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男装令嬢は今日も我が道を走る  作者: 風吹流霞
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セシリア・ハルス、通称セシル。マルク・ハルス伯爵の次女。

ハルス伯爵は現騎士団長であり、その長男も騎士団に所属している。

そんな父と兄の背中を見て育ったセシルは次第に、騎士に憧れをいだくようになっていった。

騎士に守られる淑女ではなく、自分も淑女を守る騎士になりたい、そう願うようになったのである。

そこからは決断が早かった。

兄たちにまじって剣術を学んだ。

母から淑女教育をと言われたときは、


「そうだね、夜会で要人を守ったり、おとり捜査の時に必要だもんね!」


と嬉々として真剣に学んだ。

騎士として役に立つことは貪欲に知識を欲し、それをものにした。

町の情報網構築もその頃だ。

10歳を超えた頃、彼女は両親から非情な宣告と突きつけられる。


女性は騎士になれない――


嘘だと思った。

嘘だと思って城の騎士の条件を調べた。それはもう念入りに。

やはりというか、そこに女性の文字はなかった。

セシルは泣いた。3日ほど部屋にこもって泣き続けた。

慌てた父と兄たちに魔導師は女性もいるから!と慰められたが、セシルは魔導師になるほどの魔力はなかった。

すべての属性を操れるとはいえ、城の魔導師がつかえるような巨大な魔法を操れるわけではなく、いわば器用貧乏な体質であった。

それでもとあきらめきれなかった彼女は、色々と本を調べた結果のひとつが、伝書鳥だ。

騎士になれないと判明してから動き出したのは母親。

いわゆる婚約者の選定である。

セシルはこの年で淑女教育は完璧、いや完璧すぎた。

しかしここで問題が生じた。

町の情報網の元締めたるダリルは、セシル以外には情報を取引しようとはしなかった。

ダリルたちが住む教会を発見し、支援したのはセシルであり、その家族である父や兄たちにも彼は情報を売らないと宣言したのだ。

これはまずいと家族は思った。

セシルが嫁いだ場合、その家にこの情報網が渡る。

情報というのは恐ろしい。嫁いだ先が何か悪事に巻き込まれた場合取り返しがつかなくなる。

ゆえに、セシルの婚約者選びは慎重にならざるを得なかった。

十五歳で学園に入学することになっている彼女はそれまでは自由に動いてもいいという家族の暗黙の了解のもと、自由に町を駆けずり回っている。

その結果、犯罪者を見つけたりして犯罪を未然に防いでいたりと町に貢献しているわけで・・・。

セシルの評判はうなぎのぼりだ。

セシルというより、偽名であるルカがだが・・・。



タイル―侯爵家から戻ると、母親のエリアナが待ち受けていた。

ハルス伯爵家は中流階級、しかし、騎士である父や兄たちもいることからか基本自分でやれることは自分でやるという教育方針だ。

使用人も少ない。

緊急事態に自分で鎧が着れませんでは洒落にならないからね。

父マルクと母エリアナは幼馴染み。父が騎士になった際に婚約した。

恋愛小説のような燃えるような恋ではなかったが、今でも仲は良い。


「貴方、また何かやらかしたわね」


仁王立ちである。やらかしただんてひどい。

「やらかしたってひどい言い方ねー、お母様」

むうと顔を膨らませる。

「まあ、貴方が動くとだいたいが解決するものね」

エリアナはあきらめ気味だ。

「ほどほどにしておきなさいよ」

肩をすくめる彼女に、セシルは「はーい」と返事をして部屋に戻った。

この国では十五になった貴族子女は学院に通うことが義務づけられている。

セシルもその例に漏れない。

学院に入学するまでの淑女教育を既に終えている彼女は、入学までの間自由に過ごしていた。

「いや、わかってるんだけどね。いつまでも少年のふりはできないってさ」

近ごろ、めっきり女性らしくなった自身の体を見やり、セシルは嘆息をついた。

学院に入れば、町に出ることも少なくなるだろう。

その時、町の情報網をどう扱うべきか考える時が来たのかもしれない。

あと、2,3年のうちに結論を出さねばなるまい。

それはともかくとして、


「このまま終わるとは思えないんだよねー」


ダリルたちに言って、町の強化をしておこうとセシルはいそいそと出かける準備を始めた。



エアリス・タイル―。

マリウス・タイル―侯爵の三男である。

マリウスは侯爵家の後継ぎでありながら若い頃は国きっての騎士と称された人物である。

後継ぎでありながら騎士?と尋ねると、「若かったから」につきる。

母リデルはジャレット伯爵家の長女。ジャレット伯爵は家格こそ伯爵だが、貧乏であった。

幸いにも高い魔力を保持していたリデルはその魔力を生かして魔導師を目指した。

職場で出会った父と意気投合。友人になったと思ったら父に外堀をいつのまにか埋められていたらしい。

さもありなんとは思う。

膨大な魔力にたぐいまれなる美貌、貧乏ではあるが家格は伯爵と申し分ない。

しかし、彼女は数々の求婚をその魔法の腕で蹴散らしてきたのである。

そこへ現れたのが、侯爵家の後継ぎ。あれよあれよと婚約が決まってしまったのである。

結婚してからも仲睦まじく、三男一女に恵まれた。

タイル―侯爵家はもともと優秀な人材を輩出した家系であり、マリウスの子たちも例外ではなかった。

長男は優秀な後継ぎとして領地で勉強中であり、次男は第一王子の側近。

次男を通じて王子と知り合った姉はそのまま第一王子の婚約者に内定した。

順風満帆に見えたタイル―侯爵家ではあったが、ただひとつ懸念が存在していた。

三男であり末っ子のエリアスである。

膨大な魔力を保持する母親の血を色濃く受け継いだ彼もまた膨大な魔力を秘めていた。

小さな体はその魔力を持て余し、たびたび体調を崩す。

苦肉の策として女の子として育てた。

王侯貴族の間では体の弱い男子を女子として育てるということは普通にあったからだ。

そうしてエリアスは魔力が安定するまで女子として育てられた。

なまじ整った顔立ちのエリアスはそんじょそこらの女子を上回る美少女ぶりだった。

ゆえに、侯爵家の女性陣が悪ノリした。

軽い淑女教育を施したらまあ、立派な小さなレディーになった。

今の彼の趣味はお菓子つくりと裁縫である。

裁縫に至ってはプロ顔負けの腕であった。


そして、母や姉に教えられた必殺「おねだり」ポーズを駆使し、父や兄からある情報を引き出し、彼は手作りのお菓子と刺繍入りのハンカチをもってある場所に向かっていた。

目指す場所は町の教会。


そうルカが指定した接触場所だった。


エリアスはどうしてもルカに直接会ってお礼を言いたかったのである。

エリアスくんはオトメン。

位の高い貴族の息子をある程度まで女装させるというのは結構あるのです。

それだけ子供の死亡率が高かったってことなんですけどね。

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