表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/35

27.((回想・16歳))




「……ジャンシアヌ様?」


 何度も呼ばれていたのかもしれない。

 身を屈めて、心配そうにわたしの顔を覗き込んでいるのは乳兄弟のイリス青年だった。


 フォイユ家の図書室は地下にあるからか、あまり人が来ない。

 窓がなく、薄暗く、静か。

 家族や友人にはなかなか理解してもらえないけれど、歴史を重ねてきた紙のにおいは、心地がいい。

 ひとりになりたいときは図書室に行く癖がついていた。


 そしてそれを、イリスは知っているのだ。


「ごめんなさい。ぼーっとしていたみたい」

「いえ。私こそ、申し訳ございません」


 近づきすぎて、という意味の謝罪のようで、イリスが一歩後ろへ下がる。

 琥珀色の髪が、ふわりと揺れた。

 同じ色の瞳には眉尻を下げたわたしが映っている。


「また、お断りの連絡ですか?」


 傍らに立ったまま、イリスはちらりと、わたしが手を置いているテーブルへ視線を向けた。

 開かれた書物の下に、ちらりと見える封筒。


「近頃、殿下はまるで悪いものに操られているかのように人が変わってしまったという噂が流れています」

「あくまでも噂でしょう。お忙しいのよ、きっと」

「ですが、ジャンシアヌ様への態度。いくら殿下とはいえど、許せないものがあります」

「イリス」


 珍しく強い口調のイリス。

 誰かに聞かれてしまえば、それこそ不敬と取られかねない。


 わたしは本をぱたりと閉じて、封筒を手に取った。

 手紙は1枚だけだった。

 美しい筆跡を、そっと指でなぞる。


「また連絡する、と書かれてあるわ。だから、お断りの連絡ではないの」


 わたしは、傷ついていない。

 だから気にしないで、という想いを込めて、口角を上げた。

 なんとか笑顔をつくることはできる。

 これは、わたしがわたしでいるための、笑顔。


「……それならば、よいのですが……」


 うなだれるイリス。

 わたしが昔からよく知っている、少し気弱な表情を見せた。


「さぁ、イリス。いつまでもこんなところにいては駄目でしょう? わたしももうすぐ先生がお越しになるから、行かないと」

「はい。そうですね」


 立ち上がり、わたしが先に部屋を出る。


「……ジャンシアヌ様を裏切るような存在は、神であろうと許しません」


 扉を閉めるイリスの囁きを、耳は、拾ってしまった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ