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失恋魔女と転生王子と、世界の終わり。  作者: shinobu | 偲 凪生
Ⅰ 旅立ちまでのプロローグ
6/35

6.現在(2)




 リアへ向かって吹き出さずに済んでー! よかったー!


「げほっ、げほっ、……いきなり何を言い出すかと思えば」


 目の端に溜まった涙を拭いながら言葉を返す。


「僕はネニュファールという名前の王子だった」

「落ち着いて、リア。自分が今何を言っているのか分かってる?」

「もちろん。僕は正気だよ」

「だとしたら、シュカやシアに何か吹き込まれた?」


 冗談を言っているようには見えない真剣な表情のリア。

 脇からシュカとシアが呆れたようにわたしを見てきた。


『そんな面白いこと、思いついたら速攻で実行している』

『シュカに同意。うーん、でもそんな気はしてたんだよね~』


 シアがぴょんっとリアの左肩に乗る。そして頬をすり寄せると、リアがその顎を指で撫でた。

 ごろごろと満足そうにシアが喉を鳴らす。


「はぁ!?」


 この場でびっくりしているのがわたしだけだなんて。

 解せない。解、せ、な、い。


「い、いつから……?」


 まだ涙目のわたしにリアがハンカチを差し出してくる。

 そういう気遣いも前世とそっくりだ。リアは悪くないけれど今このタイミングでそれをされると、理不尽とは分かっていてもむしょうに腹が立つ。


「ジャンに拾われる前日」

「って、最初からじゃん! どうしてずっと黙ってたの!!」


 ばんっとテーブルを叩いてわたしは立ち上がった。

 しかしリアは驚く様子がない。


「10年限定で面倒を見てくれるって言ったから。もうすぐ、その10年だから」

「言ってる意味が分からないんだけど?」


 だけど、納得はできた。ほんの少しだけ。


 だからわたしは10年前のあの日、前世の夢を見て。

 水占いで王子の転生を知ることができたのだと……。


「10年間で、信頼を得ようと思ったんだ。前世の僕は()()()()()()()()()()()に酷いことをした。フォイユ一族に対しても」

「ジャンシアヌ、って」


 それはリアへ告げたことのないわたしの本名だった。

 シュカとシアに視線を流すと首を横に振られた。教えていない、という意思表示だ。

 王子の名はともかく、わたしの名前は調べても出てくるものではない。

 認めざるを得ない。リアの告白は、どうやら事実らしい。


「君の人生を狂わせたのは、ネニュファールだ」

「……」

「だけど、ひとつだけ訂正しておきたいことがある」


 リアが身を乗り出してわたしの両手へ包むように触れる。

 唐突さに、体が固まってしまう。


「ネニュファール・ユイット・グレーヌはジャンシアヌ・フォイユを最後まで()()()()()

「は、はぁ?」


 さらに突然の告白に声が裏返ってしまった。

 愛していた、だって……?


 ぱっ、とようやくリアはわたしから手を離し、椅子に座り直した。


「彼が婚約を破棄したのは、アコニ・グルナディエの呪いの所為なんだ」

「……やっぱり……、あっ」


 あのとき瞳に浮かんでいた蜘蛛の巣は見間違いじゃなかった。

 それを知ることができただけでも十分だったというのに、ふわっとリアが微笑む。まるで、わたしの反応に満足したかのように。


「さらに付け加えると、ネニュファールが死ぬときアコニはひとつ呪いをかけた。その生まれ変わりが20歳になったとき、不幸の底に落ちる呪いを」


 こうも次々と告げられると反応ができない。

 とりあえず、椅子に座り直した。


 笑えない冗談にもほどがある。

 ただ、アコニ嬢ならやりかねない話だとも思う。

 20歳といえば、ネニュファールが亡くなった年齢でもある……。


「出会ったときに話していなかったことがもうひとつある。前世の記憶を得たとき、同時に僕はマグノリアとして生を受けて8年だと気づいた。つまり、あと2年。あと2年で呪いを解かないと、僕は前世以上に非業の死を遂げる」


 わたしは、言葉を発する代わりに唾を飲み込む。


 最果ての地にいても、第一王子の悲惨な末路は耳に入ってきた。

 復讐しようとする気持ちが折れてしまった原因のひとつでもある。

 もはや普段は忘れている痛みが、じくじくと蘇ってくる。小さく唇を噛んで、表情を見られないように俯いた。


「だからお願いがあるんだ。僕と一緒に、グルナディエ王国へ行ってくれないか? 呪いを解く唯一の方法が王国にあるんだ」

「唯一の、方法?」


 反射的に顔を上げる。

 深く頷くリア。


 リアの言葉がどれだけ真実なのかは分からない。

 だけど。

 もし、その呪いを解けたら――積み重なってきたいろんな感情も、少しは昇華されるだろうか?


 冷えた指先。やけに大きく聴こえる動悸。喉はどんどん、渇いていく。


「わたし……は……」


 ところが真面目な雰囲気をぶち壊すかのように、シアがあくびをした。


『いいんじゃない~? この10年、のんびりしてた訳だし』

『今度はゆっくりと観光するのもよさそうだ』

「シュカ!? シア!?」

「決まりだね」

「ちょ、ちょっと?!」


 歯を見せて笑うリアの表情は、王子とそっくりで。

 前世も、今も。

 そうやって微笑まれると、わたしは断れないのだった――。






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