婚約は解消です!不敬罪ですよ?
「えっ?」の疑問が読みにくいとの指摘を多数受けましたので、少々変更いたしました。基本変えていませんが、感想をいただけたら嬉しいです。
幼馴染と婚約をいたしておりました。
ええ、過去形であっておりますよ。
正真正銘、過去のものですから。
父親が親友同士であり、領地が隣同士という侯爵家の嫡男。実に素晴らしいまでにお膳立てされた関係でした。
まぁ、私としても気心の知れた幼馴染という間柄のため、特に不満のない相手でございました。それに侯爵領は鉱山を持っており、資源が豊富なことが大変魅力的でしたので。
何故かと?
嫌ですわね。私の伯爵領は、工業都市とまで言われていることはご存じでしょう?
ああ、よかった。ご存知でしたのね。
そう、知っての通り、工場が盛んで技術者が多い土地柄です。ですが、資源がないのです。その反面、隣の侯爵領は資源が豊富という事で有名です。何しろ、国でも有数の資源を持っていますからね。羨ましい限りですわ。
あら? 意外だと言うのですか。
そうですね、あなたの言うとおり我が伯爵家も裕福ですわ。
でも、それとこれとは話が違います。
そうでしょう?
資源があるという事は、それだけ豊かな証拠ですわよ。
現に、かの侯爵領は資源だけで食べていますでしょう?
そう、資源はないけれど技術力のある伯爵領と、資源はあれど技術力がない侯爵領。
互いに足りないものを補うパートナーとしては最良の相手でした。
けれど、ここ数年、侯爵家に厄介な事情が出来てしまったのです。
その厄介な事情とは、侯爵家に引き取られた少女のことです。
なんでも侯爵夫人の親友の忘れ形見だという子爵家の令嬢。
いえ、元令嬢ですね。
両親である子爵夫妻が事故で亡くなり、叔父夫妻が爵位を継承したため、子爵令嬢ではなくなりました。
何しろ、叔父夫妻には跡取りとなる息子がいるとのこと。しかも、財産をほとんど取られた上に厄介者扱いをされていたというではありませんか。それを、侯爵夫人が憐れんで引き取ったということです。
それ以降は、実の兄妹同然に育ち、仲が良いのだと侯爵夫人は笑っていました。侯爵もそれを当然のことと受け止めておりましたわ。
まあ、それならそれでよいのですけど、問題はその仲の良さです。
あら、仲が良いといけないのかと?
いえいえ、仲がよろしいのは良い事ですよ。
ですが、何事にも限度というものがありますわ。
何しろ、密着しすぎるのでは?と思うぐらいにベッタリだったのですから。学園に通っていた時でさえ、そのことを噂されておりましたわ。中には私との婚約がすでに解消されているという噂まであったのですから。
しかも、社交界でも噂になる始末。当人たちはご存じないのでしょうか?
我が家は、両親も兄も顔が引き攣っておりましたけれどね。
しかもですよ、婚礼の打ち合わせに、例の少女も同席しているではありませんか。
これには、驚かされましたわ。
何故、少女がその場にいてはいけないのか、とおっしゃいますの?
当然でしょう。
家族同然とはいえ、親族ではありません。
婚礼の打ち合わせ=両家の契約。
彼らは分かっていないようでしたわ。
どういうことかって?
つまりですね、互いの領に関する契約が結ばれる場所ということです。仕事内容の話を関係のない第三者が聞くという異常事態ですわ。守秘義務という言葉ご存じないかのような状況でしたわ。常識に考えても有り得ません。
申し訳ない?
いいえ、理解していただけたのなら結構ですわよ。
あらあら、話が脱線してしまいましたわね。
どこまで話しましたかしら?
婚礼の打ち合わせに部外者の居候がいたという事まで?
ああ、そうでしたわね。
そう、居候は当然のような顔をしてそこに居りましたわ。
しかも、夫となる婚約者にベッタリとへばり付いていましたから言葉に詰まりましたわ。
何を見せられているのかと思いましたもの。
ハッキリ言って侯爵邸が娼館かと一瞬疑ってしまいましたわ。
気持ちが分かりますと?
ありがとうございます。
流石にこれはないと思いましたわ。
それだけでも異常だというのに、侯爵家そのものが異常でした。
どういう事かって?
それはですね、かの侯爵家の使用人の有り得ない対応です。侯爵夫妻から、娘同然に扱われているせいか・・・屋敷の使用人たちまでもが居候をお姫様扱いをしているのです。
しかも、伯爵家の私たちをまるで敵でも見るかのような対応の数々。
何かされたのかって?
ええ、大いにされましたわ。
私たち伯爵家の者に対して嫌々接待していると分かる態度。
見下すかのような眼差し。
連れてきた伯爵家の使用人にも横柄な対応の数々。
出されたお茶も以前と比べて質が落ちていますし、何よりも適温ではありません。
しかもですよ、そのお茶は私たちだけ。侯爵家の人間には別のお茶を用意しておりましたわ。
嫌がらせですか?
私だけでなく伯爵夫妻である両親にまでそれをするとは。
自殺願望でもあるんでしょうか?
それとも、爵位が上の侯爵家だから大丈夫だとでも思っているのでしょうか?
怒らなかったのかって?
もちろん、内心、怒り狂っておりましたわ。
すでに母などは切れる寸前でした。
しかし、空気が読めないのでしょうか・・・居候は「侯爵家や婚約者のことは自分が一番よく知っているから教えてあげる」と言い出す始末。
それを婚約者も侯爵夫妻も咎めない上に「実の妹と思って仲良くして欲しい」などと宣う始末。
ええ、早い話が、愛妾の存在を認めて一緒に暮らせということでしょうか?
これについに母が切れましたわ。ついでに父も。
「不敬である」
母の一言でその場が凍り付きました。
凍ったのは侯爵家側でしょうけど。
母は伯爵夫人ですけど、王妹です。
意外なことに両親は恋愛結婚。しかも、当時、王女であった母の熱烈なアプローチに父が屈した結果です。
なので、順位は低いなりにも私は王位継承権を持つ王族の一員でもあるのです。
伯爵令嬢であり王族の末端に位置するため、ややこしいですが侯爵家の面々より私の方が地位が高いのです。つまり、私と母には不敬罪で彼らを訴えることも出来るということです。
侯爵家は知らなかったのかって?
・・・知らないはずはないのですけれどね。
有名な話ですからね。
そうです。庶民の間でも未だに語り継がれている王女の恋物語。
あら、今度、父と母を題材にした劇が開催されると?
まあ、それは素晴らしい事ですわね。
ええ、是非見に行きますわ。
もちろん両親を連れて。
あらあら、また脱線してしまいましたわね。
ええ、思った通り、侯爵夫妻は真っ青になり慌てて言い訳を言い出しましたわ。侯爵家の使用人たちは今にも倒れそうなほど体を震わしておりました。
どうやら、母が王女であることを思い出したようです。
有り得ないと?
その有り得ないことが起こったのです。
・・・今まで忘れていた、といった方がいいのかしら。
忘れること自体が有り得ない事と?
まあ、普通はそうでしょうね。
母は気さくな方で、将来、侯爵家とは親族になるということで特に親しみやすく接していたせいでしょう。今まで「王女です」といった態度は出してこられなかったので、相手側も勘違いしてしまったようです。
何のことかと?
もちろん、王族として対応することですわよ。
嫌ですね。
ええ、「今すぐ居候を本宅から出さなければ婚約は無効だ!」という要求に対して、侯爵夫妻は平身低頭でしたわ。侯爵夫妻が言うには「結婚後は自分たちと共に少女は別宅に住まう」と言っておりましたけど、婚約者と居候が愚かでした。「嫁いで来る以上は、婚家の方針に従え!」と上から目線で言い放ったのです。
侯爵家の子息は馬鹿なのか、と?
ええ、お馬鹿さんなのでしょう。
むしろ、破滅願望でもあったのではないかと疑っておりますわ。
ということで、ご存じの通り、めでたく婚約話はご破算となりました。
侯爵夫妻に悪気はないようでしたけど、悪気がない分よけいに質が悪いですわ。
父も帰りの馬車の中でしきりに謝ってくれましたが、横にいる母に先に謝った方がよろしかったでしょうね。
このままにはしないでしょうから。
あら? 侯爵家に何かするのかって?
嫌ですわね。
ご存じの通り母は、元王女であり、社交界のボスですから。
侯爵一家を社交界から締め出すことなんて訳ありません。それが出来る力を持ってますから。
穏やかで気さくな面しか見ていない侯爵一家には、青天の霹靂だったでしょう。
母は敵には苛烈ですから。
後日、思ったとおり侯爵一家は社交界で冷たい視線に晒されることになりましたわ。中には、絶縁を告げる貴族まで出てきたそうです。
元婚約者は、私との婚約が解消されるや愛妾候補の少女を婚約者候補にしたようです。もっとも彼女をつれて夜会に参加しようとしても、全て門前払いになっておりますけどね。元王女の母は、兄である国王とは特に仲のいい兄妹です。国王に冷遇されたくないのはどこの貴族も同じです。
社交界の締め出しだけでは甘いと?
嫌ですわね。
社交界の締め出し=貴族社会からの孤立。
侯爵一家は貴族社会ではすでに死んだようなものです。
いくら爵位が上位であっても、孤立していては繁栄することは出来ませんし、ゆるりと衰退していくしかありません。数代後には名前もなくなるのではないでしょうか?
侯爵家は裕福だと?
嫌ですわね、税収が多いからこそ裕福なのですよ。
侯爵領は国でも有数の資源を持っているから大丈夫なのではと?
ふふふ、ええ、今はですわね。
彼らは確かに国で有数の鉱山の領地です。
しかし、鉱山というのは無限ではありません。有限ですのよ。
侯爵一家はまだ気づいていないようですわ。自分達の鉱山がそろそろ枯渇し始めているということに。
どういうことかって?
かの侯爵領、ここ数年の採掘量が他の領に比べて大量であることはご存じでしょう、ええ、別に違反しているわけではありません。自領の鉱山の採掘量はその領主が決めることですから。しかし、その数が凄まじいのです。このままでは十年持つかどうか。
御想像通りですわ。
そのための婚約でもあったのです。
父は優しいですからね。
真実を元親友の侯爵には伝えていません。
何しろ他領のことですからね。
いくら親友でも親族でない者が口をはさむことは内政干渉になりかねません。私との結婚後にそれとなく忠告する予定でしたから。
ええ、侯爵家は知りませんよ。知ったらどうするのでしょうね?
鉱山以外に目ぼしい産業がないというのに・・・
まあ、他人のことはどうでもいいですわね。
今は新たな夫選びに大変ですから。
伯父の国王から、相手がいなければ王子との婚姻はどうかと言い出してきますし。
それもアリかも・・・と考えている最中です。
なので、後半の鉱山は新聞に載せてはいけませんよ。
まあ、うれしい。是非そうしてくださいな。
「十年後の今」というタイトルで、かの侯爵家にインタビューするというのは良いことです。
ええ、それでは今回のインタビューの出来を楽しみにしていますわ。
ごきげんよう。




