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29.歌劇場にて




 昼間でも光の射さない【黒い森】。

 いや、そもそも光を知らないのかもしれない。


 大地に降り立つと湿った感触が靴底に伝わってきた。

 空を見上げてみるけれど、澱んだ闇が広がるばかり。


「行こう」


 シアとシュカが黙ってついてくる。

 どこに降り立っても問題はない。

 この森は魔法で成立している。魔女であり、魔女集会開催の手紙を持っているわたしの前には、道が現れるのだ。


 風なのか、鳥なのか、獣なのか。

 時折、人間の住む地では聞こえてこない音が轟く。


 旅の途中でひとりになる時間はあったけれど、こうして本当の意味で単独行動をするのは初めてだ。

 心細くはないものの、リアとミュゲのことが頭をちらつく。


 待ってて、リア。ミュゲ。

 魔女集会で必ず有益な情報を得て、戻るから。


「……!」


 しばらく歩いていると、急に視界が開けた。

 目の前に歌劇場のような建物が現れる。

 エントランスポーチを中心に左右対称。そびえたつえんじ色はおどろおどろしい空気を纏っている。


 ばん!


 中央の重厚な扉が開かれ、ぴょん、と何かが飛び出してきた。

 恭しく頭を下げてきたのはタキシード姿のスケアクロウ(かかし)だった。


『お待ちしておりました、ジャンシアヌ・フォイユさま』


 シアのしっぽがぴんと張る。


『スケアクロウがしゃべった!』

『我々だって人語を介する。驚くことはないだろう』

『それもそうか~』


 シアとシュカのやり取りを、スケアクロウは気にも留めない。


『どうぞお入りください。多忙な魔女の皆さまが快適にくつろげるよう、数々のサービスをご用意しております』


 スケアクロウに促されて、わたしたちは中に入った。


 巨大なシャンデリアに照らされたべっこう色の空間。外観以上に広いのは、やはり魔法製だからだろう。

 入口ホールの突き当たりには赤い絨毯の敷かれた階段が左右に分かれて続いている。


 右側にはバーカウンターらしきものがあって、先に到着していた魔女たちがカクテルを楽しんでいた。




【親愛なる魔女の皆さんへ。300年ぶりに魔女集会を開催することとなりました。欠席は死を意味します】




「すべての魔女が一堂に会するなんて、なかなかの光景でしょうね」

『唐突にどうした』

「まさか、他の魔女と関わる機会があるなんて思っていなかったから」


 とりあえず、開会までどう時間を潰そうか。


「……酒かな」

『結局そうなるのか』

『いつも通りでいいんじゃない~?』


 バーカウンターに近づいたときだった。


「久しぶりだねぇ」


 重みのある女性の声が足を止めさせた。


「お師匠さま……」


 肩越しに振り返ったわたしの目の前に、腰元まで伸びた豊かな金髪を輝かせた魔女が両腕を組んで微笑んでいた。


 大魔女シャルドン。

 ぼろぼろのわたしを気まぐれで拾い、魔女として育て上げたわたしの師匠、そのひとである。


 豊満な体つきを、高めの露出度でまとめた紫のイブニングドレスが似合いすぎている。

 耳には大ぶりの宝石が輝いていた。


「ご無沙汰しております。相変わらずお美しいですね」

「ふふ。当然よ。それにしても、流石のアンタも魔女集会にはちゃんと着飾ってくるんだねぇ」


 苦笑いで答える。

 リアとミュゲに見立ててもらわなければ、恐らく普段着でこの場所へ来ていただろうから。


「話はいろいろと聞いているわよ。まさか、アンタがこの一件に絡んでいるとは思いもしなかった。運命、どこでどう繋がるか分からないもんだねぇ」


 なんの感情も乗っていない、ただの感想だ。

 しかしシャルドンは、リアとわたしが行動を共にしていることを……その理由を知っている。

 背筋を冷や汗が伝った。



 

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