ全部が!?」


 ほえぇ、という気の抜けた声を吐き出したクロは目を輝かせて艦の先頭に寄り、手で日差しを作って遠くに見えるルナフォートを眺める。


 ネメアの言う通り浮島の所々に露出した魔石と魔力の回路が浮き出ており、全ては真中に聳え立つ砲塔に集約されている様が目に入った。


 「あれ? けど、あの砲身⋯⋯」


 「違和感を感じるかい? 焦げた跡も見えるし、年季が入っているのは分かるけれど⋯⋯」


 手に持った双眼鏡から目を離してクロを見たネメアは肩を竦めて首を横に振る。


 「まずはあの砲塔の餌食にならないように、上手く話をつけないとね」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「それで、なんで無人島?」


 クロが足を踏み入れた地はヒトの気配の一切を感じられない島であった。


 「まだ彼らに接触するべきじゃないからだよ。ここで少し停泊した後、あの子から情報をもらわないとね」


 「あの子って?」


 「さっきも話したじゃないか。⋯⋯おや、噂をしていれば早速飛んできたみたいだね」


 クロとイリス、そしてネメアの頭上にはバサバサと羽ばたく梟が居た。


 『やっほー。三人とも少しぶり。無事にこの島まで来れたみたいね。それなら、話は早いわ。⋯⋯ふふん。随分驚いてくれるわね。この子が喋ってる訳じゃないのよ?』


 バサバサと羽音を立てて滞空する梟の首を見れば、確かに薄紫色の魔伝石がはめられており、額にも魔道具らしき物が付けられていた。


 『この子はウル。あたしの手足⋯⋯いや、目や耳となって世界中を巡ってくれてるの』


 で、と話を一旦区切ったフクロウは、遠くに見えるルナフォートに目を向ける。


 『あそこに見える要塞都市の話は聞いてるわよね? 迂闊に近づくと自動的に照準を付けて蜂の巣にしてくるから気をつけなさいよ? それで、あなた達にお願いしたいのはここから更に東に進んだ先。国境付近で遭難した子達の救援をして欲しいのよ』


 「なるほど。それでドワーフ側に取り入るための足がかりにすると言うわけか。けれど、救援なら彼らが既に行っているんじゃないのかい?」


 『あ〜⋯⋯うん。そうなんだけど⋯⋯』


 「あぁ。なんだ、そう言うことか。ドワーフ族は相変わらずだね。あの大雑把な性格は種族全体なのかね」


 『まあまあ。彼らの鍛治技術は素晴らしい物よ。ただし、大雑把で頑固な性格の者が多いのも事実。だからこそ、あなた達の得意な探索能力で手を貸してあげて欲しいのよ。それに、国境周辺では未だに竜人族の夢幻機兵が哨戒任務に当たっているの。つまり⋯⋯』


 「竜人族の警戒の目に触れず、ドワーフの遭難者を救助して、尚且つ両国間の調停の場を設ける、と。なかなか難易度の高い話じゃないか」


 『でも、できない事はない⋯⋯でしょ?』


 「まあ、ね。これに対応するのはボクではなく、クロ君やイリス君の働きが大きいからね。彼女達の了承を得ないことには⋯⋯」


 ちらりとネメアがクロやイリスに視線を遣れば、彼女達は大きく頷いて返す。


 「勿論! 私達はそのために来たし、ソレをどうにかするために来たんだ!」


 「それに、難易度が高いとはいえ、人助けをして友好を結ぶなんて⋯⋯キミ好みだろう?」


 「ふふ。よく分かってるじゃないネメア!」


 腰に手を当て大海原を見渡したクロの声は、遥か彼方へと響き渡るのだった。

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